志願し国境線の戦いに出ていく者はいない。府兵制により行かされたものである。あるいは、左遷の地として 官僚たちも数多く残る。辺塞詩、涼州詩として、王維や王昌齢、王士官が詠っている(別の機会に紹介しよう)。 李白のこれらの詩は形式は戦場に送り出したものだが、残された家族のための詩とは思えないし、体制批判も感じられない。やはり、流行であったこと、求職活動、詩才を示すために作られたのであろう。
 したがって、ここでは、資料的に示すことにしよう。そして、明日から、長安での物語に移ろうと思う。
 ただ、李白の塞下曲六首について、日本であまり触れられていないようなのですべて載せ、読みを紹介するのは昨日の(1)と(4)、(5)にとどめることとする。

塞下曲六首    李白

(4)29
白馬黄金塞,雲砂繞夢思。
白馬のいる黃金の塞,雲と砂の大地を夢を繞る

那堪愁苦節,遠憶邊城兒。
堪えがたきは愁苦しゅうくの季節,はるか遠く国境の兒おのこを憶う。

螢飛秋窗滿,月度霜閨遲。
螢は秋の窓辺に飛び,月は霜ふる閨ねやにを遲くにわたる。

摧殘梧桐葉,蕭颯沙棠枝。
色あせ敗れた梧桐あおぎりの葉,蕭しょうとした颯かぜに沙棠やましなの枝。

無時獨不見,流涙空自知。

いつの時も面影の見えないまま,流れる涙はむなしさを知る。


白馬のいる黃金の塞,雲と砂の大地を夢を繞めぐる。
堪えがたきは愁苦しゅうくの季節,はるか遠く国境の兒おのこを憶う。
螢は秋の窓辺に飛び,月は霜ふる閨ねやにを遲くにわたる。
色あせ敗れた梧桐あおぎりの葉,蕭しょうとした颯かぜに沙棠やましなの枝。
いつの時も面影の見えないまま,流れる涙はむなしさを知る。


この詩も妻の立場で詠っています。白馬と黄金塞から蛍がさみしく寝室に入ってきて、いつの間に枯葉が舞い散るる季節になっていしまった。、面が下さえ見えなくなってしまい、いくら泣いてもむなしさだけが残る。
 李白お得意の流れるような場面である。

白馬 黃金の塞,雲砂に夢思を繞らす。
那ぞ堪えん 愁苦の節,遠く邊城の兒を憶う。
螢飛 秋窓に滿つ,月度る 霜閨に遲し。
摧殘す 梧桐の葉,蕭颯たり 沙棠の枝。
無時に獨り見ず,流淚 空しく自ら知る。



(5)30
塞虜乘秋下,天兵出漢家。
塞の虜は秋になると下っていき 、天子の兵は長安を出発する

將軍分虎竹,戰士臥龍沙。
將軍は敵陣を突破して 、戰士は龍沙砂漠に横たわる

邊月隨弓影,胡霜拂劍花。
塞を照らす月は弓影をうつす 、北方の霜は劒の打ち払う火花さえ消す

玉關殊未入,少婦莫長嗟。

ここ玉門関はまだまだ外敵に侵入されない 、故郷の若い妻嘆くことなぞないぞ
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塞の虜は秋になると下っていき
天子の兵は長安を出発する
將軍は敵陣を突破して
戰士は龍沙砂漠に横たわる
塞を照らす月は弓影をうつす
北方の霜は劒の打ち払う火花さえ消す
ここ玉門関はまだまだ外敵に侵入されない
故郷の若い妻嘆くことなぞないぞ

 塞で対峙していた敵の軍隊も冬になると凍死者が出るので戦えない。春先になるまで引き上げてゆく。その敵陣のすきをついて、攻めに転じる。砂漠に多くの戦死者が出ている。月は塞に影を落とすが剣と剣の火花でさえ打ち消す極寒のつらさ。玉門関を死守している若い兵士は故郷の若き妻に「心配するな、頑張るぞ」だから、ため息ばかりするんじゃないぞ と。

 毎年、毎年、それが何百年と続いている。戦争は勝つと相手のすべてを奪いつくし富が増えてゆくのである。国家による略奪が戦争である。漢民族としては北方の異民族=騎馬民族との戦いは万里の長城に象徴される。あれだけ膨大なものを巨費をかけてでもを作る必要があった。そのために秦国が滅んだのだ。王朝の栄枯盛衰はほとんどが戦争による繁栄であり、それを維持することができなくなっての衰退滅亡というのが歴史である。
 蒙古の元がアジア全域を制覇した際、北京には見せしめのため、人口の大半が殺され死者が通りの建物のようにうず高く野積みなされ放置された。戦いとはそうしたもので、この詩の国境線の砂漠に、戦死者が放置されているというのは普通の状況であったのだ。(世界4大虐殺のひとつ、安史の乱は中国全土の人口が40%減少した)それはまた国中の人々が知っていたことであるから、詩人がそれを題材にしたのである。悲愴、焦燥、長嗟、愁苦、螢飛秋窗、摧殘梧桐、邊月・・・・邊月とは国境の砂漠、見渡す限り何もない砂漠で月だけが輝いている、題材の状況が明確であり、だれでも承知している事項のため、詩人は競って詠ったのである。

以下は、テキストとして書きとめておくことにし、李白の塞上曲も付け加えておく。何時かの機会を見て触れていけたら良いと考える。

塞下曲六首    李白

(1)26
五月天山雪,無花只有寒。笛中聞折柳,春色未曾看。
曉戰隨金鼓,宵眠抱玉鞍。願將腰下劍,直為斬樓蘭。

(2)27
天兵下北荒,胡馬欲南飲。橫戈從百戰,直為銜恩甚。
握雪海上餐,拂沙隴頭寢。何當破月氏,然後方高枕。

(3)28
駿馬似風飆,鳴鞭出渭橋。彎弓辭漢月,插羽破天驕。
陣解星芒盡,營空海霧消。功成畫麟閣,獨有霍嫖姚。

(4)29
白馬黃金塞,雲砂繞夢思。那堪愁苦節,遠憶邊城兒。
螢飛秋窗滿,月度霜閨遲。摧殘梧桐葉,蕭颯沙棠枝。
無時獨不見,流淚空自知。

(5)30
塞虜乘秋下,天兵出漢家。將軍分虎竹,戰士臥龍沙。
邊月隨弓影,胡霜拂劍花。玉關殊未入,少婦莫長嗟。

(6)31
烽火動沙漠,連照甘泉雲。漢皇按劍起,還召李將軍。
兵氣天上合,鼓聲隴底聞。橫行負勇氣,一戰淨妖氛。


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李白32 塞上曲  李白

大漢無中策。 匈奴犯渭橋。 五原秋草綠。
胡馬一何驕。 命將征西極。 橫行陰山側。
燕支落漢家。 婦女無華色。 轉戰渡黃河。
休兵樂事多。 蕭條清萬里。 瀚海寂無波。