謝靈運 《擬魏太子鄴中集詩八首 王粲》
ありがたいことには、公と公子(曹丕)とに遇って幸福が重なり、公子(曹丕)は特にまずわれを賞識されたのだ。
もともと吾は戦乱に悩むのあまり暫く肩をやすめたいと願っていただけなのに、今日のごとく公子にもあい、恩遇をうけようとは、思いがけなかったことである。
2013年5月31日 | 同じ日の紀頌之5つのブログ |
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《擬魏太子鄴中集詩八首 王粲》 謝靈運 六朝詩<79-#3>文選 雜擬 上 781 漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ2453
王粲
家本秦川,貴公子孫,
王粲の郷里はもと秦川で、門閥なる貴公子孫であるが、
遭亂流寓,自傷情多。
戦乱にあい他郷に身をよせていたので、悲しみいたむ情が多い。
幽厲昔崩亂,桓靈今板蕩。
むかし周の幽王・属王のとき天下は乱れきったが、今、後漠の桓帝・霊帝の世も甚だ乱れされた。
伊洛既燎煙,函崤沒無像。
伊水・洛水の洛陽地方は焼きつくされ、函谷関から長安地方も陥れられ、前のおもかげもないほど荒廃した。
整裝辭秦川,秣馬赴楚壤。
それでわれは旅装を整え馬にまぐさかって、秦州を去り楚の地なる剤州に行き劉表にたよったのである。
#2
沮漳自可美,客心非外獎。
その地の沮水・漳水の風景はもとより美しいにはちがいないが、旅愁になやむわが身をこの実景も引きとめられないのである。
常歎詩人言,式微何由往。
いつも詩経の式微の詩の作者の言に感じなげいて帰りたかったが、どうしても帰るすべがなかった。
上宰奉皇靈,侯伯咸宗長。
時あたかも丞宰の曹操は献帝の威命を奉じて天下にのぞみ、諸侯はみな官公を尊び長として従った。
雲騎亂漢南,紀郢皆掃蕩。
かくて官公大軍、雲のごとく多い騎馬兵は漢水南の乱れをしずめ、楚の紀県・郢県の地方はみな平定された。
排霧屬盛明,披雲對清朗。
そして雲霧をはらいのけて青天白日をのぞんだのだ。昏乱がしずまって盛明清朗なる官公に従い仕えることができた。
#3
慶泰欲重疊,公子特先賞。
ありがたいことには、公と公子(曹丕)とに遇って幸福が重なり、公子(曹丕)は特にまずわれを賞識されたのだ。
不謂息肩願,一旦值明兩。
もともと吾は戦乱に悩むのあまり暫く肩をやすめたいと願っていただけなのに、今日のごとく公子にもあい、恩遇をうけようとは、思いがけなかったことである。
並載游鄴京,方舟泛河廣。
かくて公子とともに車を並べて乗って鄴京に遊んだり、舟をならべて広い河に浮べたりする。
綢繆清燕娛,寂寥梁棟響。
また、まつわりつつむように親しい清宴の楽しみにあずかり、梁棟をめぐりひびく静探なる歌声の音楽を聞くこともできた。
既作長夜飲,豈顧乘日養!
このようにして夜どおしの宴などをしているのだから、日輪の車に乗って出道する楽しみなどどうして厭うことがあろうか。
(王粲)
家は本々 秦川にして、貴公の子孫なり。
乱に遭ひて流寓し、自ら傷みて情多し。
幽厲のとき昔崩乱し、桓霊のとき今板蕩す。
伊洛は既に燎煙せられ、函崤は沒して像無し。
裝を整へて秦川を辞し、馬に秣ひて楚壤に赴く。
#2
沮漳は自ら美なる可きも、客心は外奨に非ず。
常に詩人の言を歎く、式微何に由りてか往かん。
上宰は皇靈を奉じ、侯伯は咸宗長とす。
雲騎は漢南を乳め、紀邸は皆掃塗せらる。
霧を排して盛明に属し、雲を披いて清朗に対す。
#3
慶泰は重畳を欲し、公子は特り先づ賞す。
謂はざりき、肩を息はすの願、一旦明兩に値はんとは。
載を遊べて鄴京に遊び、舟を方べて河の廣きに汎ぶ。
綢繆たり清燕の娛しみ、寂蓼たり梁棟の響。
既に長夜の飲を作す、豈に乘日の養を顧みんや。
『擬魏太子鄴中集詩八首』 現代語訳と訳註
(本文) #3
慶泰欲重疊,公子特先賞。
不謂息肩願,一旦值明兩。
並載游鄴京,方舟泛河廣。
綢繆清燕娛,寂寥梁棟響。
既作長夜飲,豈顧乘日養!
