新婚別 杜甫 三吏三別詩 <218>#3 kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1049 杜甫詩集700- 314
新婚夫婦の生き別れするものがあるのを見て、婦人のこころもちをのべた詩である。製作時は前詩に同じ乾元2年 759年 48歳。


新婚別 #1
兎絲附蓬麻、引蔓故不長。
嫁女與征夫、不如棄路傍。』
結髪為君妻、席不煖君牀。
暮婚晨告別、無乃太怱忙。
君行雖不遠、守辺赴河陽。
妾身未分明、何似拝姑嫜。』
#2
父母養我時、日夜令我蔵。
生女有所帰、鶏狗亦得将。
君今往死地、沈痛迫中腸。
誓欲随君去、形勢反蒼黄。』
#3
勿為新婚念、努力事戎行。
こうして出征された限りには新婚のことを心にとめ置くことはなりません、努めて戦の仕事やくわりをなさるようにしてください。
婦人在軍中、兵気恐不揚。
心の中でも婦人がいるとなれば軍隊のなかですからみんなそうでしょう、だから恐らくは軍隊の士気の奮い興ることが難しくなるでしょう。
自嗟貧家女、久致羅襦裳。
ああ、わたくしは貧しい家のむすめです、嫁に来たてとはいえ、長々うすぎぬの袖無し上着やした絹を身につけており単衣で過ごしていたわけではありません。
羅襦不復施、対君洗紅粧。』
うすぎぬの袖無し上着やした絹などは二度とは着ることはないでしょう。そしてあなたの目の前で紅やおしろいもすっかり洗いおとすことにしてしまいましょう。』
仰視百鳥飛、大小必双翔。
視線を上に仰ぎ見るとさまざまの鳥の飛ぶのを見てみるのに、大きなとりも小さなとりも必ず雌と雄とがならびかけているでしょう。
人事多錯迕、與君永相望。』
それなのに人間の事象はままならぬ縺れの多いもので、お別れするはしかたのないこと、ただいつまでもお互い心をかえず、再会するそのときを心待ちに暮らしております。』

(新婚の別れ)#1
兎絲【とし】蓬麻【ほうま】に附す,蔓【つる】を引く故【もと】より長からず。
女を嫁【かし】して征夫【せいふ】に與【あと】うるは 路傍【ろぼう】に棄つるに如【し】かず。』
髪を結びて 君が妻と為る,席 君が牀【しょう】を煖【あたた】めず。
暮に婚して晨【あした】に別れを告ぐ,乃【すなわ】ち太【はなは】だ怱忙【そうぼう】なる無し。
君が行【こう】遠【とう】からずと雖も、辺を守り河陽に赴【おもむ】く。
妾【しょう】が身 未だ分明ならず,何を似て姑嫜【こしょう】を拝せん。』
#2
父母 我を養う時,日夜 我をして蔵【ぞう】せしむ。
女を生みて 帰【とつ】がせる所有れば,鶏狗【けいく】も亦将【おく】ることを得【う】。
君今死地【しち】に往【ゆ】く,沈痛【ちんつう】中腸【ちゅうちょう】に迫【せま】る。
誓って君に随って去らんと欲す,形勢【けいせい】反って蒼黄【そうこう】たり。

#3
新婚の念を為すこと勿れ,努力して戎行【じゅうこう】を事とせよ。
婦人【ふじん】軍中【ぐんちゅう】に在らば,兵気【へいき】恐らくは揚【あ】がらざらん。
自ら嗟【さ】す貧家の女,久しく羅襦【らじゅ】裳を致す。
羅襦復た施さず,君に対して紅粧【こうそう】を洗わん。』
仰いで百鳥【びゃくちょう】の飛ぶを視る,大小必ず双【なら】び翔る。
人事【じんじ】錯迕【さくご】多し,君と永く相い望まん。』



現代語訳と訳註
 (本文)
#3
勿為新婚念、努力事戎行。
婦人在軍中、兵気恐不揚。
自嗟貧家女、久致羅襦裳。
羅襦不復施、対君洗紅粧。』
仰視百鳥飛、大小必双翔。
人事多錯迕、與君永相望。』


(下し文) #3
新婚の念を為すこと勿れ,努力して戎行【じゅうこう】を事とせよ。
婦人【ふじん】軍中【ぐんちゅう】に在らば,兵気【へいき】恐らくは揚【あ】がらざらん。
自ら嗟【さ】す貧家の女,久しく羅襦【らじゅ】裳を致す。
羅襦復た施さず,君に対して紅粧【こうそう】を洗わん。』
仰いで百鳥【びゃくちょう】の飛ぶを視る,大小必ず双【なら】び翔る。
人事【じんじ】錯迕【さくご】多し,君と永く相い望まん。』


