李白 長門怨,二首之一
天迴北斗掛西樓,金屋無人螢火流。
月光欲到長門殿,別作深宮一段愁。
(秋の夜、夜空を眺めて、星、月の動きを見て、漢の陳皇后の怨情を思い、司馬相如に倣い詠ったもの)
天は北斗七星を廻転させ、宮中の西楼の屋根に星がかかり、皇后は阿嬌を藏すといったあの黄金造りの御殿には長門宮に追い出されたので人影はなく、ホタルの光だけが不気味に流れ飛び、秋は深まって人を感思せしめる。やがて、月の光が陳皇后の退居する長門殿に差し込んで来ようとしたころには、
眠れぬ夜に、更に一段の愁いが増してゆくことであろう。
李太白集 巻二十四41 |
長門怨二首 其一 |
漢文委員会kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ7410 |
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Index-23 |
743年天寶二年43歳 |
94首-(90) |
409 <1000> |
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年:743年天寶二年43歳 94首-(90)
卷別: 卷一八四 文體: 七言絕句
詩題: 長門怨,二首之一
作地點: 長安(京畿道 / 京兆府 / 長安)
及地點: 長門宮 (京畿道 京兆府 長安) 別名:長門殿
交遊人物/地點:
詩文:
長門怨,二首之一
(秋の夜、夜空を眺めて、星、月の動きを見て、漢の陳皇后の怨情を思い、司馬相如に倣い詠ったもの)
天迴北斗掛西樓,金屋無人螢火流。
天は北斗七星を廻転させ、宮中の西楼の屋根に星がかかり、皇后は阿嬌を藏すといったあの黄金造りの御殿には長門宮に追い出されたので人影はなく、ホタルの光だけが不気味に流れ飛び、秋は深まって人を感思せしめる。
月光欲到長門殿,別作深宮一段愁。
やがて、月の光が陳皇后の退居する長門殿に差し込んで来ようとしたころには、 眠れぬ夜に、更に一段の愁いが増してゆくことであろう。
(長門怨,二首の一)
天は北斗を囘らして西樓に挂かり、金屋 人無く 螢火流る。
月光 到らんと欲す 長門殿、別に作す 深宮一段の愁。
『長門怨,二首之一』 現代語訳と訳註解説
(本文)
長門怨,二首之一
天迴北斗掛西樓,金屋無人螢火流。
月光欲到長門殿,別作深宮一段愁。
(下し文)
(長門怨,二首の一)
天は北斗を囘らして西樓に挂かり、金屋 人無く 螢火流る。
月光 到らんと欲す 長門殿、別に作す 深宮一段の愁。
(現代語訳)
長門怨,二首之一 (秋の夜、夜空を眺めて、星、月の動きを見て、漢の陳皇后の怨情を思い、司馬相如に倣い詠ったもの)
天は北斗七星を廻転させ、宮中の西楼の屋根に星がかかり、皇后は阿嬌を藏すといったあの黄金造りの御殿には長門宮に追い出されたので人影はなく、ホタルの光だけが不気味に流れ飛び、秋は深まって人を感思せしめる。
やがて、月の光が陳皇后の退居する長門殿に差し込んで来ようとしたころには、 眠れぬ夜に、更に一段の愁いが増してゆくことであろう。
長門怨
(秋の夜、夜空を眺めて、星、月の動きを見て、漢の陳皇后の怨情を思い、司馬相如に倣い詠ったもの)
1 長門怨 《樂府古題要解》「長門怨、為漢武帝陳皇后作也。後長公主嫖女字阿嬌。及衛子夫得幸、後退居長門宮、愁悶悲思、聞司馬相如工文章、奉黃金百斤令為解愁之詞。相如作長門賦。帝見而傷之複得親幸者數年。後人因其賦為長門怨焉。」(長門怨は、漢の武帝の陳皇后の為に作る也。後は長公主嫖の女、字は阿嬌。衛子夫幸を得るに及び、後、退いて長門宮に居り、愁悶悲思し、司馬相如の文章に工なるを聞き、黃金百斤を奉じて、解愁の詞を為らしむ。相如長門賦を作る。帝見て、之を傷み複た親幸を得るもの數年。後人、其の賦に因って長門怨を為る。)
