李白 90 夏日山中
五言絶句 李白が陶淵明の隠遁のイメージを借りてうたっている。

夏日山中
懶搖白羽扇。 裸體青林中。
白い羽の団扇で扇ぐのもおっくうで。青々と木の茂った森林の中で、肩肌脱ぎになる。
脫巾挂石壁。 露頂灑松風。

頭巾を脱いで、岩の壁面にひっかけて。かんむりをつけないで頭を丸出しにして、松の木を吹き抜ける風にさらした


夏の日に山の中(で過ごす)。
白い羽の団扇で扇ぐのもおっくうで。青々と木の茂った森林の中で、肩肌脱ぎになる。
頭巾を脱いで、岩の壁面にひっかけて。かんむりをつけないで頭を丸出しにして、松の木を吹き抜ける風にさらした



夏日山中
白羽扇を 搖(うご)かすに  懶(ものう)し,
裸袒(らたん)し  靑林の中(うち)。
巾を脱して  石壁に挂(か)け,
頂(いただき)を露(あら)わして  松風に灑(そそ)ぐ。


懶搖白羽扇、裸袒青林中。
白い羽の団扇で扇ぐのもおっくうで。青々と木の茂った森林の中で、肩肌脱ぎになる。 
 らん ものうい。面倒くさい。たいぎである。面倒である。怠る。 ・ 揺り動かす。ゆらす。 ・白羽扇 白い羽の団扇。竹林の七賢が清談するときに用いたとされる。三国時代の諸葛孔明も日常的に使った。李白の仲間、竹渓の六逸もこれをまねて使った。 ・裸袒 らたん 左の方の肩を脱ぐ。また、もろ肌をさらす。左右両方の肩を着物から脱いで、上半身を現す。右の方の肩を晒すのは謝罪を表すもの。 ・ かたぬぐ。はだをさらす。 ・青林 青々と木の茂った森林。

脱巾挂石壁、露頂灑松風。
頭巾を脱いで、岩の壁面にひっかけて。かんむりをつけないで頭を丸出しにして、松の木を吹き抜ける風にさらした。 
脱巾 頭巾を脱ぐ。 ・巾 きん ずきん。 ・ かい つるす。ひっかける。掛ける。からまる。 ・石壁 岩の壁面。 ・露頂 かんむりをつけないで頭を丸出しにする。頂はまげを結った頭のてっぺん。 ・ そそぐ。 ・松風:松の木を吹き抜ける風。


韻 中、風。

 世俗を離れ、自由な仙人の世界へ入った李白の詩。酒を讃える詩は続く。




李白 91 山中與幽人對酌
七言絶句

山中與幽人對酌
兩人對酌山花開。 一杯一杯復一杯。
山中で隠者と差し向かいで酒を飲む。二人が差し向かいで酒を飲んでいたら、まわりには山の花が微笑んでくれる。
我醉欲眠卿且去。 明朝有意抱琴來。

わたしは酔ってしまって眠むたくなってしまった。君は適当なところで勝手に帰っていいよ。明日の朝に、そのきがあったら、琴を持ってまた来てください。


山中で隠者と差し向かいで酒を飲む。二人が差し向かいで酒を飲んでいたら、まわりには山の花が微笑んでくれる。
わたしは酔ってしまって眠むたくなってしまった。君は適当なところで勝手に帰っていいよ。明日の朝に、そのきがあったら、琴を持ってまた来てください。


山中にて 幽人と對酌
兩人 對酌すれば  山花 開く,一杯一杯  復(ま)た 一杯。
我 醉って眠らんと欲す  卿(きみ)且(しば)らく 去れ,
明朝 意有れば  琴を 抱いて來たれ。

山中與幽人對酌
山中で隠者と差し向かいで酒をくみかわす

兩人對酌山花開。一杯一杯復一杯。
山中で隠者と差し向かいで酒を飲む。二人が差し向かいで酒を飲んでいたら、まわりには山の花が微笑んでくれる。
 ・山中 山奥に。 ・幽人 世を遁れた人。隠者。隠棲している人。 ・對酌 差し向かいで酒を飲む。『山中對酌』ともする。 ・ 咲く。擬人的に微笑むという感じ。 ・兩人 二人。 ・山花 山中に咲く花。 

一杯一杯、また一杯と(繰り返した)。 ・一杯一杯 酒を飲む動作が繰り返される表現。 ・ くりかえす。ふたたびする。また。ふたたび。

我醉欲眠卿且去、明朝有意抱琴來。
わたしは酔ってしまって眠むたくなってしまった。君は適当なところで勝手に帰っていいよ。明日の朝に、そのきがあったら、琴を持ってまた来てください。
我醉 わたしは酔った。 ・ …たい。…としようとする。 ・ ねむる。 ・ きみ。人の尊称。 ・ しばし。しばらく。短時間をいう。てきとうなところで、かってなときに、 ・去:さる。 私をほったらかしにしといていいよ。 ・明朝 明日の朝。 ・有意 意志がある。 ・抱琴 琴をかかえる。琴は古代より隠者を象徴するものでもある。隠者は弦のない琴を肴に酒を飲んだ。酒を抱えてきてくれと解釈する。 ・ 来る。

