杜甫 見王監兵馬使說近山有白黑二鷹,羅者久取竟未能得,王以為毛骨有異他鷹,恐臘後春生鶱飛避暖勁翮思秋之甚,眇不可見,請余賦詩,二首之一
雪飛玉立盡清秋,不惜奇毛恣遠遊。在野只教心力破,千人何事網羅求。
一生自獵知無敵,百中爭能恥下韝。鵬礙九天須卻避,兔藏三穴莫深憂。
(某監であって現に兵馬使である王某君のいうことをきくと、近所の山に白鷹と黒鷹とが居て、羅網をかけて鳥を捕る者が長いあいだそれを取らうとしでいるがいまだに捕れぬという。王君の考では、その鷹は毛も骨も他の鷹とちがったところがある様だ、もし臘節がすぎ春になったら、鷹は飛びあがって暖気を避け、そのつよい翮をもってひどく秋の涼しさを蓋ふ結果としてはるか遠方へ去ってしまって見ることができぬであらう、と。それで自分にたのんでその鷹の詩をつくらせた。)二首之一
ここに一匹の白鷹がいる。それは静止していれば玉のごとく立ち、動くときは雪のごとく飛ぶが、すずしい秋がなくなればその非凡な毛羽を惜しむことなく勝手に遠方へ遊びにでかけてしまう。彼の鷹は、本來、山にあり天に飛ぶ性をもったものであるから原野に居れば心力を破壊するのみであり、他人関係に於いては他人から網羅で取って用いてもらいたい、とつとめる様なことはいらぬのである。彼の鷹は生涯自力で猟をなすもので、その点では何ものも敵するものがないことを自ら知っており、鷹使いの弓小手から舞い下って他鷹と百中の能を争うことは恥辱だとおもっている。この鷹にであうでは九天をさまたぐるほどの大きな巽をもった鵬鳥もわきへよけねばなるまいが、三つの窟屋を用意しておいてそこにかくれる様なちっぽけな兎などはこの鷹の眼中に無いからひどく心配するには及ばぬ。
766年-172杜甫 《1831 〔見王監兵馬使說請余賦詩二首之一〕》66 杜甫詩index-15-766年大暦元年55歲-172 <1048> 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ6920 杜甫詩1500-1048-1542/2500
年:766年大暦元年55歲-172
卷別: 卷二三一 文體: 七言律詩
詩題:〔見王監兵馬使說請余賦詩二首之一〕見王監兵馬使說近山有白黑二鷹,羅者久取竟未能得,王以為毛骨有異他鷹,恐臘後春生鶱飛避暖勁翮思秋之甚,眇不可見,請余賦詩,二首之一
【見王監兵馬使說近山有白黑二鷹,羅者久取竟未能得,王以為毛骨有異他鷹,恐臘後春生鶱飛避暖勁翮思秋之甚,眇不可見,請余賦二詩,二首之一】
作地點: 目前尚無資料
交遊人物/地點:王兵馬 當地交遊(山南東道 夔州 夔州)
〔見王監兵馬使說請余賦詩二首之一〕
見王監兵馬使說近山有白黑二鷹,羅者久取竟未能得,王以為毛骨有異他鷹,恐臘後春生鶱飛避暖勁翮思秋之甚,眇不可見,請余賦詩,二首之一
(某監であって現に兵馬使である王某君のいうことをきくと、近所の山に白鷹と黒鷹とが居て、羅網をかけて鳥を捕る者が長いあいだそれを取らうとしでいるがいまだに捕れぬという。王君の考では、その鷹は毛も骨も他の鷹とちがったところがある様だ、もし臘節がすぎ春になったら、鷹は飛びあがって暖気を避け、そのつよい翮をもってひどく秋の涼しさを蓋ふ結果としてはるか遠方へ去ってしまって見ることができぬであらう、と。それで自分にたのんでその鷹の詩をつくらせた。)二首之一
雪飛玉立盡清秋,不惜奇毛恣遠遊。
ここに一匹の白鷹がいる。それは静止していれば玉のごとく立ち、動くときは雪のごとく飛ぶが、すずしい秋がなくなればその非凡な毛羽を惜しむことなく勝手に遠方へ遊びにでかけてしまう。
在野只教心力破,千人何事網羅求。
彼の鷹は、本來、山にあり天に飛ぶ性をもったものであるから原野に居れば心力を破壊するのみであり、他人関係に於いては他人から網羅で取って用いてもらいたい、とつとめる様なことはいらぬのである。
一生自獵知無敵,百中爭能恥下韝。
彼の鷹は生涯自力で猟をなすもので、その点では何ものも敵するものがないことを自ら知っており、鷹使いの弓小手から舞い下って他鷹と百中の能を争うことは恥辱だとおもっている。
鵬礙九天須卻避,兔藏三穴莫深憂。
この鷹にであうでは九天をさまたぐるほどの大きな巽をもった鵬鳥もわきへよけねばなるまいが、三つの窟屋を用意しておいてそこにかくれる様なちっぽけな兎などはこの鷹の眼中に無いからひどく心配するには及ばぬ。
