夏夜嘆 <223#1>杜甫詩kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1076 杜甫特集700- 323

759年乾元二年の夏は、陝西省一帯にひでりがつづき、田畑の災害はひどいものであった。杜甫『夏日嘆』「雨降不濡物,良田起黃埃。飛鳥苦熱死,池魚涸其泥。」良い田畑が黄色の砂地になり、飛ぶ鳥も暑さに落ち、池の魚も水枯れて死んだ。人民は離散し、村落は見渡すかぎり荒れはてた。しかも黄河以北は、安史軍が勝手し放題、唐王朝軍は何をしているのか一向にふるわぬ。杜甫は食事もすすまず、心中の憂悶は限りもなかった。


夏夜嘆
夏の夜の暑さを嘆く
永日不可暮,炎蒸毒中腸。
日中、太陽は永くてりつづけ、暮れるのがおそくなる,それにこの燃えるような暑さ、茹で上がるような蒸し暑さでは中腸まで毒されてしまって、食べる気にならないし、食べられない。
安得萬裡風,飄搖吹我裳?
どうやったら、着物の袖や裾から涼風が得られるのだろうか。翻るほどの風、裾が揺れるほどの画是が私の着物にふいて吹いてくれるのだろうか。
昊天出華月,茂林延疏光。
夏の大空には美しい月がでている。うっそうと茂った林には月の光が木々に別れてさしこん躬伸びている。
仲夏苦夜短,開軒納微涼。」
真夏(5月6月初め、今の7月)は夜が短く日がさす昼が長く苦しいものだ。軒をひろげて開くといくらか涼しい風が通り気持ちを納めてくれる。

虛明見纖毫,羽蟲亦飛揚。
物情無巨細,自適固其常。
念彼荷戈士,窮年守邊疆。
何由一洗濯,執熱互相望?」

竟夕擊刁鬥,喧聲連萬方。
青紫雖被體,不如早還鄉。
北城悲笳發,鸛鶴號且翔。
況複煩促倦,激烈思時康。」


夏の夜の嘆き  #1
日 永くして暮る可からず,炎蒸 中腸 毒る。
安んぞ得んや萬裡の風,飄搖 我裳に吹かんや?
昊天 華月出でて,茂林 疏光延る。
仲夏 夜短かくして苦しむ,軒を開きて微涼を納む。」

#2
虛明 纖毫を見る,羽蟲 亦 飛び、揚がる。
物情 巨細 無し,自適 其の常なるに固る。
彼の念うこと戈士に荷わせ,窮年 邊疆を守る。
何んぞ由なるや一たびの洗濯,執熱 互いに相望まん?」
#3
竟に夕には刁鬥【ちょうとう】を擊つ,喧聲 萬方に連らなる。
青紫 被體と雖ども,早に鄉に還えるに如かず。
北城 笳發を悲しみ,鸛鶴 號且翔。
況んや複た促倦を煩らわし,激烈 時に康んじることを思う。」

kagayak460

現代語訳と訳註
(本文)
夏夜嘆

永日不可暮,炎蒸毒中腸。
安得萬裡風,飄搖吹我裳?
昊天出華月,茂林延疏光。
仲夏苦夜短,開軒納微涼。」

(下し文) #1
日 永くして暮る可からず,炎蒸 中腸 毒る。
安んぞ得んや萬裡の風,飄搖 我裳に吹かんや?
昊天 華月出でて,茂林 疏光 延る。
仲夏 夜短かくして苦しむ,軒を開きて微涼を納む。」


(現代語訳)
夏の夜の暑さを嘆く
日中、太陽は永くてりつづけ、暮れるのがおそくなる,それにこの燃えるような暑さ、茹で上がるような蒸し暑さでは中腸まで毒されてしまって、食べる気にならないし、食べられない。
どうやったら、着物の袖や裾から涼風が得られるのだろうか。翻るほどの風、裾が揺れるほどの画是が私の着物にふいて吹いてくれるのだろうか。
夏の大空には美しい月がでている。うっそうと茂った林には月の光が木々に別れてさしこんで、伸びている。
真夏(5月6月初め、今の7月)は夜が短く日がさす昼が長く苦しいものだ。軒をひろげて開くといくらか涼しい風が通り気持ちを納めてくれる。


(訳注)
夏夜嘆

夏の夜の暑さを嘆く
○近畿地方は、756年天宝十五載六月の敗戦以来、二年間戦乱に見舞われ、農耕面積が激減、人口激減、農地は荒れ果て、そのうえ、食料の半分を頼っていた江南の物資が洛陽付近の不安定な政治情勢のため届きにくくなっていた。加えて759年乾元二年の夏は暑くなるとともに日照りがつづき、蝗旱(こうかん)の害がひろがった。
 物価は騰貴し、食糧の入手は困難になっていたが、州の司功参軍である杜甫の一家はただちに飢餓に瀕することはなかった。
長安は当時の国家体制から重要地点ではあったがここに100万人以上の人口が集結していたことは、戦乱だけでも食糧不足を起こし、その上日照りが重なると飢饉になる地点でもあった。安史の乱のきっかけも長雨により食糧不足、物価高騰にあった。戦乱と飢饉で生きる地獄を見るのである。


永日不可暮,炎蒸毒中腸。
日中、太陽は永くてりつづけ、暮れるのがおそくなる,それにこの燃えるような暑さ、茹で上がるような蒸し暑さでは中腸まで毒されてしまって、食べる気にならないし、食べられない。
謝霊運『南樓中望所遲客』「孟夏非長夜,晦明如歲隔。」(孟夏【もうか】は長き夜に非ざるも、晦明【かいめい】は歳の隔つるが如し。)


安得萬裡風,飄搖吹我裳?
どうやったら、着物の袖や裾から涼風が得られるのだろうか。翻るほどの風、裾が揺れるほどの画是が私の着物にふいて吹いてくれるのだろうか。


昊天出華月,茂林延疏光。
夏の大空には美しい月がでている。うっそうと茂った林には月の光が木々に別れてさしこんで、伸びている。
昊天【こうてん】1 夏の空。2 広い空。大空。○華月 美しい月。盛んなとき。


仲夏苦夜短,開軒納微涼。」
真夏(5月6月初め、今の7月)は夜が短く日がさす昼が長く苦しいものだ。軒をひろげて開くといくらか涼しい風が通り気持ちを納めてくれる。



 華州参軍の官吏としての自分の立場に、いやでも多くの矛盾を感じたにちがいない。その間、人間関係の煩わしい事情もあったかも知れぬ。華州を去ってゆこうとする頃「立秋後題」詩に、「罷官亦由人」(官を罷むるも亦た人に由る。)と詠じているのを見ると、なにかかくれた事情があったようにも想像される。そうでなくても、すでに朝廷から排斥される房琯一派につながる者とされている杜甫に、政治上の山路は与えられるべくもない。ともかく、杜甫にとって、華州司功参軍という役人仕事をつづけることはもはや苦痛であった。こうして、暫く立った立秋には官を辞して秦州に紀行の旅に出るのである。
tsuki001