遣興五首其三 杜甫 <248>遣興22首の⑰番 kanbuniinkai 紀頌之の漢詩ブログ1193 杜甫特集700- 362

(寵愛され出世した者がそれ故に身を滅ぼすことを、京兆尹であった蕭炅を例に挙げ粛宗批判を詠じている。)


其一(寒さの時になって富家のさまを見て自己の貧窮をのべた詩である。) 

朔風飄胡雁,慘澹帶砂礫。
冬を呼ぶ北風が北方異民族の地の「雁」を招き空に翻している、その「風」と「雁」は薄暗くものがなしい思いにさせるだけでなく、砂と小石混じりのすさまじい風をおびて吹き荒ぶのである。
長林何蕭蕭,秋草萋更碧。
背の高い木の林は木々を抜ける風がびゅうびゅうとなんとさびしく吹きわたる。秋の草は茂りながらいまだに碧を濃くしている。
北裡富燻天,高樓夜吹笛。
此の時、北里では富豪の家の勢焔は天をもくすぶらせるほどの勢いなのだ、そしてその富豪の高殿で夜を徹して笛を吹き宴をしているのだ。
焉知南鄰客,九月猶絺綌。
これに反して南に隣接の住民も、旅人であるわたしもどうしてこれを知らないはずがないのだ、その一方で、もうすぐ冬だという九月であるのにいまだに葛の単衣の着物で過ごしている者たちがいるのである。

朔風胡雁を諷す、惨澹として砂磯を帯ぶ。
長林何ぞ粛粛たる、秋草妻として更に碧なり。
北里富天を煮ず、高楼夜笛を吹く。
焉んぞ知らん南隣の客、九月に猶お絺綌なるを。


其二   (長安の貴公子達が猟に興じるさまを詠じた作品であり、幸せな充足した日々を過ごす貴公子達の姿が描かれている。)  
長陵銳頭兒,出獵待明發。
長陵にはとがった頭の貴公子がいる。狩猟に出かけると夜通しかけ、そこで夜明けを待つのだ。
騂弓金爪鏑,白馬蹴微雪。
あか馬に乗り、黄金で飾りつけたかぶらの矢で弓を引き、白馬にまたがって僅かに積もった雪を蹴散らして走り去る。
未知所馳逐,但見暮光滅。
所構わず「競い馬」をするかとおもえば、夕日が沈んでゆくのを眺めている。
歸來懸兩狼,門戶有旌節。
帰って来れば二匹のオオカミに襲われたようなものだ、その貴公子の邸宅の門には権勢をあらわす天子から賜った門閥の季節を祝う旗が掲げられている。

長陵【ちょうりょう】鋭頭【えいとう】の児、猟に出でて明発【めいはつ】を待つ。
験弓【せいきゅう】金爪【きんそう】の鏑、白馬 微雪を蹴る。
未だ馳逐【ちちく】する所を知らず、但だ暮光【ぼこう】の滅するを見る。
帰り来りて両狼【りょうろう】を懸く、門戸に旌節【せいせつ】有り。


其三   
(寵愛され出世した者がそれ故に身を滅ぼすことを、京兆尹であった蕭炅を例に挙げ粛宗批判を詠じている。) 漆有用而割,膏以明自煎;
漆はつなぐ用途のために木から割き採られるし、膏は燃やせば火で明るくなるけれど自らを煎じてしまう。(接着するのに剥がし、燃えて明るくするが自分を煮煎じている、あべこべの政治を揶揄している。)
蘭摧白露下,桂折秋風前。
蘭の香花も白露の下でその露に携えて持って行かれ、桂枝のかぐわしき香気も秋風の前に漂っていた香気は飛ばされやがては折れてしまう。
府中羅舊尹,沙道故依然。
宰相の府中には天子に寵愛された歴代京兆尹たちがならんでいるものであり、玄宗の時代から粛宗の時代になってもその宰相のとおる沙をしいた道路はもとどおりに存在している。
赫赫蕭京兆,今為人所憐。
さてかつて玄宗、李林甫の時代あれほど、権威赫赫として時めいて居た京兆尹粛炅は今は没落してしまい世間のものに気の毒がられているのである。(【首聯】の漆膏蘭桂のひゆは「蕭京兆」のことを言うためにある。賄賂・頽廃政治の典型としてあげたもの。) 
漆に用有りて割かれ、膏は明を以て自ら煎る。
蘭は摧く 白露の下、桂は祈る 秋風の前。
府中 旧尹羅なり、沙道 尚ほ依然たり。
赫赫たる蕭京兆、今時の憐む所と為る。