古くからある歌謡の題。漢の武帝の陳皇后のために作られたものである。陳皇后は、幼い頃は阿嬌とよばれ、いとこに当る武帝のお気にいりであったが、帝の寵愛が衛子夫(のちに皇后)に移ると、ひどいヤキモチをやいたので、ついに長門宮に幽閉された。長門宮は、長安の東南の郊外にある離宮である。悶悶と苦しんだ彼女は、当時の文豪、司馬相如にたのみ、黄金百斤を与えて、帝の気持をこちらへ向けなおすような長い韻文を作ってもらった。これが「長門の賦」である。後世の人は、その話にもとづき「長門怨」という歌をつくった。
《三輔黄圖、巻三、甘泉宮》「長門宮,離宮,在長安城。孝武陳皇后得幸,頗妬,居長門宮。」
《長安志、巻四》「長門宮:武帝陳皇后退居長門宮、沅按宮在長安故城之東。」
天囘北斗挂西樓。 金屋無人螢火流。
天は北斗七星を廻転させ、宮中の西楼の屋根に星がかかり、皇后は阿嬌を藏すといったあの黄金造りの御殿には長門宮に追い出されたので人影はなく、ホタルの光だけが不気味に流れ飛び、秋は深まって人を感思せしめる。
2 北斗 北斗七屋。
3 西楼 長安の宮中の西楼。長門宮が長安東に上林苑の中に離宮としてあるので、天子のいる宮殿は西にある。
4 金屋 金づくりの家。武帝は少年の日、いとこの阿嬌が気に入って言った。「もし阿嬌をお嫁さんにもらえたら、黄金づくりの家(金屋)に入れてあげるといい、建設された宮殿。
124巻三35妾薄命 |
「漢帝寵阿嬌。 貯之黃金屋。」 |
147巻四22宮中行樂詞八首 其一 |
「小小生金屋。 盈盈在紫微。 」 |
931巻二十四42長門怨二首 其二 |
「天回北斗挂西樓、金屋無人螢火流。」 |
939巻二十四50怨情 |
「請看陳后黃金屋。 寂寂珠帘生網絲。」 |
宮中行樂詞八首其一 李白 :Kanbuniinkai紀頌之の漢詩 李白141
5 螢火流 句の上にある“金屋”が“北斗”と関連して金星が流れるということで、春夏と過ぎ秋になることを言う。「火」とか「大火」と呼ばれる。陰暦七月末から西に流れる。李白《黄葛篇》「蒼梧大火落、暑服莫輕擲。」
越何の地方、蒼梧県だといっても大火の星が西に流れると秋が来るのだ、軽はずみに夏服だと思って投げ出すことがあってはならない。
黄葛篇 李白 Kanbuniinkai紀頌之の漢詩 李白特集350 -237
月光欲到長門殿。 別作深宮一段愁。
やがて、月の光が陳皇后の退居する長門殿に差し込んで来ようとしたころには、 眠れぬ夜に、更に一段の愁いが増してゆくことであろう。
長門殿にはやきもちの憂いが漂っている、後宮において皇帝の寵愛を受けている時分、悶々とした怨が最高潮に達する。
(長門怨,二首の一)
天は北斗を囘らして西樓に挂かり、金屋 人無く 螢火流る。
月光 到らんと欲す 長門殿、別に作す 深宮一段の愁。
長門怨,二首之一
天迴北斗掛西樓,金屋無人螢火流。
月光欲到長門殿,別作深宮一段愁。
6 【阿嬌/陳皇后】
6 【阿嬌/陳皇后】 |
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108巻三19白頭吟 |
「此時阿嬌正嬌妒、獨坐長門愁日暮。」 |
108巻三19白頭吟 |
「聞道阿嬌失恩寵、千金買賦要君王。」 |
124巻三35妾薄命 |
「漢帝寵阿嬌。 貯之黃金屋。」 |
939巻二十四50怨情 |
「請看陳后黃金屋。 寂寂珠帘生網絲。」 |
李白《妾薄命》
漢帝寵阿嬌,貯之黃金屋。咳唾落九天,隨風生珠玉。
