奉送郭中丞兼太樸卿充隴右節度使三十韻 #1 杜甫 kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ 杜甫特集700- 188
御史中丞郭英乂が太僕卿の官を兼ねながら、隴右節度使に充てられたのを送る詩。製作時は757年至徳二載の秋八月。 5分割で掲載、その1回目。


奉送郭中丞兼太樸卿充隴右節度使三十韻

このたび、太樸卿を兼ね隴右節度使に充てられた 郭英乂 中丞に送り奉ります 三十韻の詩。
詔發山西將,秋屯隴右兵。
このたび粛宗皇帝の詔を以て山西出身の将であるあなたを出発させ、秋の時節に瀧右での兵卒を駐屯せしめられることとなった。
淒涼餘部曲,燀赫舊家聲。
隴右ではあなたの父君に仕えた部隊の部、曲のものが不安な気もちをしながらのこっている、あなたとあなたの家の名声は今に始まったことではないのです。
雕鶚乘時去,驊騮顧主鳴。
あなたはこの秋に乗じて雕鶚(くまたか)のようにあちらへゆかれるのであるが、驊騮の駿馬のように旧主をふりかえって嘶くことでありましょう。
艱難須上策,容易即前程。
今、都が落されるという国家の存亡、艱難辛苦の時で之を救うには最上のはかりごとを要することである。だからあなたは準備周到迅速にこれから先の作戦に応じた旅程にとりかかられるのである。
斜日當軒蓋,高風卷旆旌。
あなたの西に行く先には、夕日が馬車の防護蓋に照らしかけて、して、西からのたかく吹く秋の風が旌旗などをふきまくる、
松悲天水冷,沙亂雪山清。#1

天水のあたりでは西風が松の音を悲しみの声にしてすべてを冷たくするのだ、沙嵐もあるが遠く雪山の清き姿を望むことであろう。

和虜猶懷惠,防邊詎敢驚。古來於異域,鎮靜示專徵。
燕薊奔封豕,周秦觸駭鯨。中原何慘黷,遺孽尚縱橫。
箭入昭陽殿,笳吹細柳營。內人紅袖泣,王子白衣行。#2
宸極妖星動,園陵殺氣平。空餘金碗出,無複穗帷輕。
毀廟天飛雨,焚宮火徹明。罘罳朝共落,棆桷夜同傾。
三月師逾整,群凶勢就烹。瘡痍親接戰,勇決冠垂成。#3
妙譽期元宰,殊恩且列卿。幾時回節鉞,戮力掃欃槍?
圭竇三千士,雲梯七十城。恥非齊說客,秖似魯諸生。
通籍微班忝,周行獨坐榮。隨肩趨漏刻,短發寄簪纓。#4
徑欲依劉表,還疑厭隬衡。漸衰那此別,忍淚獨含情。
廢邑狐狸語,空村虎豹爭。人頻墜塗炭,公豈忘精誠。
元帥調新律,前軍壓舊京。安邊仍扈從。莫作後功名。#5

#1
詔して山西の将を発し、秋 隴右(ろうう)の兵を屯せしむ。
凄涼 部曲余る、燀赫(せきかく) 家声旧りたり。
雕鶚(ちょうがく) 時に乗じて去る、驊騮(かりゅう) 主を顧みて鳴く。
艱難 上策を須(ま)つ 容易 前程に即く
斜日 軒蓋(けんがい)に当り、高風 旆旌(はいせい) を巻く。
松悲しみて 天水冷かに、沙乱れて 雪山清し。

#2
虜に和するすら猶 恵に懐(な)つく、辺を防ぐに 詎(なん)ぞ敢て驚かさんや。
古来 異域に於ける、鎮静にして 専征を示す。
燕薊(えんけい) 封豕(ほうし)奔(はし)り、周秦 駭鯨(がいけい)触る。
中原何ぞ慘黷(しんとく)なる、遺孽(いげつ) 尚 縦横たり。
箭は入る昭陽殿、節は吹かる細柳の営。
内人 紅袖(こうしゅう)に泣き、王子白衣行く。
#3
宸極(しんきょく)妖星動き、園陵(えんりょう) 殺気 平かなり。
空しく余す金碗の出づるを、復た穗帷(けいい)の軽き無し。
毀廟(きびょう)天雨を飛ばし、焚宮(ふんきゅう)火明に徹す。
罘罳(ふし) 朝に共に落ち、棆桷(りんかく) 夜 同じく傾く。』
三月 師 逾々整い、羣胡 勢 烹(に)らるるに就く。
瘡痍(そうい) 親(みずか)ら接戦す、勇決(ゆうけつ) 垂成(すいせい)に冠たり。

