秋胡詩 (6) 顔延之(延年) 詩<8>Ⅱ李白に影響を与えた詩477 kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1248
魯国の秋胡子の妾なる潔婦について述べた詩。
列女伝
魯秋潔婦. 潔婦者,魯秋胡子妻也。既納之五日,去而宦於陳,五年乃歸。未至家,見路旁婦人採桑,秋胡子悅之,下車謂曰:若曝採桑,吾行道,願託桑蔭下,下齎休焉。婦人採桑不輟,秋胡子謂曰:力田不如逢豐年,力桑不如見國卿。吾有金,願以與夫人。婦人曰:『採桑力作,紡績織紝以供衣食,奉二親養。夫子已矣,不願人之金。秋胡遂去。歸至家,奉金遺母,使人呼其婦。婦至,乃嚮採桑者也,秋胡子慚。婦曰:子束髮脩身,辭親往仕,五年乃還,當所悅馳驟,揚塵疾至。今也乃悅路傍婦人,下子之糧,以金予之,是忘母也。忘母不孝,好色淫泆,是污行也,污行不義。夫事親不孝, 則事君不忠。處家不義,則治官不理。孝義並亡,必不遂矣。妾不忍見,子改娶矣,妾亦不嫁。遂去而東走,投河而死。
秋胡子は、潔婦を納れ、五日にして、去りて陳に宦す。五年にして帰る。末だ其の家に至らざるとき、路傍に美しき婦人の方に桑を採るもの有るを見る。秋胡子は車より下り、謂うげて日く、いま吾に金あり、願はくは以て夫人に与へんと。婦人日く、嘻、妾は桑を採りて二親に奉ず。人の金を願わずと。秋湖子遂に去り、帰って家に至り金を奉じて其の母に遣る。その母、人をして其の婦を呼ばしむ。婦至る、乃ち向に桑を採りしものなり。秋湖は之を見て慙(は)づ。婦人日く、髪を束ね身む修め、親を辞し往いて仕ふ。五年にして乃ち還るを得たり。まさに親戚を見るべきなるに、今や乃ち路傍の婦人を悦びて、子の装を下し、金を以て之に与へんとす。これ母を忘るるの不孝なり。妾は不孝の人を見るに忍びずと。遂に去りて走り、自ら河に投じて裾す」(列女伝 秋胡子)
魯の潔婦は秋胡子の妻である。新婚五日、秋湖は単身陳に赴任した。五年後に帰宅の道で、桑摘む美女を見て金を贈ろうとした。美人は拒絶したので、帰って母に贈った。妻を見ると、さきの採桑の美女であった。妻は五年振りの帰省に、道端の女を悦んで、母を忘れる不孝な人にはまみえないといって、遂に河に投死した。(西京雑記もほぼ同じ)とある。
顔延年はこの説話を詠んだ詩。
秋胡詩 顔延之(延年)
(1)
椅梧傾高鳳,寒谷待鳴律。
空高く飛ぶ鳳凰の方へと桐の木は枝を傾けて止りに来るのを待っている、寒くつめたい谷は鄒衍が律菅を吹き鳴らしてくれるのを待っている。
影響豈不懷?自遠每相匹。
それと同じく男女の場合も、形に影が従い声に琴が応ずるごとく、互いに思いあうもので、遠くはなれたところにいても、どこにいても夫婦であるのが常である。
婉彼幽閑女,作嫔君子室。
うるわしき彼のしとやかな女「潔婦」は、徳のある人の家、秋胡の家にとついで妻となった。
峻節貫秋霜,明豔侔朝日。
高くすぐれた、厳しい節操のあるかの女は秋霜を貫き凌ぐほどのものであり、辺りを照らすそのあでやかさは朝日の光が輝くようなのと同じである。
嘉運既我從,欣願自此畢。
良い運の巡り合わせは自分に従いついている。すでに嫁にした上は、これからによろこばしい願いが満足に遂げられることと妻はおもったのだ。
椅梧【いご】は高鳳【こうほう】に傾き、寒谷【かんこく】は鳴律【めいりつ】を待つ。
影響豈懐はざらんや、遠きより毎に相匹【ひつ】す。
婉たる彼の幽閑【ゆうかん】の女、君子の室に嫔【ひん】と作【な】る。
峻節【しゅんせつ】は秋霜を貫き、明豔【めいえん】は朝日に博し。