〔王監が兵馬使が說くを見る、余に請い詩を賦せしむ,二首の一〕
(王監が兵馬使が說くを見る 近山に白黑の二鷹有り,羅者 久しく取らんとするに竟に未だ得る能わず,王 以為【おもえ】らく 毛骨 他鷹に異る有り,恐らくは臘後 春生ぜば鶱飛して暖を避け 勁翮 秋を思う之れ甚しき,眇として見る可からず,余に請い詩を賦せしむ,二首の一)
雪飛 玉立して 清秋盡く,奇毛を惜まず 恣まに 遠遊す。
野に在り 只だ心力をして破れしむ,千人 何事ぞせん 網羅求めらるるを。
一生 自ら獵す 敵 無きを知り,百中 能を爭う 下韝を恥ず。
鵬 九天を礙【さまた】ぐ 須らく 卻避すべし,兔 三穴に藏す 深く憂うこと莫れ。
『〔見王監兵馬使說請余賦詩二首之一〕』 現代語訳と訳註解説
(本文)
〔見王監兵馬使說請余賦詩二首之一〕
見王監兵馬使說近山有白黑二鷹,羅者久取竟未能得,王以為毛骨有異他鷹,恐臘後春生鶱飛避暖勁翮思秋之甚,眇不可見,請余賦詩,二首之一
雪飛玉立盡清秋,不惜奇毛恣遠遊。
在野只教心力破,千人何事網羅求。
一生自獵知無敵,百中爭能恥下韝。
鵬礙九天須卻避,兔藏三穴莫深憂。
詩文(含異文):
【見王監兵馬使說近山有白黑二鷹,羅者久取竟未能得,王以為毛骨有異他鷹,恐臘後春生鶱飛避暖勁翮思秋之甚,眇不可見,請余賦二詩,二首之一】
雪飛玉立盡清秋【雲飛玉立盡清秋】,不惜奇毛恣遠遊。在野只教心力破【在野只教心膽破】,千人何事網羅求【干人何事網羅求】【于人何事網羅求】。一生自獵知無敵,百中爭能恥下韝。鵬礙九天須卻避,兔藏三穴莫深憂【兔藏三窟莫深憂】【兔經三穴莫深憂】【兔經三窟莫深憂】【兔營三穴莫深憂】【兔營三窟莫深憂】。
(下し文)
〔王監が兵馬使が說くを見る、余に請い詩を賦せしむ,二首の一〕
(王監が兵馬使が說くを見る 近山に白黑の二鷹有り,羅者 久しく取らんとするに竟に未だ得る能わず,王 以為【おもえ】らく 毛骨 他鷹に異る有り,恐らくは臘後 春生ぜば鶱飛して暖を避け 勁翮 秋を思う之れ甚しき,眇として見る可からず,余に請い詩を賦せしむ,二首の一)
雪飛 玉立して 清秋盡く,奇毛を惜まず 恣まに 遠遊す。
野に在り 只だ心力をして破れしむ,千人 何事ぞせん 網羅求めらるるを。
一生 自ら獵す 敵 無きを知り,百中 能を爭う 下韝を恥ず。
鵬 九天を礙【さまた】ぐ 須らく 卻避すべし,兔 三穴に藏す 深く憂うこと莫れ。
(現代語訳)
(某監であって現に兵馬使である王某君のいうことをきくと、近所の山に白鷹と黒鷹とが居て、羅網をかけて鳥を捕る者が長いあいだそれを取らうとしでいるがいまだに捕れぬという。王君の考では、その鷹は毛も骨も他の鷹とちがったところがある様だ、もし臘節がすぎ春になったら、鷹は飛びあがって暖気を避け、そのつよい翮をもってひどく秋の涼しさを蓋ふ結果としてはるか遠方へ去ってしまって見ることができぬであらう、と。それで自分にたのんでその鷹の詩をつくらせた。)二首之一
ここに一匹の白鷹がいる。それは静止していれば玉のごとく立ち、動くときは雪のごとく飛ぶが、すずしい秋がなくなればその非凡な毛羽を惜しむことなく勝手に遠方へ遊びにでかけてしまう。
彼の鷹は、本來、山にあり天に飛ぶ性をもったものであるから原野に居れば心力を破壊するのみであり、他人関係に於いては他人から網羅で取って用いてもらいたい、とつとめる様なことはいらぬのである。
彼の鷹は生涯自力で猟をなすもので、その点では何ものも敵するものがないことを自ら知っており、鷹使いの弓小手から舞い下って他鷹と百中の能を争うことは恥辱だとおもっている。
この鷹にであうでは九天をさまたぐるほどの大きな巽をもった鵬鳥もわきへよけねばなるまいが、三つの窟屋を用意しておいてそこにかくれる様なちっぽけな兎などはこの鷹の眼中に無いからひどく心配するには及ばぬ。
(訳注)
〔見王監兵馬使說請余賦詩二首之一〕 〔王監が兵馬使が說くを見る、余に請い詩を賦せしむ,二首の一〕
ここでは詩題が長いので便宜的に用いる。
見王監兵馬使說近山有白黑二鷹,羅者久取竟未能得,王以為毛骨有異他鷹,恐臘後春生鶱飛避暖勁翮思秋之甚,眇不可見,請余賦詩,二首之一
