佳人 <229-#3>杜甫詩kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1115 杜甫特集700- 336


佳人
絕代有佳人,幽居在空穀。
ここに絶えて世間にないほどの美人がいる、その人はだれもいないしずかな山合いの谷に侘び住いをしている。
自雲良家子,零落依草木。
彼女みずからの語る所によると、もとは相当の家柄のものの子なのだが、今はたよるべき人も無くて秋とともにおちちる山中の草木、近所の平民をたよりとしているのだ。
關中昔喪敗,兄弟遭殺戮。
数年前(756年のこと)、長安地方が王朝軍の大敗北により、喪乱のなかで兄弟たちは叛乱軍により殺戮されてしまったのだ。
官高何足論?不得收骨肉。』
兄弟たちの地位は高官であったが、そんなものは取り立てていうほどの値打ちのあるものではないのだ。彼らが殺されてしまっては親戚も引き取ってくれることはできはしないのである。』

#2
世情惡衰歇,萬事隨轉燭。
普通世間の人にたいする情というものは女盛りなら誰でも愛すものだが、歳を重ね衰えてしまった肢体顔色、後ろ盾がなく、頼る背のないものは嫌がられるものであり、わが身づくろいも万事はその場の成り行きのままになってきた。
夫婿輕薄兒,新人美如玉。
見栄えと親族兄弟の後ろ盾の無くなった自分に対し婿夫【むこ】はうわきもので、わかくて玉のような美人をあらたにむかえいれた。
合昏尚知時,鴛鴦不獨宿。
「ねむ」の花は、夕方になれば葉と葉がよりあう時刻を知っているものであり、おしどりのつがいは独りでは宿らず必ず並びあってねむる。(かつて私にそうであったように(新人に合歓の葉、おしどりのようにしている。)
但見新人笑,那聞舊人哭?』

ただ、新しい女のおもしろそうに笑うことはできているのはみとめられるが、彼らには元の妻が泣き悲しむ声などを聞く耳などありはしないのだ。(そのうち自分のみに帰ってくることだ)』

#3
在山泉水清,出山泉水濁。
湧き出る泉も山に在るときは澄んでいるものだが、山を出れば濁るのだ。(この佳人の境遇の変化もまたこれに似ている。昨日の富貴は今の貧困と変わった。しかし、清らかさを守る為人目を避けて山の中で暮らしている。)
侍婢賣珠回,牽蘿補茅屋。
暮らしていくため、美人の彼女のお付の侍女は真珠を売って戻ってくる。家に目をやると茅葺きの屋根の破れはひめかつらの蔓を引っぱって補っている。
摘花不插發,采柏動盈掬。
花を摘み取るが、しかし、それを髪に挿すことはしない。それは食料に充てられるためで、やがて実を成した「かやの実」はともすると両手にいっぱいになるほど掬い取られるのだ。
天寒翠袖薄,日暮倚修竹。』
この寒空にこの美人の彼女は薄い翠の袖をつけている、日暮れになれば居寂しく背高い竹の傍に寄り添うようにたたずんでいるのである。(華やかだったありし日を思い浮かべているのだ)』


佳人 
#1

絶代【ぜつだい】佳人【かじん】あり、幽居【ゆうきょ】して空谷【くうこく】に在り。
自ら云う良家の子、零落【れいらく】草木に依る。
関中【かんちゅう】昔 喪乱【そうらん】、兄弟 殺戮【さつりく】に遭えり。
官高きも何ぞ論ずるに足らん、骨肉【こつにく】を収むるを得ず。』
#2
世情【せじょう】衰歇【すいけつ】を悪む、万事【ばんじ】転燭【てんしょく】に随う。
夫婿【ふせい】は軽薄の児、新人【しんじん】美なること玉の如し。
合昏【ごうこん】すら 尚お時を知る、鴛鴦【えんおう】独り宿せず。
但だ見る新人の笑うを、那【なん】ぞ聞かんや旧人の哭するを。』
#3
山に在れば泉水清し、山を出づれば泉水濁る。
侍婢【じひ】珠を売りて廻る、蘿を牽きて茅屋【ぼうおく】を補う。
花を摘むも髪に插まず、柏を采れば動【やや】もすれば掬【きく】に盈【み】つ。
天寒くして翠袖【すいしゅう】薄し、日暮れて修竹【しゅうちく】に倚る。』



