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石壕吏 杜甫 三吏三別詩<216>#1 kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1028 杜甫詩集700- 307 


石壕の村で役人が河陽へゆくべき人夫を徴発するとき、こどもを二人まで戦死させた老婦人が乳のみの愛孫を家にのこし、その夫の老翁に代って出かけることをのべた詩。製作時は前詩に同じ乾元2年759年48歳

 杜甫が衛八(家に泊まり『贈衛八処士』を作)に泊ったのは、二月末のことだ。まだ相州の敗戦(三月四日)のことを知るよしもないが、、。杜甫は前年末に華州を出てから二か月以上たっているので、華州に帰ろうとしていた。そのとき相州の敗報を聞いて驚愕した。

 華州へ帰る途中での見聞をもとにまとめたのが五言古詩の連作六首「三吏三別」(さんりさんべつ)で、いずれも戦争に駆り出される民の辛苦を詠ったもの。
 石濠村は洛陽の西110km余の陝州(せんしゅう:河南省三門峡市陝県)の村。杜甫はその村の家に一夜の宿を求めた。そこでの役人と差し出す家族との様子をあらわした。
役人がやってきて、兵に出す男を捉えようとする。老人は垣根を跳び越えて逃げ、老婦が応対に出る。杜甫はその様子を客観的に見ていた。


新安吏 杜甫 三吏三別詩<215>#1 kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1019 杜甫詩集700- 304 
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石壕吏 杜甫 三吏三別詩<216>#1 kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1028 杜甫詩集700- 307 
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石壕吏
暮投石壕邨,有吏夜捉人。
日暮になって石壕の村にはいって泊まることになった。役人が徴兵のため夜になって(壮丁となる)男をつかまえようとしている。 
老翁逾墻走,老婦出門看。」
宿のおじいさんはつかまえられぬようにと垣根をこえて走りだす、おばあさんは門から出て外を見つめている。」
吏呼一何怒,婦啼一何苦。
一体なんであのように役人が大声をだしておこるのか。どうしてあのようにおばあさんが苦しそうに啼いているのだろうか。
聽婦前致詞,三男鄴城戍。』

おばあさんがすすみでて役人に申しだす所をよくきいていると、次の如くいう、「わたくしに三人の男の児がありますがみんな国のまもりで鄴城へいっております。』

#2
一男附書至,二男新戰死。
存者且偸生,死者長已矣。」
室中更無人,惟有乳下孫。
有孫母未去,出入無完裙。』
#3
老嫗力雖衰,請從吏夜歸。
急應河陽役,猶得備晨炊。」
夜久語聲絶,如聞泣幽咽。
天明登前途,獨與老翁別。』

石壕の吏     
暮に石壕村に 投ず、吏 有り 夜 人を捉【とら】ふ。
老翁  墻【かき】を逾【こ】えて 走【に】げ、老婦  門を出【い】でて 看る。」
吏の呼ぶこと 一【いつ】に何ぞ怒【いか】れる、婦の啼くこと 一【いつ】に何ぞ 苦【はなはだ】しき。
婦の前【すす】みて 詞を致すを 聽く、「三男【さんだん】鄴城【ぎょうじょう】の戍【まも】り。」

#2
一男【いちだん】は書を附して至る、二男【にだん】は新たに戰死す。
存する者は 且【か】つ生を偸【ぬす】む、死者は長【とこし】へに 已【や】んぬ矣【い】。」
室中には更に 人無く、惟(た)だ乳下の孫有り。
孫有りて母 未だ去らず、出入に完裙【かんくん】 無し。』
#3
老嫗【ろうう】力 衰【おとろ】ふと 雖も、請【こ】ふ吏に從うて 夜歸らん。
急に河陽【かやう】の役【えき】に 應ぜば、猶ほ「晨炊【しんすゐ】に 備ふるを 得ん。」と。」
夜久しくして 語聲絶ゆ、聞くが 如し泣いて幽咽【ゆうえつ】するを。
天明前途に登らんとして、獨【ひと】り老翁と別る。」


現代語訳と訳註
(本文) 石壕吏
暮投石壕邨,有吏夜捉人。
老翁逾墻走,老婦出門看。
吏呼一何怒,婦啼一何苦。
聽婦前致詞,三男鄴城戍。』


(下し文) 石壕の吏     
暮に石壕村に 投ず、吏 有り 夜 人を捉【とら】ふ。
老翁  墻【かき】を逾【こ】えて 走【に】げ、老婦  門を出【い】でて 看る。」
吏の呼ぶこと 一【いつ】に何ぞ怒【いか】れる、婦の啼くこと 一【いつ】に何ぞ 苦【はなはだ】しき。
婦の前【すす】みて 詞を致すを 聽く、「三男【さんだん】鄴城【ぎょうじょう】の戍【まも】り。」


