夢李白二首 其二 <231-#2>杜甫詩kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1127 杜甫特集700- 340


(李白を夢む その二)
華州から秦州への旅の途中、杜甫は李白の夢を三晩もつづけて李白の夢を見た。それで、李白は死んでしまって魂魄が飛んできて夢に現われたのではないかと疑ったのだ。夢の中で李白は「もう帰る」といいながら落ち着きがなく、「来たること易からず 江湖 風波多し 舟楫 恐らくは失墜せん」と不吉なことを言うのである。
 夢の中の李白に、いつもの傲然としたところがなく、しょぼい白髪頭を掻いている。「まさかとは思うが、あなたほどの人が老境になって罰せられ、死後に名を残すようなことになるのだろうか」と、杜甫は李白の死を心配している。
759年乾元二年7月48歳秦州に向かう道中で書いたもの。


其二
浮雲終日行、遊子久不至。  
空に浮かんでいる雲は一日中動き飛び去って戻らないが、その雲と同じようにわたしがはるかに思う旅人(李白)もなかなかこちらへやってこない。
三夜頻夢君、情親見君意。
ところが近ごろ、三晩続いてしきりと君を夢にみたのだ。それで君の思いがわたしに伝わっていかに親しもうとする意をもっているかが見られるというものだ。」
告歸常局促、苦道來不易。
夢で遭う度にいつも君は「もうかえる」と告げてのびのびしない様子なのだ、それは李白が苦々しく云うにはここへやってくるのは容易ではなかったということなのだ。
江湖多風波、舟楫恐失墜。』
「江南・江湖の地方は風波が多いから、舟や楫があるいはおとされ失われるのではないかと心配する」などというのである。
#2
出門搔白首、若負平生志。
夢の中で君が我が家の門から出て白髪頭をかいているのであるが、それを見ると君が平生から思っている志を為しとげられず、それに負けたとかんがえているかのようである。
冠蓋滿京華、斯人獨憔悴。
都には冠蓋をつけた富貴の人々がたくさんいるのだが、この李白のような男だけが一人やつれて浮ばずにいるのである。
孰云網恢恢、將老身反累。
古人が言う、天の網はひろくて大きく、網目も小さいというが、その天の網で李白を掬ってくれ、そうしてくれれば老人の身にとって禍を避けるということになるから。
千秋萬歲名、寂寞身後事。』
(あれだけの大詩人であって)永遠不朽の名などいうものは生きている時には望んでいるのではない、ただそれは寂寞たる死後、いわれる事である。(今は天が救ってくれ。)』


(李白を夢む その二)
浮雲 終日行く、遊子 久しく至らず。
三夜 頻【しき】りに君を夢む、情 親しみ君が意を見る。
歸るを告げて常に局促【きょくそく】たり、苦【ねんごろ】に道【い】う 來るは易からず。
江湖【こうこ】風波多く、舟楫【しゅうしゅう】失墜せんことを恐ると。』
#2
門を出(い)でて白首【はくしゅ】を掻く、平生【へいぜい】の志に負【そむ】くが若【ごと】し。
冠蓋【かんがい】京華【けいか】に満つ、斯【こ】の人 独り  顦顇【しょうすい】す。
孰【たれ】か云う 網【あみ】恢恢【かいかい】たりと、将【まさ】に老いんとして身【み】)反【かえ)って累【つみ】()せらる。
千秋【せんしゅう】 万歳【ばんざい】の名は、寂寞【せきばく】たる身後【しんご】の事。』


現代語訳と訳註
(本文)
#2
出門搔白首、若負平生志。
冠蓋滿京華、斯人獨憔悴。
孰云網恢恢、將老身反累。
千秋萬歲名、寂寞身後事。』


(下し文) #2
門を出(い)でて白首【はくしゅ】を掻く、平生【へいぜい】の志に負【そむ】くが若【ごと】し。
冠蓋【かんがい】京華【けいか】に満つ、斯【こ】の人 独り  顦顇【しょうすい】す。
孰【たれ】か云う 網【あみ】恢恢【かいかい】たりと、将【まさ】に老いんとして身【み】)反【かえ)って累【つみ】()せらる。
千秋【せんしゅう】 万歳【ばんざい】の名は、寂寞【せきばく】たる身後【しんご】の事。』


