孟浩然・王維・李白に影響を与えた山水詩人、謝霊運 會吟行 詩集 353

はじめに(2) 2/3

彼の生涯が奇に満ち、不幸の連続であったこが、恵まれた家柄であったことと悲運な障害というギャップにこそ偉大な文学の生まれた要素である。
緑したたり、水の豊かな江南を主材料とする風雅な文学は、乾いた黄土を中心とする異民族の脅威を受け続けた北の文学とは、いろいろの意味で大きな変化をみせる。古くからこの地においては複雑な政治の変化、権力を中心にした人間どうしの醜い争いというものが地域性として持っているものであり、門閥、家柄がすべての地域であり、時代であった。謝霊運は有り余る財力と非凡な天から与えられた才能をもっていたが、ついに自己の欲望が達せられないままであった。
美しい風景をみて、日々の生活のなかで、山水詩として彼の詩の大きな特質となった。その単に山水の美のみを詠ったのではなく、複雑な社会における人間の真筆なる生き方を歌ったことは、後世の詩人に多大な影響を与えた。戦のためや艶歌を喜ばれたものから自然と人間としての生き方を山水の表現の中で詠いあげたのである。はかない人の世の「無常」「空」をみつめて当時新しい宗教として説かれた浄土教へ傾斜していったことを詩に生かしたのだ。

謝霊運(しゃれいうん、385―433)

會吟行 謝霊運 
六引緩清唱、三調佇繁音。列筵皆静寂、咸共聆會吟。」
會吟自有初、請従文明敷。敷績壺冀始、刊木至江汜。
列宿柄天文、負海横地理。』

連峯競千仭、背流各百里。
会稽の山の峰々は千仇の高さを競い、その嶺から各方面に流れる川は百里の長さをもっている。
滮池漑粳稲、軽雲曖松杞。
あふれ出る池の水は粳と稲とに漑ぎ、軽き雲は松と杞にその影を落としている。
兩京愧佳麗、三都豈能似。
その町の美しさは、いまの長安や洛陽もその綺麗さに恥じ入るであろうし、さらに魏や呉や蜀の三国鼎立の都もこのちの美しさには及ばない。
層臺指中天、飛燕躍廣途、鷁首戯清沚。』

この町の、重なる楼台は古えの周の穆王の作った中天よりも高く、高い垣には姫垣をさらに積み、大路には漢の文帝が愛した名馬飛燕とみま違えるほどの駿馬が闊歩し、船は波がおさまる静かな清き水の湊に多く泊まる。

肆呈窈窕容、路曜嬌娟子。
自乗彌世代、賢達不可紀。
勾践善廢興、越叟識行止。
范蟸出江湖、栴福入城市。
東方就旅逸、梁鴻去桑梓。
牽綴書士風、辭殫意未己。』

六引は清らかなる唱【うた】を緩【ゆる】くし、三調は繁なる音を佇【とど】む
筵に列する皆な静寂にして、咸【あまね】し 共に会の吟を聆【き】け。
会の吟には自から初めに有り、請う文明 従り敷【の】べん。」
績を敷くくこと壺【こ】冀【き】より始まれり、木を刊【か】りて江氾【こうし】に至れり。
列宿は天文 を柄【あき】らかにし、海を負うて地理横【よこ】たう。』

連なれる峰は千便【せんじん】を競い、背【そむ】き流れるは各おの百里。
破【なが】れる池は梗【うるち】と稲とに漑【そそ】ぎ、軽き雲は松と杷【おうち】とに唆【くら】し。
両京も佳麗【かれい】に悦【は】ず、三都豈に能く似んや。
層【かさ】なる台は中天より指【うつく】しく、飛燕【ひえん】は広き途【みち】に躍【おど】り、鶴首【げきしゅ】は清き沚【なぎさ】に戯る。』

