蜀道難 李白127  都長安(翰林院供奉)

雑言古詩「蜀道難し」
賀知章が謫仙人として、大絶賛した詩である。前の 烏棲曲 李白125花の都長安(翰林院供奉)   は楊貴妃との仲を詠ったいわば「オベンチャラ」であるが、詩人としての評価は「蜀道難」にあった。この詩により、玄宗に推薦したというのも、否定できない。要するに呉筠等の道教関係の側、司馬承禎、持盈(ジエイ)法師(玉真公主)や、賀知章など、ここにきて集中して推薦がなされたのである。こうして李白は翰林に入ることを得た。

この「蜀道難」は迫力ある楽府である。玄宗もまさか10年後に自らがこの路を逃避して成都に入るとは考えもしなかったことである。

蜀道難
噫吁戲危乎高哉。
ああ、何と危うく、高いことか。
蜀道之難。   難于上青天。
蜀に行く道の難儀ことよ、その難しさは青空に登るよりもなお難しいだろう。
蠶叢及魚鳧。 開國何茫然。
蜀王の蚕叢、さらには魚鳧、かれらの開国の世に何と遠くたどり着くことができなくことか。
爾來四萬八千歲。 不與秦塞通人煙。
それ以来、はるかに四万八千年、長安地方とは、人家の煙も通じないままだった。
西當太白有鳥道。 可以橫絕峨眉巔。
西のかた太白山には、鳥しか通えないような高く険しい道があるが、どうして峨眉山の巔までも、ずいと横切って進めることができよう。
地崩山摧壯士死。 然后天梯石棧相鉤連。
大地が崩れ、高山がくだけ、壮士たちが圧死したという大事件。その後で、天の梯子のような山道や、岩壁に渡した桟道が、やっとつながるようになったのだ。
上有六龍回日之高標。下有沖波逆折之囘川。
上のほうに有るのは、六竜の引く太陽神の車も迂回するような、さらに高く突き出た峰、下のほうに有るのは、ぶつかりあう波頭が逆巻きつつ、蛇行して流れ去る激流の川である。
黃鶴之飛尚不得過。 猿猱欲度愁攀緣。 』

黄鶴が飛ぼうとしても、越えてしまうのは、なお不可能だろう、猿が渡ろうとしても、よじのぼることさえできなくて考え込んでしまうだろう。

青泥何盤盤。 百步九折縈岩巒。
青泥の嶺の山道は、何と曲りくねって続くことか。百歩のうちに九度も折れ曲り、岩山をめぐって進むのだ。
捫參歷井仰脅息。以手撫膺坐長嘆。
参の星座を手でさぐり、井の星座を踏みしめるようにして、天を仰いで苦しい息をつき、わが手で胸をさすりつつ、腰をおろして長いため息ばかりつく。
問君西游何時還。畏途巉岩不可攀。
 君にたずねたい。西に向かう旅に出て、何時になったら還れるのかと。こんな恐ろしい旅路の嶮しい岩山は、よじ登ることさえなどできないのだ。
但見悲鳥號古木。雄飛雌從繞林間。
ふと見れば、悲しげな鳥が、樹齢も知られぬ古木に鳴いている、雄が飛び、雌が後を追って、樹々の間をめぐってゆく。
又聞子規啼夜月。愁空山。
また聞けば、ホトトギスが夜半の月光に啼き、何にもない山中で愁え鳴きをしている。
蜀道之難。 難于上青天。
「蜀に行く道の難儀ことよ、その難しさは青空に登るよりもなお難しいだろう。」
使人聽此凋朱顏。』
人がこの言葉を聴けば、張りのある若さ紅顔も凋むことだろう。


