杜甫 暮春題瀼西新賃草屋五首其五
欲陳濟世策,已老尚書郎。未息豺虎鬥,空慚鴛鷺行。
時危人事急,風逆羽毛傷。落日悲江漢,中宵淚滿床。
(夔州に来て二度目の三月に賃貸で瀼西の家宅、草堂に赤甲から引っ越しして題したものでこの詩は、尚書工部員外郎であっても、夔州にいたのでは何の力にもなりえない悔しさを述べる。)その5 自分は世をすくう策を天子の御前で陳べたくおもうところであるが、もはやこの尚書の郎官たる自分は老いてしまった。それに、いまだに施政が落ち着かず、犲狼どものたたかいがやむことはなく、文官の列、鴛鷺の行列にある自分も、愧じいるばかりである。時世は安らかならず人民の生計は急をつげて、窮迫している。自分には風にさかさまに吹きつけられて肝心な羽や毛はそこなわれているのである。それでまた今日も、夕日の落ちるころとなると、江漢の地で悲しい思いをましてきて、夜中になったころには涙が寝牀にいっぱいにあふれる。
杜少陵集 卷一八61 |
暮春題瀼西新賃草屋,五首之五 |
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杜甫詩index-15 767年大暦2年56歲 (29) |
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杜甫詩1500-1188-1638/2500
18-61 29 暮春題瀼西新賃草屋,五首之五
作時年: |
767年 |
大暦2年 |
56歲 |
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全唐詩 卷別: |
卷二二九 46 -5 |
文體: |
五言律詩 |
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杜少陵集 |
巻18-61 |
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詩題: |
暮春題瀼西新賃草屋,五首之五 |
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年譜大厯二年自赤甲将遷居瀼西而作。 |
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作地點: |
奉節(山南東道 / 夔州 / 奉節) |
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及地點: |
瀼西 (山南東道 夔州 奉節) |
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交遊人物: |
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卷229_46 《暮春題瀼西新賃草屋五首》杜甫
暮春題瀼西新賃草屋五首其一
(夔州に来て二度目の三月に賃貸で瀼西の家宅、草堂に赤甲から引っ越しして題したもの)久嗟三峽客,再與暮春期。
三峡の客である自分はいつものことながらまたなげく、ここ夔州へ来てから二度春の暮れにであうことになった。
百舌欲無語,繁花能幾時。
百舌鳥も鳴かなくなろうとしでいるし、繁く咲いていた花も、あとどれだけの時間、持続していられるものか。
谷虛雲氣薄,波亂日華遲。
谷はがらんどうで雲気薄くたちのぼり、波がみだれて水上の日のかがやきがいつまでもつづく。
戰伐何由定,哀傷不在茲。
どうしたら戦伐が平定せられることであろうか、これこそ自分の哀傷のやどるところであって、自分の哀傷はただ春が暮れゆくなんぞの点に在るのではない。
(暮春、瀼西の新に賃せる草屋に題す五首其の一)
久しく嗟す 三峽の客,再び 暮春と期す。
百舌 語無からんと欲す,繁花 能く幾時ぞ。
谷 虛しくして雲氣薄く,波 亂れて日華 遲し。
戰伐 何に由りてか定まらん,哀傷は 茲に在らず。(
暮春題瀼西新賃草屋五首其二
(夔州に来て二度目の三月に賃貸で瀼西の家宅、草堂に赤甲から引っ越しして題したものでこの詩は、ミカンの木を植えたいと思っていることを述べる。)その2
此邦千樹橘,不見比封君。
この土地で千本のみかんの木を植えると、「皆與千戸侯等」とされ、その地の君王か、縣令にくらべてもおかしくないということで、自分もたくさん植えたけれど、とても金持ちの資格はないかもしれない。
養拙干戈際,全生麋鹿群。
ただ兵乱の際にもちまえの世渡り下手なところを養い、麋鹿のむれにまじって生命を全うするだけのことである。
畏人江北草,旅食瀼西雲。
