李白15 黄鶴楼送孟浩然之広陵 李白14 贈孟浩然  李白13 淮南臥病書懐寄蜀中趙徴君蕤(
故郷に手紙を)
李白13   

726年秋、二十六歳の李白は揚州(江蘇省揚州市)にいた。呉越の地から長江を北へ渡って淮南(わいなん)の地に来たのだ。揚州は海外交易などにより賑わっていた。李白は揚州で楽しんだが、病気になった。所持金も乏しくなって心細くなったのではないか。

 豪放磊落な李白も気弱になって、故郷に書を送っている。相手は三年ほど岷山に一緒に籠もったことのある人物で、趙蕤といった。彼は李白に史書や兵法を教え、論じた仲である。

 「淮南臥病書懐寄蜀中趙徴君蕤」(註)

 病の床で、李白は故郷への想いをつづったのだす。二十二句の五言古詩である。

 病気が治った李白は、安陸にいる孟浩然に会いにいき、師と仰ぐようになる。李白は、古い城郭都市の安陸で孟浩然に詩を贈っている。


 李白14   贈孟浩然         孟浩然に贈る

吾愛孟夫子、風流天下聞。
紅顔棄軒冕、白首臥松雲。
酔月頻中聖、迷花不事君。
高山安可仰、従此揖清芬。

私の愛する孟先生
先生の風流は 天下に聞こえている
若くして高官になる志を棄て
白髪になるまで松雲に臥しておられる
月に酔って聖にあたったといわれる
花を迷うのは君主に仕えないことだ
高山はどうして仰ぐことができようか
ここから清らかな香りを拝します

○韻 聞、雲、君、芬 ○対句  紅顔:白首、酔月:迷花

孟浩然に贈る

吾は愛す孟夫子(もうふうし)
風流(ふうりゅう)は天下に聞こゆ
紅顔(こうがん)  軒冕(けんめん)を棄て
白首(はくしゅ)  松雲(しょううん)に臥(ふ)す
月に酔いて頻(しき)りに聖(せい)に中(あた)
花に迷いて君に事(つか)えず
高山(こうざん) (いずく)んぞ仰ぐ可けんや
(ここ)より清芬(せいふん)を揖(ゆう)


 孟浩然は三十八歳であり、李白は二十六歳であった。隠遁している憧れの孟浩然を「白首」と言った。孟浩然は、襄陽の近郊の鹿門山に別業(別荘)を営んでいた。



 李白15   黄鶴楼送孟浩然之広陵        
                 
故人西辞黄鶴楼、烟花三月下揚州。
孤帆遠影碧空尽、唯見長江天際流。

友よ  西のかた  黄鶴楼をあとにして
花がすみの三月  揚州へくだる
孤舟の帆影は    遠くの碧空(そら)に消え
見えるのは天空のはてまでつづく長江(たいが)の流れ


○韻 楼、州、流  ○対句 孤帆遠影:唯見長江 碧空尽:天際流

黄鶴楼 孟浩然の広陵に之くを送る

故人  西のかた黄鶴楼(こうかくろう)を辞し
烟花(えんか)  三月  揚州(ようしゅう)に下る
孤帆(こはん)の遠影  碧空(へきくう)に尽き
唯だ見る  長江の天際(てんさい)に流るるを


(註)
李白13
淮南臥病書懐寄蜀中趙徴君蕤

呉会一浮雲、飄如遠行客。
功業莫従就、歳光屡奔迫。
良図俄棄損、衰疾乃綿劇。』
古琴蔵虚匣、長剣挂空壁。
楚懐奏鐘儀、越吟比荘舃。
国門遥天外、郷路遠山隔。
朝憶相如台。夜夢子雲宅、
旅情初結緝、秋気方寂歴。
風入松下清、露出草間白。
故人不在此、而我誰与適。
寄書西飛鴻、贈爾慰離析。

呉会は一浮雲、
飄としているのは遠行えんこうの客
功業は従就じゅうしゅうし莫ない
歳光は屢々しばしば奔迫ほんはくしてる
良図は俄にわかに棄損きえんしており
衰疾については綿劇めんげきなのだ』

古琴は虚匣きょこうに蔵おさめたまま
長剣は空壁くうへきに挂けている
楚懐そかいという曲はは 鐘儀しょうぎ奏でる
越吟えつぎんというものは荘舃そうせきが吟じたこととに比較される
国への門は遥天ようてんの外そとである
郷への路は 遠い山よりずっと隔へだっている
あしたには司馬相如そうじょの台のことを憶おも
夜には子雲しうんの宅たくを夢みている
旅の情おもむきは初めて結緝けつしゅうしてきた
秋の気けはいは方まさに寂歴せきれきである
風が入ってくることは松下しょうかを清さびしくする
露がではじめるのは草間そうかんを白くしている
ゆえある人は 此ここに在いない
したがって我れは誰と与ともに適するのか
書を寄せることは西に飛ぶ鴻こう
汝に贈るのは離れている析しさを慰さめるものだ


