留花門 #3 杜甫詩kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1010 杜甫特集700- 301
(花門すなわち回紇種族<ウイグル騎馬民族>の兵を内地にどめておくこと)

花門すなわち回紇種族の兵を内地にとどめておくことにつき、そのとどめておくべからざることをのべた詩である。製作時は乾元元年秋とする。
 

留花門 #1
北門天驕子,飽肉氣勇決。
高秋馬肥健,挾矢射漢月。」
自古以爲患,詩人厭薄伐。
修德使其來,羈縻固不絕。
胡爲傾國至,出入暗金闕。』
#2  
中原有驅除,隱忍用此物。
公主歌黄鵠,君王指白日。
連雲屯左輔,百里見積雪。
長戟鳥休飛,哀笳曙幽咽。
田家最恐懼,麥倒桑枝摺。』
#3
沙苑臨清渭,泉香草豐潔。
彼らの居る沙苑は清き流れを湛えている謂水にのぞんでいる、泉水も香ばしく草もゆたかにきよらかである。
渡河不用船,千騎常撇烈。
彼らはそこに馬をとばし、河をわたるのも船は用いないのだ、千騎の騎馬がいつも川波、水を撃ち蹴立てて渡る。
胡塵逾太行,雜種抵京室。
安・史の兵馬の塵がまさに太行山脈を越へてくる、寄せ集めの野望の雑種の軍が再び都までもこようとしている。
花門既須留,原野轉蕭瑟。』
安史軍だけでも厭うべきであるのに、花門回紇軍をとどめておかねばならぬというのであれば、彼らの過ぐる所いよいよもって原野がのこるだけで、河南地方はさびしく無一物になることであろう。』

(花門を留む)#1
花門は天の驕子【きょうし】、肉に飽きて気勇決【ゆうけつ】なり。
高秋 馬 肥健【ひけん】なり、矢を挾【さしはさ】みて漢月を射る。」
古より以て患【うれ】えと為す、詩人薄伐【はくばつ】を厭【いと】う。
徳を修【おさ】めて其をして来たらしむ、羈縻【きひ】固【もと】より絶えず。
  くに かたむ いた  しゆつにゆうっ くら
胡為【なんす】れぞ国を傾けて至、出入金闘【きんけつ】に暗きや。
#2
中原に駆除有り、隠忍して此の物を用う。』
公主黄鵠【こうかく】を歌い、君王白日【はくじつ】を指す。
雲に連なりて左輔に屯【ちゅん】す 百里積雪を見る。
長戟【ちょうげき】飛ぶことを休む、哀笳【あいか】曙【あけぼの】幽咽【ゆうえつ】す。
田家 最も恐懼【きょうく】す,麥 倒れて桑枝【そうし】摺る。』
#3
沙苑 清渭に臨む,泉 香【かんば】しく草豐 潔【けつ】なり。
河を渡るには船を用いず,千騎 常に撇烈【へつれつ】たり。
胡塵【こじん】太行を逾【こ】え,雜種 京室【けいしつ】に抵【いた】らんとす。
花門既に留むるを須【ま】たば、原野転【うた】た蕭瑟【しょうひつ】たらん。』


現代語訳と訳註 #3
(本文) #3
沙苑臨清渭,泉香草豐潔。
渡河不用船,千騎常撇烈。
胡塵逾太行,雜種抵京室。
花門既須留,原野轉蕭瑟。』


(下し文) #3
沙苑 清渭に臨む,泉 香【かんば】しく草豐 潔【けつ】なり。
河を渡るには船を用いず,千騎 常に撇烈【へつれつ】たり。
胡塵【こじん】太行を逾【こ】え,雜種 京室【けいしつ】に抵【いた】らんとす。
花門既に留むるを須【ま】たば、原野転【うた】た蕭瑟【しょうひつ】たらん。』


