晚出西射堂 #1 謝霊運<17>  詩集 381
晩出西射堂詩 謝霊運(晩に西射堂を出ず)


 謝霊運はかくて桐江をさかのぼり、蘭江に入り、蘭鈴を経て、その支流の娶江に入り、金華に至りて下船。それから陸路を駕で山越えして麗水に至り、ここから再び船にて甌江を下り、永嘉に至った。
(謝霊運のルートを現在の地名で示す)
杭州→蕭山→富陽→桐盧→建徳→壽昌→蘭渓→金華→永康→(ここまで銭塘江、支流の婺江【ぶこう】を登ってきた。<分水嶺>ここから甌江【おうこう】になる)→石柱→縉雲→麗水→青田→永嘉(温州)都建康を出発して1か月かけて永嘉に到着する。

 さて、旅路はるかに南の永嘉の郡守に着任した霊運は、その土地の豪族や部下から盛大な出迎えを受け、かつ儀礼的な歓迎の宴会に日々を送ったことと思う。が、そのときには詩人である霊運はいくつかの詩も創作したことであろうけれど、今は伝わっていない。
 永嘉に落ち着いた霊運は、仮住まいとして、永嘉郡の西南の射堂に住いした。
射堂とは弓を射る建物を意味するが、それに付属する建物に住んでいたのである。
そこから美しい山を望んで歌ったものが「晩に西射堂を出ず」の一首である。

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晚出西射堂 謝靈運
《昭明文選•卷二十二》


晚出西射堂
步出西城門,遙望城西岑。
徒歩で家を出て永嘉の城門へ西にむかった。城郭の西の向こうに峻険な嶺を眺めている
連鄣疊巘崿,青翠杳深沈。
連峰を遮る崖は畳のようにかさなっている、山の緑は茂り重なってうっそうとしている。
曉霜楓葉丹,夕曛嵐氣陰。
早朝の霜には楓の葉は赤く色づいている、夕暮れ黄昏時山影の景色は暗くなる。
節往慼不淺,感來念已深。』

秋の季節は深まっていくと悲愁により涙を流すことはない、ただ、隠棲して谷あいの農村に住みたいと思う気持ちはさらに深くなっていく。
#2
羈雌戀舊侶,迷鳥懷故林。
含情尚勞愛,如何離賞心?
撫鏡華緇鬢,攬帶緩促衿。
安排徒空言,幽獨賴鳴琴。』

(晩に西射堂を出ず)
歩して出で城門に西す、遙かに城の西の岑【みね】を望む。
連なれる障【しきり】は巘崿【けんがく】を畳み、青翠【せいすい】は沓【かさ】なりて深沈【しんしん】たり。
暁霜【あかつきのしも】に楓葉【ふうよう】は丹【あか】く、夕の曛【かげり】に嵐気【らんき】は陰【くも】れり。
節は往きて慼【うれ】いは浅からず、感は来たりて念い已に深し。
#2 
羈雌【きし】は旧き侶【とも】を恋い、迷鳥は故【もと】の林を懐う。
情を含んで尚お勞【ねぎ】らい愛【いとおし】み、
如何んぞ 賞する心を離れんや。
鏡を撫【と】れば緇【くろ】き鬢【かみ】も華【しろ】く、帯を攬【と】れば促【し】まれる衿も緩【ゆる】し。
安排【あんぱい】 徒【いたず】らに空言【そらごと】をいい、幽独【ゆうどく】 鳴琴【めいきん】に頼るのみ。


現代語訳と訳註
(本文)
#1

晚出西射堂
步出西城門,遙望城西岑。
連鄣疊巘崿,青翠杳深沈。
曉霜楓葉丹,夕曛嵐氣陰。
節往慼不淺,感來念已深。』

(下し文) #1
歩して出で城門に西す、遙かに城の西の岑【みね】を望む。
連なれる障【しきり】は巘崿【けんがく】を畳み、青翠【せいすい】は沓【かさ】なりて深沈【しんしん】たり。
暁霜【あかつきのしも】に楓葉【ふうよう】は丹【あか】く、夕の曛【かげり】に嵐気【らんき】は陰【くも】れり。
節は往きて慼【うれ】いは浅からず、感は来たりて念い已に深し。


(現代語訳)
徒歩で家を出て永嘉の城門へ西にむかった。城郭の西の向こうに峻険な嶺を眺めている
連峰を遮る崖は畳のようにかさなっている、山の緑は茂り重なってうっそうとしている。
早朝の霜には楓の葉は赤く色づいている、夕暮れ黄昏時山影の景色は暗くなる。
秋の季節は深まっていくと悲愁により涙を流すことはない、ただ、隠棲して谷あいの農村に住みたいと思う気持ちはさらに深くなっていく。

(訳注)
晚出西射堂

日暮れになって永嘉の西にある射堂を出る。
射堂 弓場。弓を射る建物を意味する。それに付属する建物に住んでいたのであろう。現在その場所に西山寺があるので、寺にある建物ではないか。


步出西城門,遙望城西岑。
徒歩で家を出て永嘉の城門へ西にむかった。城郭の西の向こうに峻険な嶺を眺めている
西 西にする。西に向かう。城門を出て西にむかう。東には太平洋が広がり、半隠遁者の気分になっている謝霊運は、西の方角に興味をひかれたのであろう。この地は温州蜜柑の産地である。○城西岑 城郭の西の向こうにとがった山を見る。


連鄣疊巘崿,青翠杳深沈。
連峰を遮る崖は畳のようにかさなっている、山の緑は茂り重なってうっそうとしている。
巘崿【けんがく】がけ。崖の別名。・巘は大山から別れた小山。○ たたむ。ちじむ。かさなる。詩の作品で重ねて前の韻を用いること。この詩の前半八句にはこれを意識している。「門、岑。崿、沈。丹、陰。淺,深。西、西。」とまさしく畳んでいる。


曉霜楓葉丹,夕曛嵐氣陰。
早朝の霜には楓の葉は赤く色づいている、夕暮れ黄昏時山影の景色は暗くなる。
曉霜楓葉丹 温州は緯度が28度で、陰暦八月の初旬に明け方の霜があるだろうか、山の高い所であっても紅葉するというのは疑いたくなるところである。いずれにしても対句を意識しての詩人的表現である。

節往慼不淺,感來念已深。』
秋の季節は深まっていくと悲愁により涙を流すことはない、ただ、隠棲して谷あいの農村に住みたいと思う気持ちはさらに深くなっていく。
慼不淺 慼は秋の愁い、左遷のみの愁いにより涙を流すことはない。○感來 隠棲して谷あいの農村に住みたいと思いがくる。