嘉運【かうん】は既に我に從へり、欣願【きんがん】比より垂らん。
(2)
燕居未及好,良人顧有違。
夫婦が和らいで暮らし、また仲睦まじくなるまでになっていないのに、夫はそれとは違って遠くへ別れることになった。
脫巾千裏外,結绶登王畿。
平民の頭巾を脱いで官僚の冠をつけ、千里の彼方に仕官して、官印の綬を腰に結んで王の治められる都、陳である「王畿」に上るのであった。
戒徒在昧旦,左右來相依。
しもべの者を戒めて朝まだきに出発の準備を整える。そうして、左右の従者も夫の傍に来て寄り添う。
驅車出郊郭,行路正威遲。
やがて車を駆って城外の野に出ると、行く路はまさに遙か先までうねうねと続いている。
存爲久離別,沒爲長不歸。
これから後、生存しても久しい別離となり、死ねば永遠に帰ってこられない、哀しいことである。
燕居【えんきょ】未だ好するに及ばざる,良人顧って違【さ】る有り。
巾【きん】を千裏の外に脫して,綬を結んで王畿【おうき】に登る。
徒を戒しむること昧旦【まいたん】に在り,左右來って相依る。
車を驅りて郊郭【こうかく】を出で,行路正に威遲【いち】たり。
存して久しき離別を爲し,沒して長き不歸を爲さん。
(3)
嗟余怨行役,三陟窮晨暮。
ああわれ秋胡は役目のための旅を悲しみながら、詩経の巻耳や陟岵の篇にしばしは険阻な山路をのぼると歌ってある、ように、朝から夜おそくまで旅を続ける。
嚴駕越風寒,解鞍犯霜露。
車を厳重に整えて、風の寒い山を越え、鞍を解き馬を休めて、霜露を蒙って野宿する。
原隰多悲涼,回飙卷高樹。
低い湿地の草原には悲しみやさびしさがみちて、つむじ風は高い木を吹き巻いている。
離獸起荒蹊,驚鳥縱橫去。
群れを離れたけものが草深い小道に飛び出し、物に驚いた鳥が散乱して去って行く。
悲哉遊宦子,勞此山川路。
悲しいことだ、役目のために他国に旅する私は、この山川の路に苦労しているのである。
嗟【ああ】余【われ】は行役【こうえき】を怨む,三び陟【のぼ】りて晨暮【しんぼ】を窮む。
駕【が】を嚴【いま】しめて風寒【ふうかん】を越え,鞍【くら】を解いて霜露【そうろ】を犯す。
原隰【げんしゅう】に悲涼【ひりょう】多く,回飙【かいひょう】は高樹【こうじゅ】を卷く。
離獸【りじゅう】は荒蹊【こうけい】に起り,驚鳥【きょうちょう】は縦横に去る。
悲しい哉、遊宦【ゆうかん】の子、此の山川【さんせん】の路に勞【つか】る。
(4)
超遙行人遠,宛轉年運徂。
はるかにも旅ゆく人、夫、秋湖は遠ざかり、めぐりめぐって年はうつりゆく。
良時爲此別,日月方向除。
あの新婚の良い時に別れてから月日はちょうど年が改たまろうとしている。
孰知寒暑積,僶俛見榮枯!
誰も知らないうちに、寒いときがあり、暑さがやってきて歳を重ねている、それはつとめて速かに花を咲かせ、そして枯れてゆくのを見るのである。
歲暮臨空房,涼風起坐隅。
こうして月日が過ぎ、はからずも年の暮れに夫のいないさびしい部屋に入って見る、寒い風が坐席のかたわらから吹きおこる。(そばには夫の温か味があったのに)
寢興日已寒,白露生庭蕪。
寝て起ききて日一日と日を重ね、としをかさねて、もう既に寒い季節になっている、私の操である白露の玉は庭の真ん中で輝くほどであったがしげみの陰に置くころとなった。
超遙【ちょうよう】として行人【こうじん】は遠く,宛轉【えんてん】年運は徂【ゆ】く。
良時【りょうじ】此の別れを爲せしとき,日月は方【まさ】に除に向【なん】なんとす。
孰【たれ】か知らん寒暑【かんしょ】の積りて,僶俛【びんべん】榮枯【えいこ】を見るを!