寵極愛還歇,妒深情卻疏。長門一步地,不肯暫迴車。
雨落不上天,水覆難再收。君情與妾意,各自東西流。
昔日芙蓉花,今成斷根草。以色事他人,能得幾時好。
漢帝 阿嬌 寵【いつく】
しむ、之を黃金の屋に貯【おさ】む。
咳唾【がいだ】 九天に落つ、風隨う 珠玉 生ず。
寵極 愛 還た歇【つきる】、妒み深く 情 卻く疏【うと】んず。
長門 一たび 地を步む、肯って 暫く 回車されず。
雨落 天に上らず、水覆 再び收り難し。
君情 與 妾意、各々自ら 東西に流る。
昔日 芙蓉の花,今 成る 斷根の草。
色を以て 他人に事【つか】へ,能【よ】く 幾時【いくとき】の 好【よろし】きを 得たりや。
(漢武帝最初の皇后、幼い時から絶頂期の皇后の時を経て、長門宮に幽閉、何時とはわからず寂しく死んでいった、産んだ子が皇帝にならなければ、皇后でさえもその運命はわからない、寵愛という不確かなものにすがって生きることを詠っている)
漢の武帝は幼少のときともに遊んだ阿嬌を見初め、いつくしんだ、そして、「好!若得阿嬌作婦,當作金屋貯之也。」といい、皇太子妃となって黄金の御殿に迎えて、ついに皇后となされた。
そこで阿嬌は、君寵をえて、その権力と勢力の盛んなことは、九天の上で吐く唾が風に乗って人に落ちると、それがやがて珠玉に化するという有様であった。
子の寵愛、貴盛が極限まで行ったが、ひとたびその寵愛を失うと実にあさましいものである、もともと、我儘で、嫉妬深い気性は、その情が密で、深いことが度が過ぎて仇になり、嫉妬心が陰謀策力に変わり、深く人の心も疎んじていった。
誰も振り返らず、司馬相如の賦を買い、一時は寵愛が戻るも、ついに、長門宮に幽閉され、一切の接触をたたれ、君の御所とはわずかに一歩を隔てるも、その後、君の輦車を回して立ち寄られることはなくなった。
雨は落ちてくるものであり、天にむかって上がることはい、こぼされた水は再び元の碗に収まることはないのだ。天子の愛情と后妃の思いとが合致していたけれど、ちょうど流れる水が、それぞれ自然に西と東に別れて流れさったようなものだ。昔は確かに、芙蓉の花のように 華麗に咲く花のような后妃であったが、それも廃位となった今はただ、根無し草となり、飛蓬のように、零落して各地を流浪するしかなくなったのだ。子孫繁栄のため、色香だけを求められ、それをもって、人につかえることしかできないものが、一体どれほどの期間、すばらしい時間を得ることができるというのだろうか。(皇位継承のめどが立てば、後は気ままに寵愛を行うのは習わしであるから、すぐに捨てられるのである。)
李白 《巻三19白頭吟》
「此時阿嬌正嬌妒,獨坐長門愁日暮。」(此の時 阿嬌 正に嬌妒,獨り長門に坐して 日暮を愁う。)
「聞道阿嬌失恩寵,千金買賦要君王。相如不憶貧賤日,位高金多聘私室。茂陵姝子皆見求,文君歡愛從此畢。」(聞くならく 阿嬌 恩寵を失い,千金 賦を買うて 君王を要す と。相如 貧賤日を憶わず,位 高く 金 多くして 私室を聘す。茂陵の姝子 皆 求めらる,文君の歡愛 此に從って畢る。)
長門怨二首
天迴北斗挂西樓金屋無人螢火流月光欲到長門殿别作深宫一段愁
士贇曰詩箋云螢火家無人則然令/人感思室中乆無人故有此物是不
足畏乃可/以為憂
其二
桂殿長愁不記春黄金四屋起秋塵夜懸明鏡青天上獨照長門宫裏人
士贇曰此詩皆櫽括漢武陳皇后事/以比元宗皇后其意㣲而婉矣事見
前巻/註
7 司馬相如《長門賦》