現代語訳と訳註
(本文)
#3
在山泉水清,出山泉水濁。
侍婢賣珠回,牽蘿補茅屋。
摘花不插發,采柏動盈掬。
天寒翠袖薄,日暮倚修竹。』


(下し文) #3
山に在れば泉水清し、山を出づれば泉水濁る。
侍婢【じひ】珠を売りて廻る、蘿を牽きて茅屋【ぼうおく】を補う。
花を摘むも髪に插まず、柏を采れば動【やや】もすれば掬【きく】に盈【み】つ。
天寒くして翠袖【すいしゅう】薄し、日暮れて修竹【しゅうちく】に倚る。』


(現代語訳)
湧き出る泉も山に在るときは澄んでいるものだが、山を出れば濁るのだ。(この佳人の境遇の変化もまたこれに似ている。昨日の富貴は今の貧困と変わった。しかし、清らかさを守る為人目を避けて山の中で暮らしている。)
暮らしていくため、美人の彼女のお付の侍女は真珠を売って戻ってくる。家に目をやると茅葺きの屋根の破れはひめかつらの蔓を引っぱって補っている。
花を摘み取るが、しかし、それを髪に挿すことはしない。それは食料に充てられるためで、やがて実を成した「かやの実」はともすると両手にいっぱいになるほど掬い取られるのだ。
この寒空にこの美人の彼女は薄い翠の袖をつけている、日暮れになれば居寂しく背高い竹の傍に寄り添うようにたたずんでいるのである。(華やかだったありし日を思い浮かべているのだ)』


(訳注)
在山泉水清,出山泉水濁。

山に在れば泉水清し、山を出づれば泉水濁る。
湧き出る泉も山に在るときは澄んでいるものだが、山を出れば濁るのだ。(この佳人の境遇の変化もまたこれに似ている。昨日の富貴は今の貧困と変わった。しかし、清らかさを守る為人目を避けて山の中で暮らしている。)
在山泉水清,出山泉水濁。 境遇の変化をたとえたもの。いろんな意味に解釈できる。①佳人のなお富貴であったときが泉清にあたり、今貧困に居ることが泉濁にあたる。②在山二句は天寒二句にかかっており、貞操を保つ意味がないと合致しない。もとより、杜甫は、佳人に朝廷の不甲斐なさをかけている。③安史の乱の前の十数年、乱の要因を作りつつ、一方で唐期最大の繁栄を誇っていた。乱以降、破れ屋根に膏薬張りのような対応を繰り返し、あまた優秀な人材を死なせたり、遠ざけたり、左遷させた。この詩の新人とは、この時期以降飛躍的にその勢力を拡大伸長した宦官を意味していると考えることもできる。④叛乱軍・安史軍から恥辱を受けること避ける。
「終南別業」
(入山寄城中故人)王維
中歳頗好道、晩家南山陲。
興来毎独往、勝事空自知。
行到水窮処、坐看雲起時。
偶然値林叟、談笑無還期。


侍婢賣珠回,牽蘿補茅屋。
侍婢【じひ】珠を売りて廻る、蘿を牽きて茅屋【ぼうおく】を補う。
暮らしていくため、美人の彼女のお付の侍女は真珠を売って戻ってくる。家に目をやると茅葺きの屋根の破れはひめかつらの蔓を引っぱって補っている。
侍脾 こしもと。○売珠回 佳人の所有の真珠をうってもどる、生活のたしまえにするのである。○牽蘿 ひめかつらをひっぱって。○ 屋根の破れ目を足し繕う。


摘花不插發,采柏動盈掬。
花を摘むも髪に插まず、柏を采れば動【やや】もすれば掬【きく】に盈【み】つ。
花を摘み取るが、しかし、それを髪に挿すことはしない。それは食料に充てられるためで、やがて実を成した「かやの実」はともすると両手にいっぱいになるほど掬い取られるのだ。
摘花 花は実物である。○不挿髪 粧飾を念としないこと。○采柏 かやの実をとる、食料にあてるのである。○ ひとすくい。
 

天寒翠袖薄,日暮倚修竹。
天寒くして翠袖【すいしゅう】薄し、日暮れて修竹【しゅうちく】に倚る。』
この寒空にこの美人の彼女は薄い翠の袖をつけている、日暮れになれば居寂しく背高い竹の傍に寄り添うようにたたずんでいるのである。(華やかだったありし日を思い浮かべているのだ)』
翠袖 翠色のそで。〇倚修竹 若たけののびた竹によりそう、さびしい様子をうつす。修竹はしなやかである。薄絹と共に秀麗さ、艶めかしさを感じさせる。