佐還山後寄三首 其三 杜甫 <277> kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1280 杜甫詩 700- 391


其一
山晚黃雲合,歸時恐路迷。
東柯谷の山中の黄昏時に夕方の黄色の雲、山々の黄色に色づく葉が重なり合っている。帰る時刻には道に迷うかもしれないと心配する。
澗寒人欲到,林黑鳥應棲。
谷川の冷え込みの寒さは人間の欲を諦めさせている、山中木々の林は暗くなり鳥たちは巣についている。
野客茅茨小,田家樹木低。
隠棲しようとするこの野にある旅人のわたしは茅や茨で葺いた小さなところにいるし、ここで百姓している人たちは樹木にかこまれてそれより低い所にすんでいる。
舊諳疏懶叔,須汝故相攜。

嵇康が無精であったようにこの私もこんなに無精であったことを知ったのである。杜佐よ、君にお願いしたい。ぜひとも君と一緒に隠遁させてもらいたいということを。
山晚【さんばん】黃雲【こううん】合し,歸る時として 路迷【まよ】わんことを恐る。
澗【かん】寒くして人欲到り,林黑くして鳥應に棲す。
野客【やかく】は茅茨【ぼうじ】の小なり,田家【でんか】は樹木の低にある。
舊【もと】より疏懶【そらん】の叔【われ】を諳【し】る,汝に須【もと】むるは故【ことさら】に相い攜うるを

其二
白露黃粱熟,分張素有期。
秋の白露の季節である、おお粟が実っている。選り分けというのは初めから良い時期が決まってあるものだ。
已應舂得細,頗覺寄來遲。
その時期はすでに来ており、臼でついて細やかな粉にしたいとおもっている。
味豈同金菊,香宜配綠葵。
このものの味はできることなら金の菊酒と同じであってほしいし、香りはというと緑の葵のさわやかな香をいただきたいものである。
老人他日愛,正想滑流匙。
この老人にとっていつか愛されることもあるであろうし、まさに滑りそうな岩場で匙により水を掬うようなものであるということであろうか。
白露【はくろ】に黃粱【こうりょう】熟【じゅく】し,分張【ぶんちょう】素より期に有り。
已【すで】に應に舂【つ】いて細【さい】するを得んや,頗【すこ】ぶる寄り來ること遲きを覺ゆ。
味は豈に金菊と同じくならんや,香は宜しく綠葵【ろくき】を配【はい】せん。
老人 他日の愛,正に想う 滑りて匙【し】に流るを。


其三
幾道泉澆圃,交橫幔落坡。
何通りかの道があり、自然水が豊かで灌漑が行き渡っていて田畑に水がいきわたっている。そして棚田は川と交わるように横に広がり段々に落ちていくその土手は幔幕を張ったようである。
葳蕤秋葉少,隱映野雲多。
草木が盛んで美しいほどの此処の自然も秋も深まり木々はほとんど落葉している。そのため日差しも直接照らされたり、雲の移ろいによって影響を受けて影を写したりする。
隔沼連香芰,通林帶女蘿。
この地から隔てて沼地が菱の香りで連なっているようだ、林を通りぬけていくとひめかずらが帯状に這っている。
甚聞霜薤白,重惠意如何。
ここの農産物でしばしば聞くのは霜のように白いラッキョウのことである、重ね重ねの所望であるがいかがなものだろうか。
幾道か 泉は圃【はたけ】に澆【そそ】ぎ、交横に 幔【まく】のごとき坡【どて】に落つ。
葳蕤(イズイ)として 秋の葉少なく、隠れあるいは映りて 野の雲多し。
と詠じる。
沼を隔てて 香れる芰(ひし)に連なり、林に通じて 女蘿(さるおがせ)を帯ぶ。
甚(まこと)に聞く 霜おく薤(らっきょう)は白きと、重ねてわれに恵めよ きみが意は如何。


現代語訳と訳註
(本文) 其三
幾道泉澆圃,交橫幔落坡。
葳蕤秋葉少,隱映野雲多。
隔沼連香芰,通林帶女蘿。
甚聞霜薤白,重惠意如何。


(下し文)
幾道か 泉は圃【はたけ】に澆【そそ】ぎ、交横に 幔【まく】のごとき坡【どて】に落つ。
葳蕤(イズイ)として 秋の葉少なく、隠れあるいは映りて 野の雲多し。
と詠じる。
沼を隔てて 香れる芰(ひし)に連なり、林に通じて 女蘿(さるおがせ)を帯ぶ。
甚(まこと)に聞く 霜おく薤(らっきょう)は白きと、重ねてわれに恵めよ きみが意は如何。


