無家別 杜甫 三吏三別詩 <219>#1 kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1052 杜甫詩集700- 315 
母も妻子も亡くなった孤独な男が、船上から帰って来たばかりで、また征役に出されようとして,その家に別れ去る心を述べた詩。華州での作。
乾元2年 759年 48歳

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無家別    杜 甫
妻・家族のいないわかれ。
寂寞天宝後、園盧但蒿藜。
天宝十四載の安禄山が幽州で反旗を挙げ以後はわが国土は荒れて寂しくなり、田畑や庵小屋にはただ「よもぎ」だの「あかざ」が生えはびこるばかりとなっている。
我里百余家、世乱各東西。
自分の村里には百軒あまりの家があるのだが、このように世が乱れてからというもの村人はそれぞれ土地放棄して東や西に散ってしまっている。
存者無消息、死者為塵泥。』
生きている者といってもたよりがあるわけではないし、死んだ者は塵か泥に変わってしまったろう。』
賎子因陣敗、帰来尋旧蹊。
自分は戦が負けたことで村へ逃げ帰ってきて、懐かしいもとの小道を尋ねてみる。
久行見空巷、日痩気惨凄。
久しぶりに見る村の小径に人かげはなく、日の光もやせたように力なくて、辺りに物悲しい空気がただよっている。
但對狐與狸,豎毛怒我啼。』

ただ村で誰もいない代わりに狐や狸に出あうばかりなのだ、そして彼らは私をよそ者として向かって毛をさか立てて怒って啼くのである。』

#2

四隣何所有、一二老寡妻。
宿鳥戀本枝、安辭且窮棲。
方春獨荷鋤、日暮還潅畦。』
県吏知我至、召令習鼓鞞
雖従本州役、内顧無所携。
#3

近行止一身、遠去終轉迷。
家郷既盪盡、遠近理亦斎。』
永痛長病母、五年委溝谿。
生我不得力、終身両酸嘶。
人生無家別、何似為蒸黎。』


(無家の別れ)

寂寞【せきばく】たり天宝の後,園盧【えんろ】但だ蒿藜【こうれい】。
我が里 百余家,世 乱れて各ゝ 東西す。
存する者 消息無く,死せる者は塵泥【じんでい】と為れり。』
賎子【せんし】陣敗【じんぱい】に因り,帰り来たって旧蹊【きゅうけい】を尋ねる。
久行【きゅうこう】空巷【くうこう】を見る,日 痩【やせ】て 気 惨凄【さんせい】なり。
但だ狐と狸とに対す 毛を竪【た】てて 我を怒りて啼く。』

#2
四隣は何の有る所ぞ,一二の老 寡妻【かさい】。
宿鳥【しゅくちょう】本枝【ほんし】を恋う,安んぞ且つ窮棲【きゅうせい】するを辞せん。
方に春にして獨り鋤【すき】を荷【にな】う,日暮【にちぼ】還た畦【けい】に潅【そそ】ぐ。』
県吏 我が至るを知る,召して鼓鞞【こへい】を習わ令む。
本州の役【えき】に従うと雖も,内に顧【かえり】みるに携【たずさ】える所無し。

#3
近く行くに止【た】だ一身,遠く去れば終に轉【うた】た迷わん。
家郷【かきょう】既に盪盡【とうじん】す,遠近 理亦た斎【ひと】し。』
永く痛む長病の母,五年 溝谿【こうけい】に委【い】するを。
我を生むも力を得ず,終身両【ふたり】ながら酸嘶【さんせい】しき。
人生 無家の別れ,何を似ってか蒸黎【じょうれい】と為さん。』


現代語訳と訳註
(本文)

寂寞天宝後、園盧但蒿藜。
我里百余家、世乱各東西。
存者無消息、死者為塵泥。』
賎子因陣敗、帰来尋旧蹊。
久行見空巷、日痩気惨凄。
但對狐與狸,豎毛怒我啼。』

(下し文)

