醉後贈從甥高鎮  李白 Kanbuniinkai紀頌之の漢詩 李白350-206


醉後贈從甥高鎮
酔いが回った後にいとこの高鎮に贈った詩。
馬上相逢揖馬鞭、客中相見客中憐。』
たがいに馬の上で出あい、馬の鞭を高くふりあげて敬礼する。たがいに流浪の身であるのを見て、たがいに同情しあう。
欲邀擊筑悲歌飲、正值傾家無酒錢。
故事に云う「筑を撃ちならし悲歌慷慨する」悲壮歌を歌う時は仲間をむかえて酒を飲みたいものだが、ちょうどいま、家計は傾き、酒を買う銭も無いのが正直なところだ。
江東風光不借人、枉殺落花空自春。』
江南の風光明美な恵まれた地方であっても人を助けてはくれないのだ、いたずらにむなしく花びらを散らし、空虚に春がすぎていくのである。
黃金逐手快意盡、昨日破產今朝貧。
黄金は手あたりしだい、思うがまま、気ままに使いはたした。きのうすべて使い果たしたので、今朝はもう貧乏の極みなのだ。
丈夫何事空嘯傲、不如燒卻頭上巾。
男一人、プライドを捨てないで空威張りを決め込んでも何にもならないのだ。それより、頭の上の窮屈な平巾幘の帽子など焼いてしまった方がよいのだろう。
君為進士不得進、我被秋霜生旅鬢。
君は高進士試験に及第している、まだ官吏になれないけれども立派なものだ。旅の身のぼくは鬢の毛に秋の霜のよぅな白髪が生えてきている。
時清不及英豪人、三尺童兒重廉藺。』
太平の時代の恩恵は、英豪の人にはかえって及ばないものだ。三尺の背ぐらいしかない子供でも、讒言によって貶められた廉塵や蘭相如をばかにしているではないか。
匣中盤劍裝鞞魚、閑在腰間未用渠。
わが家の武具箱の中には、サメの鞘に入れた一ふりの盤剣がある、ぶらぶら、腰にぶらさげるだけで、一度もそれを使ったことはないものだ。
且將換酒與君醉、醉歸托宿吳專諸。』
その盤剣を酒に換えてきて、君とともに酔うことにしよう。酔ったあげくは、呉の刺客、専諸のところへでもころがり込もうじゃないか。




醉後贈從甥高鎮 現代語訳と訳註
(本文)

馬上相逢揖馬鞭、客中相見客中憐。』
欲邀擊筑悲歌飲、正值傾家無酒錢。
江東風光不借人、枉殺落花空自春。』
黃金逐手快意盡、昨日破產今朝貧。
丈夫何事空嘯傲、不如燒卻頭上巾。
君為進士不得進、我被秋霜生旅鬢。
時清不及英豪人、三尺童兒重廉藺。』
匣中盤劍裝鞞魚、閑在腰間未用渠。
且將換酒與君醉、醉歸托宿吳專諸。』

(下し文)
馬上相逢うて 馬鞭を揖(いつ)し、客中相見て 客中に憐れむ。
撃筑悲歌を邀(むか)えて飲まんと欲するも、正に値(お)う家を傾けて酒銭の無きに。
江東の風光 人に借(か)さず、枉殺す落花 空しく自のずから春なるを。
黄金手を逐うて 意の快(まま)に尽き、咋日産を破りて 今朝貧なり。
丈夫何事ぞ 空しく嘯傲(しょうごう)する、如(し)かず頭上の巾を焼却せんには。
君は進士と為るも 進むを得ず、我は秋霜 旅鬢に生ぜらる。
時清けれど英豪の人に及ばず、三尺の童児も廉藺に唾す。
匣中の盤剣 鞞魚を装うも、閑(あだ)に腰間に在って 未だ渠(かれ)を用いず。
且つ将って酒に換えて 君と与に酔い、酔帰して呉の専諸に託宿せんとす。

(現代語訳)
酔いが回った後にいとこの高鎮に贈った詩。
たがいに馬の上で出あい、馬の鞭を高くふりあげて敬礼する。たがいに流浪の身であるのを見て、たがいに同情しあう。
故事に云う「筑を撃ちならし悲歌慷慨する」悲壮歌を歌う時は仲間をむかえて酒を飲みたいものだが、ちょうどいま、家計は傾き、酒を買う銭も無いのが正直なところだ。
江南の風光明美な恵まれた地方であっても人を助けてはくれないのだ、いたずらにむなしく花びらを散らし、空虚に春がすぎていくのである。
黄金は手あたりしだい、思うがまま、気ままに使いはたした。きのうすべて使い果たしたので、今朝はもう貧乏の極みなのだ。
男一人、プライドを捨てないで空威張りを決め込んでも何にもならないのだ。それより、頭の上の窮屈な平巾幘の帽子など焼いてしまった方がよいのだろう。
君は高進士試験に及第している、まだ官吏になれないけれども立派なものだ。旅の身のぼくは鬢の毛に秋の霜のよぅな白髪が生えてきている。
太平の時代の恩恵は、英豪の人にはかえって及ばないものだ。三尺の背ぐらいしかない子供でも、讒言によって貶められた廉塵や蘭相如をばかにしているではないか。
わが家の武具箱の中には、サメの鞘に入れた一ふりの盤剣がある、ぶらぶら、腰にぶらさげるだけで、一度もそれを使ったことはないものだ。
その盤剣を酒に換えてきて、君とともに酔うことにしよう。酔ったあげくは、呉の刺客、専諸のところへでもころがり込もうじゃないか。