(現代語訳)
何通りかの道があり、自然水が豊かで灌漑が行き渡っていて田畑に水がいきわたっている。そして棚田は川と交わるように横に広がり段々に落ちていくその土手は幔幕を張ったようである。
草木が盛んで美しいほどの此処の自然も秋も深まり木々はほとんど落葉している。そのため日差しも直接照らされたり、雲の移ろいによって影響を受けて影を写したりする。
この地から隔てて沼地が菱の香りで連なっているようだ、林を通りぬけていくとひめかずらが帯状に這っている。
ここの農産物でしばしば聞くのは霜のように白いラッキョウのことである、重ね重ねの所望であるがいかがなものだろうか。


(訳注)
幾道泉澆圃,交橫幔落坡。

何通りかの道があり、自然水が豊かで灌漑が行き渡っていて田畑に水がいきわたっている。そして棚田は川と交わるように横に広がり段々に落ちていくその土手は幔幕を張ったようである。
 ・ 注ぐ。水をかける。川から水を引く。・圃【ほ】[漢字項目]とは。意味や解説。[人名用漢字][音]ホ(漢)囲いをした畑。菜園。「圃場/園圃・花圃・田圃(でんぽ)・農圃・薬圃」[難読]田圃(たんぼ)。 ・交橫幔落坡 自然水が豊かで灌漑が行き渡っていることを言う。杜佐のいる東柯谷は谷間に開けた農園だったに違いない。段々畑あるいは棚田。棚田の段差が大きいとその高くなった土手がちょうど幕を横に張ったように見える。山間の湧水が上の田に注ぎ込み、さらにあちこちから下の田へとさかんにこぼれ落ちている。


葳蕤秋葉少,隱映野雲多。
草木が盛んで美しいほどの此処の自然も秋も深まり木々はほとんど落葉している。そのため日差しも直接照らされたり、雲の移ろいによって影響を受けて影を写したりする。
葳蕤【いずい】草木が盛んで美しいさま。『楚辞』「草木茂盛,枝葉下垂的樣子. 上葳蕤而防露兮。」・蕤 花の垂れさがるさま。冠などの垂れさがる飾り。農園の回りの山谷の様子を思い浮かべる。秋も盛りを過ぎて木々はほとんど落葉し、ために林内も空の雲の移ろいの影響を受け、かげったり明るくなったりする。もちろん農園の作物も、あたかもそれにつれて隠映するがごとくである。
 杜甫『示侄佐』では「田を潤した水がまがきを突き破るかのごとく、小さな滝のように懸かって流れ落ちる」といっている。
多病秋風落,君來慰眼前。
自聞茅屋趣,只想竹林眠。
滿穀山雲起,侵籬澗水懸。
嗣宗諸子侄,早覺仲容賢。


隔沼連香芰,通林帶女蘿。
この地から隔てて沼地が菱の香りで連なっているようだ、林を通りぬけていくとひめかずらが帯状に這っている。
・隣接する池や林に言及し、杜佐の農園はその近辺にも豊穣な雰囲気があふれていることをいう。


甚聞霜薤白,重惠意如何。
ここの農産物でしばしば聞くのは霜のように白いラッキョウのことである、重ね重ねの所望であるがいかがなものだろうか。
霜薤白 良くできた白らっきょう。杜佐の農園で今しも白ラッキョウが成熟しつつあることを述べている。


重ねて恵めと言っているのは、連作詩『佐還山後寄三首』其の二でオオアワ(黄粱)をもらっているからである。杜甫はもらうためにこの詩を書いたのではなくて、貰ったお礼に書いている。杜甫は10人を超す大所帯でこの地を訪れている。この詩には、棚田の模様から始まっているが食べ物に絡んだ詩である。山菜摘みに山に入って、落葉で地面が良く見えること、「葳蕤」という表現でほうふにあること、「菱」「蓮」「女蘿」「薤」と取り上げている。食料調達を野山の山菜摘みで賄うにしても頂き物は嬉しかったのである。