田南樹園激流植援 謝霊運(康楽) 詩<42#2>Ⅱ李白に影響を与えた詩428 kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1101
(田の南園に樹え流れに激ぎ援を植うP134田の南園に樹え、流れに激ぎ援を植う)


始寧の隠世
『宋書』の本伝によると、謝霊運は

父祖ならびに始寧県に葬らる。併せて故宅及び有り。遂に籍を会稽に移し、別業を營す。山に傍い江を帯び、幽居の美を尽くす。隠士王弘之・孔淳之等と縦放(自由)を娯しみと為す。終焉の志有り。一詩の都邑に至る有る毎に、貴賤競い写さざるなし。

宿昔の間、士庶皆なし。遠近名を欽慕し京師を動かす。山居の賦を作る。


始寧は現在の浙江省上虞県である。海外貿易で有名な寧波の町から西に60km、名酒の町、紹興から東50kmのところにある。謝霊運は『山居賦』の自注に、

余が祖、車騎(謝玄)は大功を淮に建て、江左は横流の禍いを免るるを得たり。後に太博(謝安)既にずるに及び、建國己に輟む。是に於いて便ち駕を解いて東に帰り、以って君側の乱を避けんことを求む。廃興・隠顕は当に是れ賢達の心たるべし。故に神麗の所を選び、以って高棲の志を申ぶ。山川を経始し、実に此に基をおく。



会稽に籍を移し、別業=別荘に本拠をそこに移すことにした。このことははなはだ簡略にそれとなく記されている。それは晋の南渡に当たり、先祖の眠る故郷に自由に行けなくなったこと、また、この自然の美しい土地に魅せられたのであろうか。「山居賦」によれば、

其の居や湖を左にし、江を右にし、渚に往き、江に還り、山を西にし、阜を背にし。



山居の様子を述べ、農産物、あるいは水草・樹木・魚類・鳥類・獣類について書き、または、仏寺を歌い、仏道・浄土へのあこがれをいい、仏教を論じ、文学について私見を述べる。
始寧で霊運のやったことは、『文選』の巻三十の 「雑詩」に引用される 「田南樹園激流植援」(田の南園に樹え、流れに激ぎ援を植う)という詩に歌われた。



田南樹園激流植援 #1
田の南に庭を作り、流れをせき止めて水を庭にそそぎ庭わまわりに生垣を植える。
樵隱俱在山,由來事不同。
木こりと隠者とがともにこの山中に住んでいるが、もとより彼等のする事は同じではない。
不同非一事,養痾亦園中。
同じでないのは一つの事だけではなくて、私のように病気の保養をするのもまたこの園中での仕事の一つである。
中園屏氛雜,清曠招遠風。
荘園の中にうるさい雑事をしりぞけて、清らかにむなしい心で幽遠な気分、座禅のような気分を招き求めるのである。
蔔室倚北阜,啟扉面南江。
亀の甲を焼いて占い、庵の位置、方位を定めて、北山を背にして建てる、門の扉を南方の川江に向かって開いた。
激澗代汲井,插槿當列墉。
そして谷川を堰き止めて園にさそい注流させ、井戸水を汲む代わりにする、むくげの木を挿し植えて連ねて土塀の代用にあてるのだ。
#2
羣木既羅戶,眾山亦對牕。
靡迤趨下田,迢遞瞰高峯。
寡欲不期勞,即事罕人功。
唯開蔣生徑,永懷求羊蹤。
賞心不可忘,妙善冀能同。


