初往新安桐盧口 謝霊運<15>  詩集 378

422年謝霊運38歳 船旅をつづけ、桐渓水を通過の際の詩。


(初めて新安の桐盧口に往く)

船旅を続けつつ、銭塘江をさかのぼること富陽から南西約五〇キロ、北西より流れ来る桐江、桐渓水との合流点に桐盧県がある。この近くに来てほっとしたのか、一首が口ずさまれている。それが「初めて新安の桐盧口に往く」の詩である。


初往新安桐盧口
初めて新安の桐盧口に往く。
絺綌雖凄其、授衣尚未至。
少し寒くなってきて、出発したときの服装が薄い葛の服であったので少し気になる。といっても冬用の着物にするというほどにはまだなっていない。
感節自己深、懐古亦云思。
季節の変わりにはいろんなことが浮かんでくる。行く秋を思うことは昔の人が詩に歌っているし、自分も同じように思うことなのだ。
不有千里棹、孰申百代意。
一気に千里進んでくれる舟棹などありはしないし、(この景色をみると)百の世代に受け継がれていく心を語ることもできはしない。
遠協尚子心、遙得許生計。
遠い昔の後漢の隠者、向長のことは私の助けになることだし、許詢のように隠遁してはかりごとをして過ごすということもあるかもしれない。
既及冷風善、又即秋水駛。
もうすっかり風が冷たくなってきて心地いいものだ。また同じように水の流れも秋を感じさせるものとなっている。
江山共開曠、雲日相照媚。
銭塘江の山々は色づき始めて広がってきている。雲や太陽の輝きはこれらのことに同調している。
景夕羣物清、封玩咸可憙。
夕方の景色はモノトーンになって万物を清らかなものにしてゆく、この自然の事象にもてあそばれることは誰も皆よろこぶべきことなのだ。

(初めて新安の桐盧口に往く)
絺綌【ちげき】は凄其【せいき】と雄ども、衣を授けしに尚お未だ至らず。
節に感じて自から己に探し、古えを懐い 亦た思いを云う。
千里の棹 有らずんば、孰【たれ】か百代の意を申べん。
遠く尚子の心に協【かな】い、遙かに許生の計を得たり。
既に冷風の善なるに及び、又た秋水の駛するに即す。
江山 共に曠を開き、雲日は相い照らして媚ぶ。
景夕 群物 清し、玩に対し咸【み】な憙ぶ可し。


現代語訳と訳註
(本文)

初往新安桐盧口
絺綌雖凄其、授衣尚未至。
感節自己深、懐古亦云思。
不有千里棹、孰申百代意。
遠協尚子心、遙得許生計。
既及冷風善、又即秋水駛。
江山共開曠、雲日相照媚。
景夕羣物清、封玩咸可憙。


(下し文)
(初めて新安の桐盧口に往く)
絺綌【ちげき】は凄其【せいき】と雄ども、衣を授けしに尚お未だ至らず。
節に感じて自から己に探し、古えを懐い 亦た思いを云う。
千里の棹 有らずんば、孰【たれ】か百代の意を申べん。
遠く尚子の心に協【かな】い、遙かに許生の計を得たり。
既に冷風の善なるに及び、又た秋水の駛するに即す。
江山 共に曠を開き、雲日は相い照らして媚ぶ。
景夕 群物 清し、玩に対し咸【み】な憙ぶ可し。


(現代語訳)
初めて新安の桐盧口に往く。
少し寒くなってきて、出発したときの服装が薄い葛の服であったので少し気になる。といっても冬用の着物にするというほどにはまだなっていない。
季節の変わりにはいろんなことが浮かんでくる。行く秋を思うことは昔の人が詩に歌っているし、自分も同じように思うことなのだ。
一気に千里進んでくれる舟棹などありはしないし、(この景色をみると)百の世代に受け継がれていく心を語ることもできはしない。
遠い昔の後漢の隠者、向長のことは私の助けになることだし、許詢のように隠遁してはかりごとをして過ごすということもあるかもしれない。
もうすっかり風が冷たくなってきて心地いいものだ。また同じように水の流れも秋を感じさせるものとなっている。
銭塘江の山々は色づき始めて広がってきている。雲や太陽の輝きはこれらのことに同調している。
夕方の景色はモノトーンになって万物を清らかなものにしてゆく、この自然の事象にもてあそばれることは誰も皆よろこぶべきことなのだ。


(訳注)
初往新安桐盧口

初めて新安の桐盧口に往く
銭塘江をさかのぼること富陽から南西約五〇キロ、北西より流れ来る桐江、桐渓水との合流点に桐盧県がある。ここの渡し場で泊まったのである。


絺綌雖凄其、授衣尚未至。
少し寒くなってきて、出発したときの服装が薄い葛の服であったので少し気になる。といっても冬用の着物にするというほどにはまだなっていない。
絺綌(チゲキ)を作る。 細糸とあら糸の葛布。 縫為絶國衣 縫ひて絶国の衣となし。薄い葛の服。○凄其 さむい。ひややか。すごい。其は語調を整えるための助辞。訓音ではよまないことがおおい。


感節自己深、懐古亦云思。
季節の変わりにはいろんなことが浮かんでくる。行く秋を思うことは昔の人が詩に歌っているし、自分も同じように思うことなのだ。


不有千里棹、孰申百代意。
一気に千里進んでくれる舟棹などありはしないし、(この景色をみると)百の世代に受け継がれていく心を語ることもできはしない
○千里棹 千里ひとかきの棹。○ 誰。○百代意 代々受け継ぐ一族の家訓・志。


遠協尚子心、遙得許生計。
遠い昔の後漢の隠者、向長のことは私の助けになることだし、許詢のように隠遁してはかりごとをして過ごすということもあるかもしれない。
○尚子 後漢の隠者、向長のこと。前漢末・後漢初の他人から食物を分けてもらいようやっと食いつなぎそれでも働かず好きな本を読んでいる生活をしていた人物。人の地位はおろか、生死まで見通す神眼を持っていたと言われる隠者。○許生 許詢のこと。 字は玄度。河間高陽(河北省保定市)の人。魏の中領軍許允の玄孫。父の許帰が司馬睿に従って南渡し、会稽内史とされて山陰に居した。外祖父の華軼は魏の華歆の曾孫で、西晋の江州刺史とされていたが、元帝への帰順を拒んで殺された。 許詢は会稽に隠棲して許徴士と称され、孫綽・支遁・謝安・王羲之らと親交して司馬昱とも交流があり、風情簡素・高情遠致と評された。清談・玄言詩の名手として孫綽と並称され、その五言詩は簡文帝に「時人に妙絶す」と絶賛されたが、玄言詩の域を出なかったことで後世の評も“道家に傾く”と概ね辛く、逆説的に当時の玄学の盛行を示している。『詩品』下。


既及冷風善、又即秋水駛。
もうすっかり風が冷たくなってきて心地いいものだ。また同じように水の流れも秋を感じさせるものとなっている。
秋水駛 はやくながれる。急流。


江山共開曠、雲日相照媚。
銭塘江の山々は色づき始めて広がってきている。雲や太陽の輝きはこれらのことに同調している。
 銭塘江。○ こびる。随う。同調する。


景夕羣物清、封玩咸可憙。
夕方の景色はモノトーンになって万物を清らかなものにしてゆく、この自然の事象にもてあそばれることは誰も皆よろこぶべきことなのだ。
景夕 夕方の景色。○羣物清 万物を清らかなものにしてゆく○封玩咸可憙 この自然の事象にもてあそばれることは誰も皆よろこぶべきことなのだ。