孟浩然・王維・李白に影響を与えた山水詩人、謝霊運<10> 隴西行 詩集 369


隴西行 
昔在老子、至理成篇。
むかし、老子がいらっしゃいました。まことにもっともな道理をまとめられた。
柱小傾大、綆短絶泉。
能力の小さいものに大きな責任を持たせる時危険は増大する。井戸にある釣瓶が短ければ水をくむことに事欠く。
鳥之棲遊、林檀是閑。
鳥が棲み遊んでいるとしても檀の木で森ができているなら鳥は木が固くにおいのために棲むことができず静かなものであろう。
韶楽牢膳、豈伊攸便。
舜帝が作ったといわれる音楽を麗しく奏で、太牢の大御馳走があるならば、どうしてこれでくつろぎ安らぎのきもちにならずにおられようか。
胡爲乖枉、従表方圓。
どういうわけか無実の罪に貶められたとしても、天子の天と地の法則にはしたがわざるを得ないだろう。
耿耿僚志、慊慊丘園。
役所の仕事というもの官僚について心が安らかではない。思うところは不満なことが多い、できることなら、隠棲したいものだ。
善謌以詠、言理成篇。
そんなことで、気に入った詩歌でもって吟じていたい。真理をいうことによって詩篇を編成したいのだ。


(隴西行)
昔 老子在り、至理 篇を成す。
柱は小 傾は大、梗【つるべのなわ】は短く絶えたる泉に。
鳥は之れ棲み遊ぶ、林せる檀【せんだん】は是れ閑【しずか】。
韶【しょう】の楽は牢膳【ろうぜん】、豈伊【こ】れ便【くつろぎ】を攸【おさ】む。
胡【なん】すれぞ 乖枉【かいおう】を為せる、方円を表わすに従う。
耿耿【やすらか】なる僚志、慊慊【けんけん】たる丘園。
善く謌【うた】い以って詠ず、理を言いて篇を成す。



現代語訳と訳註
(本文)
  隴西行
昔在老子、至理成篇。
柱小傾大、綆短絶泉。
鳥之棲遊、林檀是閑。
韶楽牢膳、豈伊攸便。
胡爲乖枉、従表方圓。
耿耿僚志、慊慊丘園。
善謌以詠、言理成篇。

(下し文) (隴西行)
昔 老子在り、至理 篇を成す。
柱は小 傾は大、梗【つるべのなわ】は短く絶えたる泉に。
鳥は之れ棲み遊ぶ、林せる檀【せんだん】は是れ閑【しずか】。
韶【しょう】の楽は牢膳【ろうぜん】、豈伊【こ】れ便【くつろぎ】を攸【おさ】む。
胡【なん】すれぞ 乖枉【かいおう】を為せる、方円を表わすに従う。
耿耿【やすらか】なる僚志、慊慊【けんけん】たる丘園。
善く謌【うた】い以って詠ず、理を言いて篇を成す。

(現代語訳)
むかし、老子がいらっしゃいました。まことにもっともな道理をまとめられた。
能力の小さいものに大きな責任を持たせる時危険は増大する。井戸にある釣瓶が短ければ水をくむことに事欠く。
鳥が棲み遊んでいるとしても檀の木で森ができているなら鳥は木が固くにおいのために棲むことができず静かなものであろう。
舜帝が作ったといわれる音楽を麗しく奏で、太牢の大御馳走があるならば、どうしてこれでくつろぎ安らぎのきもちにならずにおられようか。
どういうわけか無実の罪に貶められたとしても、天子の天と地の法則にはしたがわざるを得ないだろう。
役所の仕事というもの官僚について心が安らかではない。思うところは不満なことが多い、できることなら、隠棲したいものだ。
そんなことで、気に入った詩歌でもって吟じていたい。真理をいうことによって詩篇を編成したいのだ。


(訳注)
昔在老子、至理成篇。
むかし、老子がいらっしゃいました。まことにもっともな道理をまとめられた。
至理 まことにもっともな道理。至極 (しごく) の道理。


柱小傾大、綆短絶泉。
能力の小さいものに大きな責任を持たせる時危険は増大する。井戸にある釣瓶が短ければ水をくむことに事欠く。
柱小傾大 喻指能力小者承擔重任必出危險。


鳥之棲遊、林檀是閑。
鳥が棲み遊んでいるとしても檀の木で森ができているなら鳥は木が固くにおいのために棲むことができず静かなものであろう。
 固い木で、巣作りが難しく、エサになる虫が巣くっていない。


韶楽牢膳、豈伊攸便。
舜帝が作ったといわれる音楽を麗しく奏で、太牢の大御馳走があるならば、どうしてこれでくつろぎ安らぎのきもちにならずにおられようか。
牢膳:「以太牢為膳食」以って太牢 膳食と為す。太牢:まつりに牛・羊・豚の三性が備わること。大御馳走。『老子、二十』「衆人は熙熙として、如く享たるが太牢を如し春登るが臺に、」(衆人は熙熙として、太牢を享たるが如く、春臺に登るが如し。)


胡爲乖枉、従表方圓。
どういうわけか無実の罪に貶められたとしても、天子の天と地の法則にはしたがわざるを得ないだろう。
乖枉 そむきわかれる。乖そむく。よこしまな枉枉げる。まがった人。無実の罪。方円 天と地。『孟子、離婁上』「離婁之明、公輸子之功、不以規矩、不能成方円。孟子曰:規矩方円之至也。」(離婁之明、公輸子之功も、規矩を以ってせざれば方円を成す能はざる。孟子曰く規矩は方円之至り也。)


耿耿僚志、慊慊丘園。
役所の仕事というもの官僚について心が安らかではない。思うところは不満なことが多い、できることなら、隠棲したいものだ。
耿耿 光が明るく輝くさま。気にかかることがあって、心が安らかでないさま。○僚志 同僚。下役。志を同じくするもの。○慊慊 あきたらず思うさま。不満足なさま。○丘園 山野。小高い丘にある花畑。転じて、隠棲の場所をいう。


善謌以詠、言理成篇。
そんなことで、気に入った詩歌でもって吟じていたい。真理をいうことによって詩篇を編成したいのだ。



射霊運のこの詩は、老荘への煩斜の一つとして、楽府の「階西行」でる。実によく『老子』の哲理を簡にして要領よくとらえて歌っているのは、字句を老子を引用して構成され、よほど『老子』を熟読していたのであろうと思う。