人をはばかつては江北の草によりそい旅の飯を食べながら瀼西の雲を伴としているが、隠者の住まいの白雲とは異なるものである。
萬里巴渝曲,三年實飽聞。
萬里のかたいなかの巴渝の歌も三年聞いてしまったので、実に聞き飽きたのである。
暮春、瀼西の新に賃せる草屋に題す五首其の二)
此の邦の千樹の橘は。封君に比せらるるを見ず。
拙を養う 干戈(カンカ)の際、生を全うす 麋鹿の群。
人を畏る 江北の草、旅食す 瀼西の雲。
万里のかなたのこの巴渝の曲、三年実に聞くに飽く。
暮春題瀼西新賃草屋五首其三
(夔州に来て二度目の三月に賃貸で瀼西の家宅、草堂に赤甲から引っ越しして題したものでこの詩は、植えた蜜柑の樹が育ってきていることを述べる。)その3
彩雲陰複白,錦樹曉來青。
五色の雲が浮いていたが、くもりになってまた白くなってきたようだ。白雲は、彩雲の色にうつろうて、錦のように見えていた蜜柑樹の葉も暁からかけて、日々に青色も濃くなってゆく。
身世雙蓬鬢,乾坤一草亭。
自分はこの世、この地に於て、隠棲し、今はただ左右のもつれた鬢の毛をあますばかりであり、天地のあいだにただ一つのこの草堂、草亭があるばかりだ。
哀歌時自惜,醉舞為誰醒。
ひとりで哀れな歌をうたって世間に名声を売ろうというわけではないが、我自らのことを愛惜し、だれのためとて醒めてくらす必要もないから酔うて舞をもうたりする。
細雨荷鋤立,江猿吟翠屏。
小雨がふってきたので耕すのに鋤を荷うて外に立つと、翠の屏風の様な山壁で江の猿がなきさけんでいる。
(暮春、瀼西の新に賃せる草屋に題す五首其の三)
彩雲 陰りて 複た白し,錦樹 曉來りて 青し。
身世 雙 蓬鬢,乾坤 一草の亭。
哀歌 時に自ら惜む,醉舞 誰の為にか醒めん。
細雨 鋤を荷いて立てば,江猿 翠屏に吟ず。
暮春題瀼西新賃草屋五首其四
(夔州に来て二度目の三月に賃貸で瀼西の家宅、草堂に赤甲から引っ越しして題したものでこの詩は、安史の乱が終わっても、天下が治まっていないことを述べる。)その4
壯年學書劍,他日委泥沙。
自分は壮年の時に書や剣を學んだが、後日になるとそれは役に立たず、わが身は世に用いられることはなく、泥沙にすてられるだけであった。
事主非無祿,浮生即有涯。
嘗て天子にお事えをして、俸禄を頂戴したことが無いわけではないが、人の生活には際限があっていつのまにか老衰になった。
高齋依藥餌,絕域改春華。
それで高斎(瀼西の草堂)で薬餌にたよっているたまに、この絶域で春景色が二度も改まることになった。
喪亂丹心破,王臣未一家。
喪乱のために自分の赤い忠誠心は破壊されてしまった。王臣どもが臣節を尽くさず、兵を弄して天下がまだ一家の様に秩序されないからである。
(暮春、瀼西の新に賃せる草屋に題す五首其の四)
壮年 書剣を學ぶ、他日泥沙に委せらる。
主に事へて禄無きに非ず、浮生 即ち 涯有り。
高寮薬餌に依りて、絶域 春華改まる。
喪亂 丹心破る、王臣 未だ一家ならす。
暮春題瀼西新賃草屋五首其五
(夔州に来て二度目の三月に賃貸で瀼西の家宅、草堂に赤甲から引っ越しして題したものでこの詩は、尚書工部員外郎であっても、夔州にいたのでは何の力にもなりえない悔しさを述べる。)その5
欲陳濟世策,已老尚書郎。
自分は世をすくう策を天子の御前で陳べたくおもうところであるが、もはやこの尚書の郎官たる自分は老いてしまった。
未息豺虎鬥,空慚鴛鷺行。
それに、いまだに施政が落ち着かず、犲狼どものたたかいがやむことはなく、文官の列、鴛鷺の行列にある自分も、愧じいるばかりである。
時危人事急,風逆羽毛傷。
時世は安らかならず人民の生計は急をつげて、窮迫している。自分には風にさかさまに吹きつけられて肝心な羽や毛はそこなわれているのである。
落日悲江漢,中宵淚滿床。
それでまた今日も、夕日の落ちるころとなると、江漢の地で悲しい思いをましてきて、夜中になったころには涙が寝牀にいっぱいにあふれる。
(暮春、瀼西の新に賃せる草屋に題す五首其の五)
濟世の策を陳べんと欲するも,已に老いたり尚書郎。
未だ豺虎の鬥い息まず,空しく慚づ 鴛鷺の行。
時 危くして 人事 急なり,風 逆にして羽毛 傷わる。
落日 江漢に悲しむ,中宵 淚 床に滿つ。
『暮春題瀼西新賃草屋,五首之五』現代語訳と訳註解説
(本文)
暮春題瀼西新賃草屋五首其五
欲陳濟世策,已老尚書郎。
未息豺虎鬥,空慚鴛鷺行。
時危人事急,風逆羽毛傷。
落日悲江漢,中宵淚滿床。
(下し文)
(暮春、瀼西の新に賃せる草屋に題す五首其の五)
濟世の策を陳べんと欲するも,已に老いたり尚書郎。
未だ豺虎の鬥い息まず,空しく慚づ 鴛鷺の行。
時 危くして 人事 急なり,風 逆にして羽毛 傷わる。
