白石巌下径行田詩 #1 謝霊運<18>  詩集 383
白石巌下径行田詩謝霊運(白石巌下行田を経ふ)

秋に左遷という謝霊運にとっては何倍もの悲哀を強く感じるものであった。故郷を遠く離れ、知る人もな句、そして、隠棲したい気持ちを持っている謝霊運にとって、放郷への回顧ははなはだしく強かった。それに加え、悲しみからくる食欲不振、混然としたものから生じた白髪をみて、いっそうの寂しさを感じさせたのである。
この気も狂わんばかりの悲しみを、わずかに救ってくれるものは琴を弾ずることであった。この琴を弾ずることは、当時のイソテリの等しく行なうストレス解消法であった。そして、満ちあふれるばかりの美しい山や川を心ゆくまで観賞することも、さらに心の憂いを消すのに大きな功、があった。
 郡守として永嘉に着任した謝霊運は、まだ治者として誇りもあり、その意識も強烈であった。治者としての自覚が強かったのを物語る資料として、「白石巖下徑行田詩」(白石巌下行田を経ふ)の作がある。この「白石巌」とは永嘉郡楽成県の西30里(17km)にある白石山のことである。


白石巖下徑行田詩
白石山の岩石のもとの田んぼに行きすぎるときの詩
小邑居易貧。災年民無生。
ここの小さな村里では住むには貧しくなりやすい、災害の歳には村人は生きていけないのだ。
知淺懼不周。愛深憂在情。」
学問、知識はあさくそれが邑全体でなければよいのだが、人の触れ合い、愛情は深く情を以て心配している。
舊業橫海外。蕪穢積頹齡。
古くからの生業は海に出て行っている、賤しいことばかりしていて応募れていっているのだ。
饑饉不可久。甘心務經營。
飢饉のようなことは久しくあってはならない、何にも考えないで為すがままに生活を営んでいる。
千頃帶遠堤。萬裏瀉長汀。』
大地は広く遠い所に堤が帯のように横たわっており、万里の長く続く波打ち際は続いている。

洲流涓澮合。連統塍埒幷。
雖非楚宮化。荒闕亦黎萌。
雖非鄭白渠。每歲望東京。
天鑒儻不孤。來茲驗微誠。』

(白石巌下行田を経ふ)
小邑【しょうゆう】の居は貧なり易く、災いの年には民 生くるなし。
知は浅く周【あまね】からざることを懼【おそ】る、愛は深く 憂いは情に在り。
旧業は海の外に横たわり、蕪穢【ぶあい】 頹齢【たいれい】を積む。
饑饉【ききん】 久しくす可からず、甘心 経営に務む。
千頃【せんけい】 遠き堤を帯び、万里 長汀【ちょうてい】に潟【そそ】ぐ。
州流して涓澮【いんかい】に合し、連統して塍埒【しょうれつ】を幷【あ】わす。
楚宮の化に非ずと雖ども、荒閥【こうけつ】 亦た黎萌【れいぼう】。
鄭白の渠に非ずと雖ども、毎歳 東京【とうけい】を望む。
天鑑 儻し 孤ならずば、来茲【らいじ】 微誠を験せん。


現代語訳と訳註
(本文) 白石巖下徑行田詩 #1
小邑居易貧。災年民無生。
知淺懼不周。愛深憂在情。」
舊業橫海外。蕪穢積頹齡。
饑饉不可久。甘心務經營。
千頃帶遠堤。萬裏瀉長汀。』

(下し文)
(白石巌下行田を経ふ)
小邑【しょうゆう】の居は貧なり易く、災いの年には民 生くるなし。
知は浅く周【あまね】からざることを懼【おそ】る、愛は深く 憂いは情に在り。
旧業は海の外に横たわり、蕪穢【ぶあい】 頹齢【たいれい】を積む。
饑饉【ききん】 久しくす可からず、甘心 経営に務む。


(現代語訳)
白石山の岩石のもとの田んぼに行きすぎるときの詩
ここの小さな村里では住むには貧しくなりやすい、災害の歳には村人は生きていけないのだ。
学問、知識はあさくそれが邑全体でなければよいのだが、人の触れ合い、愛情は深く情を以て心配している。
古くからの生業は海に出て行っている、賤しいことばかりしていて応募れていっているのだ。
飢饉のようなことは久しくあってはならない、何にも考えないで為すがままに生活を営んでいる。
大地は広く遠い所に堤が帯のように横たわっており、万里の長く続く波打ち際は続いている。


(訳注)
白石巖下徑行田詩

(白石巌下行田を経ふ)
白石山の岩石のもとの田んぼに行きすぎるときの詩


小邑居易貧。災年民無生。
小邑【しょうゆう】の居は貧なり易く、災いの年には民 生くるなし。
ここの小さな村里では住むには貧しくなりやすい、災害の歳には村人は生きていけないのだ。
小邑【しょうゆう】小さい村里。


知淺懼不周。愛深憂在情。」
知は浅く周【あまね】からざることを懼【おそ】る、愛は深く 憂いは情に在り。
学問、知識はあさくそれが邑全体でなければよいのだが、人の触れ合い、愛情は深く情を以て心配している。


舊業橫海外。蕪穢積頹齡。
旧業は海の外に横たわり、蕪【あれ】と穢【けがれ】 頹齢【たいれい】を積む。

古くからの生業は海に出て行っている、賤しいことばかりしていて応募れていっているのだ。
○蕪穢 土地が荒れて雑草が生い茂る。転じて賤しいこと。○頹齡 老年。ものが廃れ衰えるように、老いぼれる年齢。


饑饉不可久。甘心務經營。
饑饉【ききん】 久しくす可からず、甘心 経営に務む。
飢饉のようなことは久しくあってはならない、何にも考えないで為すがままに生活を営んでいる。


千頃帶遠堤。萬裏瀉長汀。』
千頃【せんけい】 遠き堤を帯び、万里 長汀【ちょうてい】に潟【そそ】ぐ。
大地は広く遠い所に堤が帯のように横たわっており、万里の長く続く波打ち際は続いている。
千頃 田畑の広いことの形容。○長汀 長い渚。長く続く波打ち際。