歲暮に空房【くうぼう】に臨むに,涼風【りょうふう】坐隅【ざぐう】に起る。
寢興【しんこう】日ごとに已に寒く,白露は庭蕪【ていぶ】生ず。
(5)
勤役從歸願,反路遵山河。
役所勤めのうちにも帰省の願いが聞き入れられ、帰り道は山や河に沿って帰って行く。
昔辭秋未素,今也歲載華。
昔、いとま乞いをしたときは秋もまだ深くない落葉のない時期であったが、今は歳も新たに春の花が咲いている。
蠶月觀時暇,桑野多經過。
春の蚕を飼う月にちょうどよい休暇をもらったのだ、帰り道は先々さかりの桑畑を通った。
佳人從所務,窈窕援高柯。
そこには美しい女が務めの桑摘みをしていた、見目麗しい様子で高い枝をひきよせて桑の葉を摘んでいた。
傾城誰不顧,弭節停中阿。
世にもまれなその美人は一たび顧みれば人の城を傾けるといわれる魅力あるその美貌を、誰が振り向かないということがあるだろうか。秋湖も車の速度をとめて路の曲がり角に立ちどまって見とれてしまったのである。
勤役【きんえき】歸願【きがん】に從い,反路【はんろ】山河に遵【したが】う。
昔 辭せしとき秋未だ素ならず,今や歲は載【すなわ】ち華【はな】さく。
蠶月【さんげつ】時暇【じか】を觀,桑野【そうや】經過すること多し。
佳人【かじん】は務むる所に從う,窈窕【ようちょう】として高柯【こうか】を援【ひ】く。
傾城【けいじょう】誰か顧みざらん,節を弭【おさ】えて中阿【ちゅうあ】に停【とど】まる。
(6)
年往誠思勞,事遠闊音形。
年はすぎ往き、誠意や思慕の心は疲れてしまい維持しなかった、それに路は遠く隔たって声も姿も久しく見聞きしていない。
雖爲五載別,相與昧平生。
五年もの別れをしていたのだけれども、お互いに平生の様子をなにもわからなかったものだ。
舍車遵往路,凫藻馳目成。
秋湖は車をおりて今来た道にしたがって戻った、秋湖は鴨が水草を得て喜んで踊り進むようにして、桑畑に美人に目くばせして「今夜の情交」の約束をしようとした。
南金豈不重?聊自意所輕。
秋湖が贈ろうとした南国産の金はどうして重い値打ちがないであろうか、しかし、秋湖の妻はとにかく自分の心でそれを軽いつまらないものと思ったのである。
義心多苦調,密比金玉聲。
彼女は貞節を重しとするためにお金を拒んだのである。その節義の心は秋湖にとって多くの苦い響きの言葉で語られたが、その声は全く金玉の美しく清い音にも似ていていた。
年往きて誠に思は勞するも、事遠くして音形は闊【とお】し。
五載の別を爲すと雖も、相與に平生に昧し。
車を捨てて往路に遵【したが】ひ、凫藻【ふそう】して目成【もくせい】を馳す。
南金壹重からざらんや。聊【いささか】か自ら意に握んずる所なり。
義心に苦調【くちょう】多し。密に金玉【きんぎょく】の聲に比す。
(7)
高節難久淹,朅來⑼空複辭。遲遲前途盡,依依造門基。上堂拜嘉慶,入室問何之。日暮行采歸,物色桑榆時。美人望昏至,慚歎前相持。
(8)
有懷誰能已?聊用申苦難。離居殊年載,一別阻河關。春來無時豫,秋至恒早寒。明發⑽動愁心,閨中起長歎。慘淒歲方晏,日落遊子顔。
(9)
高張生絕弦,聲急由調起。自昔枉光塵,結言固終始。如何久爲別,百行諐⑾諸己。君子失明義,誰與偕沒齒!愧彼《行露》詩⑿,甘之長川汜⒀。[1]
現代語訳と訳註
(本文) (6)
年往誠思勞,事遠闊音形。
雖爲五載別,相與昧平生。
舍車遵往路,凫藻馳目成。
南金豈不重?聊自意所輕。