妙誉(みょうよ) 元宰(げんさい)を期す、殊恩(しゅおん)且つ列卿(れつけい)。
幾時か 節鉞(せつえつ)を廻らし、力を戮(あ)わせて欃槍(ざんそう)を掃わん』
圭竇(けいとう) 三千の士、雲梯(うんてい)七十城。
恥ずらくは 斉の説客に非るを、秖(ただ)魯の諸生(しょせい)に似たり。
通籍(つうせき) 徴班(びはん)を忝(かたじけな)くす、周行(しゅうこう) 独坐 栄ゆ。
肩を随えて漏刻(ろうこく)に趨(おもむ)き、短髪 簪纓(しんえい)に寄す。
径(ただちに)に劉表(りゅうひょう)に依らんと欲す、還た疑う隬衡(でいこう)を厭(いと)わんかと。
漸(ようや)く衰(おとろ)う 那ぞ此に別れん,淚を忍びて獨り情を含む。』
廃邑(はいゆう) 狐狸(こり) 語り、空邨(くうそん) 虎豹(こひょう)争う。
人頻(しき)りに塗炭(とたん)に墜つ、公豈(こうあ)に精誠(せいせい)を忘れんや。
元帥(げんすい) 新律(しんりつ)を調え、前軍(ぜんぐん) 旧京を圧す。
邊を安じて仍って扈從(こじゅう)し。功名に後(おく)るること作す莫れ


奉送郭中丞兼太樸卿充隴右節度使三十韻 現代語訳と訳註
(本文)
#1

詔發山西將,秋屯隴右兵。淒涼餘部曲,燀赫舊家聲。
雕鶚乘時去,驊騮顧主鳴。艱難須上策,容易即前程。
斜日當軒蓋,高風卷旆旌。松悲天水冷,沙亂雪山清。

(下し文)
(郭中丞、太樸卿を兼ね隴右節度使に充てられたのを送り奉る 三十韻)
詔して山西の将を発し、秋 隴右(ろうう)の兵を屯せしむ。
凄涼 部曲余る、燀赫(せきかく) 家声旧りたり。
雕鶚(ちょうがく) 時に乗じて去る、驊騮(かりゅう) 主を顧みて鳴く。
艱難 上策を須(ま)つ 容易 前程に即く
斜日 軒蓋(けんがい)に当り、高風 旆旌(はいせい) を巻く。
松悲しみて 天水冷かに、沙乱れて 雪山清し。

(現代語訳)
このたび、太樸卿を兼ね隴右節度使に充てられた 郭英乂 中丞に送り奉ります 三十韻の詩。
このたび粛宗皇帝の詔を以て山西出身の将であるあなたを出発させ、秋の時節に瀧右での兵卒を駐屯せしめられることとなった。
隴右ではあなたの父君に仕えた部隊の部、曲のものが不安な気もちをしながらのこっている、あなたとあなたの家の名声は今に始まったことではないのです。
あなたはこの秋に乗じて雕鶚(くまたか)のようにあちらへゆかれるのであるが、驊騮の駿馬のように旧主をふりかえって嘶くことでありましょう。
今、都が落されるという国家の存亡、艱難辛苦の時で之を救うには最上のはかりごとを要することである。だからあなたは準備周到迅速にこれから先の作戦に応じた旅程にとりかかられるのである。
あなたの西に行く先には、夕日が馬車の防護蓋に照らしかけて、西からのたかく吹く秋の風が旌旗などにふきつけまくる。
天水のあたりでは西風が松の音を悲しみの声にしてすべてを冷たくするのだ、沙嵐もあるが遠く雪山の清き姿を望むことであろう。

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(訳注)
奉送郭中丞兼太樸卿充隴右節度使三十韻 #1
(郭中丞、太樸卿を兼ね隴右節度使に充てられたのを送り奉る 三十韻)
このたび、太樸卿を兼ね隴右節度使に充てられた 郭英乂 中丞に送り奉ります 三十韻の詩。
郭中丞 御史中丞郭英乂。○太樸卿 太樸寺の卿の官。○隴右節度使 唐の隴右道は鄯州(甘粛省西寧府碾伯県治)に治する。節度使はその軍務の長官。

