李白《巻08-40 贈嵩山焦煉師 并序 -(2)》そこには、許由と巣父の故事にいう耳を洗ったし、弾いてきた牛に飲ませなかった高潔の隠士の理想の姿をうんできた穎水があり、仙界へ載せて行ってくれる鶴が舞い踊る渭水のほとりにやってくる。
172-#3 《巻08-40 贈嵩山焦煉師 并序 -(2)》Index-11 Ⅱ―6 -731年開元十九年31歳 43首 <172-#3> Ⅰ李白詩1386 kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ5478
年:731年開元十九年31歳
卷別: 卷一六八 文體: 五言古詩
詩題: 贈嵩山焦鍊師
作地點: 嵩山(都畿道 / 河南府 / 嵩山)
及地點: 嵩山 (都畿道 河南府 嵩山) 別名:嵩高山、嵩、嵩丘、嵩高
少室山 (都畿道 河南府 少室山)
交遊人物:焦鍊師 書信往來(都畿道 河南府 嵩山)
《巻08-40 贈嵩山焦煉師 并序 -(0)》
(0)贈嵩山焦鍊師 并序
(嵩山に隠遁している焦という徳の高いにこの詩 并びに序文を贈る)
嵩丘有神人焦鍊師者,不知何許婦人也,又云生於齊梁時。
嵩山に神仙のひとである焦鍊師がいる、何処で生まれたのか生母が誰なのかのもわからないのであり、また、齊梁の時代に生れたともいう。
其年貌可稱五六十,常胎息絕穀,居少室廬,遊行若飛,倏忽萬里。
その年貌を見ると五六十歳と称すべく、平生、胎息を為し、また穀物を絶ち、少室山中の草盧におり、遊行すればその速くゆくのは飛び様であり、忽ちの間に、万里を行ってしまうという。
世或傳其入東海,登蓬萊,竟莫能測其往也。
世間では、あるいは傳えて、東海に入って、蓬莱山に登ったこともあるといい、ついにその行くところを測ることができない。
余訪道少室,盡登三十六峰,聞風有寄,灑翰遙贈。
予は、神仙の道を少室山中に尋ねようとし、ことごとく三十六峰に登った。その時、焦鍊師の道士修業の徳高く思精であることを伝聞していることにより、これに詩を寄せんとし、紙に書きつけて、遙かに贈った。
《巻08-40 贈嵩山焦煉師 并序 -(1)》
(1)贈嵩山焦鍊師
(嵩山に隠遁している焦という徳の高いにこの詩 并びに序文を贈る)
二室凌青天,三花含紫煙。
大室山、少室山の二山は、嶷峨として青天を凌いでいる。一年に三回花をつける貝多樹は、仙界の紫煙をふくんでいる。
中有蓬海客,宛疑麻姑仙。
この間に住む焦煉師は、蓬莱から来た客であって、宛として麻姑山にいる仙人と疑われる。
道在喧莫染,跡高想已綿。
煉師の道は儼然として存在し、浮世の塵囂も、これを汚すことなく、その足音高くして、玄想が絶えない。
時餐金鵝蕊,屢讀青苔篇。
時にあっては、桂花の蕊を食らい、しばしば靑苔の様な色紙に書かれた道家の秘訣を読みふけっていた。
《巻08-40 贈嵩山焦煉師 并序 -(2)
八極恣遊憩,九垓長周旋。
八絃に外に八極の表に遊憩をほしいままにし、九天も外にある九垓のほとりに立って長しえにのんびりとめぐりあるく。
下瓢酌潁水,舞鶴來伊川。
そこには、許由と巣父の故事にいう耳を洗ったし、弾いてきた牛に飲ませなかった高潔の隠士の理想の姿をうんできた穎水があり、仙界へ載せて行ってくれる鶴が舞い踊る渭水のほとりにやってくる。
還歸空山上,獨拂秋霞眠。
やがて、また空けていた東の太室山に帰り、ひとり秋霞を払って、そこに静かに眠る。
蘿月掛朝鏡,松風鳴夜弦。
朝、羅にかかる名残月は皓然として鏡の様であり、夜になれば、吹きすさぶ松風は瑟瑟として絃を爪弾いた琴の音のように響き渡る。
(3)
潛光隱嵩嶽,鍊魄棲雲幄。
霓裳何飄颻,鳳吹轉綿邈。
願同西王母,下顧東方朔。
紫書儻可傳,銘骨誓相學。
(0)(嵩山の焦鍊師に贈る 并びに序)
嵩丘に神人焦鍊師という者有り,何許【いずこ】の婦人なるを知らざるなり,又た云う齊梁の時に生る、と。
其の年貌 五六十と稱すべく,常に胎息して穀を絕ち,少室の廬に居り,遊行飛ぶが若く,倏忽【しゅくこつ】萬里。
世 或いは其の東海に入り,蓬萊に登るを傳う,竟に能く測其の往くを莫きなり。
余 道を少室に訪い,盡く三十六峰に登り,風を聞いて寄する有り,翰を灑いで遙かに贈る。
(1) (嵩山の焦鍊師に贈る)
二室 青天を凌ぎ,三花 紫煙を含む。