連峰去天不盈尺。 枯松倒挂倚絕壁。
連なる峰々は、天から一尺にも足りぬ高さでそびえたち、枯れた松の木が、まるで逆さに掛かったように、絶壁によりかかって生えている。
飛湍瀑流爭喧豗。 砯崖轉石萬壑雷。
飛び散るしぶきの急流と、落ちかかる瀑布の流れは、たがいに豪濁音を争っている、絶壁にぶつかり、岩石を転がして、すべての谷々に雷鳴がとどろきわたっているのだ。
其險也如此。
その唆しさは、これほどまでのものなのだ。
嗟爾遠道之人胡為乎來哉。
ああ君よ、遠き道をゆく旅人よ、どうしてこんな所にやってきてしまったのか。
劍閣崢嶸而崔嵬。
剣門山の閣道は、崢嶸で崔嵬として草木もなく高く険しすぎる。
一夫當關。 萬夫莫開。
一人の男が、関所を守れば、万人が攻めても、開きはしない。
所守或匪親。化為狼與豺。
守るその男が、もし骨肉の親族でないならば、狼や山犬のような、反逆者にならぬとも限らない。
朝避猛虎。 夕避長蛇。
夜明けには、猛虎のようなやからを避け、ゆうべには、大蛇のようなやからを避ける。
磨牙吮血。 殺人如麻。
かれらは、牙を磨ぎ、血をすすって、手当り次第に、人々を殺す。
錦城雖云樂。 不如早還家。
山のかなた 〝錦城″ は、楽しい所だと言われるが、いっそ、早く我が家に戻ったほうがよい。
蜀道之難。 難于上青天。
蜀に行く道の難儀ことよ、その難しさは青空に登るよりもなお難しいだろう。
側身西望長咨嗟。』

身をよじって西のかたを望み、長く嘆息するばかりだ。






ああ、何と危うく、高いことか。蜀に行く道の難儀ことよ、その難しさは青空に登るよりもなお難しいだろう。
蜀王の蚕叢、さらには魚鳧、かれらの開国の世に何と遠くたどり着くことができなくことか。
それ以来、はるかに四万八千年、長安地方とは、人家の煙も通じないままだった。
西のかた太白山には、鳥しか通えないような高く険しい道があるが、どうして峨眉山の巔までも、ずいと横切って進めることができよう。
大地が崩れ、高山がくだけ、壮士たちが圧死したという大事件。その後で、天の梯子のような山道や、岩壁に渡した桟道が、やっとつながるようになったのだ。
上のほうに有るのは、六竜の引く太陽神の車も迂回するような、さらに高く突き出た峰、下のほうに有るのは、ぶつかりあう波頭が逆巻きつつ、蛇行して流れ去る激流の川である。
黄鶴が飛ぼうとしても、越えてしまうのは、なお不可能だろう、猿が渡ろうとしても、よじのぼることさえできなくて考え込んでしまうだろう。

16shisenseitomap赤印の長安から南西方面に成都がある。太白山、剣門山を経て、巴西、成都のルートということになる。天水、同谷から同じルートを杜甫が通っている。(杜甫、同谷紀行十二首、成都紀行十二首がある。)

蜀道難
蜀道難   『楽府詩集』巻四十「相和歌辞、窓調曲」。長安から萄に入る山路が険しく困難なことを詠う。一首の表現意図については多くの説があるが、一説に特定する必要はない。


噫吁戲危乎高哉。
蜀道之難。  難于上青天。
蠶叢及魚鳧。 開國何茫然。

蜀への道の難しさ。
ああ、何と危うく、高いことか。蜀に行く道の難儀ことよ、その難しさは青空に登るよりもなお難しいだろう。
蜀王の蚕叢、さらには魚鳧、かれらの開国の世に何と遠くたどり着くことができなくことか。

噫吁戲  感嘆詞「ああ」「おお」などに相当する。蜀地方の方言とされる。○蠶叢及魚鳧  伝説中の、古代のどう蜀国における二人の君主の名。○茫然-ぼんやり広がって見定めがたいさま。
 
爾來四萬八千歲。 不與秦塞通人煙。
それ以来、はるかに四万八千年、長安地方とは、人家の煙も通じないままだった。
爾来 それ以来。〇四万八千歳 揚雄の『蜀王本紀』(『文選』巻四「三都賦」への西晋の劉達住所引)に、「どう蜀王の先、蚕叢・柏蓬・魚長・蒲沢∴開明と名づく。……開明従り上りて蚕叢に到るまで、三万四千歳を積む」とある。○秦塞 長安地方の塞。ここでは広く長安地方のまちや村をいう。


西當太白有鳥道。 可以橫絕峨眉巔。
西のかた太白山には、鳥しか通えないような高く険しい道があるが、どうして峨眉山の巔までも、ずいと横切って進めることができよう。
太白 長安の西方約100kmの山(3767m)。秦嶺山脈の主峰の一つ。○鳥道 鳥だけが通れるような険岨な山道。○何以 どのようにして。○峨眉 成都の西南西約220kmにある山(3098m)でここから西、北西に至るまで6000m級の山が連なっている。その連峰の中で蜀を象徴する名山として、ここに引いたもの。長安から蜀に入り際に蜀を包み込むように見えることから述べているのであり、進んで行く山道とは、関連しない。