なぜでしょう、一人の美人がさまよい歩いて物憂げにしています。魂は消え失せて元に返らぬように見え、肉体は枯れ果てた様子で一人ぽつねんと立っています。(かつて皇帝陛下は)「朕は朝に出座して暮には帰るだろう」と言ったのに、今は(新しい女と)飲食の楽しみを共にされ、私のことをお忘れになりました。御心は移り変わり、昔なじみ(の私)を省みず、気に入りの人と交わって親しくされています。(嫉妬深い)私の心の愚かさよ、私はまじめな素直さを胸に抱いていますのに。ただ御下問を賜って参上し、陛下のお言葉をいただきたいとのみ願っています。
陛下の虚しいお言葉をいただいて、まことのことかと待ち望み、城の南の離宮に(陛下を)お待ちしました。粗末な料理をつくろって用意していましたのに、陛下は一向におでまし下さろうとなさいません。むなしく一人隠れて心を鎮めておりますと、天にはひゅうひゅうと疾風が吹いています。蘭台に登ってはるかに見渡せば、心はうつろになって外界に脱け出ます。浮雲は重なりながら辺りに塞がり、天は深々として昼もなお暗く、雷は殷々と響き渡って、その音は陛下の車の響きに似ています。飄風は吹きめぐって部屋に舞い立ち、カーテンをひらひらと吹き上げます。桂の樹は枝茂く重なり合って、ぷんぷんと香りを漂わせます。孔雀たちは集まって(私を)憐れんでくれて、猿たちは鳴いて声長く歌います。翡翠(かわせみ)は翼を収めて集まって来て、鸞鳥と鳳凰は北に南に飛び交います。
心は結ぼれて晴れません。不満な気持ちが沸いて来て胸の内を責めつけます。蘭台より下りて辺りを見渡し、奥御殿へと静かに歩みます。正殿は高々と天まで届き、大きな柱が並び建てられて、彎形の御殿となっています。しばらく東の渡殿をさまよっていますと、こまごまと美しく限りなく続く建物が見えます。
夫何一佳人兮,步逍遙以自虞。魂逾佚而不反兮,形枯槁而獨居。言我朝往而暮來兮,飲食樂而忘人。心慊移而不省故兮,交得意而相親。
伊予志之慢愚兮,怀貞愨之歡心。愿賜問而自進兮,得尚君之玉音。奉虛言而望誠兮,期城南之离宮。修薄具而自設兮,君曾不肯乎幸臨。廓獨潛而專精兮,天漂漂而疾風。登蘭台而遙望兮,神(心兄心兄,音晃)而外淫。浮云郁而四塞兮,天窈窈而晝陰。雷殷殷而響起兮,聲象君之車音。飄風回而起閨兮,舉帷幄之(示詹示詹,音摻)。桂樹交而相紛兮,芳酷烈之(門內加言,重疊,音吟)。孔雀集而相存兮,玄猿嘯而長吟。翡翠協翼而來萃兮,鸞鳳翔而北南。
心憑噫而不舒兮,邪气壯而攻中。下蘭台而周覽兮,步從容于深宮。正殿塊以造天兮,郁并起而穹崇。間徙倚于東廂兮,觀夫靡靡而無窮。擠玉戶以撼金舖兮,聲噌(口+宏去□,音宏)而似鐘音。
刻木蘭以為榱兮,飾文杏以為梁。羅丰茸之游樹兮,离樓梧而相撐。施瑰木之(木薄,音博)櫨兮,委參差以(木康,音康)梁。時仿佛以物類兮,象積石之將將。五色炫以相曜兮,爛耀耀而成光。致錯石之瓴甓兮,象玳瑁之文章。張羅綺之幔帷兮,垂楚組之連綱。
撫柱楣以從容兮,覽曲台之央央。白鶴嗷以哀號兮,孤雌(足寺)于枯腸。日黃昏而望絕兮,悵獨托于空堂。懸明月以自照兮,徂清夜于洞房。援雅琴以變調兮,奏愁思之不可長。案流徵以卻轉兮,聲幼眇而复揚。貫歷覽其中操兮,意慷慨而自(昂去日,音昂)。左右悲而垂淚兮,涕流离而從橫。舒息悒而增欷兮,(足徙,音徙)履起而彷徨。揄長袂以自翳兮,數昔日之(侃下加言,音謙)殃。無面目之可顯兮,遂頹思而就床。摶芬若以為枕兮,席荃蘭而(艸+臣,音chai3)香。
忽寢寐而夢想兮,魄若君之在旁。惕寤覺而無見兮,魂(□+王,重疊,音狂)若有亡。眾雞鳴而愁予兮,起視月之精光。觀眾星之行列兮,畢昴出于東方。望中庭之藹藹兮,若季秋之降霜。夜曼曼其若歲兮,怀郁郁其不可再更。澹偃蹇而待曙兮,荒亭亭而复明。妾人竊自悲兮,究年歲而不敢忘。
注:《長門賦序》云,“孝武皇帝陳皇后時得幸,頗妒。別在長門宮,愁悶悲思。聞蜀郡成都司馬相如天下工為文,奉黃金百斤為相如、文君取酒,因于解悲愁之辭。而相如為文以悟上,陳皇后复得親幸。”