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人には口外できないような不幸な恋愛、思いを遂げえない恋愛、漢詩でありながら小説的構成を持つ妖艶、妖気な恋愛、ポルノ写真にモザイクがかかったようなもの、酒宴で詠われたもの・・・・・・というとらえ方でしばらく李商隠を取り上げる。
李商隱1錦瑟(きんしつ)
錦瑟
錦瑟無端五十弦、一弦一柱思華年。
(夫婦仲の良いことをいう琴瑟の片方で、かつて妻が奏でた)立派な瑟(おおごと)がわけもなく(悲しげな音色を出す)五十弦の。 一本の絃(げん)、一つの琴柱(ことじ)を(見るにつけ)、若く華やいでいた年頃を思い起こさせる。
莊生曉夢迷蝴蝶、望帝春心托杜鵑。
荘周(さうしう:そうしゅう=荘子)が夢で、蝶(ちょう)になり、自分が夢で蝶になっているのか、蝶が夢で自分になっているのか、と迷い。(そのように、あなたの生死について迷い)。
蜀の望帝の春を思う心は、血を吐いて悲しげになく杜鵑(ホトトギス)に魂を托(たく)した。(そのように、血を吐きながらなく思いである)。
滄海月明珠有涙、藍田日暖玉生煙。
青い海に月が明るく照らして、人魚は(月の精ともいうべき)真珠の涙をこぼして。曾て、真珠は海中の蚌(はまぐり)から生まれるものと思われた。また蚌(はまぐり)は月と感応しあって、月が満ちれば真珠が円くなり、月が缺ければ真珠も缺けると思われた。また、中秋の名月の時期になると、蚌は水面に浮かび、口を開いて月光を浴び、月光に感応して真珠が出来るとされた。
此情可待成追憶、只是當時已惘然。
わたしのこの(哀しみの)心情は、(時間が経過して)当時のことを追憶とする今となってのみ、可能なことだったのだろうか(いや、違う。その当時からすでにあったのだ)。
それはあなたが亡くなった当時から、已(すで)に気落ちしてぼんやりとしていたのだ。
錦瑟
(夫婦仲の良いことをいう琴瑟の片方で、かつて妻が奏でた)立派な瑟(おおごと)がわけもなく(悲しげな音色を出す)五十弦の。
一本の絃(げん)、一つの琴柱(ことじ)を(見るにつけ)、若く華やいでいた年頃を思い起こさせる。
荘周(さうしう:そうしゅう=荘子)が夢で、蝶(ちょう)になり、自分が夢で蝶になっているのか、蝶が夢で自分になっているのか、と迷い。(そのように、あなたの生死について迷い)。
蜀の望帝の春を思う心は、血を吐いて悲しげになく杜鵑(ホトトギス)に魂を托(たく)した。(そのように、血を吐きながらなく思いである)。
青い海に月が明るく照らして、人魚は(月の精ともいうべき)真珠の涙をこぼして。曾て、真珠は海中の蚌(はまぐり)から生まれるものと思われた。また蚌(はまぐり)は月と感応しあって、月が満ちれば真珠が円くなり、月が缺ければ真珠も缺けると思われた。また、中秋の名月の時期になると、蚌は水面に浮かび、口を開いて月光を浴び、月光に感応して真珠が出来るとされた。
(作者の妻が葬られた近辺の)藍田山(らんでんさん)に日(ひ)が暖かに射して、藍田に産する玉(=妻の容貌)が靄(もや)を生(しょう)じているように、朧(おぼろ)に輝いてくる。
わたしのこの(哀しみの)心情は、(時間が経過して)当時のことを追憶とする今となってのみ、可能なことだったのだろうか(いや、違う。その当時からすでにあったのだ)。
それはあなたが亡くなった当時から、已(すで)に気落ちしてぼんやりとしていたのだ。
錦瑟 琴の胴の部分に錦のような絵模様が描かれた大琴で、一般的に亡き妻をしのんで詠ったとされるが(漢文委員会ジオ倶楽部)、ここではおもい焦がれる恋しい人(たとえば不倫相手:逢いたくてもあうことのできなかった時)に対しての詩とした。この解釈のほうが詩の矛盾が、謎がすべて消える。
錦瑟無端五十弦、一弦一柱思華年。
(あの人と仲の良いことをいう琴瑟の片方で、ことを奏でる)立派な瑟(おおごと)がいつものように五十弦を弾いている。一本の絃(げん)、一つの琴柱(ことじ)をあなたとの逢瀬を思い起こしている。たとえ逢えないないことがあってもこの恋は壊せはしない。
○無端 何の原因もなく。ゆえなく。わけもなく。端(はし)無く。これというきざしもなく。思いがけなく。はからずも。いつもどおい何の変りもなく。 ○五十弦 古代の瑟は五十弦のものは宮女(宮廷の芸妓)が使ったもの。後に二十五弦と改められたと、琴瑟の起源とともに伝えられている。 ・華年 あなたと逢瀬を過ごしているこの年月。