(語訳と訳註)
醉後贈從甥高鎮
酔いが回った後にいとこの高鎮に贈った詩。
従甥 自分の家の女子が他家に嫁入して生んだ子。○高鎮 李白の詩「従甥高五に贈別す」の高五と同人物であるらしい。


馬上相逢揖馬鞭、客中相見客中憐。』
たがいに馬の上で出あい、馬の鞭を高くふりあげて敬礼する。たがいに流浪の身であるのを見て、たがいに共感しあう。
敬礼する。○客中旅のさなか。○ 共感する。


欲邀擊筑悲歌飲、正值傾家無酒錢。
故事に云う「筑を撃ちならし悲歌慷慨する」悲壮歌を歌う時は仲間をむかえて酒を飲みたいものだが、ちょうどいま、家計は傾き、酒を買う銭も無いのが正直なところだ。
撃筑悲歌 筑は、中国古代の楽器。形は琴に似ていて、竹尺で綾を撃ち鳴らす。戦国時代の燕の国の侠客、荊軻は、酒がすきで、かれの友だちである犬殺しや高漸離という筑の名手と、毎日、燕の市中で酒を飲んだ。酔いがまわると、高漸離が筑を撃ち、荊封がそれにあわせて悲壮な歌をうたった。いっしょに慷慨して泣き、傍に人がいないかのようにふるまった。話は、「史記」刺客列伝に見える。


江東風光不借人、枉殺落花空自春。』
江南の風光明美な恵まれた地方であっても人を助けてはくれないのだ、いたずらにむなしく花びらを散らし、空虚に春がすぎていくのである。
江東 江南に同じ。長江下流域南地方、江蘇・浙江省方面。湖水が多く、風光明美な地方。○枉殺 枉は、むなしく、いたずらに。殺は、強調の字。


黃金逐手快意盡、昨日破產今朝貧。
黄金は手あたりしだい、思うがまま、気ままに使いはたした。きのうすべて使い果たしたので、今朝はもう貧乏の極みなのだ。
よい。
逐手 手あたりしだい。○快意 思うがまま


丈夫何事空嘯傲、不如燒卻頭上巾。
男一人、プライドを捨てないで空威張りを決め込んでも何にもならないのだ。それより、頭の上の窮屈な平巾幘の帽子など焼いてしまった方がよいのだろう。
嘯傲 自由奔放に鼻歌に吟じてみる。プライドを捨てないで空威張りを決め込むこと。○頭上巾 平巾幘(さく)帽。平巾幘(さく)帽00
 平巾幘(さく)帽


君為進士不得進、我被秋霜生旅鬢。
君は高進士試験に及第している、まだ官吏になれないけれども立派なものだ。旅の身のぼくは鬢の毛に秋の霜のよぅな白髪が生えてきている。
進士官吏登用試験の及第者。


時清不及英豪人、三尺童兒重廉藺。』
太平の時代の恩恵は、英豪の人にはかえって及ばないものだ。三尺の背ぐらいしかない子供でも、讒言によって貶められた廉塵や蘭相如をばかにしているではないか。
英素人すぐれた能力のある人。○廉藺 簾頗と藺相如。「刎頸の交わり」の故事で知られる「史記」列伝に見える人物。どちらも戦国時代の趙の国の大臣で、廉顔は軍事上、囁相加は外交上、それぞれ特別の手柄を立てたので有名。奸臣による讒言のため、晩年は無能呼ばわりされた。


匣中盤劍裝鞞魚、閑在腰間未用渠。
わが家の武具箱の中には、サメの鞘に入れた一ふりの盤剣がある、ぶらぶら、腰にぶらさげるだけで、一度もそれを使ったことはないものだ。
はこ,武道具箱○盤劍 盤状の劍。○鞞魚 さめ皮で刀のさやをつくる。鞘のこと。○ かれ。指示代名詞。


且將換酒與君醉、醉歸托宿吳專諸。』
その盤剣を酒に換えてきて、君とともに酔うことにしよう。酔ったあげくは、呉の刺客、専諸のところへでもころがり込もうじゃないか。
專諸 戦国時代の呉の国の侠客。呉の公子光すなわち後の呉王闔閭のために呉王僚を刺殺した。「史記」刺客列伝に見える。