義心多苦調,密比金玉聲。
(下し文)
年往きて誠に思は勞するも、事遠くして音形は闊【とお】し。
五載の別を爲すと雖も、相與に平生に昧し。
車を捨てて往路に遵【したが】ひ、凫藻【ふそう】して目成【もくせい】を馳す。
南金壹重からざらんや。聊【いささか】か自ら意に握んずる所なり。
義心に苦調【くちょう】多し。密に金玉【きんぎょく】の聲に比す。
(現代語訳)
年はすぎ往き、誠意や思慕の心は疲れてしまい維持しなかった、それに路は遠く隔たって声も姿も久しく見聞きしていない。
五年もの別れをしていたのだけれども、お互いに平生の様子をなにもわからなかったものだ。
秋湖は車をおりて今来た道にしたがって戻った、秋湖は鴨が水草を得て喜んで踊り進むようにして、桑畑に美人に目くばせして「今夜の情交」の約束をしようとした。
秋湖が贈ろうとした南国産の金はどうして重い値打ちがないであろうか、しかし、秋湖の妻はとにかく自分の心でそれを軽いつまらないものと思ったのである。
彼女は貞節を重しとするためにお金を拒んだのである。その節義の心は秋湖にとって多くの苦い響きの言葉で語られたが、その声は全く金玉の美しく清い音にも似ていていた。
(訳注)
年往誠思勞,事遠闊音形。
年はすぎ往き、誠意や思慕の心は疲れてしまい維持しなかった、それに路は遠く隔たって声も姿も久しく見聞きしていない。
○闊音形 声も姿も見聞きせず久しくなった。○闊 遠く、うとい。通ぜぬこと。
雖爲五載別,相與昧平生。
五年もの別れをしていたのだけれども、お互いに平生の様子をなにもわからなかったものだ。
○相與 ここは「たがいに」ではない。○昧平生 平素のようすがよくわからない。 ○平生 ここは、その昔、かつて。
舍車遵往路,凫藻馳目成。
秋湖は車をおりて今来た道にしたがって戻った、秋湖は鴨が水草を得て喜んで踊り進むようにして、桑畑に美人に目くばせして「今夜の情交」の約束をしようとした。
○遵往路 すぎて来た路に引きかえす。・凫藻馳目成 凫はかも。かもが水藻を得て喜び躍るように、進んで美女と目くばせして情交を約束する。目成は目で約束する。楚辞九歌に「满堂兮美人,忽独与余兮目成」堂に满ちて美人あるに,忽ち独だ与に余と目成す。
○凫藻 呂延済は「秋胡が共の妻を望み匹肋(怠むこと、殆鳥の水草を俳で、猷び尿りて言むがごとし)という。○目成 自分の思いを成しとぐべく目くばせすること。ここは「いどむ」ため。
南金豈不重?聊自意所輕。
秋湖が贈ろうとした南国産の金はどうして重い値打ちがないであろうか、しかし、秋湖の妻はとにかく自分の心でそれを軽いつまらないものと思ったのである。
○南金 詩経 魯頌 泮水篇に「元龜象齒,大賂南金。」(元亀象俳、大南金を賂(おく)る」。南方の荊州・揚州に産する黄金。・聊自穿所輯 とにかく自分では心に輕んじた。 秋湖の妻の思い:
義心多苦調,密比金玉聲。
彼女は貞節を重しとするためにお金を拒んだのである。その節義の心は秋湖にとって多くの苦い響きの言葉で語られたが、その声は全く金玉の美しく清い音にも似ていていた。
○義心 義とは、夫蛸の道をさす。○多苦調 聞く者の心に苦しい響きの言葉が多い。○密 ひそかに、ひそめる。○金玉声 ここは秋胡自身の聲。毛詩の小雅、白駒篇に「爾の音を金玉にして、遐心有る毋かれ」という。音は声。金玉にすとは、愛惜(おしむ)。出すことを、おしむ。