古風五十九首 其七 李白108/350
古風五十九首 其七
客有鶴上仙、飛飛凌太清。
鶴の背にのった仙人が、大空を飛びまわって大酒境まで行こうとしている。
揚言碧雲裏、自道安期名。
あおい雲のなかから名のりをあげて、われこそは安期生であると言った。
兩兩白玉童。雙吹紫鸞笙。
左右に、白玉のように美しいお顔の童子う従えて、ともに紫檀で鷲のかたちの笙を奏でている。
去影忽不見、囘風迭天聾。
ところがたちまち、姿は見えなくなり、向かい風吹き天上の音楽だけを送ってきた。
拳首遠望之、諷然若流星。
首をのばして遠くを望むと、聞こえてきた天上の調が、流れ星のようにきえていった。
願餐金光草、詩興天斉傾。
わたしの願いは、仙人草を食べることであり、生命は天とならび帰服することにある。
鶴の背にのった仙人が、大空を飛びまわって大酒境まで行こうとしている。
あおい雲のなかから名のりをあげて、われこそは安期生であると言った。
左右に、白玉のように美しいお顔の童子う従えて、ともに紫檀で鷲のかたちの笙を奏でている。
ところがたちまち、姿は見えなくなり、向かい風吹き天上の音楽だけを送ってきた。
首をのばして遠くを望むと、聞こえてきた天上の調が、流れ星のようにきえていった。
わたしの願いは、仙人草を食べることであり、生命は天とならび帰服することにある。
(下し文)古風 其の七
客に鶴上の仙有り、飛び飛んで 太清を凌ぐ
言を揚ぐ 碧雲の裏、自ずから道う 安期が名。
両両たり 白玉の童、双び吹く 紫鸞の笙
去影 忽ちに見えず、回風 天声を送る
首を挙げて 遠く之を望めば、諷然として 流星の若し
願わくは金光の草を餐し、寿 天と斉しく傾かん
客有鶴上仙、飛飛凌太清。
鶴の背にのった仙人が、大空を飛びまわって大酒境まで行こうとしている。
○凌 のりこえる。○太清 天上にある世界。道家でいわゆる三清の一つ。聖人は玉清に登り、真人は上清に登り、仙人は太滑に登るという。 李白の詩は、道教の説明をきちんと入れなければいけない。
三清(さんちん):
最高神である上合虚道君応号元始天尊、右に霊宝天尊、左に道徳天尊(太上老君)を配した3神のことである。
三清境に住み、玉清には元始天尊が、上清には霊宝天尊が、太清には太上老君がそれぞれ宮殿を構えていると言われている。6世紀以降、それまで最高神として扱われていた道家の創始者・太上老君を三身一体の一部として組み入れ、元始天尊をリーダーとして道教の最高神として祭られるようになった。
元始天尊 三清の中央に位置する神。三清界の玉京(玉清)という場所に住むという。上合虚道君応号元始天尊 玉清元始天尊、玉清とも呼ぶ。道と万物の創造神であると言われ、道士の信仰が熱い。
霊宝天尊 別名太上道君。三清界の上清境に住むので上清、上清天尊とも呼ばれる。
太上老君 別名道徳天尊。三清の1人で道家の創始者。三清境の太清に宮殿を構えることから太清とも呼ばれる。
揚言碧雲裏、自道安期名。
あおい雲のなかから名のりをあげて、われこそは安期生であると言った。
○揚言 名乗りを上げる。○碧雲 青雲。李白は青い色にこの文字を多用する。好きな文字なのであろう。○安期 仙人の名。安期宅秦の墳邪の人で、学問を河上文人に受け、東海のほとりで薬を売っていた。当時の人は千歳公と呼んだ。始皇帝が山東に遊んだとき、三旦二晩ともに語った。金崗数千万を賜わったが、みな置いたまま立去り、「数十年のちに、われを蓬莱山のふもとにたずねよ」という置手紙をのこした。始皇はかれを海上にさがさせたが、使者は風波にあい引返した。漢の武帝の時、李少君という者が帝に報告した。「臣がかつて海上に遊んだとき、安期生を見た。かれは瓜のように大きいナツメを臣に食わせた、云云」武帝もまた、方士を海に派遣して安期生をさがさせたという。「列仙伝」や「史記」『三国志』「魏書」に登場する話。
兩兩白玉童。雙吹紫鸞笙。
左右に、白玉のように美しいお顔の童子う従えて、ともに紫檀で鷲のかたちの笙を奏でている。
○白玉童 白玉のような清らかな顔の童子。○紫鸞笙 王子喬という仙人は笙の名手であったが、かれの笙は紫檀で鳳翼にかたどって製ってあった。鸞は、鳳風の一種。
去影忽不見、囘風迭天聾。
ところがたちまち、姿は見えなくなり、向かい風吹き天上の音楽だけを送ってきた。
〇囘風 向かい風。上句の「去」の対語としての「囘」は帰ることで天からこちらへ送ってくれた調べとなる。回風はつむじ風。○天声 天上の音楽。
拳首遠望之、諷然若流星。
首をのばして遠くを望むと、聞こえてきた天上の調が、流れ星のようにきえていった。
○諷 そらんじる。天上の音楽のこと。 ○然若 しかり・・・・ごとく
願餐金光草、壽興天斉傾。
わたしの願いは、仙人草を食べることであり、生命は天とならび帰服することにある。
○金光草 仙人草。
日本ではよく見かける。
○斉 せい齊 ととのえる。ならべる。 ・さい齋つつしむ。神仏へのそなえもの。学問をするところ。
○傾 心を傾ける。帰服する。