地崩山摧壯士死。 然后天梯石棧相鉤連。
大地が崩れ、高山がくだけ、壮士たちが圧死したという大事件。その後で、天の梯子のような山道や、岩壁に渡した桟道が、やっとつながるようになったのだ。
地崩山擢壮士死   『華陽国志』(巻三「蜀志」)の伝説を詠ったもの。秦の恵王は、蜀王が好色なのを知って五人の美女を送った。蜀は五人の壮丁(壮士)を遣わして美女を迎えた。梓潼(剣門関の南西約80km)まで戻ってきたとき、大蛇が洞穴に入るのを見かけた。一人がその尾を引っぱったが動かず、五人で掛け声をかけて引っはると、山が崩れ、五人の壮士、五人の美女、お供のものたちも、みな圧死し、山も五つの嶺に分かれた(要旨)。○天梯 天までとどく梯子のような階段。高く険しい山道に喩える。○石桟 岩壁に刻みを作り木材を差し込みそれに板材を張っていく桟橋上のものをいう。○鉤連 (鉤で引っかけるように)つながる、つなげる。○六竜 太陽神の乗る、六頭立ての竜の引く車。義和という御者がそれを御して大空を東から西にめぐる、という神話に基づく。(『初学記』巻一所引の『准南子』「天文訓」など)。


上有六龍回日之高標。下有沖波逆折之囘川。
上のほうに有るのは、六竜の引く太陽神の車も迂回するような、さらに高く突き出た峰、下のほうに有るのは、ぶつかりあう波頭が逆巻きつつ、蛇行して流れ去る激流の川である。
回日之高標 太陽神の龍車が迂回しなければならないような高い山の峰。


黃鶴之飛尚不得過。 猿猱欲度愁攀緣。 』
黄鶴が飛ぼうとしても、越えてしまうのは、なお不可能だろう、猿が渡ろうとしても、よじのぼることさえできなくて考え込んでしまうだろう。
猿猱 手の長めのサルの類。○攀緣 よじのぼる。


韻字 天・然・煙・厳・連・川・縁
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青泥の嶺の山道は、何と曲りくねって続くことか。百歩のうちに九度も折れ曲り、岩山をめぐって進むのだ。
参の星座を手でさぐり、井の星座を踏みしめるようにして、天を仰いで苦しい息をつき、わが手で胸をさすりつつ、腰をおろして長いため息ばかりつく。
 君にたずねたい。西に向かう旅に出て、何時になったら還れるのかと。こんな恐ろしい旅路の嶮しい岩山は、よじ登ることさえなどできないのだ。
ふと見れば、悲しげな鳥が、樹齢も知られぬ古木に鳴いている、雄が飛び、雌が後を追って、樹々の間をめぐってゆく。
また聞けば、ホトトギスが夜半の月光に啼き、何にもない山中で愁え鳴きをしている。
「蜀に行く道の難儀ことよ、その難しさは青空に登るよりもなお難しいだろう。」人がこの言葉を聴けば、張りのある若さ紅顔も凋むことだろう。


青泥何盤盤。  百步九折縈巌巒。
青泥の嶺の山道は、何と曲りくねって続くことか。百歩のうちに九度も折れ曲り、岩山をめぐって進むのだ。
青泥 蜀道の途中の険しい嶺の名。雨や霧が多く、旅人が泥土に苦しむので、この名がある。現在の甘粛省南部の徽県と陳西省北部の略陽県の中間。杜甫の成都紀行にもこのあたりのことを詠うものがある。○盤盤  (山道が)重なりめぐるさま。○巌巒  岩山や尾根。


捫參歷井仰脅息。以手撫膺坐長嘆。
参の星座を手でさぐり、井の星座を踏みしめるようにして、天を仰いで苦しい息をつき、わが手で胸をさすりつつ、腰をおろして長いため息ばかりつく。
椚参歴井  参の星座(蜀の上空)を椚で、井の星座(秦〔長安地方〕の上空)を歩みすぎる。山道が高いので、手や足が星座に届きそうだ、という表現。○脅息  (山が高く峻しく空気が薄いので)呼吸が苦しげなさま。また、緊張や悲しみで息がつけない時にも用いる。脅は収縮する、・させるの意。
 

問君西游何時還。畏途巉巌不可攀。
 君にたずねたい。西に向かう旅に出て、何時になったら還れるのかと。こんな恐ろしい旅路の嶮しい岩山は、よじ登ることさえなどできないのだ。
長途 人を畏れさせるような険しい途。○巉巌  ゴツゴツとそびえる岩。
 
