遣興三首其一 杜甫 <226>遣興22首の⑤番 kanbuniinkai 紀頌之の漢詩ブログ1094 杜甫特集700- 329
(興を遣る 三首)
秦州(甘粛省天水県)は、隴山の西に位置する国境の町である。隴山は約二〇〇〇メートルの連峰で、それを越えるための路は険阻で曲折はなはだしく、山越えのためには七日を要したといわれる。759年乾元二年の秋七月、官を棄てた杜甫は、家族を連れてこの隴山を越え、秦州に向かった。
 秦州同谷成都紀行地図

杜甫が旅の目的地を秦州と決めた理由としては、洛陽は安史軍史忠明が迫っていて危険であり(九月には史思明の攻撃によって再び陥落)、長安は餞饉で物価高。それに比べて秦州には従姪の杜佐が住んでいたし、また房棺に親しい者として先ごろ長安を追放された僧の賛公もそこにいた、などのことが考えられよう。
杜甫が秦州に至って折にふれて思いをやるために作った詩である。詩中の事実によると759年乾元二年秋の作。


遣興三首 其一 
興味のあること、風流なことを思ってみる。其の一。
下馬古戰場,四顧但茫然。
秦州城の附近の古戦場へきて馬から降りる、四方を振り返ってみるとただ茫漠としており、なんのとりとめもない景色である。
風悲浮雲去,黃葉墮我前。
秋の風は悲しそうに吹いて浮き雲が飛び去っている、黄ばんだ木の葉はわたしの前にと散り落ちる。
朽骨穴螻蟻,又為蔓草纏。
地上に横たわっている戦死者の朽ちた骨のまわりには「けら」や「あり」が穴をつくっている、そしてまたは蔓草が絡ったりしている。
故老行嘆息,今人尚開邊。
通りかかる老人たちが道すがら嘆きつつ語ってくれる、今時の人はいまだにこの辺鄙な地方を開き領土の拡大しようとしておるのであるか。
漢虜互勝負,封疆不常全。
それから、我が唐のくにと胡の異民族とは戦をしては一勝一敗で、国境は一進一退いつも完全を保ちうるというわけにいかないのだ。
安得廉頗將,三軍同晏眠?

どうしたならば、むかしの廉頗のような名将を得ることができて、唐王朝軍の全軍が一緒に遅くまで眠っていることができるようになれるのであろうか。


(興を遣る 三首 其の一)
馬より下る古戦場、四顧【しこ】すれば但だ茫然【ぼうぜん】たり。
風悲しみて浮雲去り、黄葉【こうよう】我が前に墜つ。
朽骨【きゅうこつ】には螻蟻【ろうぎ】穴す、又た蔓草【まんそう】に纏【まと】わる。
故老行【ゆくゆ】く歎息す、今人尚お辺を開くと。
漢虜【かんりょ】互いに勝負あり、封疆【ほうきょう】常には全からず。
安んぞ廉頗【れんぱ】将を得て、三軍同じく晏眠【あんみん】せん。


現代語訳と訳註  
(本文)

遣興三首 其一
下馬古戰場,四顧但茫然。
風悲浮雲去,黃葉墮我前。
朽骨穴螻蟻,又為蔓草纏。
故老行嘆息,今人尚開邊。
漢虜互勝負,封疆不常全。
安得廉頗將,三軍同晏眠?


(下し文)
(興を遣る 三首 其の一)
馬より下る古戦場、四顧【しこ】すれば但だ茫然【ぼうぜん】たり。
風悲しみて浮雲去り、黄葉【こうよう】我が前に墜つ。
朽骨【きゅうこつ】には螻蟻【ろうぎ】穴す、又た蔓草【まんそう】に纏【まと】わる。
故老行【ゆくゆ】く歎息す、今人尚お辺を開くと。
漢虜【かんりょ】互いに勝負あり、封疆【ほうきょう】常には全からず。
安んぞ廉頗【れんぱ】将を得て、三軍同じく晏眠【あんみん】せん。


