李白 97 把酒問月


把酒問月、故人賈淳令余問之。
酒の入った盃を持って月に問いかける。 友人の賈淳の要請に応えて、質問の詩を作った。
靑天有月來幾時,我今停杯一問之。
青く澄みきった大空に月が現れてから、どれくらいの時間が経ったのだろうか。わたしは杯を月に向かってとどめて、月にきいてみようとおもう。
人攀明月不可得,月行卻與人相隨。
人が明るくかがやく月をつかむことは不可能なことである、だけど月は、人が歩くと、どこまでも人についてきてくれる。
皎如飛鏡臨丹闕,綠煙滅盡淸輝發。
白く輝くその姿は、空を鏡が飛んで天上の赤い宮殿にさしかかったかのよう。緑色の靄がすっかり無くなってしまって、清らかな光が射している。
但見宵從海上來,寧知曉向雲閒沒。
ただ、夜になって海面から昇ってくるところは見ているが、夜明けなって、残月が雲間にしずんでいくところは興味ないものだ。
白兔搗藥秋復春,嫦娥孤棲與誰鄰。
白ウサギが秋からまた春になっても、ずうっと仙薬を臼でついて練っている。美しかった嫦娥は不死の仙薬を盗んで飲み、月に奔って、月で独りぼっち住んでいて、いったい誰と暮らすのか。
今人不見古時月,今月曾經照古人。
今生きている人は、昔の月をながめられないが。今見えている月は、かつて昔の人を照らしていたのだ。
古人今人若流水,共看明月皆如此。
昔の人今の人も、流れ去る川の流れのように移ろっていったが、皆が皆、同じ思いで明月を見ているのだ。
唯願當歌對酒時,月光長照金樽裏。

ただ、願わくは、歌をうたい、酒を飲んでいる時には、月光はいつも黄金の素晴らしい酒器を照らしてくれることを。




酒の入った盃を持って月に問いかける。 友人の賈淳の要請に応えて、質問の詩を作った。

青く澄みきった大空に月が現れてから、どれくらいの時間が経ったのだろうか。わたしは杯を月に向かってとどめて、月にきいてみようとおもう。 
人が明るくかがやく月をつかむことは不可能なことである、だけど月は、人が歩くと、どこまでも人についてきてくれる。
白く輝くその姿は、空を鏡が飛んで天上の赤い宮殿にさしかかったかのよう。緑色の靄がすっかり無くなってしまって、清らかな光が射している。
ただ、夜になって海面から昇ってくるところは見ているが、夜明けなって、残月が雲間にしずんでいくところは興味ないものだ。
白ウサギが秋からまた春になっても、ずうっと仙薬を臼でついて練っている。美しかった嫦娥は不死の仙薬を盗んで飲み、月に奔って、月で独りぼっち住んでいて、いったい誰と暮らすのか。
今生きている人は、昔の月をながめられないが。今見えている月は、かつて昔の人を照らしていたのだ。
昔の人今の人も、流れ去る川の流れのように移ろっていったが、皆が皆、同じ思いで明月を見ているのだ。
ただ、願わくは、歌をうたい、酒を飲んでいる時には、月光はいつも黄金の素晴らしい酒器を照らしてくれることを。


(下し文)酒を把(と)りて 月に問う

                       
靑天 月 有り  來(こ)のかた 幾時 ぞ,我 今 杯を停(とど)めて ひとたび之に 問わん。
人 明月に 攀(よ)じんとするも 得(う)べからず,月行 卻って  人と 相 隨う。
皎(きょう)として 飛鏡の  丹闕(たんけつ)に臨むが如く,綠煙 滅び尽くして  清輝 發す。
但 見る 宵に海上より 來り,寧ぞ 知らん 曉に  雲閒に向ひて 沒するを。
白兔 藥を搗いて  秋 復(ま)た 春,嫦娥 ひとり棲み  誰と鄰りせん。
今人は 見ず 古時の月,今月は 曾經(かつ)て  古人を照らせり。
古人 今人  流水の若く,共に 明月を看る  皆 此(か)くの 如し。
唯 願う 歌に當たり  酒に對するの時,月光 長(とこし)えに  金樽の裏(うち)を照らさんことを。


把酒問月;故人賈淳令余問之
酒の入った盃を持って月に問いかける。 友人の賈淳の要請に応えて、質問の詩を作った。
 ・把酒 酒の入った盃を持つ。
李白87~すべて酒に関して詩である。李白 67 宣州謝朓樓餞別校書叔雲 
棄我去者、昨日之日不可留,亂我心者、今日之日多煩憂。
長風萬里送秋雁,對此可以酣高樓。
蓬莱文章建安骨,中間小謝又清發。
倶懷逸興壯思飛,欲上青天覽明月。
抽刀斷水水更流,舉杯銷愁愁更愁。
人生在世不稱意,明朝散髮弄扁舟。
でも酒杯をもって詠う。

