夏日嘆 <222#1>杜甫詩kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1073 杜甫特集700- 322

杜甫が二月に洛陽を出発し、新安、石豪、潼関を通過、途中見聞きしたことは「三吏三別詩」にあらわした。春に出発したが、華州へ着いたとき、すでに初夏になっており、近畿地方一帯は早天が続いて飢饉の気配が濃厚であった。秋になると、果たせるかな近畿の地は飢饉となり、すべての出来事が悲観的に感じられ、それを脱却するため、杜甫は棄官を決意することになる。
十五年にわたって執着していた官を、あっさりと棄て去るには、食糧事情の悪化だけではなく、政治事情も関係していた。すなわち新帝の粛宗側は、その地位を確かなものにするために、玄宗側の人々を朝廷から追い落としており、特に房琯グループの追放は徹底したものであった。まぎれもなく杜甫は玄宗を慕い、房琯を師とするところであった。
杜甫は左拾位になって1年、その後華州司公参軍で1年、官界に絶望した2年であった。
かくして杜甫は759年乾元二年の秋、四十八歳のときに長安を去ってから、770年大暦五年の冬に五十九歳で亡くなるまでの十一年間を、家族を伴っての放浪のうちに過ごすことになるのである。


夏日嘆
夏の日照りを嘆く
夏日出東北,陵天經中街。
夏の炎天の中東北に出かける、日照り続きの天気は厳しくこわく街の中まで続いている。
朱光徹厚地,鬱蒸何由開?
炎天の日光は大地に深く照り続く、たまっていた水分湿り気というものもふたが開いてしまって留まることはなくどこかへ行ってしまう。
上蒼久無雷,無乃號令乖?
上空はどこまでも蒼くここ当分の間に書き曇り雷がおこることはない、それは天からの号令一下秩序能く整頓することからかけ離れてしまったことに他ならない。
雨降不濡物,良田起黃埃。
雨が降ることは万物を濡らすことではない、雨が降らねばここにあるように良い田畑が黄色の砂地になってしまうのである。
飛鳥苦熱死,池魚涸其泥。』

飛ぶ鳥は苦しみそして暑さで死ぬだろう、池の魚は水が枯れてしまい死んでその泥に入ってしまう。
萬人尚流冗,舉目唯蒿萊。
至今大河北,化作虎與豺。
浩蕩想幽薊,王師安在哉?
對食不能餐,我心殊未諧。
眇然貞觀初,難與數子偕!』


(夏の日嘆く)
夏日 東北に出ず,陵天 經中の街。
朱光 厚地に徹し,鬱蒸して何ぞ由く開くや?
上蒼 久しく雷無し,乃れ無くして號令を乖らんや?
雨降るは物を濡らさず,良田 黃埃【こうあい】を起こす。
飛鳥 苦しみて熱死す,池魚 其泥を涸らす。』

萬人 尚 冗を流す,舉目を唯 萊を蒿む。
今に至り大河の北,作を化すは虎與豺。
浩蕩 幽薊を想う,王師 安んぞ在り哉?
食に對して餐能たわず,我 心は殊に未だ諧さず。
眇然として貞觀の初め,與に數子偕し難たし!』


現代語訳と訳註
(本文)
夏日嘆
夏日出東北,陵天經中街。
朱光徹厚地,鬱蒸何由開?
上蒼久無雷,無乃號令乖?
雨降不濡物,良田起黃埃。
飛鳥苦熱死,池魚涸其泥。』


(下し文)
(夏の日嘆く)
夏日 東北に出ず,陵天 經中の街。
朱光 厚地に徹し,鬱蒸して何ぞ由く開くや?
上蒼 久しく雷無し,乃れ無くして號令を乖らんや?
雨降りて物濡れず,良田 黃埃 起こす。
飛鳥 苦しみて熱死す,池魚 其泥を涸らす。』


(現代語訳)
夏の日照りを嘆く
夏の炎天の中東北に出かける、日照り続きの天気は厳しくこわく街の中まで続いている。
炎天の日光は大地に深く照り続く、たまっていた水分湿り気というものもふたが開いてしまって留まることはなくどこかへ行ってしまう。
上空はどこまでも蒼くここ当分の間に書き曇り雷がおこることはない、それは天からの号令一下秩序能く整頓することからかけ離れてしまったことに他ならない。
雨が降ることは万物を濡らすことではない、雨が降らねばここにあるように良い田畑が黄色の砂地になってしまうのである。
飛ぶ鳥は苦しみそして暑さで死ぬだろう、池の魚は水が枯れてしまい死んでその泥に入ってしまう。


(訳注)夏日嘆
夏の日照りを嘆く
近畿地方は、756年天宝十五載六月の敗戦以来、二年間戦乱に見舞われ、農耕面積が激減、人口激減、農地は荒れ果て、そのうえ、食料の半分を頼っていた江南の物資が洛陽付近の不安定な政治情勢のため届きにくくなっていた。加えて759年乾元二年の夏は暑くなるとともに日照りがつづき、蝗旱(こうかん)の害がひろがった。
 物価は騰貴し、食糧の入手は困難になり、州の司功参軍である杜甫の一家はただちに飢餓に瀕することはなかった。
長安は当時の国家体制から重要地点ではあったがここに100万人以上の人口が集結していたことは、戦乱だけでも食糧不足を起こし、その上日照りが重なると飢饉になる地点でもあった。安史の乱のきっかけも長雨により食糧不足、物価高騰にあった。戦乱と飢饉で生きる地獄を見るのである。


夏日出東北,陵天經中街。
夏の炎天の中東北に出かける、日照り続きの天気は厳しくこわく街の中まで続いている。
東北 華州で東北というと同州というところで、渭水、洛水、黄河の合流点で近畿地方の穀倉地帯であったところ。○ きびしい。おそれる。『荀子、致仕』「凡節奏欲陵、而生民欲寛。」(凡そ節奏は陵を欲して、而して生民は寛を欲す。)『玉篇』「陵慄也。」

杜甫乱前後の図003鳳翔

朱光徹厚地,鬱蒸何由開?
炎天の日光は大地に深く照り続く、たまっていた水分湿り気というものもふたが開いてしまって留まることはなくどこかへ行ってしまう。
朱光 太陽の別名。赤い光。○徹厚地,太陽の熱と光が大地に深く照り続くことをあらわす。○鬱蒸 鬱積した水蒸気。


上蒼久無雷,無乃號令乖?
上空はどこまでも蒼くここ当分の間に書き曇り雷がおこることはない、それは天からの号令一下秩序能く整頓することからかけ離れてしまったことに他ならない。
上蒼 空の蒼いこと。カンカン照り。○號令乖 天が号令をかけることが遠ざかり、かけ離れてしまう。天の秩序が遠のくこと。


雨降不濡物,良田起黃埃。
雨が降ることは万物を濡らすことではない、雨が降らねばここにあるように良い田畑が黄色の砂地になってしまうのである。
良田 良い田畑。○起黃埃 水田や畑の畝が黄色の砂塵をおこしてしまう。


飛鳥苦熱死,池魚涸其泥。』
飛ぶ鳥は苦しみそして暑さで死ぬだろう、池の魚は水が枯れてしまい死んでその泥に入ってしまう。
 枯渇すること。○其泥 死んでしまって泥に化すこと。