(現代語訳)
夢の中で君が我が家の門から出て白髪頭をかいているのであるが、それを見ると君が平生から思っている志を為しとげられず、それに負けたとかんがえているかのようである。
都には冠蓋をつけた富貴の人々がたくさんいるのだが、この李白のような男だけが一人やつれて浮ばずにいるのである。
古人が言う、天の網はひろくて大きく、網目も小さいというが、その天の網で李白を掬ってくれ、そうしてくれれば老人の身にとって禍を避けるということになるから。
(あれだけの大詩人であって)永遠不朽の名などいうものは生きている時には望んでいるのではない、ただそれは寂寞たる死後、いわれる事である。(今は天が救ってくれ。)』


(訳注)
出門搔白首、若負平生志。
夢の中で君が我が家の門から出て白髪頭をかいているのであるが、それを見ると君が平生から思っている志を為しとげられず、それに負けたとかんがえているかのようである。
出門二句 上旬は李白のさま、下旬は作者がそれをながめてくだした語、出門・掻首は共に李白がする動作。○平生志 李白の平生の志。


冠蓋滿京華、斯人獨憔悴。
都には冠蓋をつけた富貴の人々がたくさんいるのだが、この李白のような男だけが一人やつれて浮ばずにいるのである。
○冠蓋 かんむり、車のおおい。高官が用いたものなので貴族の人をさす。○京華 都のはなやかな地、都をさす。○斯入 日をさす。○憔悴 やつれる。


孰云網恢恢、將老身反累。
古人が言う、天の網はひろくて大きく、網目も小さいというが、その天の網で李白を掬ってくれ、そうしてくれれば老人の身にとって禍を避けるということになるから。
網恢恢 『老子、七十三章』「天網恢恢、疎而不失」(天網恢恢、疎にして漏らさず」、恢恢は大なるさま、天網は目があらいようだが、悪人を漏らさず捕らえる。天道は厳正で悪事をはたらいた者には必ずその報いがある。ここの詩の網は好運のあみをいぅ。○老 李白が老いること。○ 李白の身。○ 煩いをうける。


千秋萬歲名、寂寞身後事。」
(あれだけの大詩人であって)永遠不朽の名などいうものは生きている時には望んでいるのではない、ただそれは寂寞たる死後、いわれる事である。(今は天が救ってくれ。)』
千秋万歳名 永遠不朽の名。○寂寞 孤独でいることのさびしいさま。


(李白を夢む その二)
浮雲 終日行く、遊子 久しく至らず。
三夜 頻【しき】りに君を夢む、情 親しみ君が意を見る。
歸るを告げて常に局促【きょくそく】たり、苦【ねんごろ】に道【い】う 來るは易からず。
江湖【こうこ】風波多く、舟楫【しゅうしゅう】失墜せんことを恐ると。」
門を出(い)でて白首【はくしゅ】を掻く、平生【へいぜい】の志に負【そむ】くが若【ごと】し。
冠蓋【かんがい】京華【けいか】に満つ、斯【こ】の人 独り  顦顇【しょうすい】す。
孰【たれ】か云う 網【あみ】恢恢【かいかい】たりと、将【まさ】に老いんとして身【み】)反【かえ)って累【つみ】()せらる。
千秋【せんしゅう】 万歳【ばんざい】の名は、寂寞【せきばく】たる身後【しんご】の事。


浮雲は終日流れてくるのに、あなたとはなかなか会えない、三夜にかけてあなたの夢を見ました、そのなかであなたの暖かい志に接することが出来ました
でもあなたは急いで帰らねばならぬという、またここへやってくるのは大変だったともいった、途中江湖には風波が立って、船が沈没しそうになったと


 李白は13年前、長安を追われた自分を逐客と称していた。杜甫は李白の夢を見て、自分の憶いが李白に通じたと喜ぶのだが、夢の中の李白の様子がいつもと違っている。

 杜甫は李白が永王の軍に参加して捕らわれ、獄舎に入れられ、資材の可能性があるとは聞いていた。李白の魂魄が夢の中に現われたのである。それを考え眠れずにいて、落ちた月の光に照らされた梁の光が反射したように、李白の顔が蒼白かった。それで、李白が不運な目に会って命を落とすのではないかと杜甫は心配でならなかったのだ。

 杜甫は三晩もつづけて李白の夢を見た。李白は死んでしまって魂魄が飛んできて夢に現われたのではないかと疑った。もう帰るといいながら落ち着きがなく、「来たること易からず 江湖 風波多し 舟楫 恐らくは失墜せん」と不吉なことを言うのである。

 夢の中の李白には、いつもの謫仙人の傲然としたところがないのである。しょぼしょぼと白髪頭を掻いているのだ。まさかとは思うが、あれほどの人が老境になって罰せられ、死後に名を残すようなことになるのだろうかと、杜甫は李白の死を心配した。杜甫は暗く愁いに満ちた気持ちを胸に、秦州への旅をつづけたのだ。