(現代語訳)
興味のあること、風流なことを思ってみる。其の一。
秦州城の附近の古戦場へきて馬から降りる、四方を振り返ってみるとただ茫漠としており、なんのとりとめもない景色である。
秋の風は悲しそうに吹いて浮き雲が飛び去っている、黄ばんだ木の葉はわたしの前にと散り落ちる。
地上に横たわっている戦死者の朽ちた骨のまわりには「けら」や「あり」が穴をつくっている、そしてまたは蔓草が絡ったりしている。
通りかかる老人たちが道すがら嘆きつつ語ってくれる、今時の人はいまだにこの辺鄙な地方を開き領土の拡大しようとしておるのであるか。
それから、我が唐のくにと胡の異民族とは戦をしては一勝一敗で、国境は一進一退いつも完全を保ちうるというわけにいかないのだ。
どうしたならば、むかしの廉頗のような名将を得ることができて、唐王朝軍の全軍が一緒に遅くまで眠っていることができるようになれるのであろうか。


(訳注)
遣興三首 其一
興味のあること、風流なことを思ってみる。其の一。
秦州に至って身に危険を感じることがなくなったので、折にふれて思いをやるために作った詩である。詩中の事実によると759年乾元二年秋の作。


下馬古戰場,四顧但茫然。
馬より下る古戦場、四顧【しこ】すれば但だ茫然【ぼうぜん】たり。
秦州城の附近の古戦場へきて馬から降りる、四方を振り返ってみるとただ茫漠としており、なんのとりとめもない景色である
○古戦場 秦州城の附近にあるものをいう。


風悲浮雲去,黃葉墮我前。
風悲しみて浮雲去り、黄葉【こうよう】我が前に墜つ。
秋の風は悲しそうに吹いて浮き雲が飛び去っている、黄ばんだ木の葉はわたしの前にと散り落ちる。


朽骨穴螻蟻,又為蔓草纏
朽骨【きゅうこつ】には螻蟻【ろうぎ】穴す、又た蔓草【まんそう】に纏【まと】わる。
地上に横たわっている戦死者の朽ちた骨のまわりには「けら」や「あり」が穴をつくっている、そしてまたは蔓草が絡ったりしている。
朽骨 戦死者のくちたほね。○穴螻蟻 穴はあなをつくることをいう。螻蟻はけらむし、あり。○為蔓草纏 「為蔓草所纏」(蔓草は纏う所と為す)の略、つるぐさにまとわれる。南朝、江淹の「恨賦」に「試望平原,蔓草縈骨,拱木斂魂。人生到此,天道寧論!」(蔓草骨に紫れ、扶木は魂を敷む)とみえる。江 淹(こう えん、444年 - 505年)は、中国南北朝時代の文学者。字は文通。本籍地は済陽郡考城県(現在の河南省蘭考県)。門閥重視の貴族社会であった六朝時代において、寒門の出身でありながら、その文才と時局を的確に見定める能力によって、高位に上りつめ生涯を終えた。


故老行嘆息,今人尚開邊。
故老行【ゆくゆ】く歎息す、今人尚お辺を開くと。
通りかかる老人たちが道すがら嘆きつつ語ってくれる、今時の人はいまだにこの辺鄙な地方を開き領土の拡大しようとしておるのであるか。
故老 在来の老人たち。○尚開辺 今日もなお辺鄙の土地を開いて広めようとする、尚の字には怪訝におもうこととする意がある。


漢虜互勝負,封疆不常全。
漢虜【かんりょ】互いに勝負あり、封疆【ほうきょう】常には全からず。
それから、我が唐のくにと胡の異民族とは戦をしては一勝一敗で、国境は一進一退いつも完全を保ちうるというわけにいかないのだ
○漢虜 唐と、胡の異民族と。○封疆 くにざかい。○全 一進一退、きまって欠損のないことをいう。


安得廉頗將,三軍同晏眠?
安んぞ廉頗【れんぱ】将を得て、三軍同じく晏眠【あんみん】せん。
どうしたならば、むかしの廉頗のような名将を得ることができて、唐王朝軍の全軍が一緒に遅くまで眠っていることができるようになれるのであろうか
安得 希望をしめす語。○廉頗 廉頗(れんぱ、生没年不詳)は、中国戦国時代の趙の将軍。藺相如との関係が「刎頸の交わり」として有名。紀元前283年、将軍となり秦を討ち、昔陽を取る。紀元前282年、斉を討ち、陽晋(現在の山東省)を落とした。この功により上卿に任ぜられ、勇気のあることで諸侯の間で有名となる。〇三軍 古代中国、周の兵制で、一軍は一万二五〇〇人〕大国のもつ三万七五〇〇人の軍隊。また、大軍。 (2)陸軍・海軍・空軍の総称。 (3)軍勢の前鋒・中堅・後拒、または左翼・中軍・右翼。また、全軍。上中下の三軍、全軍の意。○晏眠 おそくまでねむる、安泰のさま。