與高適薛據同登慈恩寺浮圖
岑參 訳注解説ブログ
|
1.<杜詩と其の詩の読み下し文> |
|
與高適薛據同登慈恩寺浮圖 岑參 (高適と薛據と同【とも】に慈恩寺の浮圖【ふと】に登る。) |
||
|
|
塔勢如湧出,孤高聳天宮。 |
塔勢 湧出するが 如く,孤高 天宮に聳ゆ。 |
|
|
登臨出世界,磴道盤虚空。 |
登臨 世界を出で,磴道 虚空に盤【わだかま】る。 |
|
|
突兀壓神州,崢嶸如鬼工。 |
突兀として神州を壓し,崢嶸として 鬼工の如し。 |
|
|
四角礙白日,七層摩蒼穹。 |
四角 白日を礙【ささ】へ,七層 蒼穹を摩す。 |
|
|
下窺指高鳥,俯聽聞驚風。 |
下窺して高鳥を指し,俯聽して驚風を聞く。 |
|
|
連山若波濤,奔走似朝東。 |
連山波濤の若く,奔走 東に朝【むか】うに似たり。 |
|
|
靑松夾馳道,宮觀何玲瓏。 |
青松 馳道を夾み,宮觀 何ぞ玲瓏たる。 |
|
|
秋色從西來,蒼然滿關中。 |
秋色 西より來り,蒼然として關中に滿つ。 |
|
|
五陵北原上,萬古靑濛濛。 |
五陵 北原の上【ほとり】,萬古青濛濛。 |
|
|
淨理了可悟,勝因夙所宗。 |
淨理 了【つひ】に悟る可し,勝因 夙【つと】に宗とする所。 |
|
|
誓將挂冠去,覺道資無窮。 |
誓ひて將に冠を挂けて去り,覺道無窮に資せんとす。 |
|
2.<現代語訳> |
|
塔の高く聳え立っているありさまは、水が勢いよく噴き出しているかのようで、塔は群を抜いてひとり高く、大空に聳えている。 秋の気配は、西方から来て秋になり、いま、時刻も日暮れとなり、古さびた色が、長安のある関中平原に満ちてこようとしている。 仏教の勝因夙所宗清らかな道理は、ついに悟ることができ、善果をもたらす善因については、早くから心懸けていることがらだ。 |
|
3. 訳注解説 |
|
岑參:〔しんじん〕盛唐の詩人。開元三年(715年)~大暦五年(770年)。南陽の人。安西節度使に仕え、当時西の地の涯までいった。ために、辺塞詩をよくする。蛇足になるが、岑參の「參」字は〔さん〕〔じん〕とあるが、彼の名は〔じん〕。(『中国大百科全書・中国文学
Ⅰ』(中国大百科全書出版)。 |
|
與高適薛據同登慈恩寺浮圖:高適(こうせき)と薛據(せつきょ)とで、慈恩寺の寺塔に登った。 |
|
塔勢如湧出、孤高聳天宮。 塔の高く聳え立っているありさまは、水が勢いよく噴き出しているかのようで、塔は群を抜いてひとり高く、大空に聳えている。 ・塔勢:塔の高く聳え立っているありさま。 ・湧出:〔ゆうしゅつ〕水がわき出る。初唐・上官婉兒の『九月九日上幸慈恩寺登浮圖群臣上菊花壽酒』に「帝里重陽節,香園萬乘來。卻邪萸入佩,獻壽菊傳杯。塔類承天湧,門疑待佛開。睿詞懸日月,長得仰昭回。」とある。 ・孤高:群を抜いてひとり高く聳えている。ひとりぼっちで超然としている。 ・聳:そびえる。 ・天宮:天帝の宮殿で、転じて、大空。 |
|
登臨出世界、磴道盤虚空。 高い所に登って、世の中から突出して下方をながめれば、石段は、天と地の間を曲がりくねって蟠(わだかま)っている。 ・登臨:高い所に登って、下方をながめる。 ・世界:過去・現在・未来を世といい、上下東西南北を界という。仏語。世の中。宇宙。天地。 ・磴道:〔とうだう〕石をたたみあげて作った道。石段。石坂。 ・盤:〔はん〕まがる。曲がりくねる。わだかまる。=蟠。 ・虚空:〔こくう〕天と地の間。そら。大空。なにもないところ。一切のものの存在する場所としての空間。仏語。 |
|
