夏夜嘆 <223-#3>杜甫詩kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1085 杜甫特集700- 326

759年乾元二年の夏は、陝西省一帯にひでりがつづき、田畑の災害はひどいものであった。杜甫『夏日嘆』「雨降不濡物,良田起黃埃。飛鳥苦熱死,池魚涸其泥。」良い田畑が黄色の砂地になり、飛ぶ鳥も暑さに落ち、池の魚も水枯れて死んだ。

人民は離散し、村落は見渡すかぎり荒れはてた。しかも黄河以北は、安史軍が勝手し放題、唐王朝軍は何をしているのか一向にふるわぬ。杜甫は食事もすすまず、心中の憂悶は限りもなかった。

夏の夜は短い、昼日中が長いこと、その灼熱は夜を苦しいものにする。唐王朝軍が洛陽の守りをし、体勢を立て直しているが、形勢的には不利な状況である。洛陽は経済の要衝の地であること、それは逆に守りには適していないことを意味する。郭子儀軍がまもっているのは、『三吏三別の詩』で見た様に動きの悪い兵士たち、老人たちまでかき集めたよわい兵軍でしかない。杜甫は飢饉に見舞われた中、その上おさまりそうにないこの叛乱、そして彼自身、家族を伴った死にもの狂いの逃走、その上で安史軍に拘束・軟禁、これらのことがあって、悲観的に考えないでおられようか。こうした中で『夏夜嘆』を作っている。そして、秋になって、決意するのである。

夏夜嘆
夏の夜の暑さを嘆く
永日不可暮,炎蒸毒中腸。
日中、太陽は永くてりつづけ、暮れるのがおそくなる,それにこの燃えるような暑さ、茹で上がるような蒸し暑さでは中腸まで毒されてしまって、食べる気にならないし、食べられない。
安得萬裡風,飄搖吹我裳?
どうやったら、着物の袖や裾から涼風が得られるのだろうか。翻るほどの風、裾が揺れるほどの画是が私の着物にふいて吹いてくれるのだろうか。
昊天出華月,茂林延疏光。
夏の大空には美しい月がでている。うっそうと茂った林には月の光が木々に別れてさしこん躬伸びている。
仲夏苦夜短,開軒納微涼。」
真夏(5月6月初め、今の7月)は夜が短く日がさす昼が長く苦しいものだ。軒をひろげて開くといくらか涼しい風が通り気持ちを納めてくれる。
#2
虛明見纖毫,羽蟲亦飛揚。
うつろなあかりのなかで非常に小さいものを見る、羽ありかシラミがまた飛び跳ねあがった。
物情無巨細,自適固其常。
物のようす、性質、世間のありさまというものにおおきいもちいさいもないものだ、自分の心にかなった生活をすることそのもの日常的に心がけているものである。
念彼荷戈士,窮年守邊疆。
ましてやふたたび、安史軍による洛陽城の陥落という煩わしくていやらしいことになるという。そして今、こんなに激しく強烈に安らかなる世のことを思うことはないのだ。
何由一洗濯,執熱互相望?」

どういう方法でひとたびわだかまりや苦労を捨てさっぱりすることができるだろうか、きっと、こんなに暑い折柄であれば互いにそのことを望んでいるだろう。
#3
竟夕擊刁鬥,喧聲連萬方。
その日の夕方になってついに安史軍による悪辣な攻撃に大敗した。その騒ぎの声は国のすべての方向につたわった。
青紫雖被體,不如早還鄉。
大敗した九節度使の唐王朝連合軍は靑と紫のしるしをからだにつけてはいたが、急いでそれぞれの故郷に帰るわけにはいかない。
北城悲笳發,鸛鶴號且翔。
北の城では胡のあし笛と鼓を打ち鳴らしているのが悲しい。コウノトリは泣き叫びそして飛んで行った。
況複煩促倦,激烈思時康。」
兵士たちに国の守りを背負わせているから、これらのことはこころにおもいつづけていられる。もともと年を極めてみると北方・西方の異民族との辺境を守る者である。

(夏の夜の嘆き)  #1
日 永くして暮る可からず,炎蒸 中腸 毒さる。
安んぞ得んや萬裡の風,飄搖 我裳に吹かんや?
昊天 華月出でて,茂林 疏光延ぶ。
仲夏 夜短かくして苦しむ,軒を開きて微涼を納む。」
#2
虛明 纖毫を見る,羽蟲 亦 飛び、揚がる。
物情 巨細 無し,自適 其の常なるに固る。
彼の念うこと戈士に荷わせ,窮年 邊疆を守る。
何んぞ由なるや一たびの洗濯,執熱 互いに相望まん?」
#3
竟に夕には刁鬥【ちょうとう】を擊つ,喧聲 萬方に連らなる。
青紫 被體と雖ども,早に鄉に還えるに如かず。
北城 笳發を悲しみ,鸛鶴 號且翔。
況んや複た促倦を煩らわし,激烈 時に康んじることを思う。」



現代語訳と訳註
(本文)
#3
竟夕擊刁鬥,喧聲連萬方。
青紫雖被體,不如早還鄉。
北城悲笳發,鸛鶴號且翔。
況複煩促倦,激烈思時康。」


(下し文) #3
竟に夕には刁鬥【ちょうとう】を擊つ,喧聲 萬方に連らなる。
青紫 被體と雖ども,早に鄉に還えるに如かず。
北城 笳發を悲しみ,鸛鶴 號且翔。
況んや複た促倦を煩らわし,激烈 時に康んじることを思う。」


(現代語訳)
その日の夕方になってついに安史軍による悪辣な攻撃に大敗した。その騒ぎの声は国のすべての方向につたわった。
大敗した九節度使の唐王朝連合軍は靑と紫のしるしをからだにつけてはいたが、急いでそれぞれの故郷に帰るわけにはいかない。
北の城では胡のあし笛と鼓を打ち鳴らしているのが悲しい。コウノトリは泣き叫びそして飛んで行った。
ましてやふたたび、安史軍による洛陽城の陥落という煩わしくていやらしいことになるという。そして今、こんなに激しく強烈に安らかなる世のことを思うことはないのだ。


(訳注) #3
竟夕擊刁鬥,喧聲連萬方。

その日の夕方になってついに安史軍による悪辣な攻撃に大敗した。その騒ぎの声は国のすべての方向につたわった
刁鬥 悪辣な感じの争い。安史軍の戦い。幽州の史思明が落城寸前であった鄴城の安慶緒を助け、王朝連合軍を打ち破った。


青紫雖被體,不如早還鄉。
大敗した九節度使の唐王朝連合軍は靑と紫のしるしをからだにつけてはいたが、急いでそれぞれの故郷に帰るわけにはいかない。


北城悲笳發,鸛鶴號且翔。
北の城では胡のあし笛と鼓を打ち鳴らしているのが悲しい。コウノトリは泣き叫びそして飛んで行った。
北城 鄴城。笳 胡笳。○鸛鶴【こうづる】コウノトリの別名。


況複煩促倦,激烈思時康。」
ましてやふたたび、安史軍による洛陽城の陥落という煩わしくていやらしいことになるという。そして今、こんなに激しく強烈に安らかなる世のことを思うことはないのだ。