李白 巻15-13 送楊少府赴選 ―♯3 我々はもとより、功名富貴に意があるわけではなく、知人が栄遷したからといって、冠を弾じて相い慶するというようなことはないが、ここに感動して別れするにあたって、胸襟を開いて心に思うことを十分の述べるのである。そして、この野に遺賢なく、したがって白駒で空谷に乗り込むような人を見る事は無く、賢人も悲吟する必要もない。
209-#3 《巻15-13 送楊少府赴選 -#3》Index-13 Ⅱ― 8-733年開元二十一年33歳 <209-#3> Ⅰ李白詩1445 kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ5773
年:733年開元二十一年33歳
卷別: 卷一七五 李太白集巻十五 13 文體: 五言古詩
詩題: 送楊少府赴選
作地點: 安陸(淮南道 / 安州 / 安陸)
交遊人物/地點:楊少府 當地交遊(淮南道 安州 安陸)
送楊少府赴選
(楊少府が縣尉の職によく任えて栄遷のため都に上京するのをおくる)
大國置衡鏡,準平天地心。
大国には詮衡の職が設置されており、その職の者は天地の心に準平せしむることに勤めて、その官に適うものはどしどし登庸するのである。
群賢無邪人,朗鑒窮情深。
こうして群賢の中には奸佞の小人はいないので、その鑑別も明鏡の如く、情深を極め、決して濁乱浅薄のものではない。
吾君詠南風,袞冕彈鳴琴。
今、吾らの天子は、古の虞舜のように、孝行を教える「南風」詩を吟詠して天下自ずから治まり、画衣冠冕を召して、鳴琴をきいていられる。
時泰多美士,京國會纓簪。【時泰多英士、京國富纓簪】
この時代、安泰して、美才の士も多く、京國には公卿を會して、さすがに衣冠の府たるにそむかない。
山苗落澗底,幽松出高岑。
もとより、山苗は落ちて澗底にあるのであって、幽松は高岑の上に植えられ伸び出るべきもので、才器に随って高下し、その場に適応する能力を持っている。
夫子有盛才,主司得球琳。
楊君は、それほどに盛才あるがゆえに、上司の者はこれを選挙し、見事な崑崙の美玉のように扱ってくれるはずである。
流水非鄭曲,前行遇知音。
かの伯牙の琴を鼓いた「流水の曲」は「鄭衛の曲」が動けば心は淫するではいけないもので、鍾子期にあらざれば、これを賞する人も少なくないが、君は幸いにも知音と呼べる人がと出遭って、今次、選に赴くので、まことにめでたいことである。
衣工剪綺繡,一誤傷千金。
かの着物の仕立屋が、錦繍綺羅を裁断するときに一度誤って裁断すると、千金を台無しにするというものだ。
何惜刀尺餘,不裁寒女衾。
刀尺の餘りの裁断ミスの残り屑では、いくら物が良くても寒女の衾に裁縫する事さえできない。こうして、人才を選赴するのに推薦されるというのも容易なことではなく、選赴で上京する以上、頑張ってもらいたいものである。
我非彈冠者,感別但開襟。
我々はもとより、功名富貴に意があるわけではなく、知人が栄遷したからといって、冠を弾じて相い慶するというようなことはないが、ここに感動して別れするにあたって、胸襟を開いて心に思うことを十分の述べるのである
空谷無白駒,賢人豈悲吟。
そして、この野に遺賢なく、したがって白駒で空谷に乗り込むような人を見る事は無く、賢人も悲吟する必要もない。
大道安棄物,時來或招尋。
世間に棄てられた不遇の者も、大道に安んじて、やがて、時が来れば招尋されるということである。
爾見山吏部,當應無陸沈。
君を選赴した主司は、昔の山濤の様な人で、こういう人がおれば、水なくして沈むように、無理に隠遁する者もいないはずであり、今後にも期待が持てるということである。
(楊少府の赴選さるを送る)
大國 衡鏡を置き,天地の心を準平す。
群賢 邪人無く,朗鑒【ろうかん】 情深を窮む。
吾が君 南風を詠じ,袞冕【こんべん】鳴琴を彈ず。
時 泰にして 美士多く,京國 纓簪【えいしん】を會す。
山苗 澗底に落ち,幽松 高岑に出づ。