(現代語訳) #3
彼らの居る沙苑は清き流れを湛えている謂水にのぞんでいる、泉水も香ばしく草もゆたかにきよらかである。
彼らはそこに馬をとばし、河をわたるのも船は用いないのだ、千騎の騎馬がいつも川波、水を撃ち蹴立てて渡る。
安・史の兵馬の塵がまさに太行山脈を越へてくる、寄せ集めの野望の雑種の軍が再び都までもこようとしている。
安史軍だけでも厭うべきであるのに、花門回紇軍をとどめておかねばならぬというのであれば、彼らの過ぐる所いよいよもって原野がのこるだけで、河南地方はさびしく無一物になることであろう。』


(訳注)#3
沙苑臨清渭,泉香草豐潔。
彼らの居る沙苑は清き流れを湛えている謂水にのぞんでいる、泉水も香ばしく草もゆたかにきよらかである。
 ○沙苑 牧馬場の名。唐の時、同州鴻功県(陝西省同州府大茘県)の南十二里に置かれる。東西八十里、南北三十里、長官として沙苑監を置く。天宝十三載安禄山を以て監事を総べさせた○ 長安を西から東へ流れる水の名。○泉香 わきでるいずみの水がかんぱしい。○豊潔 多くてきよらか。


渡河不用船,千騎常撇烈。
彼らはそこに馬をとばし、河をわたるのも船は用いないのだ、千騎の騎馬がいつも川波、水を撃ち蹴立てて渡る。
渡河 黄河をわたる。○不用船 騎馬のままわたることをいう。○千騎 多くの騎兵。○撇烈【へつれつ】 激烈に撃つさま。文選、王襃『四子講徳論』「膺騰撇波而済水、不如乘舟之逸也。」(膺騰波を撇ちて而水を済るは、舟に乘る之を逸きに如かざる也。)〔注〕撇は撃なり。水を撃ち蹴立てて渡る。


胡塵逾太行,雜種抵京室。
安・史の兵馬の塵がまさに太行山脈を越へてくる、寄せ集めの野望の雑種の軍が再び都までもこようとしている。
胡塵 安・史の兵馬の塵。○逾太行 太行は河北・山西のあいだに在る山脈の名、兵塵が東より西へひろがり、山西の方へ入ることをいう。○雑種 安・史の族はみな雑種である、国内の野望を持った不満分子、異民族の傭兵、蒙古、鮮卑、ウイグルなどにより構成されていた。これは安史軍をさす。○抵京室 長安の宮室の処まで至ろうとする。(一説には史思明は759年乾元二年九月に安慶緒、大梁を取り、洛陽を陥れたために、作者は更にその軍が長安に汲ばんことをおそれてかくいったものであろう。又、この詩の段階では、郭子儀など9節度使軍が史思明軍に大敗を喫した段階で、759年春、唐王朝軍が極めて劣勢な戦況であった段階の表現と考える場合もある。しかしここでは、史思明についての恐怖は太行山脈を越えていないので758年冬から759年春の段階である。)


花門既須留,原野轉蕭瑟。』
安史軍だけでも厭うべきであるのに、花門回紇軍をとどめておかねばならぬというのであれば、彼らの過ぐる所いよいよもって原野がのこるだけで、河南地方はさびしく無一物になることであろう。』
須留 沙苑にとどまることを必要とするならば。○原野 耕作物の地をいう、上の麦桑の語と応ずる。騎馬民族の戦いは戦傷者が略奪の限りを尽くし、反撃の火種を残さないことを原則とする。そのため、彼らが通った後は原野になるという。○ いよいよ、これは安・史らの兵禍に対比していう。○蕭瑟 さびしいさま、掠奪後の一物もない状態をいう。この最後の聯の意味合いで759年3月郭子儀軍の大敗以前の作品と思われる。



留花門 #1
北門天驕子,飽肉氣勇決。
高秋馬肥健,挾矢射漢月。」
自古以爲患,詩人厭薄伐。
修德使其來,羈縻固不絕。
胡爲傾國至,出入暗金闕。』
#2  
中原有驅除,隱忍用此物。
公主歌黄鵠,君王指白日。
連雲屯左輔,百里見積雪。
長戟鳥休飛,哀笳曙幽咽。
田家最恐懼,麥倒桑枝摺。』
#3
沙苑臨清渭,泉香草豐潔。
渡河不用船,千騎常撇烈。
胡塵逾太行,雜種抵京室。
花門既須留,原野轉蕭瑟。』


