富春渚 #2 謝霊運<14> 詩集 377


故郷の始寧で充分に精神的に、肉体的に休息した霊運は、未知の土地永嘉へと気重く出発する。永嘉に至るには海沿いに行くことも可能ではあるが、当時としては陸路を行くのがより安全であった。おそらく、永嘉から杭州に出て、富春へと旅をしたのであろう。喜寿は今の桐江のほとりにある富陽であるこの旅とてもけっして安楽な船旅ではなく、危険を冒してのものであったと、詩人は強調する巻二十六の「行旅」に引用される「富春の渚」の詩である。


(謝霊運のルートを現在の地名で示す)
杭州→蕭山→富陽→桐盧→建徳→壽昌→蘭渓→金華→永康→(ここまで銭塘江、支流の婺江【ぶこう】を登ってきた。<分水嶺>ここから甌江【おうこう】になる)→石柱→縉雲→麗水→青田→永嘉(温州)

a謝霊運永嘉ルート02

富春渚詩
#1
宵濟漁浦潭。旦及富春郭。
定山緬雲霧。赤亭無淹薄。
溯流觸驚急。臨圻阻參錯。
亮乏伯昏分。險過呂梁壑。
#2
洊至宜便習。兼山貴止托。
水があちこちから集まってくるこの場所は船の扱いを熟練することになる。そして山が連なっているので、ここからは船をおりて歩いていくことになる。
平生協幽期。淪躓困微弱。
いつもは、心ひそかに期してかなえたいと思っている、しかし途中でつまづき止めてしまう心の弱さを持っていることに困っている。
久露干祿請。始果遠遊諾。
長い間、官職に仕えて俸禄を受けることをしている、このたび初めて遠い彼の地に赴任することを承諾したのである。
宿心漸申寫。萬事俱零落。
かねてよりこころにおもっていることがしばらくのあいだ、鬱積したものが払われて心が伸びやかになるようにおもえる。まあすべてのことが草木が枯れ落ちるようになってしまうというのだろう。
懷抱既昭曠。外物徒龍蠖。

心に思い描くのは明らかで広いことなのだ、もう、自分の名誉や、名刹というものに対して、これから伸ばしていこうなんて思わず、縮んでいていいのである。

富春の渚#1
宵に漁浦の潭【ふち】を濟【わた】り、旦に富春の郭に及【いた】る。
定山は雲霧に緬【はる】かに、赤亭には淹薄【とま】ること無く。
流れを遡りて驚急に触れ、圻に臨み參錯【でいり】に阻【はば】まる。
亮に伯昏の分に乏しく、険は呂梁の壑に過ぎぬ。
#2
洊りに至るは便習に宜しく、兼れる山には止託を貴ぶ。
平生 幽期を協げんとするも、淪躓けて微弱に困しめり。
久しく禄を干むるの請に露わせるに、始めて遠遊の諾を果たす。
宿心 漸く申ばし写しえて、万事 供に零落れぬ。
懐抱は既に昭曠として、外物は徒らに龍蠖【りょうかく】せり。

富春渚
現代語訳と訳註
(本文)  #2
洊至宜便習。兼山貴止托。
平生協幽期。淪躓困微弱。
久露干祿請。始果遠遊諾。
宿心漸申寫。萬事俱零落。
懷抱既昭曠。外物徒龍蠖。

(下し文) #2
洊りに至るは便習に宜しく、兼れる山には止託を貴ぶ。
平生 幽期を協げんとするも、淪躓けて微弱に困しめり。
久しく禄を干むるの請に露わせるに、始めて遠遊の諾を果たす。
宿心 漸く申ばし写しえて、万事 供に零落れぬ。
懐抱は既に昭曠として、外物は徒らに龍蠖【りょうかく】せり。


(現代語訳)
水があちこちから集まってくるこの場所は船の扱いを熟練することになる。そして山が連なっているので、ここからは船をおりて歩いていくことになる。
いつもは、心ひそかに期してかなえたいと思っている、しかし途中でつまづき止めてしまう心の弱さを持っていることに困っている。
長い間、官職に仕えて俸禄を受けることをしている、このたび初めて遠い彼の地に赴任することを承諾したのである。
かねてよりこころにおもっていることがしばらくのあいだ、鬱積したものが払われて心が伸びやかになるようにおもえる。まあすべてのことが草木が枯れ落ちるようになってしまうというのだろう。
心に思い描くのは明らかで広いことなのだ、もう、自分の名誉や、名刹というものに対して、これから伸ばしていこうなんて思わず、縮んでいていいのである。


(訳注)
洊至宜便習。兼山貴止托。

洊りに至るは便習に宜しく、兼れる山には止託を貴ぶ。
水があちこちから集まってくるこの場所は船の扱いを熟練することになる。そして山が連なっているので、ここからは船をおりて歩いていくことになる。
洊至 水があちこちから集まってくること。洊は仍なり。水の相よりていたり、かねて山嶮ありという。別の意味として、しきりに至る(災害・事件などが)つぎつぎにおこる。○便習 なれる。熟練する。○兼山 山が連なり、船で行けない。分水嶺。○止托 船に、船頭に託すことを止める。


平生協幽期。淪躓困微弱。
平生 幽期を協げんとするも、淪躓けて微弱に困しめり。
いつもは、心ひそかに期してかなえたいと思っている、しかし途中でつまづき止めてしまう心の弱さを持っていることに困っている。
幽期 心ひそかに期すること。淪躓 淪はさざなみ、しずむ、おちいる、ひきこむ。はつまずく、たおれる、さわる、しくじる。とどまる。


久露干祿請。始果遠遊諾。
久しく禄を干【もと】むるの請に露わせるに、始めて遠遊の諾を果たす。
長い間、官職に仕えて俸禄を受けることをしている、このたび初めて遠い彼の地に赴任することを承諾したのである。


宿心漸申寫。萬事俱零落。
宿心 漸く申ばし写しえて、万事 供に零落れぬ。
かねてよりこころにおもっていることがしばらくのあいだ、鬱積したものが払われて心が伸びやかになるようにおもえる。まあすべてのことが草木が枯れ落ちるようになってしまうというのだろう。
宿心 かねてよりこころにおもっていること。○申寫 鬱積したものが払われて心が伸びやかになること。○零落 おちぶれること。草木が枯れ落ちること。


懷抱既昭曠。外物徒龍蠖。
懐抱は既に昭曠として、外物は徒らに龍蠖【りょうかく】せり。
心に思い描くのは明らかで広いことなのだ、もう、自分の名誉や、名刹というものに対して、これから伸ばしていこうなんて思わず、縮んでいていいのである。
懷抱 懐に抱く。見識。思い考えること。○昭曠 あきらかでひろい。○外物 富貴名刹。○龍蠖 龍と尺取虫。伸び様としてちぢこまること。
ishibashi00