(現代語訳)
こうして出征された限りには新婚のことを心にとめ置くことはなりません、努めて戦の仕事やくわりをなさるようにしてください。
心の中でも婦人がいるとなれば軍隊のなかですからみんなそうでしょう、だから恐らくは軍隊の士気の奮い興ることが難しくなるでしょう。
ああ、わたくしは貧しい家のむすめです、嫁に来たてとはいえ、長々うすぎぬの袖無し上着やした絹を身につけており単衣で過ごしていたわけではありません。
うすぎぬの袖無し上着やした絹などは二度とは着ることはないでしょう。そしてあなたの目の前で紅やおしろいもすっかり洗いおとすことにしてしまいましょう。』
視線を上に仰ぎ見るとさまざまの鳥の飛ぶのを見てみるのに、大きなとりも小さなとりも必ず雌と雄とがならびかけているでしょう。
それなのに人間の事象はままならぬ縺れの多いもので、お別れするはしかたのないこと、ただいつまでもお互い心をかえず、再会するそのときを心待ちに暮らしております。』


(訳注)
勿為新婚念、努力事戎行。
こうして出征された限りには新婚のことを心にとめ置くことはなりません、努めて戦の仕事やくわりをなさるようにしてください。
新婚念 新婚のことを心にとめる。○ わが大切なしごととする。○戎行 軍中の行伍のこと、いくさなかまのこと、ただなかまの人をいうのではなく、なかまの仕事をいうのである。


婦人在軍中、兵気恐不揚。
心の中でも婦人がいるとなれば軍隊のなかですからみんなそうでしょう、だから恐らくは軍隊の士気の奮い興ることが難しくなるでしょう。
兵気 軍隊の士卒の意気。○ ふるいおこることをいう。


自嗟貧家女、久致羅襦裳。
ああ、わたくしは貧しい家のむすめです、嫁に来たてとはいえ、長々うすぎぬの袖無し上着やした絹を身につけており単衣で過ごしていたわけではありません。
久致 致とは使用しておったこと。○羅禰裳 羅補(うすぎぬの袖無しのうわぎ)羅裳(うすぎぬの下衣裳)。


羅襦不復施、対君洗紅粧。』
うすぎぬの袖無し上着やした絹などは二度とは着ることはないでしょう。そしてあなたの目の前で紅やおしろいもすっかり洗いおとすことにしてしまいましょう。』
 身につけること。○対君 あなたの面とむっかて、見ている目の前で。○洗紅粧 紅粧は紅粉の粧をいう、ぺに、おしろいのよそおい、洗はあらい流すこと。


仰視百鳥飛、大小必双翔。
視線を上に仰ぎ見るとさまざまの鳥の飛ぶのを見てみるのに、大きなとりも小さなとりも必ず雌と雄とがならびかけているでしょう。
双翔 雌と雄とならびかける。


人事多錯迕、與君永相望。』
それなのに人間の事象はままならぬ縺れの多いもので、お別れするはしかたのないこと、ただいつまでもお互い心をかえず、再会するそのときを心待ちに暮らしております。』
錯迂 錨はまじわる、迂はさからいたがう、いろいろのもつれをいう。○永相望 あえるときまで永久にながめてまつ。



此の詩は、杜甫が乾元二年華州司功であったときの作。洛陽に所用で出かけ、鞏州まで足を延ばし、兄弟家族の安否を確かめたのち、華州に帰る途中で見聞きしたものを詩篇にまとめた。いわゆる「三吏三別詩」である。同じ杜甫作の兵車行と比較して人民の側に立った見方をしていない、中間的な立場で見ているといわれている紀行詩である。兵車行の時点では杜甫は仕官活動がうまく行かず、世の矛盾をストレートに表現できたがこの詩の時点では、華州幕府に務める文官であったことでストレートな表現はない。
 詩人は特殊な条件を設定しその時代の矛盾点を詠いあげるのである。安禄山の謀叛は早期に終息すると思っていたが、危うい状況が続いていてどうなるかわからない。戦は嫌いであっても戦わなければ終わらないとういうジレンマの中で戦を考えているから、兵車行の時の北方異民族との戦のための徴兵されたものと叛乱軍に対する戦いを単に戦いと同一視することはない。杜甫は内戦というものは人民にとって悲劇であるが、戦わなければ悲劇は終わらないと詠っているのだろう。