單父東樓秋夜送族弟沈之秦  李白 Kanbuniinkai紀頌之の漢詩 李白192

 長安追放後李白が開封とともに比較的永くいたのが単父である。ここは兗州から西南二百支里で、家族の住居とも近かったからたびたび往来したと考へられる上に、この時、県の主簿の任にあった李凝、その弟らしい李沈(リシン)の二人との交際によって、事実しばらく滞在していたようである。

 この李沈が長安にゆくのを、単父の東楼で送別して作った。詩は佳作である。



單父東樓秋夜送族弟沈之秦 *時凝弟在席
単父の東楼に秋夜 同族の弟 沈の秦に行くのを送る。 *この時、弟凝もその席に在った。
爾從咸陽來。 問我何勞苦。
君は長安から来た。そして、私にどんな辛苦、苦労があったのかと質問した。
沐猴而冠不足言。 身騎土牛滯東魯。』
心の賤しいつまらない者が、高官となることは言うに足らないことであり、身は土の牛に騎乗してここ東魯に滞(とど)まっているのだ。』
沈弟欲行凝弟留。 孤飛一雁秦云秋。
上の弟の沈君はこれから長安に行こうとしていてもう一人の弟の凝君はここに留まるという、一人で旅立つというのは群れから離れた一羽の雁が、大都会の長安の暗雲の秋に飛び込むことなのだ。
坐來黃葉落四五。 北斗已挂西城樓。』
気ままにここに来たのだが、黄葉の落ちること四、五年も経ってしまったが、今、北斗の星がすでに挂(かか)って輝き始めた西城の楼閣にいる。』
絲桐感人弦亦絕。 滿堂送君皆惜別。
鼓弓、琴はここにいる人の別れの感情をかき立たせた曲も終わり琴の音も途絶えた。どこの座敷の送客の皆が別を惜んでいる。
卷帘見月清興來。 疑是山陰夜中雪。』

簾(すだれ)を巻きあげて月を見あげるとあたりは明るく照らされて清々しい興味がわいてきたのだ。これは風流人が言った「山陰地方のは夜中に雪か降った」かのように間違ってしまうほどあかるく白々しいのだ。』
明日斗酒別。 惆悵清路塵。
明日の朝は別れの酒を飲み干した別れとなる、返す返すも恨めしく思うことは、聖人の道を歩いてきた一粒の塵のような存在にされてしまったことだ。
遙望長安日。 不見長安人。
長安ですごした日々は遥かなものとして望むことはするけれどもめども、長安の朝廷の人たちについては見ることはない。
長安宮闕九天上。 此地曾經為近臣。』
長安の宮闕の御門は大宇宙の真ん中、九天の上になる、この地で少し前まで天子の近臣のものとなっていた。』
一朝復一朝。 發白心不改。
それ以来、一朝過ぎまた一朝と過ぎてきている、白髪頭に変わっていくけれど心はなかなか落ちつかないでいて改まらないのだ。
屈原憔悴滯江潭。 亭伯流離放遼海。』
屈原は憔悴(しょうすい)して湘江、潭州地方に遣られたままだった、崔亭伯は楽浪郡の官に左遷されたままだった。』
折翮翻飛隨轉蓬。 聞弦墜虛下霜空。
大鳥の羽の翮(かく)を折ってしまって、飛んでも裏返ってしまったので風に吹かれて飛ぶ転蓬のように旅をしている、弓を引いただけで墜落してしまったそして霜空の下にいるのだ。
聖朝久棄青云士。 他日誰憐張長公。』