中に蓬海の客有り,宛として麻姑の仙かと疑う。
道 在り 喧 染む 莫し,跡 高く 想い 已に綿たり。
時に金鵝【きんが】の蕊を餐し,屢しば青苔の篇を讀む。
(2)
八極 遊憩を恣にし,九垓 長く周旋す。
瓢を下して潁水を酌み,鶴を舞わして伊川に來る。
還た歸る 空山の上,獨り秋霞を拂うて眠る。
蘿月 朝鏡を掛け,松風 夜弦を鳴らす。
(3)
光を潛めて 嵩嶽に隱れ,魄を鍊って 雲幄【うんあく】に棲む。
霓裳【げいしょう】何ぞ飄颻たらん,鳳吹 轉【うた】た綿邈【めんぼく】。
願わくば西王母に同じく,下に東方朔を顧りみん。
紫書 儻【も】し傳う可くんば,骨に銘じて誓って相い學ばん。
《巻08-40 贈嵩山焦煉師 并序 -(2)
『贈嵩山焦煉師 并序』 現代語訳と訳註解説
(本文)
(2)
八極恣遊憩,九垓長周旋。
下瓢酌潁水,舞鶴來伊川。
還歸空山上,獨拂秋霞眠。
蘿月掛朝鏡,松風鳴夜弦。
(下し文) (2)
八極 遊憩を恣にし,九垓 長く周旋す。
瓢を下して潁水を酌み,鶴を舞わして伊川に來る。
還た歸る 空山の上,獨り秋霞を拂うて眠る。
蘿月 朝鏡を掛け,松風 夜弦を鳴らす。
(現代語訳)
八絃に外に八極の表に遊憩をほしいままにし、九天も外にある九垓のほとりに立って長しえにのんびりとめぐりあるく。
そこには、許由と巣父の故事にいう耳を洗ったし、弾いてきた牛に飲ませなかった高潔の隠士の理想の姿をうんできた穎水があり、仙界へ載せて行ってくれる鶴が舞い踊る渭水のほとりにやってくる。
やがて、また空けていた東の太室山に帰り、ひとり秋霞を払って、そこに静かに眠る。
朝、羅にかかる名残月は皓然として鏡の様であり、夜になれば、吹きすさぶ松風は瑟瑟として絃を爪弾いた琴の音のように響き渡る。
(訳注) (2)
(2)贈嵩山焦鍊師
(嵩山の焦鍊師に贈る 并びに序)
(嵩山に隠遁している焦という徳の高いにこの詩 并びに序文を贈る)
嵩山は、五岳の中にあるので中岳という。中国河南省登封市にある山岳群である。
同時期の詩として以下がある。内容も同一範囲にあるものである。
170(改訂版) 《巻06-08 元丹丘歌》Index-11 Ⅱ―6 -731年開元十九年31歳 43首 <170> Ⅰ李白詩1382 kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ5458
171 《巻08-35 贈華州王司士》Index-11 Ⅱ―6 -731年開元十九年31歳 43首 <171> Ⅰ李白詩1383 kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ5463
八極恣遊憩,九垓長周旋。
八絃に外に八極の表に遊憩をほしいままにし、九天も外にある九垓のほとりに立って長しえにのんびりとめぐりあるく。
八極・九垓 瑟絃の八絃の外にある仙界の音源の八極。九天も外にある仙界の九垓のほとりという意。
周旋『元丹丘歌』「元丹丘,愛神仙。朝飲潁川之清流,暮還嵩岑之紫煙。三十六峰長周旋,長周旋。」嵩山の三十六峰の間をのんびりとめぐりあるくこと。
下瓢酌潁水,舞鶴來伊川。
そこには、許由と巣父の故事にいう耳を洗ったし、弾いてきた牛に飲ませなかった高潔の隠士の理想の姿をうんできた穎水があり、仙界へ載せて行ってくれる鶴が舞い踊る渭水のほとりにやってくる。
下瓢 穎水についての許由と巣父の故事を暗用するもの。許由・巣父はともに中国古代の伝説上の帝王堯(ぎょう)の時代の高士。許由は、堯が自分に帝位を譲ろうというのを聞いて汚れた耳を頴川で洗って箕山に隠れ、巣父は、そのような汚れた川の水は飲ませられないと牽いてきた牛にその川の水を飲ませなかった、という。俗世に汚れることを忌み嫌う高潔の隠士の理想の姿としているもの。
潁水 穎水の源は少室山。
伊川 洛陽の前を流れる川。
還歸空山上,獨拂秋霞眠。
やがて、また空けていた東の太室山に帰り、ひとり秋霞を払って、そこに静かに眠る。
空山 別に東山とある。東を太室と云い、西を少室という。南は登封に跨り、北は鞏邑に跨り、西は洛陽に跨り、東は密縣に跨る。
蘿月掛朝鏡,松風鳴夜弦。
朝、羅にかかる名残月は皓然として鏡の様であり、夜になれば、吹きすさぶ松風は瑟瑟として絃を爪弾いた琴の音のように響き渡る。