秋浦歌十七首 注目すべき秋浦の歌
李白が秋浦を歌うなかで、人生二度目の転換期、自分の人生について深く顧みている詩集である。
秋浦歌十七首 其八 李白Kanbuniinkai紀頌之の漢詩李白特集252/350



秋浦歌十七首其八
 

秋浦千重嶺、水車嶺最奇。

天傾欲墮石、水拂寄生枝。



秋浦の歌 十七首 其の八

秋浦 千重(せんちょう)の嶺(みね)

水車 嶺(みね)は最も奇なり

天傾いて石を堕(おと)さんと欲し

水は 寄生(きせい)の枝(えだ)を払う


現代的下し文
千重にも連なる秋浦の峰
なかでも水車嶺は その嶺は特別いいのだ
天は傾いて 岩が落ちてくるかと見え
水は宿り木の枝を払って流れてゆく
(通常の解釈はこの読みのとおりである)

DCF00213


紀 頌之の異訳
秋浦歌十七首其八 現代語訳と訳註
(本文)

秋浦千重嶺。 水車嶺最奇。
天傾欲墮石。 水拂寄生枝。

(下し文) 其の八
秋浦 千重(せんちょう) 嶺(みね)、水車  嶺最 奇なり。
天 堕石を欲して傾く、水は 寄生枝を払わん。


(現代語訳)
秋浦にきてからはるかに連なる峰の道よりいろんな異民族の部隊が出た。水軍と兵車を要した永王の軍が最も期待されるのだ。
天下はこのため不穏になり、王朝も転覆させようとして反乱を起こし、唐王朝は傾いた。永王の軍でもって、天下を揺るがす叛乱軍を追っ払っていくのだ。


(訳注)

秋浦千重嶺。 水車嶺最奇。
秋浦にきてからはるかに連なる峰の道よりいろんな異民族の部隊が出た。水軍と兵車を要した永王の軍が最も期待されるのだ。
千重嶺 千の数ほど山道が重なる。○水車 浙江省 杭州 桐廬県 水車嶺、というのが通説であるが、水車嶺と秋浦と間に黄山があり、200km以上離れており、場所的に無理があるということ、水車はこの山ではなく水軍と兵車というように考えられる。○嶺最奇 山脈として最もすてきなものである


天傾欲墮石。 水拂寄生枝。
天下はこのため不穏になり、王朝も転覆させようとして反乱を起こし、唐王朝は傾いた。永王の軍でもって、天下を揺るがす叛乱軍を追っ払っていくのだ。
 天下。唐国家。○ 傾国。○墮石 安禄山の叛乱。○ 永王の水軍。○寄生枝 反乱軍に抑えられた領地を示す。


秋浦の水辺には山が迫っていて、幾重にも連なる峰が見える。なかでも水車嶺は岩が倒れかかってくるように聳えており、その横を岩に寄生している木の枝を払うようにして水が流れていると詠う。李白は小舟で川を下っていることになる。
通上の解釈では、突然、愁いも故事もなくなり、抒情詩に変わることになる。それに加え何ら関係のない、一度も李白の詩に登場していない水車嶺という場所が出てくるのである。特に七首の詩がおかしくなってしまう。私の訳を通して読んでみたら李白の心の動きがよくわかる。振り返って、秋浦の歌十七首のそれぞれの語をみてみよう。
其 一 秋浦 長秋 人愁 客愁 大樓。
 長安 江水流  江水 淚 揚州。
  
其 二 秋浦 猿 夜愁  黃山 白頭
 清溪 隴水 斷腸 薄游 久游。
 雨淚 孤舟
  
其 三 秋浦 錦駝鳥
 山雞 淥水
  
其 四 兩鬢 秋浦 一朝 
 猿聲 白發 長短 成絲。
  
其 五 秋浦 白猿 飛雪
 上兒 水中月。
  
其 六 愁 秋浦客 秋浦花
 山川 剡縣 風日 長沙
  
其 七 山公馬 寧戚牛。
 白石爛 淚 黑貂裘
  
其 八 秋浦 千重嶺  水車 嶺最奇。
 天傾 墮石 水 寄生枝。



其六
愁作秋浦客。 強看秋浦花。
山川如剡縣。 風日似長沙。

(下し文)
愁えて秋浦の客と作(な)り、強(し)いて秋浦の花を看(み)る。
山川(さんせん)は  剡県(せんけん)の如く、風日(ふうじつ)は  長沙(ちょうさ)に似るに。

(現代語訳)
国の危機に対して愁をいだきながら旅人となって秋浦に来た、そこに尋ねてきてくれた人がいる。二人は話し合い秋浦の花を見たのである。
山と川のように立ち上がり行動する、隠遁していた剡県地方から立ち上がった。風と日の光のように悔しい思いを胸に秘めて命を絶った屈原の長沙での生き方を選ぶべきなのか。どちらにするか思案している。


其七
醉上山公馬、寒歌甯戚牛。
空吟白石爛、淚滿黑貂裘。

(下し文) 其の七
酔うて上る  山公(さんこう)の馬、寒歌(かんか)するは  寧戚(ねいせき)の牛。
空しく白石爛(はくせきらん)を吟ずれば、泪は満つ  黒貂(こくちょう)の裘(かわごろも)。

(現代語訳)
酔った時には、山簡のように馬に乗ってふざけてみるのは賢人であることを示している。寒い時には、甯戚のように、牛の角をたたいて貧乏をうたうと名君が見出してくれるかもしれない。
しかし、「白い石があざやかなりー」と歌ってみても、自分を用いてくれる度量の君王がいない。蘇秦のようにボロボロになった黒貂の皮ごろもに、涙がいっぱいになる。