呉越のあたりひとひらの浮雲(うきぐも)
飄然と遠くへ旅する旅人のようだ
功業を成し遂げることもなく
歳月はあわただしく過ぎてゆく
折角の壮図もにわかに棄て去り
疾のために身は衰え果てている
愛する琴は箱に納め
長剣も壁に虚しくかけてある
鐘儀が楚国の曲を奏で
荘舃が越の詩を吟じたように故郷への想いはつのる
故国の城門は遥かな空のかなたにあり
郷里への道は遠くの山に隔てられている
朝には司馬相如の琴台(きんだい)を憶い
夜には揚雄の邸を夢にみる
旅情は胸にこみあげ
秋のけはいはもの寂しく満ちわたる
清らかな風が松の林を吹き抜け
くさむらは露に濡れて白くかがやく
ここには語り合うべき友もなく
私は誰と過ごしたらいいのだろうか
西に飛ぶ鴻(かり)に託して書を送り
いささか別離の淋しさを慰めるのだ

○韻 客、迫、劇、壁、舃、隔、宅、歴、白、適、析

 詩中の相如は司馬相如をさす。司馬相如は梁の孝王の客人たなっていた。梁の孝王が亡くなったため、帰ったが、家は貧しく生活が出来なかった。彼は臨邛の県令の王吉と知り合いであったため、県令は司馬相如のために、一計を案じた。それは司馬相如を立派な者に見せるという演出をし、彼を県令の賓客として待遇することだった。やがて、県令に賓客がいるとの噂を聞いた臨邛の大富豪である卓王孫らが催した招宴に、勿体を付けて出席をした。その席で、琴を奏でることとなった。卓王孫には、寡婦となって戻っていた娘・卓文君がおり、彼女は音楽が好きなので、王吉と司馬相如は計略を案じて、琴の演奏で卓文君の心を捕まえようとした。そのため、司馬相如は、威儀を正した乗り物に典雅な容儀で現れ、やがて琴を演奏した。彼女をトリコのする作戦は成功した。その夜、司馬相如は、恋文を人づてに渡し、二人は駆け落ちをした。司馬相如が連れて行った先の成都の家は、四方にただ壁があるだけの何一つ無い貧しい住まいだった。ことの次第を知った卓王孫は、大いに怒り狂い、親子の縁を絶ってしまった。二人は成都での生活苦に耐えかねて、卓文君の兄弟の縁を頼って、臨邛に戻ってきた。臨邛での二人は、卑しいとされる仕事に精を出した。この二人の行為を恥じた父親の卓王孫は、家に閉じこもって出てこなくなった。やがて、周りの者の取りなしで、卓王孫は財産を分けてやったので、二人は成都へと戻っていって、お金持ちの生活を始めた。司馬相如の姿は前半の策謀家から恬澹としたものに変わっている。李白は、こうした、司馬相如を引き合いに出すのは旅行中の病気がよほど堪えたのであろう。恵まれた昔の生活を直接に表現しないで、司馬をひきあにだしたのだ


○韻 客、迫、劇、壁、舃、隔、宅、歴、白、適、析  

呉会一浮雲、飄如遠行客。
功業莫従就、歳光屡奔迫。
良図俄棄損、衰疾乃綿劇。』
古琴蔵虚匣、長剣挂空壁。
楚懐奏鐘儀、越吟比荘舃。
国門遥天外、郷路遠山隔。
朝憶相如台。夜夢子雲宅、
旅情初結緝、秋気方寂歴。
風入松下清、露出草間白。
故人不在此、而我誰与適。
寄書西飛鴻、贈爾慰離析。

呉会(ごかい)の一浮雲(いちふうん)
(ひょう)として遠行(えんこう)の客の如し
功業  従就(じゅうしゅう)する莫(な)
歳光  屢々(しばしば)奔迫(ほんはく)
良図  俄(にわか)に棄損(きえん)
衰疾  乃(すなは)ち綿劇(めんげき)す』

古琴  虚匣(きょこう)に蔵し
長剣  空壁(くうへき)に挂(か)
楚懐(そかい)  鐘儀(しょうぎ)奏し
越吟(えつぎん)  荘舃(そうせき)に比す
国門(こくもん)  遥天(ようてん)の外(そと)
郷路(きょうろ)  遠山(えんざん)(へだ)
(あした)には相如(そうじょ)の台を憶(おも)
夜には子雲(しうん)の宅(たく)を夢む
旅情  初めて結緝(けつしゅう)
秋気  方(まさ)に寂歴(せきれき)たり

風は松下(しょうか)に入りて清く
露は草間(そうかん)を出でて白し
故人  此(ここ)に在らず
(しか)るに我れ誰と与(とも)にか適せん
書を西飛(せいひ)の鴻(こう)に寄せ
(なんじ)に贈って離析(りせき)を慰む



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