落日 江漢に悲しむ,中宵 淚 床に滿つ。
(現代語訳)
暮春題瀼西新賃草屋五首其五(夔州に来て二度目の三月に賃貸で瀼西の家宅、草堂に赤甲から引っ越しして題したものでこの詩は、尚書工部員外郎であっても、夔州にいたのでは何の力にもなりえない悔しさを述べる。)その5
自分は世をすくう策を天子の御前で陳べたくおもうところであるが、もはやこの尚書の郎官たる自分は老いてしまった。
それに、いまだに施政が落ち着かず、犲狼どものたたかいがやむことはなく、文官の列、鴛鷺の行列にある自分も、愧じいるばかりである。
時世は安らかならず人民の生計は急をつげて、窮迫している。自分には風にさかさまに吹きつけられて肝心な羽や毛はそこなわれているのである。
それでまた今日も、夕日の落ちるころとなると、江漢の地で悲しい思いをましてきて、夜中になったころには涙が寝牀にいっぱいにあふれる。
(訳注)
暮春題瀼西新賃草屋五首其五
(夔州に来て二度目の三月に賃貸で瀼西の家宅、草堂に赤甲から引っ越しして題したものでこの詩は、尚書工部員外郎であっても、夔州にいたのでは何の力にもなりえない悔しさを述べる。)その5
欲陳濟世策,已老尚書郎。
自分は世をすくう策を天子の御前で陳べたくおもうところであるが、もはやこの尚書の郎官たる自分は老いてしまった。
22 濟世 救世とは世を濟助する人。 《莊子‧庚桑楚第二十三》「簡髮而櫛,數米而炊,竊竊乎又何足以濟世哉!舉賢則民相軋,任知則民相盜。」(髮を簡【えら】びて櫛り,米を數えって炊ぐ,竊竊【せつせつ】又、何ぞ以て世を濟うに足らんや!賢を舉ぐれば則ち 民 相い軋り,知に任ずれば則ち 民 相い盜む。)髪の毛を一本一本揃えて櫛をれたり、コメを一粒一粒数えて炊くといったような煩わしいやり方で、こそこそと事に処して着たものである果たしてそのようなことが、どれほどのようなことがどれほどこの世を救い助けたであろうか。彼らの下様に賢人を選んで用いれば、人民は誰もが選ばれようと争い合うことになり、知恵のあるものを抜き出して高い地位につければ、誰もが悪賢くなって欺き合うようになる。
濟世 |
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卷八20 寄彭州高三十五使君適虢州岑二十七長史參三十韻 ((二)六三八) |
濟世宜公等,安貧亦士常。 |
巻18-61 暮春題瀼西新賃草屋,五首之五 |
欲陳濟世策,已老尚書郎。 |
《巻18-69 晚登瀼上堂》 |
濟世數嚮時,斯人各枯冢。 |
卷二三06 暮秋枉裴道州手札率爾遣興寄遞呈蘇渙侍御((五)二○一六) |
聖朝尚飛戰鬥塵,濟世宜引英俊人。 |
卷一三27 奉待嚴大夫((三)一○九九) |
殊方又喜故人來,重鎮還須濟世才。 |
杜甫は、具体的な「濟世策」を提案しているのは、《乾元元年華州試進士策問五首》に見える。
757年至徳二載 《乾元元年華州試進士策問五首 (23) 全体》 杜甫<1509-T> 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ4340 杜甫詩1500/2500
23 尚書郎 ここは工部員外郎であった杜甫自身を意味する。尚書台の官僚、官吏。 長官が、尚書令。 次官が、僕射。部門責任者が尚書で、尚書郎は各部門の官僚、官吏である。
未息豺虎鬥,空慚鴛鷺行。
それに、いまだに施政が落ち着かず、犲狼どものたたかいがやむことはなく、文官の列、鴛鷺の行列にある自分も、愧じいるばかりである。
24 豺虎鬥 賀蘭進明・第五琦などに呼応した朝廷の悪賢い者たち、各地に相当組織だった盗賊になったものが多かったことなどをいう。
25 鴛鷺行 朝廷内で文官が列をなして行動すること。
時危人事急,風逆羽毛傷。
時世は安らかならず人民の生計は急をつげて、窮迫している。自分には風にさかさまに吹きつけられて肝心な羽や毛はそこなわれているのである。
26 人事急 人民の生計が急速に窮迫してきたことをいう。
27 羽毛傷 鴛鷺の行列の一員である杜甫自身の体が病弱で弱ってきたことを言う。傷 羽毛は鴛鴬の縁語である。
落日悲江漢,中宵淚滿床。
それでまた今日も、夕日の落ちるころとなると、江漢の地で悲しい思いをましてきて、夜中になったころには涙が寝牀にいっぱいにあふれる。
28 江漢 夔州の長江のほとりを言う。杜甫《23-11江漢》「江漢思歸客,乾坤一腐儒。」(江漢 歸えるを思う客,乾坤 一腐の儒。)江漢の名がるる地方において、自分は故郷に帰りたいと思っている旅客の人である茫々たる天地の間において、独りの腐儒者樽にとどまっているのである。