孟浩然・王維・李白に影響を与えた山水詩人、謝霊運<9> 述祖徳詩 二首(3)其二 詩集 367

謝霊運にとって、祖父は偉大な人で、心の誇りであり、手本であった。子孫は、その偉大さに萎縮するか、これを凌ぐことを夢見るかであるが、はたして、謝霊運の行動から祖父を凌ぐ功績をあげたかったということである。


(3)述祖徳詩 二首 其二 #1
中原昔喪亂,喪亂豈解已。
天下の中央の地、洛陽地域は昔、戦乱と滅亡していたが、その戦乱と滅亡はどうして治まり、終わることがあったろうか。
崩騰永嘉末,逼迫太元始。
永嘉の年号の末に崩れ乱れ、太元の始めに北方異民族に押し迫られた。
河外無反正,江介有蹙圮。
黄河の南に、河南地方は正常に立ちかえることなく、長江の流域まで敵に迫られ、打ち破られた晉国かあった。
萬邦咸震懾,橫流賴君子。
あらゆる国、皆が震い恐れていて、天下は洪水の道なく溢れ流れるような禍を、成徳の人であるわか祖父のカによって免れようと願った。
拯溺由道情,龕暴資神理。」
祖父は世の禍乱に溺れる民を道理にかなった真実の心によって救い、乱暴な異民族の賊軍に打ち勝つのに、不可思議にもすぐれた条理を取り用いたのである

秦趙欣來蘇,燕魏遲文軌。
賢相謝世運,遠圖因事止。
高揖七州外,拂衣五湖裏。
隨山疏濬潭,傍巖蓺枌梓。
遺情捨塵物,貞觀丘壑美。」

中原 昔 喪亂【そうらん】,喪亂豈解【と】け已【や】まんや。
永嘉の末に崩騰【ほうとう】し,太元の始に逼迫【ひょくはく】す。
河外【かがい】に反正無く,江介【こうかい】に蹙圮【しゅくひ】有り。
萬邦【ばんぽう】咸【みな】震【ふる】い懾【おそ】れ,橫流【おうりゅう】君子に賴【よ】る。
溺を拯【すく】うて道情に由り,暴に龕【か】ちて神理に資【と】る。」
秦趙【しんちょう】は来らば蘇【よみがえ】らんと欣【よろこ】び、燕魏【えんぎ】は文軌【ぶんき】を遲【ま】つ。
賢相【けんそう】世運【せいうん】謝【しゃ】し,遠圖【えんと】事に因【よ】りて止【や】む。
七州の外【ほか】に高揖【こういう】し,衣を五湖の裏【うち】に拂う。
山に隨って濬潭【しゅんたん】を疏【うが】ち,巖【いわお】に傍【そ】いて枌梓【ふんし】を蓺【う】う。
情を遺【わす】れて塵物【じんぶつ】を捨て,貞【ただ】しく丘壑【きゅうがく】の美を觀る。」



現代語訳と訳註
(本文)
述祖徳詩
 二首 其二 #1
中原昔喪亂,喪亂豈解已。
崩騰永嘉末,逼迫太元始。
河外無反正,江介有蹙圮。
萬邦咸震懾,橫流賴君子。
拯溺由道情,龕暴資神理。」

(下し文)
中原 昔 喪亂【そうらん】,喪亂豈解【と】け已【や】まんや。
永嘉の末に崩騰【ほうとう】し,太元の始に逼迫【ひょくはく】す。
河外【かがい】に反正無く,江介【こうかい】に蹙圮【しゅくひ】有り。
萬邦【ばんぽう】咸【みな】震【ふる】い懾【おそ】れ,橫流【おうりゅう】君子に賴【よ】る。
溺を拯【すく】うて道情に由り,暴に龕【か】ちて神理に資【と】る。」

(現代語訳)
天下の中央の地、洛陽地域は昔、戦乱と滅亡していたが、その戦乱と滅亡はどうして治まり、終わることがあったろうか。
永嘉の年号の末に崩れ乱れ、太元の始めに北方異民族に押し迫られた。
黄河の南に、河南地方は正常に立ちかえることなく、長江の流域まで敵に迫られ、打ち破られた晉国かあった。
あらゆる国、皆が震い恐れていて、天下は洪水の道なく溢れ流れるような禍を、成徳の人であるわか祖父のカによって免れようと願った。
祖父は世の禍乱に溺れる民を道理にかなった真実の心によって救い、乱暴な異民族の賊軍に打ち勝つのに、不可思議にもすぐれた条理を取り用いたのである。


(訳注)
中原昔喪亂,喪亂豈解已。

天下の中央の地、洛陽地域は昔、戦乱と滅亡していたが、その戦乱と滅亡はどうして治まり、終わることがあったろうか。
中原 中華文化の発祥地である黄河中下流域にある平原のこと。狭義では春秋戦国時代に周の王都があった現在の河南省一帯を指していたが、後に漢民族の勢力拡大によって広く黄河中下流域を指すようになった。 ○喪亂 死亡と戦乱。土地を失い人民が離散すること。戦乱と滅亡。『詩経、小雅、常様』「喪亂既平、既安且寧。」(喪亂既に平ぎ、既に安く且つ寧し。)○解已 治まりやむこと。


崩騰永嘉末,逼迫太元始。
永嘉の年号の末に崩れ乱れ、太元の始めに北方異民族に押し迫られた。
崩騰 崩れ乱れる。○永嘉 西晋の懐帝の時の年号。307―313年○逼迫 北方(・西方)の異民族による侵略、戦乱。○太元 孝武帝の年号。東晉385-396の年

晋265-420

河外無反正,江介有蹙圮。
黄河の南に、河南地方は正常に立ちかえることなく、長江の流域まで敵に迫られ、打ち破られた晉国かあった。
河外 黄河の南、河南地方。○反正 たちかえる。○江介 長江の流域、介は界に同じ。楚辞に「江介の遺風をかなしむ。」と。○蹙圮。蹙は迫られる。圮は破れる。迫られ破られた国。ここでは晉国をいう。


萬邦咸震懾,橫流賴君子。
あらゆる国、皆が震い恐れていて、天下は洪水の道なく溢れ流れるような禍を、成徳の人であるわか祖父のカによって免れようと願った。
萬邦 あらゆる国。万国。『書経、堯典』「百姓昭明、協和萬邦。」(百姓昭明にして、萬邦を協和す。)橫流 ○君子 祖父を指す。


拯溺由道情,龕暴資神理。」
祖父は世の禍乱に溺れる民を道理にかなった真実の心によって救い、乱暴な異民族の賊軍に打ち勝つのに、不可思議にもすぐれた条理を取り用いたのである。
拯溺 溺乱に溺れ萱しむ民を救う。 ○道情 道は万象の奥にある良実の道。情は偽りない眞實の心。荘子に「道に情有り、信有り」と。○龕暴 異民族による侵略に打ち勝つ。○ よりどころ。たすける。もたらす。とる。もちいる。○神理 不思議な働きのある真理。