(現代語訳)
日暮になって石壕の村にはいって泊まることになった。役人が徴兵のため夜になって(壮丁となる)男をつかまえようとしている。 
宿のおじいさんはつかまえられぬようにと垣根をこえて走りだす、おばあさんは門から出て外を見つめている。」
一体なんであのように役人が大声をだしておこるのか。どうしてあのようにおばあさんが苦しそうに啼いているのだろうか。
おばあさんがすすみでて役人に申しだす所をよくきいていると、次の如くいう、「わたくしに三人の男の児がありますがみんな国のまもりで鄴城へいっております。』


(訳注)石壕吏
石壕の役人。徴兵の様子を詠う。この詩の詠われた時代は安禄山の乱(755年~763年)のうち、758年乾元元年(冬)~759年乾元二年(春)のできごとになる。人民の生活は、疲弊しきっていたことを記録した詩。○石壕〔せきごう〕洛陽と潼關の間にある陜県にある村の名。河南省の三門峡ダムのある近くの陜県(東南の)東観音堂鎮(の西北の)山間で、現・甘壕村。陝州東南部、陝州、陝県(現・三門峡市)の東南40キロメートルに石壕鎮としされていた。・〔り〕下級役人。ここでは、徴兵の係官のことになる。事実、このころまでは女性の従軍もあった。

杜甫乱前後の図003鳳翔

暮投石壕邨,有吏夜捉人。
日暮になって石壕の村にはいって泊まることになった。役人が徴兵のため夜になって(壮丁となる)男をつかまえようとしている。 
 夕暮れ。○ 投宿する。泊まる。とどまる。○ 村むら。鎮。○捉人 男をつかまえる。当時の徴兵制の一になる。○ とらえる。からめとらえる。つかまえる。○ 男。ここでは、壮丁となる男のことになる。『新安吏』に「府帖昨夜下,次選中男行。中男絶短小,何以守王城。」と詳しい。唐では民を年齢によって黄・小・中・丁・老などに区別する。年次によってちがいがあるが、天宝三載には十八歳以上を中男とし、二十三歳以上を丁とした


老翁逾墻走,老婦出門看。」
宿のおじいさんはつかまえられぬようにと垣根をこえて走りだす、おばあさんは門から出て外を見つめている。」
老翁 年老いた男性。おじいさん。○逾 乗り越える。こす。「踰」ともする。「逾」〔ゆ〕「踰」〔ゆ〕は、同義。「逾」:向こうへ進み越える。「踰」:跨いで越える。○ 〔しょう〕かき。かきね。塀。○ 逃げる。○老婦 年老いた女性。おばあさん。○出門 門を出る。外に出る。


吏呼一何怒,婦啼一何苦。
一体なんであのように役人が大声をだしておこるのか。どうしてあのようにおばあさんが苦しそうに啼いているのだろうか。
 大声でいう。怒鳴る。○一何 いったいどうして。本当に何と。何とまあ。一は語気助詞で、強調を表す。○ 勢い盛んな。はげしい。いかる。詩の前後の展開から見て、老婦がさっさと戸を開けなかったことへの怒りの声になろう。○ 女性。○ 声をあげて悲しみなく。○苦 くるしい。苦しむ。なやむ。つらい。きびしい。はげしい。


聽婦前致詞,三男鄴城戍。』
おばあさんがすすみでて役人に申しだす所をよくきいていると、次の如くいう、「わたくしに三人の男の児がありますがみんな国のまもりで鄴城へいっております。』
*ここから後は老婆の言葉になる。○ これは、杜甫が耳を欹(そばだ)てて聴いたということ。「聽」は、「聴こうとして聴く、よく聴く」こと。 ○ 前に進み出る。○致詞 〔ちし〕挨拶言葉を言う。○三男 三人の息子。○鄴城 〔ぎょうじょう〕相州。現・河南省安陽県。殷墟の近くになる。安慶緒を追いこんでいた。『舊唐書・肅宗李亨』乾元元年九月「大舉討安慶緒於相州。…王思禮破賊二萬於相州。」と、758年の暮れから翌年の春まで戦闘があった。 ○ 〔じゅ〕(国境を敵から)まもる。