莊生曉夢迷蝴蝶、望帝春心托杜鵑。
昔、荘子がで、蝶になった夢をみて、その自由さに暁の夢が覚めてのち、自分の夢か、、蝶の夢かとと疑ったという。蝶のように華麗で自由にあなたのもとに飛んでいければいいのに。また、昔の望帝はその身が朽ちて果ててもの春目くその思いを、杜鵑(ホトトギス)に托したという。愛への思い焦がれる執着心はそのように、昼も夜も四六時中、哀鳴するものなのだ。。
○莊生 荘周。荘子。 ○迷 自分が夢で蝶になっているのか、蝶が夢で自分になっているのかということで迷う。 ○蝴蝶 荘周が夢の中で蝶になり、夢からさめた後、荘周が夢を見て蝶になっているのか、蝶が夢を見て荘周になっているのか、一体どちらなのか迷った。 ○望帝 蜀の望帝。蜀の開国伝説によると、周の末に蜀王の杜宇が帝位に即き、望帝と称した。望帝は部下のものに治水を命じておきながら、その妻と姦通し、その後その罪を恥じて隠遁した。旧暦二月、望帝が世を去ったとき、杜鵑(ホトトギス)が、哀鳴した。 ○春心 春を思う心。相手と結ばれたいとを思う心。 ○春心托杜鵑 相手と結ばれたいとを思う心は、血を吐きながら悲しげに鳴く杜鵑(ホトトギス)に托す。 ・杜鵑:〔とけん〕ほととぎす。血を吐きながら悲しげに鳴くという。
滄海月明珠有涙、藍田日暖玉生煙。
あなたの心が青い海に向かうとき、わたしはすぐ月が明るく照らしてくれることを思う、人魚が面影を追って真珠の涙をこぼしてしているように。藍田の玉山のようなところで朦朧としているこの気持ちをはっきりと暖かくしてくれようとするものなのか、いや荘ではなく五色の雲煙が立ち込めて思いはとどかない。
月と真珠は縁語であり、感応しあって、月が満ちれば真珠が円くなり、月が缺ければ真珠も缺けると思われた。また、中秋の名月の時期になると、蚌は水面に浮かび、口を開いて月光を浴び、月光に感応して真珠が出来るとされた。つまり、滄⇔海⇔月⇔明⇔珠⇔有⇔涙それぞれの語字が関連、連携して男女の思いを強調する効果を出している。 ○滄海 ここでは、思い浮かべる架空の青い海。他界の大海原。 ○珠 ここでは真珠。「蚌中の月」。 ・有涙:鮫人の涙。南海に住み、水中で機(はた)を織り、泣くときは真珠の涙をこぼすという。 ○藍田 陝西省藍田県東南にある山の名で、名玉を産する。美玉を産し、玉山ともいうが、ここでは想像上の逢瀬の場所をいう。 ○日暖 陽光が射す。はっきりする。 ○生煙 五色の雲煙が生じて宝気が立ち上るという。瑟の音色の形容でもあり、雲煙が慕情をさらに包み込んでいくことをしめす。
此情可待成追憶、只是當時已惘然。
わたしのこのせつない心情(失意)は、追憶とするときだからそう思うのか、いや、違う。その当時からいつもせつないおもいをしていたのだ。公をはばかる恋というものは、初めからもどかしいやりきれなさを持っているものなのだ
○此情 この(鬱々とした)心情。失意 ○可待 何を待とうか。待つまでもないことだ。反語的な語気を含む。
○當時 その頃。その時。その頃。 ○已 とっくに。すでに。はじめから ○惘然 〔ぼうぜん〕気落ちしてぼんやりするさま。もどかしいやりきれなさ。
なさぬ恋、悲恋の詩と解釈した。道ならぬ恋を「望帝」を持ち出して示唆している。これまでのように死に別れたつ前の気持ちを詠うのに姦通の故事を詠いこむのはおかしい。この歌は、貴族の歌会や、酒宴で披露したことを想定してみると実に奥深い趣のある芸術性に富んだしとなる。恋歌は不倫の詩である。李商隠の力作である。
錦瑟 李商隱
錦瑟無端五十弦、一弦一柱思華年。
莊生曉夢迷蝴蝶、望帝春心托杜鵑。
滄海月明珠有涙、藍田日暖玉生煙。
此情可待成追憶、只是當時已惘然。
錦瑟きんしつ端無はし なくも 五十弦ご じうげん,一弦いちげん一柱いっちゅう 華年かねんを思う。
莊生さうせいの曉夢ぎょう む は 蝴蝶こ ちょう に迷い,望帝ぼうていの春心しゅんしん は 杜鵑 と けん に托たくす。
滄海そうかい 月 明あきらかにして 珠たまに涙 有り,藍田らんでん 日ひ 暖かにして 玉は煙を 生ず。
此の情 追憶と成なるを 待つ可べけんや,
只 是れ 當時より 已すでに惘然ぼうぜん。
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