夜坐吟 李白 Kanbuniinkai紀頌之の漢詩 李白350-207


夜坐吟 李白
冬夜夜寒覺夜長、沈吟久坐坐北堂。
冬の夜は、夜の寒さがきびしければ厳しいほど、夜がますます長く感じられるものである。うれいの詩を吟じれば沈みこみ、ながい時間をじっと座れば座るほど、北の奥座敷に坐わることになる。
冰合井泉月入閨、金鉱青凝照悲啼。
寒さが増して氷が井戸にはりつめた、月の光が閨の部屋に冷たくさしこんでいる。黄金の油皿の火が青くこりかたまるほどの長い時間がたっている、悲しい泣きはらした顔を照らしだしている。
金釭滅、啼轉多、掩妾涙、聴君歌。
黄金の油皿の火がきえると、ますますひどく泣けてくる。わたしの涙をかくして、あなたの歌を聞きましょう。
歌有聲、妾有情、情聾合、兩無違。
歌はあなたのよい声でいい。わたしのこころには情がある。わたしの情と、いい声のあなたを、兩の手のように合わせ、たがいにちぐはぐのないようにしましょう。
一語不入意、従君萬曲梁塵飛。

一つのことばが、わたしの心情に響かないなら、あなたが万曲を歌ったとしても、それはただ、梁の上の塵を飛ばすほど澄みきった声であろうと、わたしに関係のないことなのよ、すきにしなさい。

夜坐吟

冬夜 夜は寒くして 夜の長きを覚ゆ、沈吟 久しく坐して北堂に坐す。

氷は井泉に合し 月は閏に入る、金紅青く凝って悲啼を照らす。

金紅滅し、啼くこと転(うた)た多し。

妾が涙を掩い、君が歌を聴く。

歌には声有り、妾には情有り。

情声合して、両つながら違(たご)う無けん。

一語 意に入らずんば、君が万曲梁塵(りょうじん)の飛ぶに従(ま)かせん。



夜坐吟 現代訳と訳註 解説。

(本文)
夜坐吟 李白

冬夜夜寒覺夜長、沈吟久坐坐北堂。
冰合井泉月入閨、金鉱青凝照悲啼。
金紅滅、啼轉多、掩妾涙、聴君歌。
歌有聲、妾有情、情聾合、兩無違。
一語不入意、従君萬曲梁塵飛。
  
(下し文)
冬夜 夜は寒くして 夜の長きを覚ゆ、沈吟 久しく坐して北堂に坐す。
氷は井泉に合し 月は閏に入る、金紅青く凝って悲啼を照らす。
金紅滅し、啼くこと転(うた)た多し。
妾が涙を掩い、君が歌を聴く。
歌には声有り、妾には情有り。
情声合して、両つながら違(たご)う無けん。
一語 意に入らずんば、君が万曲梁塵(りょうじん)の飛ぶに従(ま)かせん。
  
(現代語訳)
冬の夜は、夜の寒さがきびしければ厳しいほど、夜がますます長く感じられるものである。うれいの詩を吟じれば沈みこみ、ながい時間をじっと座れば座るほど、北の奥座敷に坐わることになる。
寒さが増して氷が井戸にはりつめた、月の光が閨の部屋に冷たくさしこんでいる。黄金の油皿の火が青くこりかたまるほどの長い時間がたっている、悲しい泣きはらした顔を照らしだしている。
黄金の油皿の火がきえると、ますますひどく泣けてくる。
わたしの涙をかくして、あなたの歌を聞きましょう。
歌はあなたのよい声でいい。わたしのこころには情がある。わたしの情と、いい声のあなたを、兩の手のように合わせ、たがいにちぐはぐのないようにしましょう。


一つのことばが、わたしの心情に響かないなら、あなたが万曲を歌ったとしても、それはただ、梁の上の塵を飛ばすほど澄みきった声であろうと、わたしに関係のないことなのよ、すきにしなさい。

  
夜坐吟(語訳と訳註)
  
夜坐吟 六朝の、飽照の詩集に「代夜坐吟」と題する楽府。
冬夜沈沈夜坐吟、含聲未発已知心。
霜入幕、風度林、 朱灯滅、 朱顔尋。
体君歌、逐君音、 不貴声、 貴意探。


この詩は、冬の夜に人の歌うのを聞いて、歌の声のよさよりも歌う心の深さを貴ぶ、とうたっている。李白も、同じリズムを借り、同じ発想によっている。

冬夜夜寒覺夜長、沈吟久坐坐北堂。
冬の夜は、夜の寒さがきびしければ厳しいほど、夜がますます長く感じられるものである。うれいの詩を吟じれば沈みこみ、ながい時間をじっと座れば座るほど、北の奥座敷に坐わることになる。
沈吟 かんがえこむこと。うれえなげくこと。○北堂 北向の奥の部室婦人がここに住む。


冰合井泉月入閨、金鉱青凝照悲啼。
寒さが増して氷が井戸にはりつめた、月の光が閨の部屋に冷たくさしこんでいる。黄金の油皿の火が青くこりかたまるほどの長い時間がたっている、悲しい泣きはらした顔を照らしだしている。
冰井合 井戸の水が氷って音を立てる。。○ 美人の寝室。


金紅滅、啼轉多、掩妾涙、聴君歌。
黄金の油皿の火がきえると、ますますひどく泣けてくる。
わたしの涙をかくして、あなたの歌を聞きましょう。
金釭 釭は、ともしぴの油皿。それが黄金づくり。○ ますます。○ 女の一人称。


歌有聲、妾有情、情聾合、兩無違。
歌はあなたのよい声でいい。わたしのこころには情がある。わたしの情と、いい声のあなたを、兩の手のように合わせ、たがいにちぐはぐのないようにしましょう。


一語不入意、従君萬曲梁塵飛。
一つのことばが、わたしの心情に響かないなら、あなたが万曲を歌ったとしても、それはただ、梁の上の塵を飛ばすほど澄みきった声であろうと、わたしに関係のないことなのよ、すきにしなさい。
 なるが儘にまかせる。したいようにしなさい、わたしには関係ないことだ。〇万曲 情をふくんだ一曲には心を動かされるが、情のない万曲のいい声で歌っても気にもとまらない。○梁塵飛 漢の劉向の「別録」に、漢はじまって以来の名歌手といわれる魯の人虞公は、声がすみきっていて、歌うと、梁の上につもった塵までが動いたという美声の故事。



(解説)
 冬の長き夜が、一人寝の場合長くなり、待ち人が来ないと更に長く感じる。近頃はちっとも来てくれないので毎夜泣き腫らしていた。今日も泣き腫らしていたら私の心を動かすようないい声のあなたが来てくれた。心とあなたの思いやりのある歌声できっと固く結ばれるはず。
心で結び合いたいと願っている。心が結ばれたら、あなたが来ない寒い夜もきっと泣かないでいられると思う。
 
 梁の上の塵、梁に朝日が射すなど梁の語は女性目線で寝転んで上を見ている、つまり、性交を意味している。
あなたのいい声で私の心に響かせてくれたら、明日から泣かないで済むという。
 一夜の情交でも心が通じ合うことを夢見ている妓女の詩である。