新婚別 杜甫 三吏三別詩 <218>#2 kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1046 杜甫詩集700- 313
新婚夫婦の生き別れするものがあるのを見て、婦人のこころもちをのべた詩である。製作時は前詩に同じ乾元2年 759年 48歳。


新婚別 #1
兎絲附蓬麻、引蔓故不長。
嫁女與征夫、不如棄路傍。』
結髪為君妻、席不煖君牀。
暮婚晨告別、無乃太怱忙。
君行雖不遠、守辺赴河陽。
妾身未分明、何似拝姑嫜。』
#2
父母養我時、日夜令我蔵。
わたくしの両親がわたくしを養い育ててくれたときのこと、昼も夜もわたくしに幸福であってほしいとそだてられた。
生女有所帰、鶏狗亦得将。
娘を産んでそれをほかへ嫁入らせるときには、家つきの鶏や犬さえもそれを送ってゆけるというのに、私は嫁に来たばかりの家付きになっていない身なので夫の出征の旅立ちに、お送りすることができないのです。
君今往死地、沈痛迫中腸。
あなたにとって、今からは死なねばならぬような場所へいかないといけないこともある、それを思えば心の奥底の痛みがはらわたの内へひしひしとせまるような心地がするのです。
誓欲随君去、形勢反蒼黄。』

心にはあなたについてゆきたいとかんがえるのですが、それではあんまりあわてた様子、はしたなくみえましょう。』
#3
勿為新婚念、努力事戎行。
婦人在軍中、兵気恐不揚。
自嗟貧家女、久致羅襦裳。
羅襦不復施、対君洗紅粧。』
仰視百鳥飛、大小必双翔。
人事多錯迕、與君永相望。』

(新婚の別れ)#1
兎絲【とし】蓬麻【ほうま】に附す,蔓【つる】を引く故【もと】より長からず。
女を嫁【かし】して征夫【せいふ】に與【あと】うるは 路傍【ろぼう】に棄つるに如【し】かず。』
髪を結びて 君が妻と為る,席 君が牀【しょう】を煖【あたた】めず。
暮に婚して晨【あした】に別れを告ぐ,乃【すなわ】ち太【はなは】だ怱忙【そうぼう】なる無し。
君が行【こう】遠【とう】からずと雖も、辺を守り河陽に赴【おもむ】く。
妾【しょう】が身 未だ分明ならず,何を似て姑嫜【こしょう】を拝せん。』
#2
父母 我を養う時,日夜 我をして蔵【ぞう】せしむ。
女を生みて 帰【とつ】がせる所有れば,鶏狗【けいく】も亦将【おく】ることを得【う】。
君今死地【しち】に往【ゆ】く,沈痛【ちんつう】中腸【ちゅうちょう】に迫【せま】る。
誓って君に随って去らんと欲す,形勢【けいせい】反って蒼黄【そうこう】たり。

#3
新婚の念を為すこと勿れ,努力して戎行【じゅうこう】を事とせよ。
婦人【ふじん】軍中【ぐんちゅう】に在らば,兵気【へいき】恐らくは揚【あ】がらざらん。
自ら嗟【さ】す貧家の女,久しく羅襦【らじゅ】裳を致す。
羅襦復た施さず,君に対して紅粧【こうそう】を洗わん。』
仰いで百鳥【びゃくちょう】の飛ぶを視る,大小必ず双【なら】び翔る。
人事【じんじ】錯迕【さくご】多し,君と永く相い望まん。』


現代語訳と訳註
(本文)
#2
父母養我時、日夜令我蔵。
生女有所帰、鶏狗亦得将。
君今往死地、沈痛迫中腸。
誓欲随君去、形勢反蒼黄。』


(下し文) #2
父母 我を養う時,日夜 我をして蔵【ぞう】せしむ。
女を生みて 帰【とつ】がせる所有れば,鶏狗【けいく】も亦将【おく】ることを得【う】。
君今死地【しち】に往【ゆ】く,沈痛【ちんつう】中腸【ちゅうちょう】に迫【せま】る。
誓って君に随って去らんと欲す,形勢【けいせい】反って蒼黄【そうこう】たり。


(現代語訳)
わたくしの両親がわたくしを養い育ててくれたときのこと、昼も夜もわたくしに幸福であってほしいとそだてられた。
娘を産んでそれをほかへ嫁入らせるときには、家つきの鶏や犬さえもそれを送ってゆけるというのに、私は嫁に来たばかりの家付きになっていない身なので夫の出征の旅立ちに、お送りすることができないのです。
あなたにとって、今からは死なねばならぬような場所へいかないといけないこともある、それを思えば心の奥底の痛みがはらわたの内へひしひしとせまるような心地がするのです。
心にはあなたについてゆきたいとかんがえるのですが、それではあんまりあわてた様子、はしたなくみえましょう。』


(訳注)
父母養我時、日夜令我蔵。
わたくしの両親がわたくしを養い育ててくれたときのこと、昼も夜もわたくしに幸福であってほしいとそだてられた。
養我 我とは婦人みずからをいう。〇 『詩経、邶風、雄雉』の「不忮不求、何用不蔵。」(忮わず求めざれば、何を用って蔵からん。)、蔵は善の意で、「よからしむ」とは幸福にしてくれたことをいう。『草堂詩箋』に秘内護惜とし、奥深く育てたこととしている。

 
生女有所帰、鶏狗亦得将。
娘を産んでそれをほかへ嫁入らせるときには、家つきの鶏や犬さえもそれを送ってゆけるというのに、私は嫁に来たばかりの家付きになっていない身なので夫の出征の旅立ちに、お送りすることができないのです。
所帰 帰は嫁をいう、とつぐことである。○鶏狗亦得将 将の字、旧解には領帯、将行の意とする、「ひきいる」 こと、これに従うならば、鶏狗亦得レ将と訓ずるのがよい、鶏狗をつれてゆくのは、宗家長久の計を為そうと欲するためであるといっているが、それでは下文との関係がうすいように思われる。ここではこの将は『詩経、召南、鵲巣』君主の夫人の結婚を祝う詩の「之子于歸、百両之将。」(之の子于き歸る、百両之を将らん。)の将のごとく「送る」意かとおもう、送の意をとるのは嫁いだばかりでその家のものになっていないので、夫をいえのものとして送りだすことができないのをいう。


君今往死地、沈痛迫中腸。
あなたにとって、今からは死なねばならぬような場所へいかないといけないこともある、それを思えば心の奥底の痛みがはらわたの内へひしひしとせまるような心地がするのです。
往死地 死地とは河陽の征成地をさす。○沈痛 ふかい心のいたみ。○中腸 はらわたの内部。


誓欲随君去、形勢反蒼黄。』
心にはあなたについてゆきたいとかんがえるのですが、それではあんまりあわてた様子、はしたなくみえましょう。』
形勢反蒼黄 草堂箋に「行役ノ急ナルヲ謂り」ととく。しからば形勢とは時事のありさまをいう、しかしながら余は自己夫妻間のありさまをいうものと考える、反ってとはその然るべからざることをいう。蒼黄は倉皇に同じ、あわただしいきま、妻の身として夫につき従ってゆくのはあまりにあわてふためくかのごとくはしたないことである。