李白 93 春日酔起言志

春日醉起言志
處世若大夢,胡爲勞其生。
この世に生をうけることは、荘子のいう「大夢」のようである。 どうして、生きていくことにあくせく気苦労するのか。
所以終日醉,頽然臥前楹。
だから、朝から晩まで、酔っているのだ。酔いつぶれて、入り口の丸い柱のところで横になってしまった。 
覺來盼庭前,一鳥花間鳴。
ふと目が覚めて庭先を眺めてみた。 一羽の鳥が花の咲く中で鳴いている。
借問此何時,春風語流鶯。
今は一体どのような時節なのか、お尋ねします 春風に、乗せて鶯は囀(さえず)りながらこたえてくれた。
感之欲歎息,對酒還自傾。
この情景に感動してため息が出そうになっている。 酒器に向かって、また、杯を重ねてしまった。
浩歌待明月,曲盡已忘情。

大きな声で歌って、明るく澄みわたった月を待っていたが。音曲が終われば、とっくに気持ちを忘れてしまっていた。夢の中のように…。


春日 醉より起きて 志を言う 

この世に生をうけることは、荘子のいう「大夢」のようである。 どうして、生きていくことにあくせく気苦労するのか。
だから、朝から晩まで、酔っているのだ。酔いつぶれて、入り口の丸い柱のところで横になってしまった。 
ふと目が覚めて庭先を眺めてみた。 一羽の鳥が花の咲く中で鳴いている。
今は一体どのような時節なのか、お尋ねします 春風に、乗せて鶯は囀(さえず)りながらこたえてくれた。
この情景に感動してため息が出そうになっている。 酒器に向かって、また、杯を重ねてしまった。
大きな声で歌って、明るく澄みわたった月を待っていたが。音曲が終われば、とっくに気持ちを忘れてしまっていた。夢の中のように…。



春日 醉より起きて 志を言う (下し文)      
世に 處るは  大夢の若(ごと)く,胡爲(なんすれ)ぞ  其の生を勞するを。
所以(ゆえ)に  終日 醉ひ,頽然として  前楹に 臥す。
覺め來りて  庭前を 盼(なが)むれば,一鳥  花間に 鳴く。
借問す  此れ 何(いづ)れの時ぞ,春風に  流鶯 語る。
之(これ)に感じて  歎息せんと 欲し,酒に對して  還(ま)た 自ら傾く。
浩歌して  明月を 待つに,曲 盡きて  已(すで)に 情を忘る。



春日醉起言志
春の日に、酔いより起きて思いのたけを言う。 
春日 春。春の日。春の昼。 ・醉起 酔いより起きる。酔っぱらって。 ・言志 思いを言う。

 
處世若大夢,胡爲勞其生。
この世に生をうけることは、荘子のいう「大夢」のようである。 どうして、生きていくことにあくせく気苦労するのか。
處世 しょせい 世の中を生きてゆくこと。世間で暮らしを立てること。世の中で生活をしてゆくこと。「處」は動詞。上声。 ・ …のようである。ごとし。如。 ・大夢 大いなる夢。夢のまた夢。紀元前三世紀の思想家の荘子は、あるとき夢のなかで胡蝶になり、ひらひらと飛んでたのしかった。目がさめると掌にかえったが、かれは考えた。胡蝶が夢をみて掌になっているのではなかろうかと。 ・胡爲 こい どうして…なのか。なんすれぞ…(や)。 ・ 気苦労をする。骨を折る。苦労する。労する。 ・其生 その人生。

所以終日醉,頽然臥前楹。
だから、朝から晩まで、酔っているのだ。酔いつぶれて、入り口の丸い柱のところで横になってしまった。 
 ・所以 しょい そうだから。それゆえ。だから。 ・終日 朝から晩まで。昼間ずっと。一日中。・頽然 たいぜん 酔いつぶれるさま。くずれるさま。 ・前楹 ぜんえい 入り口の丸い柱。 ・ えい 棟の正面の東西にある丸柱。

覺來盼庭前,一鳥花間鳴。
ふと目が覚めて庭先を眺めてみた。 一羽の鳥が花の咲く中で鳴いている。
覺來 目覚めてきて。 ・ 目覚める。 ・-來 …てくる。 ・ はん 望む。眺める。希望する。美人が目を動かす。めづかいする。目許が美しい。 ・庭前 庭先。 ・一鳥 一羽の鳥。とある鳥。 ・花間 花の咲いている中に。

借問此何時,春風語流鶯。
今は一体どのような時節なのか、お尋ねします 春風に、乗せて鶯は囀(さえず)りながらこたえてくれた。
・借問 お訊ねする。 ・此 これ。 ・語 かたる。さえずる。ここでは、(小鳥が)さえずる意で、使われている。 ・流鶯 ウグイスの鳴き声が流麗である。

感之欲歎息,對酒還自傾。
この情景に感動してため息が出そうになっている。 酒器に向かって、また、杯を重ねてしまった。
 春の日の情景。軽くリズムをとる言葉。 ・欲:…しようとする。 ・歎息 たんそくたいへん感心する。讃える。褒める。次の酒を誘導するための語句。 ・ 歌声に合わせて唱える。讃える。褒める。たいへん感心する。歎く。・對酒 酒に向かって。酒を前にして。酒に対して。 ・ なお。なおもまた。 ・自傾 酒壷を自分で傾ける。

浩歌待明月,曲盡已忘情。
大きな声で歌って、明るく澄みわたった月を待っていたが。音曲が終われば、とっくに気持ちを忘れてしまっていた。夢の中のように…。 
・浩歌 こうか 大きな声でのびやかに歌う。 
明月 澄みわたった月。 ・曲盡 音曲が終わる。 ・已 とっくに。すでに。 ・忘情 気持ちを忘れてしまう。  ・ おもむき。あじわい。心。感情。なさけ。


 李白は酔いから覚めると芸妓と一緒に過ごしたことに気が付いた。芸妓は唄ってくれていた。美しい声で唄ってくれ、また夢心地にしてくれる。ああ、素晴らしいと感嘆してしまう。歌を聴きながら思わず知らず酒樽を独りで傾けていた。歌を唄いきってしまうと・・・・・。

このブログで取り上げた李白の同形式の「婉情詩」は多い
李白93 春日酔起言志   -------------- 曲盡已忘情。
李白87 游南陽清泠泉   -------------- 曲盡長松聲。 
李白88下終南山過斛斯山人宿置酒---  曲盡河星稀。

 これは李白の神仙思想の表れで、現実世界にいかにたのしく生きてゆくか、海のかなたにある仙人の住む山に行かなくても、仙人の不老長寿の薬よりも回春薬の金丹よりも酒があれば最高なのだ。と解釈するが、このことが、道教の神仙思想を李白が否定したということではなく、ただ、手近な酒に求めることが賢人であると述べているのである。
 「曲尽きて」というのは、情けを交わし合ったことの終わりを示すもの。