私の乗った舟はたかいは帆柱をたててすすむが、夜になってもただひとり寝れずにいる。星の光は垂れさがっており、平野はずっと広がっている、月の光が湧いていて大江はゆったり流れる。
765年永泰元年54歲-38 《旅夜書懷》 杜甫index-15 杜甫<838> 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ4925 杜甫詩1500-838-1156/2500765年永泰元年54歲-38
年:765年永泰元年54歲
卷別: 卷二二九 文體: 五言律詩
詩題: 旅夜書懷
杜甫は、舟は錦江を下り、岷江の本流に出る。その後、嘉州(四川省楽山市)に着き、従兄の家にしばらく滞在し、五月末には戎州(四川省宜賓市)に着く。
戎州では楊刺史の招宴を受け、そこから渝州(四川省重慶市)へ向かう。渝州では北から嘉陵江が合流し、長江は水量を増し急流になるも、三峡の手前忠州でs宜ばらく寺の宿坊でとまる。以下の詩は、この時期のものである。
◍ 宿青溪驛奉懷張員外十五兄之緒
◍ 赤霄行
◍ 哭嚴僕射歸櫬
◍ 宴戎州楊使君東樓
◍ 渝州候嚴六侍御不到先下峽
◍ 撥悶【贈嚴二別駕】
◍ 聞高常侍亡【自注:忠州作。】
◍ 宴忠州使君姪宅
◍ 禹廟〔此忠州臨江縣禹祠也。〕
◍ 題忠州龍興寺所居院壁
◍ 旅夜書懷
◍ 別常徵君
旅夜書懷
(旅の夜に舟がかりして、思いを書き記した。)
細草微風岸,危檣獨夜舟。
長江の岸にほそい草が生えている、そこに微風が吹いて来て細やかに揺れている。私の乗った舟はたかいは帆柱をたててすすむが、夜になってもただひとり寝れずにいる。
星垂平野闊,月涌大江流。
星の光は垂れさがっており、平野はずっと広がっている、月の光が湧いていて大江はゆったり流れる。
名豈文章著,官因老病休。
名声についてはどうして自分ごときの文章を著すことで生まれるというのか。官職から退いたのは、老いてきて、かつ、病んだ身では休むしかなかったのだ。
飄飄何所似,天地一沙鷗。
自分のただようている境遇はいかなるものに似ているかといえば、それは天地のあいだにおけるひとつの沙鴎のようなものだ。
(旅の夜 懷を書す)
細草 微風の岸,危檣 獨りの夜舟。
星 垂れて 平野闊く,月 涌きて 大江流る。
名 豈に文章に著われんや,官 因みに老病に休すべし。
飄飄 何の似たる所ぞ,天地 一沙鷗。
『旅夜書懷』 現代語訳と訳註
(本文)
旅夜書懷
細草微風岸,危檣獨夜舟。
星垂平野闊,月涌大江流。
名豈文章著,官因老病休。
飄飄何所似,天地一沙鷗。
(含異文)
細草微風岸,危檣獨夜舟。
星垂平野闊【星隨平野闊】,月涌大江流。
名豈文章著,官因老病休【官應老病休】。
飄飄何所似【飄零何所似】,天地一沙鷗【天外一沙鷗】。
(下し文)
(旅の夜 懷を書す)
細草 微風の岸,危檣 獨りの夜舟。
星 垂れて 平野闊く,月 涌きて 大江流る。
名 豈に文章に著われんや,官 因みに老病に休すべし。
飄飄 何の似たる所ぞ,天地 一沙鷗。
(現代語訳)
(旅の夜に舟がかりして、思いを書き記した。)
長江の岸にほそい草が生えている、そこに微風が吹いて来て細やかに揺れている。私の乗った舟はたかいは帆柱をたててすすむが、夜になってもただひとり寝れずにいる。
星の光は垂れさがっており、平野はずっと広がっている、月の光が湧いていて大江はゆったり流れる。
名声についてはどうして自分ごときの文章を著すことで生まれるというのか。官職から退いたのは、老いてきて、かつ、病んだ身では休むしかなかったのだ。
自分のただようている境遇はいかなるものに似ているかといえば、それは天地のあいだにおけるひとつの沙鴎のようなものだ。
(訳注)
旅夜書懷
(旅の夜に舟がかりして、思いを書き記した。)
永泰元年秋、忠州より下江した際の作。
細草微風岸 危檣獨夜舟
星垂平野闊 月涌大江流
名豈文章著 官因老病休
飄飄何所似 天地一沙鷗
●●○△● ○△●●○
○○○●● ●●●○○
○●○○△ ○○●●△
○○△●● ○●●△○
細草微風岸,危檣獨夜舟。
長江の岸にほそい草が生えている、そこに微風が吹いて来て細やかに揺れている。私の乗った舟はたかいは帆柱をたててすすむが、夜になってもただひとり寝れずにいる。
・細草:細い草。また、葦。
・微風:そよ風。かすかに吹く風。
・危檣:高い帆柱。 ・危:高い。
・獨:ただひとりで自分だけ起きている。
・夜舟:夜の小船。
星垂平野闊,月涌大江流。
星の光は垂れさがっており、平野はずっと広がっている、月の光が湧いていて大江はゆったり流れる。
・星垂:地の涯まで星空が見えるさま。
・闊:〔かつ〕(門内が)ひろい。(見わたして)幅広である。
・湧:わき出る。わきあがる。あふれる。盛んに出る。吐く。普通、月の動きは「出」「上」等と表現するが、「湧」とするのは作者が動的な表現を狙って、一連の「垂」「闊」「流」とともに「湧」を使った。
・大江:長江を謂う。
名豈文章著,官因老病休。
名声についてはどうして自分ごときの文章を著すことで生まれるというのか。官職から退いたのは、老いてきて、かつ、病んだ身では休むしかなかったのだ。
・名:名声。 ・豈:〔き〕どうして。あに。疑問・反語の助辞(字)。 ・文章:文学。 ・著:あらわす。
・官:官職。官位。杜甫の最終の官は節度参謀、検校工部員外郎。 ・應:当然…であろう。まさに…べし。 ・老病:〔ろうびゃう〕年をとって病身であること。 ・休:やむ。
飄飄何所似,天地一沙鷗。
自分のただようている境遇はいかなるものに似ているかといえば、それは天地のあいだにおけるひとつの沙鴎のようなものだ。
・飄飄:ひょうひょう 風に吹かれて軽く上がるさま。彷徨(さまよ)うさま。ひるがえるさま。風が物を翻すように吹くさま。
・何所似:何に似ているだろうか。 ・何所-:どこ。どんな。何。後に動詞を附けて、行為の目標または帰着するところを謂う。
・天地:天と地。あめつち。天壌。世の中。
・沙鴎:〔さおう〕砂浜にいるカモメ。