(花門を留む)#1
花門は天の驕子【きょうし】、肉に飽きて気勇決【ゆうけつ】なり。
高秋 馬 肥健【ひけん】なり、矢を挾【さしはさ】みて漢月を射る。」
古より以て患【うれ】えと為す、詩人薄伐【はくばつ】を厭【いと】う。
徳を修【おさ】めて其をして来たらしむ、羈縻【きひ】固【もと】より絶えず。
  くに かたむ いた  しゆつにゆうっ くら
胡為【なんす】れぞ国を傾けて至、出入金闘【きんけつ】に暗きや。
#2
中原に駆除有り、隠忍して此の物を用う。』
公主黄鵠【こうかく】を歌い、君王白日【はくじつ】を指す。
雲に連なりて左輔に屯【ちゅん】す 百里積雪を見る。
長戟【ちょうげき】飛ぶことを休む、哀笳【あいか】曙【あけぼの】幽咽【ゆうえつ】す。
田家 最も恐懼【きょうく】す,麥 倒れて桑枝【そうし】摺る。』
#3
沙苑 清渭に臨む,泉 香【かんば】しく草豐 潔【けつ】なり。
河を渡るには船を用いず,千騎 常に撇烈【へつれつ】たり。
胡塵【こじん】太行を逾【こ】え,雜種 京室【けいしつ】に抵【いた】らんとす。
花門既に留むるを須【ま】たば、原野転【うた】た蕭瑟【しょうひつ】たらん。』

#1
花門の回紇種族(ウイグル騎馬民族)の軍隊を国内にとどめる。
花門の回紇種族(ウイグル騎馬民族)の軍隊は天子の降せる“いたずら坊や”であって、平生飽きるほどの肉食提供をしていて、気象が勇決なものである。
彼らは天高い秋、馬の肥えて達者な時候になる、矢をたばさんで唐の月を射んとするのである。」
このウイグル異民族らは古来より中国の人々がこまりごととしたものであったのだ、すでに「詩経」の作者の詩人たちもこれを征伐にでかけることをきらったものであったことをのべている。
それでウイグルとの戰はできるだけしないで、こちらの徳を修め、感化してこちら側へ来させるようにしむけ、牛馬を繋ぐ様につないで離れさせぬように取り扱うことはもとより絶えずやってきてはいるのだ。
ところで回紇はどうして自分の国を傾けるかもしれなのに、勢力をこぞってこちらへやって来て、その出入りするときには金闕を暗くなるほどにむらがっているのであろうか。』

#2
いま中原の地方に安史軍、安慶緒・史思明らがはびこり、それをおいのける必要からやむを得ず、我慢してこんな異民族のウイグル騎馬民族をつかっているというわけだ。
さらに我が天子の姫宮を回紇に嫁がせたが、姫宮さまは故郷をなつかしみ「黄鵠の歌」をうたわれた。我が天子には彼と兄弟国の同盟のため太陽を指して誓いあわれた。
彼らの京畿東方の地に暗雲が連なり、たむろしている。その地方は百里の遠くにわたってまっ白く雪がつもれる如く白く見えておる。
ウイグル軍が立てならべている長い戟をみては鳥もおそれて飛ぶことをやめるし、哀れな胡笳の音があけぼのの空にむせぶが如く鳴り響いいている。

#3
彼らの居る沙苑は清き流れを湛えている謂水にのぞんでいる、泉水も香ばしく草もゆたかにきよらかである。
彼らはそこに馬をとばし、河をわたるのも船は用いないのだ、千騎の騎馬がいつも川波、水を撃ち蹴立てて渡る。
安・史の兵馬の塵がまさに太行山脈を越へてくる、寄せ集めの野望の雑種の軍が再び都までもこようとしている。
安史軍だけでも厭うべきであるのに、花門回紇軍をとどめておかねばならぬというのであれば、彼らの過ぐる所いよいよもって原野がのこるだけで、河南地方はさびしく無一物になることであろう。』