晚出西射堂 #2謝霊運<17>  詩集 382 #2
晩出西射堂詩 謝霊運(晩に西射堂を出ず)


 謝霊運はかくて桐江をさかのぼり、蘭江に入り、蘭鈴を経て、その支流の娶江に入り、金華に至りて下船。それから陸路を駕で山越えして麗水に至り、ここから再び船にて甌江を下り、永嘉に至った。


(謝霊運のルートを現在の地名で示す)
杭州→蕭山→富陽→桐盧→建徳→壽昌→蘭渓→金華→永康→(ここまで銭塘江、支流の婺江【ぶこう】を登ってきた。<分水嶺>ここから甌江【おうこう】になる)→石柱→縉雲→麗水→青田→永嘉(温州)都建康を出発して1か月かけて永嘉に到着する。


 さて、旅路はるかに南の永嘉の郡守に着任した霊運は、その土地の豪族や部下から盛大な出迎えを受け、かつ儀礼的な歓迎の宴会に日々を送ったことと思う。が、そのときには詩人である霊運はいくつかの詩も創作したことであろうけれど、今は伝わっていない。
 永嘉に落ち着いた霊運は、仮住まいとして、永嘉郡の西南の射堂に住いした。
射堂とは弓を射る建物を意味するが、それに付属する建物に住んでいたのである。
そこから美しい山を望んで歌ったものが「晩に西射堂を出ず」の一首である。


晚出西射堂 謝靈運
《昭明文選•卷二十二》

晚出西射堂
步出西城門,遙望城西岑。
連鄣疊巘崿,青翠杳深沈。
曉霜楓葉丹,夕曛嵐氣陰。
節往慼不淺,感來念已深。』
羈雌戀舊侶,迷鳥懷故林。
旅の客人はメス鳥のようなもので長く一緒になっている伴侶を恋しく思う、行く先のない迷い鳥は生れ育った古巣の林を懐かしむ。
含情尚勞愛,如何離賞心?
それに情を含んでいるとすればなおさらねぎらい愛おしむものだ、それなのにどうして科の景色を鑑賞する気持ち、隠棲したい気持ちをすてさることができようか。
撫鏡華緇鬢,攬帶緩促衿。
鏡を磨きなおしてみてみると黒々としていた髪の毛に白髪が花が咲いたようだ。食欲減退のせいか帯が緩んで襟を整えるのもゆるみが出てきた。
安排徒空言,幽獨賴鳴琴。』

ただ気ままに程よく詩を詠い、空言をならべている、一人で過ごすわび住いには琴を弾き鳴らすことだけが頼りである。

(晩に西射堂を出ず)
歩して出で城門に西す、遙かに城の西の岑【みね】を望む。
連なれる障【しきり】は巘崿【けんがく】を畳み、青翠【せいすい】は沓【かさ】なりて深沈【しんしん】たり。
暁霜【あかつきのしも】に楓葉【ふうよう】は丹【あか】く、夕の曛【かげり】に嵐気【らんき】は陰【くも】れり。
節は往きて慼【うれ】いは浅からず、感は来たりて念い已に深し。
 
羈雌【きし】は旧き侶【とも】を恋い、迷鳥は故【もと】の林を懐う。
情を含んで尚お勞【ねぎ】らい愛【いとおし】み、
如何んぞ 賞する心を離れんや。
鏡を撫【と】れば緇【くろ】き鬢【かみ】も華【しろ】く、帯を攬【と】れば促【し】まれる衿も緩【ゆる】し。
安排【あんぱい】 徒【いたず】らに空言【そらごと】をいい、幽独【ゆうどく】 鳴琴【めいきん】に頼るのみ。


現代語訳と訳註
(本文)#2

羈雌戀舊侶,迷鳥懷故林。
含情尚勞愛,如何離賞心?
撫鏡華緇鬢,攬帶緩促衿。
安排徒空言,幽獨賴鳴琴。』

(下し文)#2
羈雌【きし】は旧き侶【とも】を恋い、迷鳥は故【もと】の林を懐う。
情を含んで尚お勞【ねぎ】らい愛【いとおし】み、
如何んぞ 賞する心を離れんや。
鏡を撫【と】れば緇【くろ】き鬢【かみ】も華【しろ】く、帯を攬【と】れば促【し】まれる衿も緩【ゆる】し。
安排【あんぱい】 徒【いたず】らに空言【そらごと】をいい、幽独【ゆうどく】 鳴琴【めいきん】に頼るのみ。


(現代語訳)#2
旅の客人はメス鳥のようなもので長く一緒になっている伴侶を恋しく思う、行く先のない迷い鳥は生れ育った古巣の林を懐かしむ。
それに情を含んでいるとすればなおさらねぎらい愛おしむものだ、それなのにどうして科の景色を鑑賞する気持ち、隠棲したい気持ちをすてさることができようか。
鏡を磨きなおしてみてみると黒々としていた髪の毛に白髪が花が咲いたようだ。食欲減退のせいか帯が緩んで襟を整えるのもゆるみが出てきた。
ただ気ままに程よく詩を詠い、空言をならべている、一人で過ごすわび住いには琴を弾き鳴らすことだけが頼りである。


(訳注)#2
羈雌戀舊侶,迷鳥懷故林。

旅の客人はメス鳥のようなもので長く一緒になっている伴侶を恋しく思う、行く先のない迷い鳥は生れ育った古巣の林を懐かしむ。
羈雌 旅の客人はメス鳥


含情尚勞愛,如何離賞心
それに情を含んでいるとすればなおさらねぎらい愛おしむものだ、それなのにどうして科の景色を鑑賞する気持ち、隠棲したい気持ちをすてさることができようか。


撫鏡華緇鬢,攬帶緩促衿。
鏡を磨きなおしてみてみると黒々としていた髪の毛に白髪が花が咲いたようだ。食欲減退のせいか帯が緩んで襟を整えるのもゆるみが出てきた。
撫鏡 なでる。とる。みがく。みる。文選、宋玉『神女賦序』「於是撫心定氣。」○攬帶 帯が動く。食欲がなく痩せたことで帯が締まらない。


安排徒空言,幽獨賴鳴琴。』
ただ気ままに程よく詩を詠い、空言をならべている、一人で過ごすわび住いには琴を弾き鳴らすことだけが頼りである。
安排【あんぱい】あるがままに安んじる。具合よく並べる。程よく加減する。


切々として、永嘉城外の秋景を巧みに歌う。特に、秋はとかく物思いに沈むとは、宋玉以降「悲愁」という感覚が歌われた。夏の終わりに、葉が色づき落ち始めるが、同じ時期に、辺境に兵士を送り、男女の別れがあった。秋は、渡り鳥もわたってゆき、空しさを歌うようになった。謝霊運は、左遷で南に来たのだ。