青天有月来幾時、我今停杯一問之。
青く澄みきった大空に月が現れてから、どれくらいの時間が経ったのだろうか。わたしは杯を月に向かってどめて、月にきいてみようとおもう。  
靑天 青空。大空。天。蒼天。人の運命をみつめる青空。大空。青天。 ・有月 月が現れて。・來:…から。…より。…このかた。時間的に続いていることを表す。 ・幾時 どれくらいの時間。 ・一問 すこし尋ねるが。一回、尋ねるがではない。漠然としているもの。

人攀明月不可得、月行卻與人相隨。
人が明るくかがやく月をつかむことは不可能なことである、だけど月は、人が歩くと、どこまでも人についてきてくれる。
 よじる。手の力でつかむこと。 ・明月 澄んだ月。 ・不可得 あり得ることではない、不可能だが。 ・行 月の運行。月の動き。 ・卻 反対に、(思い)とは逆に。かえって。 ・與 …と ・人 ひと、人間。月に対して使っている。 ・ …に。動作が対象に向かっていることをいう。・ ついていく。くっついていく。
李白 88 下終南山過斛斯山人宿置酒
暮從碧山下。 山月隨人歸。
日暮れに碧山から下ってくると、山の端からのぼってきた月も我々についてくる。

皎如飛鏡臨丹闕、綠煙滅盡淸輝發。
白く輝くその姿は、空を鏡が飛んで天上の赤い宮殿にさしかかったかのよう。緑色の靄がすっかり無くなってしまって、清らかな光が射している。
 ・皎 けう 白い。月光が白い。 ・飛鏡 大空を飛ぶ鏡で、月の形容として使われている。 ・丹闕 赤く色を塗った仙人の住む宮殿の門。宮居。 ・丹 あかい。仙人、天子を暗示するものである。 ・闕 宮城の門。・綠煙 緑色の靄。 ・滅盡 すっかり無くなってしまうこと。 ・淸輝 清らかな光。月光のこと。

但見宵從海上來、寧知曉向雲間沒。
ただ、夜になって海面から昇ってくるところは見ているが、夜明けなって、残月が雲間にしずんでいくところは興味ないものだ。 
但見 ただ…だけを見ているが(しかしながら)。「但見」は、逆接の意味が含まれる。 ・ よい。夜。 ・從 …より。 ・ ここでは昇ってくること。・寧 どうして…か。なんぞ。いずくんぞ。 ・ 夜明け。あかつき。 ・ …に。 ・雲閒 くもま。雲間。 ・ しずむ。

白兔搗藥秋復春、嫦娥孤棲與誰鄰。
白ウサギが秋からまた春になっても、ずうっと仙薬を臼でついて練っている。美しかった嫦娥は不死の仙薬を盗んで飲み、月に奔って、月で独りぼっちで住んでいて、いったい誰と暮らすのか。
白兔 白ウサギ。月に住むという。 ・搗藥 不老不死の薬をつく。晉の傅玄『擬天問』「月中何有?白兔搗藥」。等による。『搜神記』等で、羿の妻、嫦娥は、西王母からに与えた不死の仙薬を盗んで飲み、月に奔った、という伝説に因り、白ウサギ(玉兎)が不死の薬を搗いている。 ・秋復春 秋になって、(冬が過ぎて)、また、春になっても。長い間。ずうっと。・嫦娥の妻。1. 道教の影響 2. 芸妓について 3. 李商隠 12 嫦娥 参照  ・孤棲 ひとりだけで住んでいた。・與誰鄰 誰と隣り合って暮らすのか。交わりがないだろうと同情している。

今人不見古時月、今月曾經照古人。
今生きている人は、昔の月をながめられないが。今見えている月は、かつて昔の人を照らしていたのだ。  
曽経 かつて。

古人今人若流水、共看明月皆如此。
昔の人今の人も、流れ去る川の流れのように移ろっていったが、皆が皆、同じ思いで明月を見ているのだ。
流水 年月の経過を云う・如此 このように月を見ている。

唯願當歌對酒時、月光長照金樽裏。
ただ、願わくは、歌を唱い、酒を飲んでいる時には、月光はいつも黄金の素晴らしい酒器を照らしてくれることを。
金樽 黄金の口の広いおおきな酒器。素晴らしい杯。 ・ なか。うち。



 大空に明るく輝く月とむかいあって、この月明かりに自分を全く同化していく、趣興などをとりどりに面白く、詩を愛することを深くしている。こうした趣向は、六朝の詩人陶淵明から発して、初唐の詩人王維、王勃などにも見られるものであるが、その作品の数の多さと、実際の生活が融和している点では、李白に比すべき詩人は全くいない。

 老荘思想、神仙思想、仙人たる隠遁生活にあこがれをもち、詩と酒をこよなく愛した。

 酒の詩はまだ続く。