(下し文) #3
慶泰欲重疊,公子特先賞。
不謂息肩願,一旦值明兩。
並載游鄴京,方舟泛河廣。
綢繆清燕娛,寂寥梁棟響。
既作長夜飲,豈顧乘日養!
(現代語訳) #3
ありがたいことには、公と公子(曹丕)とに遇って幸福が重なり、公子(曹丕)は特にまずわれを賞識されたのだ。
もともと吾は戦乱に悩むのあまり暫く肩をやすめたいと願っていただけなのに、今日のごとく公子にもあい、恩遇をうけようとは、思いがけなかったことである。
かくて公子とともに車を並べて乗って鄴京に遊んだり、舟をならべて広い河に浮べたりする。
また、まつわりつつむように親しい清宴の楽しみにあずかり、梁棟をめぐりひびく静探なる歌声の音楽を聞くこともできた。
このようにして夜どおしの宴などをしているのだから、日輪の車に乗って出道する楽しみなどどうして厭うことがあろうか。
(訳注)
擬魏太子鄴中集詩八首 王粲
(177年熹平6年 - 217年建安22年)は、中国後漢末期の文学者・学者・政治家。字は仲宣。曾祖父は王龔(後漢の三公)。祖父は王暢(後漢の三公)。父は王謙。王凱の従兄弟。子は男子二名。兗州山陽郡高平県(現山東省)の人。文人としても名を残したため、建安の七子の一人に数えられる。
慶泰欲重疊,公子特先賞。
ありがたいことには、公と公子(曹丕)とに遇って幸福が重なり、公子(曹丕)は特にまずわれを賞識されたのだ。
・泰 ①ゆったりと落ち着いている。②はなはだしい。③とおる。通。④おごり高ぶる。⑤やすらか。⑥なめらか。
・欲重畳 「欲」は、李周翰によれば、欣の意。
不謂息肩願,一旦值明兩。
もともと吾は戦乱に悩むのあまり暫く肩をやすめたいと願っていただけなのに、今日のごとく公子にもあい、恩遇をうけようとは、思いがけなかったことである。
・息肩 荷物をおろして肩をやすめる。戦乱に悩むのあまりというほどの意味。
・明両 曹操は明、曹丕も明、故に「明両」といった。ただし、ここでは、主として曹丕をさす。
並載游鄴京,方舟泛河廣。
かくて公子とともに車を並べて乗って鄴京に遊んだり、舟をならべて広い河に浮べたりする。
綢繆清燕娛,寂寥梁棟響。
また、まつわりつつむように親しい清宴の楽しみにあずかり、梁棟をめぐりひびく静探なる歌声の音楽を聞くこともできた。
・綢繆 ①まつわりつくこと。また、糸などをからめて結ぶこと。②むつみあうこと。なれしたしむこと。
・梁棟響 梁と棟をめぐりひびく歌声の音楽のいいことをいう。梁塵 1 梁(はり)の上に積もっているちり。梁上のちり。 2 《「梁塵を動かす」の故事から》すぐれた歌声。また、歌謡。音楽。
既作長夜飲,豈顧乘日養!
このようにして夜どおしの宴などをしているのだから、日輪の車に乗って出道する楽しみなどどうして厭うことがあろうか。
・長夜飲 古くは、尉王がそれをした。
・乘日 太陽をのせて走る車の御者。神話中の人物である。「楚辞」離巌に「吾義和をして節を辞めしめ云云」と見える。 太陽神の乗る、六頭立ての竜の引く車。義和という御者がそれを御して大空を東から西にめぐる、という神話に基づく。