突兀壓神州、崢嶸如鬼工。 高く突き出ていて、中国を圧しており。高く険しいさまは、人間わざとは思えないほどすぐれたできばえである。 ・突兀:〔とっこつ〕山などの高く突き出るさま。事変などがにわかに起こるさま。 ・壓:圧する。 ・神州:中国の美称。 胡世將の『江月』「神州沈陸,問誰是、一范一韓人物。北望長安應不見,抛卻關西半壁。塞馬晨嘶,胡笳夕引,得頭如雪。三秦往事,只數漢家三傑。 試看百二山河,奈君門萬里,六師不發。外何人迴首處,鐵騎千群都滅。拜將臺欹,懷賢閣杳,空指衝冠髮。欄干拍遍,獨對中天明月。」とする。 ・崢嶸:〔さうくゎう〕高く聳えるさま。高く険しいさま。転じて、才能が特に優れているさま。南宋・陸游『秋風亭拜寇莱公遺像』「豪傑何心居世名,材高遇事即崢嶸。巴東詩句州策,信手拈來盡可驚。」と使う。 ・鬼工:鬼神の細工。人間わざとは思えないほどすぐれたできばえ。神わざ。 |
|
四角礙白日、七層摩蒼穹。 塔の四隅の軒先は、しっかりと張り出して照り輝く太陽を支えており、七重の塔は、ドーム状になった青空に迫っている。 ・四角:塔の四隅の軒先。 ・礙:〔がい〕支える。また、さまたげる。ここは、前者の意。=碍。 ・白日:照り輝く太陽。昼間の太陽光。 ・七層:七重の(塔)。七階建て。 ・摩:〔ま〕かすめる。迫る。 ・蒼穹:〔さうきゅう〕あおぞら。蒼天。大空がドーム状になっている、という感覚から生まれた表現。 |
|
下窺指高鳥、俯聽聞驚風。 塔の上から下の方をうかがい見て、高い空を飛んでいる鳥を下方に指さし、塔の上から、うつむいて聞き耳を立てると、激しい風音が聞こえてくる。 ・下窺:〔かき〕下の方をうかがう。 ・指:ゆびさす。動詞。 ・高鳥:高い空を飛んでいる鳥。 ・俯聽:うつむいて、聞き耳を立てる。 ・聞:聞こえてくる。「聽」「聞」については、「聽」:(本人の意志で)聞こうとして聞く。よく(注意して)聞く。 「聞」:(自然と)耳に入ってくる。聞こえる。 ・驚風:〔きゃうふう;jing1feng1○○〕はげしい風。 |
|
連山若波濤、奔走似朝東。 連なり続いている山々は大きな波のようであり、東に向かって、勢いよく走り赴くかのようである。 ・連山:つらなり続いている山。連峰。 ・若:…のようである。如し。 ・波濤:大きな波。 ・奔走:〔ほんそう〕急いで走り赴く。忙しく走りまわって人の用をする。 ・似:似る。如し。 ・朝:〔てう〕向かう。動詞。蛇足になるが、名詞「あさ」の意は:〔てう〕。ここは、前者の意。 |
|
青松夾馳道、宮觀何玲瓏。 青い松は、お成り道の両側に道を夾んで並木が植えられており、宮殿は、なんとすっきりと澄んでいることか。 ・夾:〔けふ〕はさむ。道の両側に並木状に植えられているさまの表現。 ・馳道:〔ちだう〕天子の通る道。輦道。范成大の『州橋』「南北是天街,父老年年等駕迴。忍涙失聲詢使者,幾時眞有六軍來。」とある。 ・宮觀:〔きゅうくゎん〕御殿。宮殿。また、道教の寺。ここは、前者の意。 ・何:なんと。感嘆を表す。 ・玲瓏:〔れいろう〕すっきりと澄んでいるさま。玉などの透きとおっているさま。明るく光り輝くさま。唐・李白の『玉階怨』に「玉階生白露,夜久侵羅襪。却下水精簾,玲瓏望秋月。」とある。 |
|
秋色從西來、蒼然滿關中。 秋の気配は、西方から来て秋になり、いま、時刻も日暮れとなり、古さびた色が、長安のある関中平原に満ちてこようとしている。 ・秋色:秋の景色。秋の気配。 ・從:…より。…から。 ・蒼然:〔さうぜん〕日暮れのうす暗いさま。古びた色の形容。また、あおいさま。 ・關中:〔くゎんちゅう〕陝西省中南部。函谷関以西の関中平原。北方の政治の中心地。函谷関、武関、散関、蕭関の四つの関の中にある地域のことで、渭水盆地一帯のこと。唐代までは歴代の首都(周…鎬京、秦…咸陽、漢以降、隋、唐…長安)が置かれ、政治の中心地であった。南宋・陸游の『山南行』「我行山南已三日,如縄大路東西出。平川沃野望不盡,麥隴靑靑桑鬱鬱。地近函秦氣俗豪,鞦韆蹴鞠分朋曹。苜蓿連雲馬蹄健,楊柳夾道車聲高。古來歴歴興亡處,擧目山川尚如故。將軍壇上冷雲低,丞相祠前春日暮。國家四紀失中原,師出江淮未易呑。會看金鼓從天下,却用關中作本根。」