聖人の朝廷から永久に棄てられた学徳高き賢人というものが、後世の世において誰か憐れむというのだ。漢の張長公もそうなのだ。』



なんぢ咸陽より来り われに問ふ何ぞ労苦すと。

沐猴(もっこう)にして冠するは言ふに足らず、身は土牛に騎して東魯に滞(とど)まる。』

沈弟は行かんとし凝弟は留まる、孤飛の一雁 秦雲の秋。

坐来 黄葉 落つること四五 、北斗すでに挂(かか)る西城の楼。』

糸桐 人を感ぜしめ絃また絶ゆ、満堂の送客みな別を惜む。

簾(すだれ)を巻き月を見て清興 来る 、擬ふらくはこれ山陰の夜中の雪かと。』


明日 斗酒の別、惆悵(ちゅうちょう)たり清路の塵。

遥に長安の日を望めども、長安の人を見ず。

長安の宮闕は九天の上、この地かつて経(へ)て近臣となる。』

長安の宮闕は九天の上、この地かつて経(へ)て近臣となる。

屈平は憔悴(しょうすい)して江潭に滞(とど)まり  

亭伯は流離して遼海に放たる。』

(かく)を折り翻飛(ほんぴ)して転蓬に随ひ、弦を聞き虚墜して霜空を下る。

聖朝久しく棄つ青雲の士、他日誰か憐まん張長公。』



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單父東樓秋夜送族弟沈之秦 

(本文)
爾從咸陽來。 問我何勞苦。
沐猴而冠不足言。 身騎土牛滯東魯。』
沈弟欲行凝弟留。 孤飛一雁秦云秋。
坐來黃葉落四五。 北斗已挂西城樓。』
絲桐感人弦亦絕。 滿堂送君皆惜別。
卷帘見月清興來。 疑是山陰夜中雪。』

(下し文)
なんぢ咸陽より来り われに問ふ何ぞ労苦すと。
沐猴(もっこう)にして冠するは言ふに足らず、身は土牛に騎して東魯に滞(とど)まる。』
沈弟は行かんとし凝弟は留まる、孤飛の一雁 秦雲の秋。
坐来 黄葉 落つること四五 、北斗すでに挂(かか)る西城の楼。』
糸桐 人を感ぜしめ絃また絶ゆ、満堂の送客みな別を惜む。
簾(すだれ)を巻き月を見て清興 来る 、擬ふらくはこれ山陰の夜中の雪かと。』

(現代語訳)
君は長安から来た。そして、私にどんな辛苦、苦労があったのかと質問した。
心の賤しいつまらない者が、高官となることは言うに足らないことであり、身は土の牛に騎乗してここ東魯に滞(とど)まっているのだ。』
上の弟の沈君はこれから長安に行こうとしていてもう一人の弟の凝君はここに留まるという、一人で旅立つというのは群れから離れた一羽の雁が、大都会の長安の暗雲の秋に飛び込むことなのだ。
気ままにここに来たのだが、黄葉の落ちること四、五年も経ってしまったが、今、北斗の星がすでに挂(かか)って輝き始めた西城の楼閣にいる。』
鼓弓、琴はここにいる人の別れの感情をかき立たせた曲も終わり琴の音も途絶えた。どこの座敷の送客の皆が別を惜んでいる。
簾(すだれ)を巻きあげて月を見あげるとあたりは明るく照らされて清々しい興味がわいてきたのだ。これは風流人が言った「山陰地方のは夜中に雪か降った」かのように間違ってしまうほどあかるく白々しいのだ。』



爾從咸陽來 問我何勞苦
君は長安から来た。そして、私にどんな辛苦、苦労があったのかと質問した。
咸陽 長安。


沐猴而冠不足言 身騎土牛滯東魯
心の賤しいつまらない者が、高官となることは言うに足らないことであり、身は土の牛に騎乗してここ東魯に滞(とど)まっているのだ。
沐猴(もっこう)史記・項羽本紀「沐猴而冠」、猿が冠をかぶっているということより心の賤しいつまらない者が外見を飾る、あるいは、高官となること。○土牛 猿である上に土の牛にのっているからのろのろとして。

沈弟欲行凝弟留 孤飛一雁秦雲秋 
上の弟の沈君はこれから長安に行こうとしていてもう一人の弟の凝君はここに留まるという、一人で旅立つというのは群れから離れた一羽の雁が、大都会の長安の暗雲の秋に飛び込むことなのだ。



坐來黄葉落四五 北斗已挂西城樓 
気ままにここに来たのだが、黄葉の落ちること四、五年も経ってしまったが、今、北斗の星がすでに挂(かか)って輝き始めた西城の楼閣にいる。

坐來 そぞろに来てしまった

絲桐感人弦亦絶 滿堂送客皆惜別 
鼓弓、琴はここにいる人の別れの感情をかき立たせた曲も終わり琴の音も途絶えた。どこの座敷の送客の皆が別を惜んでいる。
糸桐 琴。○ 主要な座敷。

卷簾見月清興來 疑是山陰夜中雪』
簾(すだれ)を巻きあげて月を見あげるとあたりは明るく照らされて清々しい興味がわいてきたのだ。これは風流人が言った「山陰地方のは夜中に雪か降った」かのように間違ってしまうほどあかるく白々しいのだ。  
清興來:疑是山陰夜中雪 晋の風流人、王徽之が見てたちまち友人戴逵を懐った山陰の夜の夜中の雪かと、月光を見ておもう。晋の王徽之(未詳―388) 中国、東晋(しん)の人。字(あざな)は子猷。王羲之(おうぎし)の第五子。官は黄門侍郎に至る。会稽の山陰に隠居し、風流を好み、特に竹を愛した。