肆【しつ】は窃充【おだやか】な容【すがた】を呈【あら】わし、路は婚姻【なまめか】しき子を曜【かが】やかす。
自乗 世代を弥【わた】り、賢達(の人)紀【しる】す可からず。
勾践【こうせん】は廃興を善【よ】くし、越叟【えつそう】は行くと止【とど】まるを識り。
范蟸【はんれい】は江湖に出で、栴福は城市に入り。
東方は旅逸【たび】に就き、梁鴻【りょうこう】は桑梓【ふるさと】を去れり。
牽綴【つづ】って士風を害す、辭 殫【つ】くるも意 未だ己まず。』




現代語訳と訳註
(本文)

連峯競千仭、背流各百里。
滮池漑粳稲、軽雲曖松杞。
兩京愧佳麗、三都豈能似。
層臺指中天、飛燕躍廣途、鷁首戯清沚。』


(下し文)
連なれる峰は千便【せんじん】を競い、背【そむ】き流れるは各おの百里。
破【なが】れる池は梗【うるち】と稲とに漑【そそ】ぎ、軽き雲は松と杷【おうち】とに唆【くら】し。
両京も佳麗【かれい】に悦【は】ず、三都豈に能く似んや。
層【かさ】なる台は中天より指【うつく】しく、飛燕【ひえん】は広き途【みち】に躍【おど】り、鶴首【げきしゅ】は清き沚【なぎさ】に戯る。』


(現代語訳)
会稽の山の峰々は千仇の高さを競い、その嶺から各方面に流れる川は百里の長さをもっている。
あふれ出る池の水は粳と稲とに漑ぎ、軽き雲は松と杞にその影を落としている。
その町の美しさは、いまの長安や洛陽もその綺麗さに恥じ入るであろうし、さらに魏や呉や蜀の三国鼎立の都もこのちの美しさには及ばない。
この町の、重なる楼台は古えの周の穆王の作った中天よりも高く、高い垣には姫垣をさらに積み、大路には漢の文帝が愛した名馬飛燕とみま違えるほどの駿馬が闊歩し、船は波がおさまる静かな清き水の湊に多く泊まる。


(訳注)
連峯競千仭、背流各百里。

会稽の山の峰々は千仇の高さを競い、その嶺から各方面に流れる川は百里の長さをもっている。
○千仭の連峰がもたらす、川の恵み、水の恵み、農耕の恵みをいう。


滮池漑粳稲、軽雲曖松杞。
あふれ出る池の水は粳と稲とに漑ぎ、軽き雲は松と杞にその影を落としている。
 わきでる、あふれでる。○粳稲 うるちと稲。○ くこ。おうち、楠に似た葉を持つ、木目が細やかでなめらかなので、食器類などに使う。景色が良いだけでなく実際に役だっていることをいう。


兩京愧佳麗、三都豈能似。
その町の美しさは、いまの長安や洛陽もその綺麗さに恥じ入るであろうし、さらに魏や呉や蜀の三国鼎立の都もこのちの美しさには及ばない。


層臺指中天、飛燕躍廣途、鷁首戯清沚。」
この町の、重なる楼台は古えの周の穆王の作った中天よりも高く、高い垣には姫垣をさらに積み、大路には漢の文帝が愛した名馬飛燕とみま違えるほどの駿馬が闊歩し、船は波がおさまる静かな清き水の湊に多く泊まる。」
層臺 政治をつかさどるところ。瑤台 李白「古朗月行」「清平調詞其一」につかう。崑崙山にある神仙の居所。『拾遺記』に「崑崙山……傍らに瑤台十二有り、各おの広さ千歩。皆な五色の玉もて台の基と為す」というように十二層の楼台。十二は道教の聖数に由来する。ここでは李白、謝朓の「玉階怨」のイメージを重ねているように見える。か○指中天 ○飛燕 漢の武帝は大宛より天馬を得たことがある。飛燕という駿馬である。大宛(フェルガーナ)種の駿馬。○鷁首【げきしゅ】船首に鷁を彫刻した舟。