無家別 杜甫 三吏三別詩<219>#2 kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1055 杜甫詩集700- 316 
母も妻子も亡くなった孤独な男が、船上から帰って来たばかりで、また征役に出されようとして,その家に別れ去る心を述べた詩。華州での作。
乾元2年 759年 48歳



無家別    杜 甫
寂寞天宝後、園盧但蒿藜。
我里百余家、世乱各東西。
存者無消息、死者為塵泥。』
賎子因陣敗、帰来尋旧蹊。
久行見空巷、日痩気惨凄。
但對狐與狸,豎毛怒我啼。』

四隣何所有、一二老寡妻。
また四方の隣りや近所には何があるかと見ると、一人二人と年寄りや寡婦がいるばかりである。
宿鳥戀本枝、安辭且窮棲。
樹に宿る鳥であってももと住んだ枝が恋しいく、荒れ果てているが故郷が恋しいというもの。窮々としてひとり住むことでもどうしてわたしは故郷の恋しさ、安寧することを否めないのだ。
方春獨荷鋤、日暮還潅畦。』
ちょうどいまは春なのでわたしはただひとり鋤を担っていて日が暮れてもまだ畑に畦を作り、畝に水を注ぎいれているときだ。』
県吏知我至、召令習鼓鞞
ところがわが県の下役人はわたしが戻ってきたことを知って、わたしを呼び出して戦太鼓や小鼓を打つことを習わせる。
雖従本州役、内顧無所携。
わたしはお上のため仕方なしに所属の華州の仕事だから従事せざるをえないのである。さて、私自身の親族縁者をかえりみると、手をひきあう所の妻子眷属というものがないのだ。

近行止一身、遠去終轉迷。
家郷既盪盡、遠近理亦斎。』
永痛長病母、五年委溝谿。
生我不得力、終身両酸嘶。
人生無家別、何似為蒸黎。』

(無家の別れ)
寂寞【せきばく】たり天宝の後,園盧【えんろ】但だ蒿藜【こうれい】。
我が里 百余家,世 乱れて各ゝ 東西す。
存する者 消息無く,死せる者は塵泥【じんでい】と為れり。』
賎子【せんし】陣敗【じんぱい】に因り,帰り来たって旧蹊【きゅうけい】を尋ねる。
久行【きゅうこう】空巷【くうこう】を見る,日 痩【やせ】て 気 惨凄【さんせい】なり。
但だ狐と狸とに対す 毛を竪【た】てて 我を怒りて啼く。』
#2
四隣は何の有る所ぞ,一二の老 寡妻【かさい】。
宿鳥【しゅくちょう】本枝【ほんし】を恋う,安んぞ且つ窮棲【きゅうせい】するを辞せん。
方に春にして獨り鋤【すき】を荷【にな】う,日暮【にちぼ】還た畦【けい】に潅【そそ】ぐ。』
県吏 我が至るを知る,召して鼓鞞【こへい】を習わ令む。
本州の役【えき】に従うと雖も,内に顧【かえり】みるに携【たずさ】える所無し


#3
近く行くに止【た】だ一身,遠く去れば終に轉【うた】た迷わん。
家郷【かきょう】既に盪盡【とうじん】す,遠近 理亦た斎【ひと】し。』
永く痛む長病の母,五年 溝谿【こうけい】に委【い】するを。
我を生むも力を得ず,終身両【ふたり】ながら酸嘶【さんせい】しき。
人生 無家の別れ,何を似ってか蒸黎【じょうれい】と為さん。』


現代語訳と訳註
(本文)

四隣何所有、一二老寡妻。
宿鳥戀本枝、安辭且窮棲。
方春獨荷鋤、日暮還潅畦。』
県吏知我至、召令習鼓鞞
雖従本州役、内顧無所携。

(下し文) #2
四隣は何の有る所ぞ,一二の老 寡妻【かさい】。
宿鳥【しゅくちょう】本枝【ほんし】を恋う,安んぞ且つ窮棲【きゅうせい】するを辞せん。
方に春にして獨り鋤【すき】を荷【にな】う,日暮【にちぼ】還た畦【けい】に潅【そそ】ぐ。』
県吏 我が至るを知る,召して鼓鞞【こへい】を習わ令む。
本州の役【えき】に従うと雖も,内に顧【かえり】みるに携【たずさ】える所無し


(現代語訳)
また四方の隣りや近所には何があるかと見ると、一人二人と年寄りや寡婦がいるばかりである。
樹に宿る鳥であってももと住んだ枝が恋しいく、荒れ果てているが故郷が恋しいというもの。窮々としてひとり住むことでもどうしてわたしは故郷の恋しさ、安寧することを否めないのだ。
ょうどいまは春なのでわたしはただひとり鋤を担っていて日が暮れてもまだ畑に畦を作り、畝に水を注ぎいれているときだ。』
ところがわが県の下役人はわたしが戻ってきたことを知って、わたしを呼び出して戦太鼓や小鼓を打つことを習わせる。
わたしはお上のため仕方なしに所属の華州の仕事だから従事せざるをえないのである。さて、私自身の親族縁者をかえりみると、手をひきあう所の妻子眷属というものがないのだ。


(訳注)
四隣何所有、一二老寡妻。

四隣は何の有る所ぞ,一二の老寡妻
また四方の隣りや近所には何があるかと見ると、一人二人と年寄りや寡婦がいるばかりである。
四隣 四方のとなりや。○何所有 なにがあるか、あるものはなにか。○寡妻 やもめおんな。


宿鳥戀本枝、安辭且窮棲。
宿鳥本枝を恋う,安んぞ且つ窮棲するを辞せん
樹に宿る鳥であってももと住んだ枝が恋しいく、荒れ果てているが故郷が恋しいというもの。窮々としてひとり住むことでもどうしてわたしは故郷の恋しさ、安寧することを否めないのだ。
宿鳥 木にやどるとり。〇本枝 もとすんでいたえだ。○安辞 どうしていなもう、いなま竃い、甘んずる。○且窮棲 まあまあこまりながらすんでおること。


方春獨荷鋤、日暮還潅畦。』
方に春にして獨り鋤を荷う,日暮還た畦に潅ぐ
ちょうどいまは春なのでわたしはただひとり鋤を担っていて日が暮れてもまだ畑に畦を作り、畝に水を注ぎいれているときだ。』
方春 ち上うど春のおりに、この春は乾元二年の春をいうのであろう。○荷鋤 すきをになう、耕作に従事すること。○潅畦 潅は水をそそぎいれること。畦はうね。


県吏知我至、召令習鼓鞞。
県吏我が至るを知る,召して鼓鞞(こへい)を習わ令む
ところがわが県の下役人はわたしが戻ってきたことを知って、わたしを呼び出して戦太鼓や小鼓を打つことを習わせる。
鼓鞞 鼓はたいこ、鞞はこつづみ。


雖従本州役、内顧無所携。
本州の役に従と雖も,内に顧みるに携える所無し

わたしはお上のため仕方なしに所属の華州の仕事だから従事せざるをえないのである。さて、私自身の親族縁者をかえりみると、手をひきあう所の妻子眷属というものがないのだ。
 従事する。○本州役 自己の県の属する華州のしごとをいう。此の句は他郷へゆかないことをいう。○内顧 みずから内部:親族縁者をかえりみる。○所携 てをひきあうもの、妻子眷属をいう。