但見悲鳥號古木。雄飛雌從繞林間。
ふと見れば、悲しげな鳥が、樹齢も知られぬ古木に鳴いている、雄が飛び、雌が後を追って、樹々の間をめぐってゆく。


又聞子規啼夜月。愁空山。
また聞けば、ホトトギスが夜半の月光に啼き、何にもない山中で愁え鳴きをしている。
子規 ホトトギス。「杜鵑鳥」ともかく。蜀の地方に多い。


蜀道之難。 難于上青天。 使人聽此凋朱顏。』
「蜀に行く道の難儀ことよ、その難しさは青空に登るよりもなお難しいだろう。」人がこの言葉を聴けば、張りのある若さ紅顔も凋むことだろう。
朱顔  血色のよい顔。紅顔。

韻字  盤・轡・歎・還・攀・間・山・天・顔
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連なる峰々は、天から一尺にも足りぬ高さでそびえたち、
枯れた松の木が、まるで逆さに掛かったように、絶壁によりかかって生えている。
飛び散るしぶきの急流と、落ちかかる瀑布の流れは、たがいに豪濁音を争っている、絶壁にぶつかり、岩石を転がして、すべての谷々に雷鳴がとどろきわたっているのだ。
その唆しさは、これほどまでのものなのだ。
ああ君よ、遠き道をゆく旅人よ、どうしてこんな所にやってきてしまったのか。
剣門山の閣道は、崢嶸で崔嵬として草木もなく高く険しすぎる。
一人の男が、関所を守れば、万人が攻めても、開きはしない。守るその男が、もし骨肉の親族でないならば、狼や山犬のような、反逆者にならぬとも限らない。
夜明けには、猛虎のようなやからを避け、ゆうべには、大蛇のようなやからを避ける。
かれらは、牙を磨ぎ、血をすすって、手当り次第に、人々を殺す。
山のかなた 〝錦城″ は、楽しい所だと言われるが、いっそ、早く我が家に戻ったほうがよい。
蜀に行く道の難儀ことよ、その難しさは青空に登るよりもなお難しいだろう。
身をよじって西のかたを望み、長く嘆息するばかりだ。



連峰去天不盈尺。 枯松倒挂倚絕壁。
連なる峰々は、天から一尺にも足りぬ高さでそびえたち、枯れた松の木が、まるで逆さに掛かったように、絶壁によりかかって生えている。


飛湍瀑流爭喧豗。 砯崖轉石萬壑雷。
飛び散るしぶきの急流と、落ちかかる瀑布の流れは、たがいに豪濁音を争っている、絶壁にぶつかり、岩石を転がして、すべての谷々に雷鳴がとどろきわたっているのだ。
飛溝 しぶきをあげて飛びちる激流。○暴流 滝。瀑布が落ち流れる轟音。○砯崖  水が岩壁に音をたててぶつかること。○喧豗 さわがしさ。水が出すすべての音が集まったやかましさをいう。〇萬壑  無数の谷間。
 
其險也如此。嗟爾遠道之人胡為乎來哉。
その唆しさは、これほどまでのものなのだ。
ああ君よ、遠き道をゆく旅人よ、どうしてこんな所にやってきてしまったのか。
  ああ。感嘆詞。○爾  「汝」 の類語。○ どうして。疑問反語。原因を問いただす。「何」 の類語。

 
劍閣崢嶸而崔嵬。
剣門山の閣道は、崢嶸で崔嵬として草木もなく高く険しすぎる。
剣閣 剣門山(蜀道の中の最も険岨な山。四川省東北部)の閣道(桟道)。現在の四川省剣閣県の東北の、大剣山・小剣山の間、約一五キロの山々に設置された。唐代にはここに剣門関が置かれていた。〇崢嶸而崔嵬 - 高く険しいさま。・崢嶸 山など高く嶮しいさま。歳月の積み重なるさま。寒気の厳しいさま。 ・崔嵬 石や岩がごろごろしているさま。高くそばだって草木がない山。


一夫當關。 萬夫莫開。所守或匪親。化為狼與豺。
一人の男が、関所を守れば、万人が攻めても、開きはしない。守るその男が、もし骨肉の親族でないならば、狼や山犬のような、反逆者にならぬとも限らない。
一夫当関~化為狼与財  剣閣を詠う慣用句。