・韻 開、杯、來。


李白 92 山中答俗人
七言絶句 (山中問答)

山中答俗人
問余何意棲碧山,笑而不答心自閑。
わたしに尋ねた人がいる「どんな気持ちで、緑深い山奥に住んでいるのか」と。わたしはただ笑って答えはしないが、心は自ずとのどかでしずかでのんびりしている。
桃花流水杳然去,別有天地非人間。

「桃花源」の花びらははるか彼方に流れ去っていく、そこにこそ別の世界があるのであり、俗世間とは異なる別天地なのだ。


わたしに尋ねた人がいる「どんな気持ちで、緑深い山奥に住んでいるのか」と。わたしはただ笑って答えはしないが、心は自ずとのどかでしずかでのんびりしている。
「桃花源」の花びらははるか彼方に流れ去っていく、そこにこそ別の世界があるのであり、俗世間とは異なる別天地なのだ。

 
山中答俗人
余に問ふ 何の意ありてか  碧山に棲むと,
笑って 答へず  心 自(おのづか)ら 閑なり。
桃花 流水  杳然と 去る,
別に 天地の  人間(じんかん)に 非ざる 有り。


山中答俗人
山に入って脱俗的な生活をするということに対する当時の文化人の姿勢が窺われる。陶淵明の生活などに対する憧れのようなものがあることを古来よりの問答形式をとっていること、具体的に転句結句の「桃花流水杳然去」である。

問余何意棲碧山、笑而不答心自閑。
わたしに尋ねた人がいる「どんな気持ちで、緑深い山奥に住んでいるのか」と。わたしはただ笑って答えはしないが、心は自ずとのどかでしずかでのんびりしている。
  ・何意  どういう訳で。なぜ。 ・棲  すむ。本来は、鳥のすみか。 ・碧山 :緑の色濃い山奥。白兆山、湖北省安陸県にあり、李白は嘗てここで過ごしたことがある実在の山をあげる解説も多いが、ここでは具体的な場所と見ない方がよい。 ・棲碧山 隠遁生活をすること。この語もって、湖北の安陸にある白兆山に住むとするとされるが、「隠遁生活をする」ことにあこがれを持ち

李白 84 安陸白兆山桃花岩寄劉侍御綰
の詩で見るように結婚をして住んだ形跡があるものの、間もなくこの地から旅立って、他の地で隠遁している。李白の神仙思想から言ってもここは一般的な場所と考えるべきである ・笑而 笑って…(する)。 ・不答 返事をしない。返事の答えはしないものの、詩の後半が答の思いとなっている。 ・自閑 自ずと落ち着いている。自閑は隠遁者の基本中の基本である。おのずと静かでのんびりすること、尋ねられても答えない、会いに行ってもあえないというのが基本である。

桃花流水杳然去、別有天地非人間。
「桃花源」の花びらははるか彼方に流れ去っていく、そこにこそ別の世界があるのであり、俗世間とは異なる別天地なのだ。 
桃花 モモの花。ここでは、モモの花びら。「桃花」は陶淵明の『桃花源記』や『桃花源詩』を聯想させるための語句である。 ・流水 流れゆく川の流れ。 ・杳然 ようぜん はるかなさま。 ・ さる。 ・別有天地 別な所に世界がある。 ・非人間 俗世間とは違う。この浮き世とは違う世の中。 ・人間 じんかん 俗世間。


○韻 山、閑、間。   この詩は、陶淵明の詩のイメージを借りつつも陶淵明を李白自身が乗り越えたことを示す作品と解釈する。


道教は老荘の学説と、神仙説と、天師道との三種の要素が混合して成立した宗致である。老荘の教は周知の如く、孔子孟子の儒教に対する反動思想として起ったものである。
これは仁義・礼節によって修身冶平天下を計る儒教への反動として、虚静、人為的な工作を避け天地の常道に則った生活によって、理想社会の出現を期待する。特に神仙説は、より具体的な形、東方の海上に存在する三神山(瀛州、方壷、蓬莱)ならびに西方極遠の地に存在する西王母の国を現在する理想国とした。ここには神仙が居住し、耕さず努めず、気を吸ひ、霞を食べ、仙薬を服し、金丹を煉(ね)って、身を養って不老長生である、闘争もなければ犯法者もない。かかる神仙との交通によって、同じく神仙と化し延寿を計り得るのであって、これ以外には施すべき手段はなく、これ以外の地上の営みはすべて徒為(むだ)であるとなすに至る。これらのことは、詩人の詩に多く取り上げられた。
徳に李白は若い時ほど、神仙思想にあこがれ、いんとんせいかつにあこがれてきた。



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