寂寞【せきばく】たり天宝の後,園盧【えんろ】但だ蒿藜【こうれい】。
我が里 百余家,世 乱れて各ゝ 東西す。
存する者 消息無く,死せる者は塵泥【じんでい】と為れり。』
賎子【せんし】陣敗【じんぱい】に因り,帰り来たって旧蹊【きゅうけい】を尋ねる。
久行【きゅうこう】空巷【くうこう】を見る,日 痩【やせ】て 気 惨凄【さんせい】なり。
但だ狐と狸とに対す 毛を竪【た】てて 我を怒りて啼く。』

(現代語訳)
妻・家族のいないわかれ。
天宝十四載の安禄山が幽州で反旗を挙げ以後はわが国土は荒れて寂しくなり、田畑や庵小屋にはただ「よもぎ」だの「あかざ」が生えはびこるばかりとなっている。
自分の村里には百軒あまりの家があるのだが、このように世が乱れてからというもの村人はそれぞれ土地放棄して東や西に散ってしまっている。
生きている者といってもたよりがあるわけではないし、死んだ者は塵か泥に変わってしまったろう。』
自分は戦が負けたことで村へ逃げ帰ってきて、懐かしいもとの小道を尋ねてみる。
久しぶりに見る村の小径に人かげはなく、日の光もやせたように力なくて、辺りに物悲しい空気がただよっている。
ただ村で誰もいない代わりに狐や狸に出あうばかりなのだ、そして彼らは私をよそ者として向かって毛をさか立てて怒って啼くのである。』


(訳注)無家別 #1
妻・家族のいないわかれ。
無家 家とは室家の意であり、妻をさす。ここでは無家とは妻のない、家族のいないことをいう。


寂寞天宝後、園盧但蒿藜。
寂寞たり天宝の後,園盧但だ蒿藜
天宝十四載の安禄山が幽州で反旗を挙げ以後はわが国土は荒れて寂しくなり、田畑や庵小屋にはただ「よもぎ」だの「あかざ」が生えはびこるばかりとなっている。
寂寞 さびしいさま。○天宝後 755年天宝十四載11月安禄山の叛いた以後、安禄山・安慶緒と史思明へと続き763年までの叛乱が安史の乱である。○園慮 はたけ、いおり。はたけの中の小屋。○嵩褒 よもぎ、あかざ。


我里百余家、世乱各東西。
我が里 百余家,世 乱れて各ゝ 東西す。
自分の村里には百軒あまりの家があるのだが、このように世が乱れてからというもの村人はそれぞれ土地放棄して東や西に散ってしまっている。
○里 村里。○東西 人が東に西にちりぢりになったこと。


存者無消息、死者為塵泥。
存する者 消息無く,死せる者は塵泥【じんでい】と為れり。』
生きている者といってもたよりがあるわけではないし、死んだ者は塵か泥に変わってしまったろう。』
存者 いきのこっているもの。○消息 たより。○為塵泥 死骸がくちてちりどろにかわる。


賎子因陣敗、帰来尋旧蹊。
賎子【せんし】陣敗【じんぱい】に因り,帰り来たって旧蹊【きゅうけい】を尋ねる
自分は戦が負けたことで村へ逃げ帰ってきて、懐かしいもとの小道を尋ねてみる。
賊子 いやしいもの、この別れをなすおとこの謙称。○陣敗 いくさのまけ、これは乾元二年三月四日の鄴城包囲総崩れの大敗をさす。○旧蹊 村にあったもとからのこみち。


久行見空巷、日痩気惨凄。
久行【きゅうこう】空巷【くうこう】を見る,日 痩【やせ】て 気 惨凄【さんせい】なり。
久しぶりに見る村の小径に人かげはなく、日の光もやせたように力なくて、辺りに物悲しい空気がただよっている。
久行 久しく他方へであるいておったこと。○空巷 だれも人のいないこうじ。〇日痩 太陽の光のカないさま。○ 気象。空気○惨憤 ものがなしいさま。


但對狐與狸,豎毛怒我啼。
但だ狐と狸とに対す 毛を竪【た】てて 我を怒りて啼く。』
ただ村で誰もいない代わりに狐や狸に出あうばかりなのだ、そして彼らは私をよそ者として向かって毛をさか立てて怒って啼くのである。』
竪毛 毛をさかだてる。