(本文)
明日斗酒別。 惆悵清路塵。
遙望長安日。 不見長安人。
長安宮闕九天上。 此地曾經為近臣。』
一朝復一朝。 發白心不改。
屈原憔悴滯江潭。 亭伯流離放遼海。』
折翮翻飛隨轉蓬。 聞弦墜虛下霜空。
聖朝久棄青云士。 他日誰憐張長公。』

(下し文)
明日 斗酒の別、惆悵(ちゅうちょう)たり清路の塵。
遥に長安の日を望めども、長安の人を見ず。
長安の宮闕は九天の上、この地かつて経(へ)て近臣となる。』
長安の宮闕は九天の上、この地かつて経(へ)て近臣となる。
屈平は憔悴(しょうすい)して江潭に滞(とど)まり  
亭伯は流離して遼海に放たる。』
翮(かく)を折り翻飛(ほんぴ)して転蓬に随ひ、弦を聞き虚墜して霜空を下る。
聖朝久しく棄つ青雲の士、他日誰か憐まん張長公。』

(現代語訳)
明日の朝は別れの酒を飲み干した別れとなる、返す返すも恨めしく思うことは、聖人の道を歩いてきた一粒の塵のような存在にされてしまったことだ。
長安ですごした日々は遥かなものとして望むことはするけれどもめども、長安の朝廷の人たちについては見ることはない。
長安の宮闕の御門は大宇宙の真ん中、九天の上になる、この地で少し前まで天子の近臣のものとなっていた。』
それ以来、一朝過ぎまた一朝と過ぎてきている、白髪頭に変わっていくけれど心はなかなか落ちつかないでいて改まらないのだ。
屈原は憔悴(しょうすい)して湘江、潭州地方に遣られたままだった、崔亭伯は楽浪郡の官に左遷されたままだった。』
大鳥の羽の翮(かく)を折ってしまって、飛んでも裏返ってしまったので風に吹かれて飛ぶ転蓬のように旅をしている、弓を引いただけで墜落してしまったそして霜空の下にいるのだ。
聖人の朝廷から永久に棄てられた学徳高き賢人というものが、後世の世において誰か憐れむというのだ。漢の張長公もそうなのだ。』


明日斗酒別 惆悵清路塵
明日の朝は別れの酒を飲み干した別れとなる、返す返すも恨めしく思うことは、聖人の道を歩いてきた一粒の塵のような存在にされてしまったことだ。  
惆悵((ちゅうちょう)かなしくうらめし。○清路塵 聖人の道を歩いてきた一粒の塵のような存在。



遙望長安日 不見長安人
長安ですごした日々は遥かなものとして望むことはするけれどもめども、長安の朝廷の人たちについては見ることはない。


長安宮闕九天上 此地曾經為近臣
長安の宮闕の御門は大宇宙の真ん中、九天の上になる、この地で少し前まで天子の近臣のものとなっていた。
宮闕 宮廷。宮廷の遠望台を言うのであるがここで李白は朝廷を強調して表現している。○九天 宇宙を九分割する、地上も空も。

一朝復一朝 髪白心不改
それ以来、一朝過ぎまた一朝と過ぎてきている、白髪頭に変わっていくけれど心はなかなか落ちつかないでいて改まらないのだ。

屈平憔悴滯江潭 亭伯流離放遼海
原は憔悴(しょうすい)して湘江、潭州地方に遣られたままだった、崔亭伯は楽浪郡の官に左遷されたままだった。 
屈平 洞庭湖畔に追放された屈原。中国、戦国時代の楚(そ)の政治家・詩人。名は平。原は字(あざな)。楚の王族に生まれ、懐王に仕え内政・外交に活躍したが、汨羅(べきら)に身を投じたという。○亭伯 後漢の崔駰、字は亭伯、楽浪郡の官に左遷された。

折翮翻飛隨轉蓬 聞弦虚墜下霜空
大鳥の羽の翮(かく)を折ってしまって、飛んでも裏返ってしまったので風に吹かれて飛ぶ転蓬のように旅をしている、弓を引いただけで墜落してしまったそして霜空の下にいるのだ。

 羽のもと、羽のくき。○転蓬 風に吹かれて飛ぶよもぎ。○聞弦虚墜 つる音をきいてあたりもしないのに落ちて来る。


聖朝久棄青云士 他日誰憐張長公
聖人の朝廷から永久に棄てられた学徳高き賢人というものが、後世の世において誰か憐れむというのだ。漢の張長公もそうなのだ。
青云士 学徳高き賢人。 ○張長公 漢の張摯、字は長公、官吏となったが、世間と合はないとてやめられたのち終身仕へなかった。漢の張釈之の子。