其四    ⑱
猛虎憑其威,往往遭急縛。雷吼徒咆哮,枝撐已在腳。
忽看皮寢處,無複睛閃爍。人有甚於斯,足以勸元惡。

其五    ⑲
朝逢富家葬,前後皆輝光。共指親戚大,緦麻百夫行。
送者各有死,不須羨其強。君看束縛去,亦得歸山岡。


現代語訳と訳註
(本文)其三
漆有用而割,膏以明自煎;蘭摧白露下,桂折秋風前。
府中羅舊尹,沙道故依然。赫赫蕭京兆,今為人所憐。


(下し文)
漆に用有りて割かれ、膏は明を以て自ら煎る。
蘭は摧く 白露の下、桂は祈る 秋風の前。
府中 旧尹羅なり、沙道 尚ほ依然たり。
赫赫たる蕭京兆、今時の憐む所と為る。


(現代語訳)
漆はつなぐ用途のために木から割き採られるし、膏は燃やせば火で明るくなるけれど自らを煎じてしまう。(接着するのに剥がし、燃えて明るくするが自分を煮煎じている、あべこべの政治を揶揄している。)
蘭の香花も白露の下でその露に携えて持って行かれ、桂枝のかぐわしき香気も秋風の前に漂っていた香気は飛ばされやがては折れてしまう。
宰相の府中には天子に寵愛された歴代京兆尹たちがならんでいるものであり、玄宗の時代から粛宗の時代になってもその宰相のとおる沙をしいた道路はもとどおりに存在している。
さてかつて玄宗、李林甫の時代あれほど、権威赫赫として時めいて居た京兆尹粛炅は今は没落してしまい世間のものに気の毒がられているのである。(【首聯】の漆膏蘭桂のひゆは「蕭京兆」のことを言うためにある。賄賂・頽廃政治の典型としてあげたもの。) 


(訳注)
漆有用而割,膏以明自煎;

漆はつなぐ用途のために木から割き採られるし、膏は燃やせば火で明るくなるけれど自らを煎じてしまう。(接着するのに剥がし、燃えて明るくするが自分を煮煎じている、あべこべの政治を揶揄している。)
漆有用而割,膏以明自煎 『荘子、人間世』に基づく。功用あるものは、その功用あることが身に禍してそこなわれるにいたることをいう。
「山木自寇也、膏火自煎也、桂可食故伐之、漆可用故割之、人皆知有用之用、而莫知无用之用也。山の木は自らに寇(あだ)なし、膏火(灯火)は自ら煎(に)ている。桂は食べられるが故に伐(き)られ、漆は役にたつが故に割(さ)かれる。人は皆、”有用之用”は知っているが、”无用之用”は知らない。この聯の意味をこれ以降の聯句で比喩している。
 ウルシ科のウルシノキ(漆の木;Poison oak)やブラックツリーから採取した樹液を加工した、ウルシオールを主成分とする天然樹脂塗料である。塗料とし、漆工などに利用されるほか、接着剤としても利用される。・ 1 動物のあぶら。「膏血・膏油」 2 うまい食物。「膏梁(こうりょう)」 3 心臓の下の部分。「膏肓(こうこう)」 4 半練り状の薬。「膏薬/軟膏・絆創膏(ばんそうこう)」5 うるおす。めぐむ。「膏雨」6 地味が肥える。「膏沃(こうよく)」


蘭摧白露下,桂折秋風前。
蘭の香花も白露の下でその露に携えて持って行かれ、桂枝のかぐわしき香気も秋風の前に漂っていた香気は飛ばされやがては折れてしまう。
蘭、桂 蘭の花、桂の花はかんばしいが、風露にあうとかかる香のある草木もそこなわれる。


府中羅舊尹,沙道故依然。
宰相の府中には天子に寵愛された歴代京兆尹たちがならんでいるものであり、玄宗の時代から粛宗の時代になってもその宰相のとおる沙をしいた道路はもとどおりに存在している。
府中 府は幕府組織、宰相の役所をいう。○羅 多くならぶこと。○旧尹 尹は京兆尹、都長安の市長、長官のこと、旧尹とは元京兆尹ということ、以前この尹をつとめた人たちをいう、唐の宰相は自分の親しい者を京兆尹に任命した。○沙道 砂を敷いた道路、宰相がとおるときには砂を敷くのでこのようにいう。○依然 もとどおりに。○桂折秋風前 玄宗皇帝と楊貴妃のことを言う。梧桐を追い出された鳳凰夫婦のこと。

赫赫蕭京兆,今為人所憐。
さてかつて玄宗、李林甫の時代あれほど、権威赫赫として時めいて居た京兆尹粛炅は今は没落してしまい世間のものに気の毒がられているのである。(【首聯】の漆膏蘭桂のひゆは「蕭京兆」のことを言うためにある。賄賂・頽廃政治の典型としてあげたもの。) 
赫赫 威権のかがやくさま。○粛京兆 京兆尹粛炅(ケイ)。炅は宰相李林甫にとりいって京兆尹にとりたでられたが賄賂をうけたかどによって天宝八載に汝陰の太守に遷された。○ この詩を作った今の世をさす。〇時所憐 時は当代をさす、憐れむとは気のどくがられる、上の官を遷されたことをいう。
杜甫が、官を辞したのも粛宗による偏見と疎外政治を批判できるようになったということである。