新婚別  杜甫 三吏三別詩<218>#1 kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1043 杜甫詩集700- 312
新婚夫婦の生き別れするものがあるのを見て、婦人のこころもちをのべた詩である。製作時は前詩に同じ乾元2年 759年 48歳。

新婚別(新婚の別れ) 
杜甫は前年末に華州を出てから二か月以上たった。華州にもどる必要を感じていたところへ、相州・鄴城の敗報を聞いて、華州への帰途についた。
 石濠村を出てほどなく、杜甫は新婚の若い婦人と出会った。詩は女性の一人称形式で書かれており、全篇は妻が出征する夫に語りかけるように別れの悲しみを訴える。華州へ帰る途中での見聞をもとにまとめたのが五言古詩の連作六首「三吏三別」で、いずれも戦争に駆り出される民の辛苦を詠ったものだ。この詩は、三別の代表作といえるものである。

新婚別 #1
兎絲附蓬麻、引蔓故不長。
根無し葛が「よもぎ」や「あさ」の茎にくっついて、その蔓の引っ張り方は長く伸びるわけのものではない。
嫁女與征夫、不如棄路傍。』
女子もただの人に嫁にやればその行く末も伸びるであろうが、征伐にやられる男などに嫁にやったのでは末がのびない。征伐にゆくおとこにやるくらいなら道端へ捨てた方がましなくらいである。』
結髪為君妻、席不煖君牀。
わたくしは髪をとりあげてむすぶ年ごろにあなたの妻となりましたが、嫁に来たてであって、あなたの寝台にしいてある席がまだ温まらぬほどしか日数が経たぬ。
暮婚晨告別、無乃太怱忙。
ゆうぐれに婚礼をして翌朝は早別れを告げるとは、あんまりせわしないことではありませんか。
君行雖不遠、守辺赴河陽。
あなたの出生地に行かれるのは遠くはないとはいうものの、片田舎の地方を守るために河陽へとおゆきなされるのである。
妾身未分明、何似拝姑嫜。』

嫁になったとはいえ、嫁いで三か月たたねば嫁としての身分がまだはっきりきまらないのです。一日や二日でどうして嫁だといって舅、姑さまに拝礼ができるというのでしょう。』
#2
父母養我時、日夜令我蔵。
生女有所帰、鶏狗亦得将。
君今往死地、沈痛迫中腸。
誓欲随君去、形勢反蒼黄。』
#3
勿為新婚念、努力事戎行。
婦人在軍中、兵気恐不揚。
自嗟貧家女、久致羅襦裳。
羅襦不復施、対君洗紅粧。』
仰視百鳥飛、大小必双翔。
人事多錯迕、與君永相望。』

(新婚の別れ)#1
兎絲【とし】蓬麻【ほうま】に附す,蔓【つる】を引く故【もと】より長からず。
女を嫁【かし】して征夫【せいふ】に與【あと】うるは 路傍【ろぼう】に棄つるに如【し】かず。』
髪を結びて 君が妻と為る,席 君が牀【しょう】を煖【あたた】めず。
暮に婚して晨【あした】に別れを告ぐ,乃【すなわ】ち太【はなは】だ怱忙【そうぼう】なる無し。
君が行【こう】遠【とう】からずと雖も、辺を守り河陽に赴【おもむ】く。
妾【しょう】が身 未だ分明ならず,何を似て姑嫜【こしょう】を拝せん。』
#2
父母 我を養う時,日夜 我をして蔵【ぞう】せしむ。
女を生みて 帰【とつ】がせる所有れば,鶏狗【けいく】も亦将【おく】ることを得【う】。
君今死地【しち】に往【ゆ】く,沈痛【ちんつう】中腸【ちゅうちょう】に迫【せま】る。
誓って君に随って去らんと欲す,形勢【けいせい】反って蒼黄【そうこう】たり。

#3
新婚の念を為すこと勿れ,努力して戎行【じゅうこう】を事とせよ。
婦人【ふじん】軍中【ぐんちゅう】に在らば,兵気【へいき】恐らくは揚【あ】がらざらん。
自ら嗟【さ】す貧家の女,久しく羅襦【らじゅ】裳を致す。
羅襦復た施さず,君に対して紅粧【こうそう】を洗わん。』
仰いで百鳥【びゃくちょう】の飛ぶを視る,大小必ず双【】び翔る。
人事【じんじ】錯迕【さくご】多し,君と永く相い望まん。』


現代語訳と訳註
(本文)#1

兎絲附蓬麻、引蔓故不長。
嫁女與征夫、不如棄路傍。』
結髪為君妻、席不煖君牀。
暮婚晨告別、無乃太怱忙。
君行雖不遠、守辺赴河陽。
妾身未分明、何似拝姑嫜。』


(下し文)#1
兎絲【とし】蓬麻【ほうま】に附す,蔓【つる】を引く故【もと】より長からず。
女を嫁【かし】して征夫【せいふ】に與【あと】うるは 路傍【ろぼう】に棄つるに如【し】かず。』
髪を結びて 君が妻と為る,席 君が牀【しょう】を煖【あたた】めず。
暮に婚して晨【あした】に別れを告ぐ,乃【すなわ】ち太【はなは】だ怱忙【そうぼう】なる無し。
君が行【こう】遠【とう】からずと雖も、辺を守り河陽に赴【おもむ】く。
妾【しょう】が身 未だ分明ならず,何を似て姑嫜【こしょう】を拝せん。』