や、同・陸游の『書事』「關中父老望王師,想見壺漿滿路時。寂寞西溪衰草裏,斷碑猶有少陵詩。」とする。 |
|
五陵北原上、萬古青濛濛。 漢の五陵は、北原のほとりにあって、大昔から今に至るまで、鬱蒼として暗い。 ・五陵:漢の五帝の陵。長陵・安陵・陽陵・茂陵・平陵(時代順)の陵墓。なお、現在では地名となっているものもあり、地名と陵名とを区別するためにか、陵名は「漢茂陵」という風に「漢-陵」や「唐-陵」と呼ぶ。 ・北原:五陵原。長安の北郊を流れる渭水の対岸。咸陽を取り巻く一帯。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)の40-41ページ「京畿道 関内道」にはその地名としては出てこないが、長安(現・西安)の西北、渭水を夾んで接している咸陽の北側の西北~北~東北一帯に、咸陽を取り巻くように漢の五帝の陵がある。 ・上:辺り。ほとり。漠然と場所を指す。「江上」(河の畔)。この用例には、金・完顏亮の『呉山』「萬里車書盡混同,江南豈有別疆封。提兵百萬西湖上,立馬呉山第一峰。」や盛唐・岑參の『與高適薛據同登慈恩寺浮圖』「塔勢如湧出,孤高聳天宮。登臨出世界,磴道盤虚空。突兀壓神州,崢嶸如鬼工。四角礙白日,七層摩蒼穹。下窺指高鳥,俯聽聞驚風。連山若波濤,奔走似朝東。靑松夾馳道,宮觀何玲瓏。秋色從西來,蒼然滿關中。五陵北原上,萬古靑濛濛。淨理了可悟,勝因夙所宗。誓將挂冠去,覺道資無窮。」や中唐・白居易の『送春』「三月三十日,春歸日復暮。惆悵問春風,明朝應不住。送春曲江上,拳拳東西顧。但見撲水花,紛紛不知數。人生似行客,兩足無停歩。日日進前程,前程幾多路。兵刃與水火,盡可違之去。唯有老到來,人間無避處。感時良爲已,獨倚池南樹。今日送春心,心如別親故。」や中唐・張籍の『征婦怨』「九月匈奴殺邊將,漢軍全沒遼水上。萬里無人收白骨,家家城下招魂葬。婦人依倚子與夫,同居貧賤心亦舒。夫死戰場子在腹,妾身雖存如晝燭。」や元・楊維楨の『西湖竹枝歌』「蘇小門前花滿株,蘇公堤上女當壚。南官北使須到此,江南西湖天下無。」がある。現代でも張寒暉の『松花江上』「我的家在東北松花江上,那裡有森林煤鑛,還有那滿山遍野的大豆高粱。我的家在東北松花江上,那裡有我的同胞,還有衰老的爹娘。」がある。 ・萬古:大昔から今に至るまで。遠い昔。ここは、前者の意。 ・青濛濛:〔せいもうもう〕黒々とした。鬱蒼とした。形容詞のABB表現。 ・青:黒い。暗い。 ・濛濛:〔もうもう〕うす暗い。ぼんやりとしている。 |
|
淨理了可悟,勝因夙所宗。 仏教の勝因夙所宗清らかな道理は、ついに悟ることができ、善果をもたらす善因については、早くから心懸けていることがらだ。 ・淨理:〔じゃうり〕(仏教の)清らかな道理。 ・了:〔れう;liao3〕ついに。 ・可:…べし。…ことができる。 ・悟:〔ご〕さとる。 ・勝因:すぐれた因縁。善果をもたらす善因。すぐれた善因縁。仏語。 ・夙:〔しゅく〕はやく。昔から。つとに。 ・所:…ところ。こと。名詞を動詞化する働きをする。 ・宗:むねとする。 |
|
誓將挂冠去,覺道資無窮。 誓って官員の冠を掛けて置き、官を辞して去ろうとおもう。仏法の真理の修行をして、永遠の悟りへのたすけとする。 *隠退を心に期すが、「直ちに」ではない。 ・誓將:誓って…をしようとする。…しようことを誓う。後世、南宋・岳飛は『題新淦蕭寺壁』(『題青泥市寺壁』)で、「雄氣堂堂貫斗牛,誓將直節報君讐。斬除頑惡還車駕,不問登壇萬戸侯。」と使う。 ・挂冠:(官員の冠を掛けて置き、)辞職して官を去ること。 ・-去:「挂冠去」と〔動詞+名詞+去〕…を…して去る。 ・覺道:悟りへの道。仏法の真理を悟る大道。正覚の大道。仏語。 ・資無窮:永遠の悟りへのたすけとする。 ・資:たすける。積む。資す。 ・無窮:窮まりが無いこと。無限。永遠。無極。 |






