杜甫乱前後の図003鳳翔


詔發山西將,秋屯隴右兵。
このたび粛宗皇帝の詔を以て山西出身の将であるあなたを出発させ、秋の時節に瀧右での兵卒を駐屯せしめられることとなった。
山西将 「漢書」超充国伝に「山東ハ相ヲ出シ、山西ハ将ヲ出ス。」とみえる。山は大行山をいう。郭英乂は瓜州長楽の人(瓜州は今の甘粛省安西州治)ゆえ山西の将という。○ とどまらせておく。駐屯。


淒涼餘部曲,燀赫舊家聲。
隴右ではあなたの父君に仕えた部隊の部、曲のものが不安な気もちをしながらのこっている、あなたとあなたの家の名声は今に始まったことではないのです。
淒涼 ものがなしいさま。○余部曲 部曲は小部隊、余とはまだのこっておることをいう。英乂の父は知運といい、鄯州都督、隴右諸軍節度大使で、英乂は父の功により官に任ぜられたもの。其の軍の配下にかつて父の時の部隊であったものが残っているという。漢以来、大将軍に配下が五部あり、部に校尉一人、部の下に曲、曲に軍候一人で構成されていた。○燀赫 燀はあついこと、烜(けん)は火の明かなこと、赫は火のあかいこと。○旧 ふるびていること、父親以来のことであるからである。○家声 家名のこと。


雕鶚乘時去,驊騮顧主鳴。
あなたはこの秋に乗じて雕鶚(くまたか)のようにあちらへゆかれるのであるが、驊騮の駿馬のように旧主をふりかえって嘶くことでありましょう。
雕鶚 千里を見渡して獲物をとるというくまたか、たかの類。英父をたとえていう。○乗時 時節につけこんで。秋の節にあたっていることをいう。○驊騮 千里を駆け抜ける名馬、英乂をいう。○顧主 主は主人、天子をさす。
 
艱難須上策,容易即前程。
今、都が落されるという国家の存亡、艱難辛苦の時で之を救うには最上のはかりごとを要することである。だからあなたは準備周到迅速にこれから先の作戦に応じた旅程にとりかかられるのである。
難難 国家のなんぎ。安禄山の反乱がおこっていること。○須上策 須つとはいりようのこと、上策は最上のはかりごと。○容易 準備周到迅速に。○即前程 これから先の作戦に応じた旅程をいう。


斜日當軒蓋,高風卷旆旌。
あなたの西に行く先には、夕日が馬車の防護蓋に照らしかけて、西からのたかく吹く秋の風が旌旗などにふきつけまくる。
斜日 ゆうひ。○軒蓋 くるまの防護の蓋かさ。○高風 西からのたかく吹く風、秋の風。○卷旆旌 はたをふきまく。

松悲天水冷,沙亂雪山清。
天水のあたりでは西風が松の音を悲しみの声にしてすべてを冷たくするのだ、沙嵐もあるが遠く雪山の清き姿を望むことであろう。
松悲 松風の音もかなしげである。○天水 郡の名、甘粛省秦州西南。○雪山 甘粛省蘭州府河州の西南にあり、雪嶺ともいう。


和虜猶懷惠,防邊詎敢驚
異民族えびすと和睦するというのは彼等を我が唐からの恵みによって手懐けるためにするものである。いま辺境を防備するにあたってはどうやってこの地方の人々を驚かせる様にすることができるのだろうか。
和虜 虜と和睦すること、虜とは夷狄をさす。○懐恵 こちらの恵みになつけるようにする。○防辺 国の辺地を防禦する。○驚震驚させることをいう。


古來於異域,鎮靜示專徵。』
古來、朝廷の外国に対してのやりかたは、まずこちらはおちついてしずかにしていながら、いざという時に一気に征伐専行の権をもっていることを相手に示すことが大切なことなのである。』
於異域 於とは対してはということ。異域は外国をいう、ここは隴右の辺境たる吐蕃の地などをさす。○鎮静 おちついてしずかにする。○示専 征示とは敵手にみせること、専征とは節度使は天子から征伐を専断施行してもよいとの権力を委任されてあることをさす。


李 白 詩
唐宋詩 
(Ⅰ李商隠Ⅱ韓退之(韓愈))
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