(現代語訳)
根無し葛が「よもぎ」や「あさ」の茎にくっついて、その蔓の引っ張り方は長く伸びるわけのものではない。
女子もただの人に嫁にやればその行く末も伸びるであろうが、征伐にやられる男などに嫁にやったのでは末がのびない。征伐にゆくおとこにやるくらいなら道端へ捨てた方がましなくらいである。』
わたくしは髪をとりあげてむすぶ年ごろにあなたの妻となりましたが、嫁に来たてであって、あなたの寝台にしいてある席がまだ温まらぬほどしか日数が経たぬ。
ゆうぐれに婚礼をして翌朝は早別れを告げるとは、あんまりせわしないことではありませんか。
あなたの出生地に行かれるのは遠くはないとはいうものの、片田舎の地方を守るために河陽へとおゆきなされるのである。
嫁になったとはいえ、嫁いで三か月たたねば嫁としての身分がまだはっきりきまらないのです。一日や二日でどうして嫁だといって舅、姑さまに拝礼ができるというのでしょう。』


(訳注)
兎絲附蓬麻、引蔓故不長。
根無し葛が「よもぎ」や「あさ」のくきにくっついて、その蔓の引っ張り方は長く伸びるわけのものではない。
免糸 ネナシカツラ。古詩十九首『冉々孤竹生詩』「與君爲新婚、免糸附女蘿。」とある。○ くっついて生じる。○蓬麻 ヨモギ、アサ。○引蔓 つるをひきはえる。〇 固と同じ、もとより。○不長 みじかいことをいう、「免糸」二句は「興」の体のたとえ、女藻は松柏のうえにかかって生ずるゆえにそのつるがながい、兎糸は蓬麻のごとき草のうえにかかるゆえにつるが短い、つるの短長を以て婦人の運命が末までのびるのとそうでないのとをたとえたものである。
*古来女性が夫に嫁すことの喩えに使われた。ここで本らいなら常緑の松柏掛かるとよいのだが出征兵士の妻をヨモギ、アサを夫の兵士に喩えるため、兎絲である出征兵士の妻の人生は狂わされていくということだ。詩経、唐風『葛生』「葛生蒙楚、蘞蔓于野。予美亡此、誰與獨處。」(葛は生いて楚を蒙い、蘞は野于に蔓う。予が美きひとは此に亡し、誰と與とて獨り處る。)
葛はいばらの上においしげり、五葉葛は野づらにはう。〔草さえも寄り添うものがあるのに〕私の大事な人はここにいない。誰も相手をしてくれるものがなくてひとりねす。


嫁女與征夫、不如棄路傍。』
女子もただの人に嫁にやればその行く末ものびるであろうが、征伐にやられる男などに嫁にやったのでは末がのびない。征伐にゆくおとこにやるくらいなら道端へ捨てた方がましなくらいである。』
嫁女 むすめをよめにやる。○征夫 征戊にでかけるおとこ、此の句まで起四句は詩人としての叙述、以下は婦人としてのべている。


結髪為君妻、席不煖君牀。
わたくしは髪をとりあげてむすぶ年ごろにあなたの妻となりましたが、嫁に来たてであって、あなたの寝台にしいてある席がまだ温まらぬほどしか日数が経たぬ。
結髪 かみをゆう、男女ともこどものときはつのがみ、さげがみである、成人すればかみ々ゆう、男は二十歳にして冠し、女は十五にして結ぶ。蘇武詩「結髪爲夫婦、恩愛兩不疑。」と、成人になったばかりで夫婦になる。○君妻 君とは婦人よりおっとをさす。○ むしろ。○不煙 あたためるのにいとまのないことをいう。○君牀 おっとの寝台。
 

暮婚晨告別、無乃太怱忙。
ゆうぐれに婚礼をして翌朝は早別れを告げるとは、あんまりせわしないことではありませんか。
無乃 無の字は反語によむ。○大患忙 あんまりせわしい。


君行雖不遠、守辺赴河陽。
あなたの出生地に行かれるのは遠くはないとはいうものの、片田舎の地方を守るために河陽へとおゆきなされるのである。
守辺 かたいなかの地方をまもる。○河陽 前詩の地と同じ。


妾身未分明、何似拝姑嫜。』
嫁になったとはいえ、嫁いで三か月たたねば嫁としての身分がまだはっきりきまらないのです。一日や二日でどうして嫁だといって舅、姑さまに拝礼ができるというのでしょう。』
妾身 妾は婦人の謙遜の自称、身は身分、資格をいう。○未分明 はっきりきまらぬ、古礼に婦人は嫁してのち三月たってそのことを夫家の廟に告げ、墓まいりをし、始めて成婚となす、成婚以後に婦と舅・姑の名分が定まる。○ 礼拝する。○ しうとめ。○ 男姑を併せていう語、わけていうときは姥は姑の夫、すなわち舅のことであるという。
*女性は古礼に女、嫁して三月、夫家の祖廟に告げて初めて血痕が成立する。したがって一日や二日ではその夫家においての地位身分が明確でないことをいう。