(王監が兵馬使が說くを見る 近山に白黑の二鷹有り,羅者 久しく取らんとするに竟に未だ得る能わず,王 以為【おもえ】らく 毛骨 他鷹に異る有り,恐らくは臘後 春生ぜば鶱飛して暖を避け 勁翮 秋を思う之れ甚しき,眇として見る可からず,余に請い詩を賦せしむ,二首の一)
(某監であって現に兵馬使である王某君のいうことをきくと、近所の山に白鷹と黒鷹とが居て、羅網をかけて鳥を捕る者が長いあいだそれを取らうとしでいるがいまだに捕れぬという。王君の考では、その鷹は毛も骨も他の鷹とちがったところがある様だ、もし臘節がすぎ春になったら、鷹は飛びあがって暖気を避け、そのつよい翮をもってひどく秋の涼しさを蓋ふ結果としてはるか遠方へ去ってしまって見ることができぬであらう、と。それで自分にたのんでその鷹の詩をつくらせた。)
この第一首は白鷹についてのべ、暗に自己を之に此したものである。大暦元年の作。
【1】
王監 唐制に監の字か附したる官名は甚だ多し。比に王監というに、何の監なるや詳ならず。嘗て某監なりしものであろう。此の人前の角鷹の詩の王某と同人ぶつであろう。見説は其の人のいうを説を聞くの意。
【2】
羅者 鳥をあみにて捕うるもの。
【3】
久取 長い間鳥をとっていることをいう。
【4】
眇 はるかなる貌。
雪飛玉立盡清秋,不惜奇毛恣遠遊。
ここに一匹の白鷹がいる。それは静止していれば玉のごとく立ち、動くときは雪のごとく飛ぶが、すずしい秋がなくなればその非凡な毛羽を惜しむことなく勝手に遠方へ遊びにでかけてしまう。
【5】
雪飛玉立 静止していれば玉のごとく立ち、動くときは雪のごとく飛ぶ。雪、玉は、鷹の羽毛の純白のたとえ、飛は動の状態を言い、立は静の状態を言う。
【6】
盡清秋 清秋の秋が終るときをいふ。
【7】
奇毛 尋常に非ざる毛。
在野只教心力破,千人何事網羅求。
彼の鷹は、本來、山にあり天に飛ぶ性をもったものであるから原野に居れば心力を破壊するのみであり、他人関係に於いては他人から網羅で取って用いてもらいたい、とつとめる様なことはいらぬのである。
【8】
在野只教心力破,千人何事網羅求 この鷹が冬の時期に原野にあるときのことをいう。
【9】
心力破 鷹の心力が敗れて、その能力を発揮できない、飛べば、その能力をいかんなく発揮する。
【10】 千人 千人の人。他人に於て。
【11】 何事それを目的とすることなし。
【12】 網羅求 他人から採用されることをねがい求める。換言すればだれでもいいから他人から採用されるるを願ふなり。
一生自獵知無敵,百中爭能恥下韝。
彼の鷹は生涯自力で猟をなすもので、その点では何ものも敵するものがないことを自ら知っており、鷹使いの弓小手から舞い下って他鷹と百中の能を争うことは恥辱だとおもっている。
【13】 自猟 他人の力によらす自力にて猟をすること。
【14】 百中爭能恥下韝 この句は「恥下韝而争百中之能。」(韝より下りて百中の能を争うを恥ず)と同じ。百中は「戦國策」楚の養由基が柳葉を去ること百甘歩にして之を射るに百発百中とあるに本づく。爭能とは技能の優劣を争うことをいう。下韝とに壮士の弓小手より下りて獲物を撃つをいう。
鵬礙九天須卻避,兔藏三穴莫深憂。
この鷹にであうでは九天をさまたぐるほどの大きな巽をもった鵬鳥もわきへよけねばなるまいが、三つの窟屋を用意しておいてそこにかくれる様なちっぽけな兎などはこの鷹の眼中に無いからひどく心配するには及ばぬ。
【15】 鵬 鵬は大鳥、逍遙遊第一[编辑]. 北冥有魚,其名曰鯤。鯤之大,不知其幾千里也。化而為鳥,其名為鵬。鵬之背,不知其幾千里也;怒而飛,其翼若垂天之雲。是鳥也,海運則將徙於南冥。南冥者,天池也。
【16】 礙 鵬の翼にわよりに大なるな以て大在もさま王ぐるなり。
【17】 九天 九重九層の天とする立体的考へ方と、中央及び八方の天とする平面的の考え方と二種ある。
【18】 卻避 しりぞきさく。
【19】 兔藏三穴 狡兎三穴『戦国策』「斉策」は悪知恵のはたらく兎は身を守るために用心深くたくさんの逃げ場や、策略を用意しておくこと。または、困難をさけることがうまいこと。悪知恵のはたらく賢い兎は、隠れるための穴を三つ用意しているという意味から。
【20】 莫深憂 鷹は悪知恵のはたらく賢い兎の如き小さきものには眼もくれないが故に心配に及ばないということ。