佳人 <229-#2>杜甫詩kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1112 杜甫特集700- 335


佳人
絕代有佳人,幽居在空穀。
ここに絶えて世間にないほどの美人がいる、その人はだれもいないしずかな山合いの谷に侘び住いをしている。
自雲良家子,零落依草木。
彼女みずからの語る所によると、もとは相当の家柄のものの子なのだが、今はたよるべき人も無くて秋とともにおちちる山中の草木、近所の平民をたよりとしているのだ。
關中昔喪敗,兄弟遭殺戮。
数年前(756年のこと)、長安地方が王朝軍の大敗北により、喪乱のなかで兄弟たちは叛乱軍により殺戮されてしまったのだ。
官高何足論?不得收骨肉。』
兄弟たちの地位は高官であったが、そんなものは取り立てていうほどの値打ちのあるものではないのだ。彼らが殺されてしまっては親戚も引き取ってくれることはできはしないのである。』

#2
世情惡衰歇,萬事隨轉燭。
普通世間の人にたいする情というものは女盛りなら誰でも愛すものだが、歳を重ね衰えてしまった肢体顔色、後ろ盾がなく、頼る背のないものは嫌がられるものであり、わが身づくろいも万事はその場の成り行きのままになってきた。
夫婿輕薄兒,新人美如玉。
見栄えと親族兄弟の後ろ盾の無くなった自分に対し婿夫【むこ】はうわきもので、わかくて玉のような美人をあらたにむかえいれた。
合昏尚知時,鴛鴦不獨宿。
「ねむ」の花は、夕方になれば葉と葉がよりあう時刻を知っているものであり、おしどりのつがいは独りでは宿らず必ず並びあってねむる。(かつて私にそうであったように(新人に合歓の葉、おしどりのようにしている。)
但見新人笑,那聞舊人哭?』

ただ、新しい女のおもしろそうに笑うことはできているのはみとめられるが、彼らには元の妻が泣き悲しむ声などを聞く耳などありはしないのだ。(そのうち自分のみに帰ってくることだ)』

#3
在山泉水清,出山泉水濁。
侍婢賣珠回,牽蘿補茅屋。
摘花不插發,采柏動盈掬。
天寒翠袖薄,日暮倚修竹。』


佳人 #1
絶代【ぜつだい】佳人【かじん】あり、幽居【ゆうきょ】して空谷【くうこく】に在り。
自ら云う良家の子、零落【れいらく】草木に依る。
関中【かんちゅう】昔 喪乱【そうらん】、兄弟 殺戮【さつりく】に遭えり。
官高きも何ぞ論ずるに足らん、骨肉【こつにく】を収むるを得ず。』
#2
世情【せじょう】衰歇【すいけつ】を悪む、万事【ばんじ】転燭【てんしょく】に随う。
夫婿【ふせい】は軽薄の児、新人【しんじん】美なること玉の如し。
合昏【ごうこん】すら 尚お時を知る、鴛鴦【えんおう】独り宿せず。
但だ見る新人の笑うを、那【なん】ぞ聞かんや旧人の哭するを。』

#3
山に在れば泉水清し、山を出づれば泉水濁る。
侍婢【じひ】珠を売りて廻る、蘿を牽きて茅屋【ぼうおく】を補う。
花を摘むも髪に插まず、柏を采れば動【やや】もすれば掬【きく】に盈【み】つ。
天寒くして翠袖【すいしゅう】薄し、日暮れて修竹【しゅうちく】に倚る。』


現代語訳と訳註
(本文)
#2
世情惡衰歇,萬事隨轉燭。
夫婿輕薄兒,新人美如玉。
合昏尚知時,鴛鴦不獨宿。
但見新人笑,那聞舊人哭?』


(下し文) #2
世情【せじょう】衰歇【すいけつ】を悪む、万事【ばんじ】転燭【てんしょく】に随う。
夫婿【ふせい】は軽薄の児、新人【しんじん】美なること玉の如し。
合昏【ごうこん】すら 尚お時を知る、鴛鴦【えんおう】独り宿せず。
但だ見る新人の笑うを、那【なん】ぞ聞かんや旧人の哭するを。』


(現代語訳)
普通世間の人にたいする情というものは女盛りなら誰でも愛すものだが、歳を重ね衰えてしまった肢体顔色、後ろ盾がなく、頼る背のないものは嫌がられるものであり、わが身づくろいも万事はその場の成り行きのままになってきた。
見栄えと親族兄弟の後ろ盾の無くなった自分に対し婿夫【むこ】はうわきもので、わかくて玉のような美人をあらたにむかえいれた。
「ねむ」の花は、夕方になれば葉と葉がよりあう時刻を知っているものであり、おしどりのつがいは独りでは宿らず必ず並びあってねむる。(かつて私にそうであったように(新人に合歓の葉、おしどりのようにしている。)
ただ、新しい女のおもしろそうに笑うことはできているのはみとめられるが、彼らには元の妻が泣き悲しむ声などを聞く耳などありはしないのだ。(そのうち自分のみに帰ってくることだ)』


(訳注)
世情惡衰歇,萬事隨轉燭。
普通世間の人にたいする情というものは女盛りなら誰でも愛すものだが、歳を重ね衰えてしまった肢体顔色、後ろ盾がなく、頼る背のないものは嫌がられるものであり、わが身づくろいも万事はその場の成り行きのままになってきた。
世情 普通世間の人にたいする情というものは。○哀歇 色衰え芳歇むことをいう、肢体顔色の衰えることをいう。○随転燭 転燭とは燭の影、風に吹かれれば転揺して定まらないことをいう、世態の定まらぬたとえである、随とはそれにまかせそのとおりになること。


夫婿輕薄兒,新人美如玉。
見栄えと親族兄弟の後ろ盾の無くなった自分に対し婿夫【むこ】はうわきもので、わかくて玉のような美人をあらたにむかえいれた。
夫婿 おっと。○軽薄児 うわきもの。○新人 あらたに迎えいれた女。


合昏尚知時,鴛鴦不獨宿。
「ねむ」の花は、夕方になれば葉と葉がよりあう時刻を知っているものであり、おしどりのつがいは独りでは宿らず必ず並びあってねむる。(かつて私にそうであったように(新人に合歓の葉、おしどりのようにしている。)
合昏 合歓に同じ、ねむの花、ねむは夕方になるとその葉が左右相い合する。○尚知時 時とは夕方の時刻をいう、尚とは木すらなおの意。○鴛意 おしどり。


但見新人笑,那聞舊人哭?
ただ、新しい女のおもしろそうに笑うことはできているのはみとめられるが、彼らには元の妻が泣き悲しむ声などを聞く耳などありはしないのだ。(そのうち自分のみに帰ってくることだ)』
 よろこぶさま。○旧人 ふるくからいる人、即ち佳人。