盛唐詩 與顏錢塘登障樓望潮作 孟浩然 「峴山懐古」関連 Kanbuniinkai紀頌之の漢詩 李白特集350 -330


孟浩然は目で捉えたものをそのものの奥にある心のなかを詠うことはしない、事物の置かれている環境、事物そのものの動きを描く。随って事物を、自然界をできるだけ自然の動きの中で詠おうとしている。他の詩人にはない感覚である。『宿建徳江』(建徳の江に宿す)では同じ銭塘江の中流の人影もない荒野の岸辺に一夜を過ごしてものであった。
 この詩は、当時も仲秋に銭塘江の逆流を見物、観光が流行していた様子が描かれている。

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與顏錢塘登障樓望潮作(孟浩然 唐詩)

  百里聞雷震,鳴弦暫輟彈。
百里四方に雷のような音とあたりの空気を振動させる轟音が聞こえてくる。優雅に琴の弦を鳴らし、暫くして引くのをやめる。
  府中連騎出,江上待潮觀。
杭州の幕府からも急いで馬を連ねて飛び出して、銭塘江の上に特別な潮の動きがみられるのを待っている。
  照日秋雲迥,浮天渤澥寬。
太陽は燦々と照り輝いており、秋の雲は流れている。天に浮ぶほど垂直に立ち上がった壁の様な大波が河江いっぱいにひろがって逆流してきている。
  驚濤來似雪,一坐凛生寒。
その驚く様な大波のその頂には雪のようであり、まるで雪崩がおこったようにやってきて、ひとたびここに座って見ていると凛としてまさに寒さを感じてくるのである。


百里 雷聲震い、鳴弦 暫し弾くを輟(や)む。
府中 騎を連ねて出で、江上 潮を待ちて観る。
日に照らされて 秋雲逈かに、天を浮かべて 渤澥寛【ひろ】し。
驚濤 來たること雪の似【ごと】し、一坐 凛として寒を生ず。

 


現代語訳と訳註
(本文)

 百里聞雷震,鳴弦暫輟彈。
 府中連騎出,江上待潮觀。
 照日秋雲迥,浮天渤澥寬。
 驚濤來似雪,一坐凛生寒。


(下し文)
百里 雷聲震い、鳴弦 暫し弾くを輟(や)む。
府中 騎を連ねて出で、江上 潮を待ちて観る。
日に照らされて 秋雲逈かに、天を浮かべて 渤澥寛(ひろ)し。
驚濤 來たること雪の似(ごと)し、一坐 凛として寒を生ず。


(現代語訳)
百里四方に雷のような音とあたりの空気を振動させる轟音が聞こえてくる。優雅に琴の弦を鳴らし、暫くして引くのをやめる。
杭州の幕府からも急いで馬を連ねて飛び出して、銭塘江の上に特別な潮の動きがみられるのを待っている。
太陽は燦々と照り輝いており、秋の雲は流れている。天に浮ぶほど垂直に立ち上がった壁の様な大波が河江いっぱいにひろがって逆流してきている。
その驚く様な大波のその頂には雪のようであり、まるで雪崩がおこったようにやってきて、ひとたびここに座って見ていると凛としてまさに寒さを感じてくるのである。


(訳注)
 百里聞雷震,鳴弦暫輟彈。

百里四方に雷のような音とあたりの空気を振動させる轟音が聞こえてくる。優雅に琴の弦を鳴らし、暫くして引くのをやめる。
雷震 雷のような音とドルビーサラウンドのように空気を振動させて響きが伝わってくるさま。○鳴弦 遊興の名所でもあるこの地では琴はどこかで引かれている。○ 逆流現象の音を待っていた様子をあらわす語。○輟彈 引くのをやめる。ただやめるのではなく一斉にピタッと揃えて辞めること。・ 隊列の進行が瞬時に止まることをいう。


 府中連騎出,江上待潮觀。
杭州の幕府からも急いで馬を連ねて飛び出して、銭塘江の上に特別な潮の動きがみられるのを待っている。
府中 宮中に対して、政治を行う場所。律令制の州幕府所在地。


 照日秋雲迥,浮天渤澥寬。
太陽は燦々と照り輝いており、秋の雲は流れている。天に浮ぶほど垂直に立ち上がった壁の様な大波が河江いっぱいにひろがって逆流してきている。
渤澥  たちあがる、湧き上がる大波。・ とだえた流、並の低い部分をいう。湾。海の名。ここでは垂直に立ち上がった壁の様な大波が逆流してくることをいう。銭塘江の逆流を「渤澥」と表現しているのも孟浩然らしい動きのあるものである。


 驚濤來似雪,一坐凛生寒。
その驚く様な大波のその頂には雪のようであり、まるで雪崩がおこったようにやってきて、ひとたびここに座って見ていると凛としてまさに寒さを感じてくるのである。



解説
・銭塘江のラッパ状の河口と太陽や月の引力による満潮時によって起きる現象で、特に旧暦の8月18日に起きるものが「銭塘の秋涛」で知られている。潮の高さが歴史上9メートルもあったという。近年は3~5メートルの高さに安定している。潮が線を引き、唸りをたて、雷の音をして流れてくるため、「壮観無天下」(壮観天下なし)と称えられ、この詩では「驚濤來似雪」(驚濤 來たること雪の似【ごと】し“怒涛は雪崩のよう”)としている。

・潮を見る風習が唐の時代から始まり、宋の時代盛んになり、ずっと現在まで伝わっている。

・平穏な秋空の下、それとは対照的な銭塘潮が、正に怒濤となって押し寄せる様子と、それを見て圧倒される人々の緊張やざわつきが臨場感をともなって伝わってくる。一画面一画面が動的な描写であり、活動感に満ちたものとなっている。そして、今まで接写していた情景は急に鳥瞰図にかわるのが頸聯で、背景として、銭塘潮のダイナミズムを際立たせ、その中で、再度接写し「渤澥」と表現し、更に「寬」と鳥瞰図に戻る。遠→近→遠としている。