登上戌石鼓山 謝霊運<29>#1 詩集 402 kanbuniinkai紀 頌之漢詩ブログ1023
(上戌の石鼓山に登る)《謝康樂集〃雜詩》

永嘉から西の方、四十里(中国里)の上戊というところに石山がある。ここには大きな石が向かいあって立っており、これをたたくと、互いに鳴響して妙音を発するという名勝であった。
特に物好きな霊運が、このことを聞けば、行ってみたくなるのは人情であった。そこで、ある日、謝霊運は供を連れて、また出かけていったが、そのときの作品が「登上戌石鼓山」(上戌の石鼓山に登る)である。


登上戌石鼓山#1
旅人心長久、憂憂自相接。」
旅人の身になって自分の心では、随分長期にわたっているように感じている。先のことを思い悩み、今を苦しむことは、自然に自分の中で互いに接合していくのである。
故郷路遥遠、川陸不可渉。
あの故郷を隔てる道はこんなにもはるか遠くなっている。川の旅、陸の旅としたくはなかったことなのだ。
汨汨莫與娯、發春托登躡。
水が流れてやまない様子はこの地において共に楽しんでゆけるというものがいるわけではない。春になったからこうして出発してこの山に登り踏みしめてみるのである。
歓願既無竝、寂慮庶有協。』

故郷に帰ること、都に変えること、それがかなえられるということはないようだ。寂寞の思い悩みがあるのなら、故郷に帰れるという喜びも共にあるといい。

#2
極目睞左闊、廻顧眺右狭。
日沒澗增波、雲生嶺逾疊。
白芷競新苕、綠蘋齊初葉。」
摘芳芳靡諼、愉樂樂不變。
佳期緬無像、騁望誰云愜。』
 
(上戌の石鼓山に登る)#1
旅人は心 長【ながく】久【かわら】ず、憂憂は自から相い接す。
故郷は路遥かに遠く、川陸は捗る可からず。
汨汨きて与に娯しむ莫れ、春に発し登り躡【ふ】むに托す。
願を歓ぶも既に並ぶ無し、慮を戚【うれ】い 庶【こいねが】わくは協 有らんことを。』

#2
目を極め睞するに左は闊く、廻顧し眺むれば右は狭し。
日は没し澗は波を増し、雲 生じ嶺 逾いよ畳たり。
白い芷【よろいぐさ】正は新しき苕【のうぜんかつら】と競い、縁なる蘋【でんじそう】は斉【ひと】しく初葉。
芳を摘み芳 諼るる靡し、愉楽するも楽しみ變らがず。
佳期は緬うに像無し、騁望するに誰か愜しと云わん。』




現代語訳と訳註
(本文)
登上戌石鼓山#1
旅人心長久、憂憂自相接。
故郷路遥遠、川陸不可渉。
汨汨幕與娯、發春托登躡。
歓願既無竝、寂慮庶有協。』


(下し文) (上戌の石鼓山に登る)#1
旅人は心 長【ながく】久【かわら】ず、憂憂は自から相い接す。
故郷は路遥かに遠く、川陸は捗る可からず。
汨汨きて与に娯しむ莫れ、春に発し登り躡【ふ】むに托す。
願を歓ぶも既に並ぶ無し、慮を戚【うれ】い 庶【こいねが】わくは協 有らんことを。』


(現代語訳)
旅人の身になって自分の心では、随分長期にわたっているように感じている。先のことを思い悩み、今を苦しむことは、自然に自分の中で互いに接合していくのである。
あの故郷を隔てる道はこんなにもはるか遠くなっている。川の旅、陸の旅としたくはなかったことなのだ。
水が流れてやまない様子はこの地において共に楽しんでゆけるというものがいるわけではない。春になったからこうして出発してこの山に登り踏みしめてみるのである。
故郷に帰ること、都に変えること、それがかなえられるということはないようだ。寂寞の思い悩みがあるのなら、故郷に帰れるという喜びも共にあるといい。


(訳注) 登上戌石鼓山#1
旅人心長久、憂憂自相接。
旅人の身になって自分の心では、随分長期にわたっているように感じている。先のことを思い悩み、今を苦しむことは、自然に自分の中で互いに接合していくのである。
憂憂 先のことを思い悩むこと。苦しみ悩むこと。・憂は現在から未来にかけて心配すること。・今憂いで苦しむこと。そういう気持ちで過ごす日々が速く過ぎる様子をいう。


故郷路遥遠、川陸不可渉。
あの故郷を隔てる道はこんなにもはるか遠くなっている。川の旅、陸の旅としたくはなかったことなのだ。
 故郷を隔てる路。○遥遠 はるか遠く隔てること。再び、近ずくことができないことをいう。○川陸 永嘉にくる旅路のこと。


汨汨莫與娯、發春托登躡。
水が流れてやまない様子はこの地において共に楽しんでゆけるというものがいるわけではない。春になったからこうして出発してこの山に登り踏みしめてみるのである。
汨汨 水が流れてやまない様子。水が音を立てて流れゆく様子。自然の美しさの表現。○莫與娯 ここの景色を楽しんでいくことができる友人がいないとをいう。○發春 春の時節が到来し、興を起して出発したことをいう。○托登躡 風流をこの景色にかこつけて、山を登る、山道を踏みしめる。


歓願既無竝、寂慮庶有協。』
故郷に帰ること、都に変えること、それがかなえられるということはないようだ。寂寞の思い悩みがあるのなら、故郷に帰れるという喜びも共にあるといい。
既無竝 景色をめでることと故郷に帰ることとの二つの気持ちが並び立つことはない。○寂慮 寂寞の思い。心配の思い。○庶有協 二つの願いがかなうこと。