夫子 盛才有り,主司 球琳を得る。
流水 鄭曲に非ず,前行 知音に遇う。
衣工 綺繡を剪り,一誤 千金を傷む。
何ぞ惜まん 刀尺の餘,寒女の衾を裁せず。
我 彈冠の者に非ず,別に感じて 但だ襟を開く。
空谷に 白駒無し,賢人 豈に悲吟せんや。
大道 棄物を安じて,時來って或は招尋せる。
爾見よ 山吏部,當に應に陸沈無かるべし。
『送楊少府赴選』 現代語訳と訳註解説
(本文)
何惜刀尺餘,不裁寒女衾。
我非彈冠者,感別但開襟。
空谷無白駒,賢人豈悲吟。
大道安棄物,時來或招尋。
爾見山吏部,當應無陸沈。
(下し文)
何ぞ惜まん 刀尺の餘,寒女の衾を裁せず。
我 彈冠の者に非ず,別に感じて 但だ襟を開く。
空谷に 白駒無し,賢人 豈に悲吟せんや。
大道 棄物を安じて,時來って或は招尋せる。
爾見よ 山吏部,當に應に陸沈無かるべし。
(現代語訳)
刀尺の餘りの裁断ミスの残り屑では、いくら物が良くても寒女の衾に裁縫する事さえできない。こうして、人才を選赴するのに推薦されるというのも容易なことではなく、選赴で上京する以上、頑張ってもらいたいものである。
我々はもとより、功名富貴に意があるわけではなく、知人が栄遷したからといって、冠を弾じて相い慶するというようなことはないが、ここに感動して別れするにあたって、胸襟を開いて心に思うことを十分の述べるのである
そして、この野に遺賢なく、したがって白駒で空谷に乗り込むような人を見る事は無く、賢人も悲吟する必要もない。
世間に棄てられた不遇の者も、大道に安んじて、やがて、時が来れば招尋されるということである。
(訳注)
送楊少府赴選
(楊少府が縣尉の職によく任えて栄遷のため都に上京するのをおくる)
楊少府 縣尉であった楊某。地方職官名。與縣丞同為古時縣令(或縣長)的首要辅佐官吏
赴選 縣尉の職によく任えて、政績彰、顕著であることで、これを選んで、都に上らせ、他の職に栄遷させることをいう。・撰/選:人を選んで役職に就ける。
何惜刀尺餘,不裁寒女衾。
刀尺の餘りの裁断ミスの残り屑では、いくら物が良くても寒女の衾に裁縫する事さえできない。こうして、人才を選赴するのに推薦されるというのも容易なことではなく、選赴で上京する以上、頑張ってもらいたいものである。
我非彈冠者,感別但開襟。
我々はもとより、功名富貴に意があるわけではなく、知人が栄遷したからといって、冠を弾じて相い慶するというようなことはないが、ここに感動して別れするにあたって、胸襟を開いて心に思うことを十分の述べるのである
彈冠 「貢禹彈冠」のことで冠を弾じて相い慶すること、《漢書·王吉傳》:“吉與貢禹為友,世稱'王陽在位,貢公彈冠'。言其取捨同也。”にもとづくもの。
空谷無白駒,賢人豈悲吟。
そして、この野に遺賢なく、したがって白駒で空谷に乗り込むような人を見る事は無く、賢人も悲吟する必要もない。
白駒 “賢を用うる能わず、賢人 白駒に乗じて去者有り。”に基づく。《毛萇、詩傳》「白駒、大夫、刺宣王也。宣王之末、不能用賢、賢人有乗白駒而去者。」其末章云「皎皎白駒在彼空谷生芻楚俱切一束其人如玉毋音無金玉爾音而有遐心。」
大道安棄物,時來或招尋。
世間に棄てられた不遇の者も、大道に安んじて、やがて、時が来れば招尋されるということである。
爾見山吏部,當應無陸沈。
君を選赴した主司は、昔の山濤の様な人で、こういう人がおれば、水なくして沈むように、無理に隠遁する者もいないはずであり、今後にも期待が持てるということである。
山吏部 山濤 吏部尚書のこと。晉書 「其以濤爲吏部尚書。”濤辭以喪病,章表懇切。會元皇后崩,遂扶興還洛。逼迫詔命,自力就職。前後選擧,周遍内外,而並得其才。濤所奏甄拔人物,各爲題目,時稱《山公啟事》。」とある。
陸沈 “大隠は市に隠る”の意である成語。 俗人と共に暮らし、表面は俗人と同様の生活を営みながら隠者として暮らすあり方を形容した言葉である。けだし妙であるという言葉であり、荘子・雑篇の則陽に、『陸沈者』として出てくる。