朝避猛虎。 夕避長蛇。
夜明けには、猛虎のようなやからを避け、ゆうべには、大蛇のようなやからを避ける。


磨牙吮血。 殺人如麻。
かれらは、牙を磨ぎ、血をすすって、手当り次第に、人々を殺す。
  吸う・すする。音は「ゼン・セン」「ジュン・シュン」 の二系統がある。○殺人如麻  手あたり次第に人を殺す。「如麻」は、多く入り乱れるさま。


錦城雖云樂。 不如早還家。
山のかなた 〝錦城″ は、楽しい所だと言われるが、いっそ、早く我が家に戻ったほうがよい。
錦城  成都の美称。「錦官城」ともいう。昔、成都の南部地区に錦を扱う官署(少城)が置かれていたための呼称。蜀は錦の名産地だった。


蜀道之難。 難于上青天。
蜀に行く道の難儀ことよ、その難しさは青空に登るよりもなお難しいだろう。


側身西望長咨嗟。』
身をよじって西のかたを望み、長く嘆息するばかりだ。
○側身  体の向きを変える。身をよじる、振りかえる。○長咨嗟 長く嘆息する。


韻字 尺・壁/蒐・雷・哉・鬼・開・財/蛇・麻・家・嗟






蜀道難
噫吁戲危乎高哉。
蜀道之難。
難于上青天。
蠶叢及魚鳧。
開國何茫然。
爾來四萬八千歲。
不與秦塞通人煙。
西當太白有鳥道。
可以橫絕峨眉巔。
地崩山摧壯士死。
然后天梯石棧相鉤連。
上有六龍回日之高標。
下有沖波逆折之囘川。
黃鶴之飛尚不得過。
猿猱欲度愁攀緣。 』
----- 
噫吁戲(ああ) 危ふきかな高い哉
蜀道の難きは青天に上るよりも難し     
蚕叢と魚鳧(ぎょふ)と
開國 何ぞ茫然たる
爾來 四萬八千歳
秦塞と人煙を通ぜず
西のかた太白に當りて鳥道有り
何を以てか峨眉の頂を橫絶せん
地崩れ山摧けて壯士死す
然る后 天梯 石棧 相ひ鉤連す
上には六龍回日の高標有り
下には沖波逆折の回川有り
黄鶴の飛ぶこと 尚過ぐるを得ず
猿柔度らんと欲して攀縁を愁ふ



青泥何盤盤。
百步九折縈岩巒。
捫參歷井仰脅息。
以手撫膺坐長嘆。
問君西游何時還。
畏途巉岩不可攀。
但見悲鳥號古木。
雄飛雌從繞林間。
又聞子規啼夜月。愁空山。
蜀道之難。 難于上青天。
使人聽此凋朱顏。』
----
青泥 何ぞ盤盤たる
百歩九折 岩巒を巡(めぐ)る
參を捫(さぐ)り井を歴て仰いで脅息し
手を以て膺(むね)を撫し 坐して長嘆す
君に問ふ 西游して何れの時にか還ると
畏途の巉岩 攀づ可からず
但だ見る 悲鳥古木に號ぶを
雄は飛び雌は從って 林間を繞る
又聞く 子規夜月に啼いて
空山を愁ふるを
蜀道の難きは
青天に上るよりも難し
人をして此を聽いて朱顏を凋ばしむ



連峰去天不盈尺。
枯松倒挂倚絕壁。
飛湍瀑流爭喧(豗)。
(砯)崖轉石萬壑雷。
其險也如此。
嗟爾遠道之人胡為乎來哉。
劍閣崢嶸而崔嵬。
一夫當關。
萬夫莫開。
所守或匪親。
化為狼與豺。
朝避猛虎。
夕避長蛇。
磨牙吮血。
殺人如麻。
錦城雖云樂。
不如早還家。
蜀道之難。
難于上青天。
側身西望長咨嗟。』
-----
連峰天を去ること尺に盈たず
枯松倒しまに挂(か)かって絶壁に倚る
飛湍 瀑流 爭って喧?(けんかい)たり
崖を撃ち石を轉じて萬壑雷(とどろ)く
其の險や此くの若し
嗟(ああ)爾遠道の人
胡為(なんすれ)ぞ來れるや     
劍閣は崢嶸として崔嵬たり
一夫 關に當たれば
萬夫も開く莫し
守る所 或は親に匪ざれば
化して 狼と豺と為る
朝には 猛虎を避け      
夕には 長蛇を避く      
牙を磨き 血を吮(す)ひ      
人を殺すこと麻の如し
錦城 樂しと云ふと雖も
早く家に還るに如かず
蜀道の難きは
青天に上るよりも難し
身を側てて西望し 長く咨嗟す