(田の南園に樹え流れに激ぎ援を植う)
樵【しょう】と隠【いん】とは俱【とも】に山に在れども、由来 車は同じからず。
同じからざるは一事に非ず、痾【やまい】を養うも亦た園中にあり。
園中 氛【よごれ】と 雑 を屏【しりぞ】け、清曠【せいこう】して遠風【えんぷう】を招く。
室を卜【ぼく】いて北皐【ほくふ】に倚り、扉を啓【ひら】いて南の江に画す。
澗【かん】を激【そそ】いで井に汲むに代え、槿【きん】を插して糖【かき】を列【ならび】に当つ。
#2
群木は既に戸に羅なり、衆山も亦た窗に対す。
靡迤【びい】りて下の田に趨き、迢遞なる高峰を瞰【み】る。
寡欲【かよく】労にしてを期せず、事に即して人の功を竿なくす。
唯だ蒋生【しょうせい】の蓮を開き、永く求羊【】の踪【あと】をむるを懐う。
覚心 忘る可からず、妙善【みょうぜん】をば能く同じくせんことを巽【ねが】う
 


現代語訳と訳註
(本文) #1

田南樹園激流植援
樵隱俱在山,由來事不同。
不同非一事,養痾亦園中。
中園屏氛雜,清曠招遠風。
蔔室倚北阜,啟扉面南江。
激澗代汲井,插槿當列墉。


(下し文)
樵【しょう】と隠【いん】とは俱【とも】に山に在れども、由来 車は同じからず。
同じからざるは一事に非ず、痾【やまい】を養うも亦た園中にあり。
園中 氛【よごれ】と 雑 を屏【しりぞ】け、清曠【せいこう】して遠風【えんぷう】を招く。
室を卜【ぼく】いて北皐【ほくふ】に倚り、扉を啓【ひら】いて南の江に画す。
澗【かん】を激【そそ】いで井に汲むに代え、槿【きん】を插して糖【かき】を列【ならび】に当つ。

(現代語訳)
田の南に庭を作り、流れをせき止めて水を庭にそそぎ庭わまわりに生垣を植える。
木こりと隠者とがともにこの山中に住んでいるが、もとより彼等のする事は同じではない。
同じでないのは一つの事だけではなくて、私のように病気の保養をするのもまたこの園中での仕事の一つである。
荘園の中にうるさい雑事をしりぞけて、清らかにむなしい心で幽遠な気分、座禅のような気分を招き求めるのである。
亀の甲を焼いて占い、庵の位置、方位を定めて、北山を背にして建てる、門の扉を南方の川江に向かって開いた。
そして谷川を堰き止めて園にさそい注流させ、井戸水を汲む代わりにする、むくげの木を挿し植えて連ねて土塀の代用にあてるのだ。


(訳注)#1
田南樹園激流植援

田の南に庭を作り、流れをせき止めて水を庭にそそぎ庭わまわりに生垣を植える。
田南樹園激流植援 田の南に庭を作り、流れをせき止めて水を庭にそそぎ庭わまわりに生垣を植える。援は垣、いけがき。
○隠棲し始めた謝霊運は隠棲を意識過剰であったのだろう、いかにも隠者を意識した詩題となっている。


隱俱在山,由來事不同。
木こりと隠者とがともにこの山中に住んでいるが、もとより彼等のする事は同じではない。
樵隠 木こりと隠者。○事不同 仕事は同じではない。


不同非一事,養痾亦園中。
同じでないのは一つの事だけではなくて、私のように病気の保養をするのもまたこの園中での仕事の一つである。
養痾 病気の保養をする。


中園屏氛雜,清曠招遠風。
荘園の中にうるさい雑事をしりぞけて、清らかにむなしい心で幽遠な気分、座禅のような気分を招き求めるのである。
氛雜 うるさい雜事。氛は乱。○清曠 心がすずしくむなしい。○抑遠風 幽遠な気分を招く。一人静かに心を日常のことから遠ざける気分、座禅のような気分をいう。

蔔室倚北阜,啟扉面南江。
亀の甲を焼いて占い、庵の位置、方位を定めて、北山を背にして建てる、門の扉を南方の川江に向かって開いた。
蔔室【ぼくしつ】 蔔:卜。うらなって家を建てる。○倚北阜 北峯を背にする。


激澗代汲井,插槿當列墉。
そして谷川を堰き止めて園にさそい注流させ、井戸水を汲む代わりにする、むくげの木を挿し植えて連ねて土塀の代用にあてるのだ。
槿 むくげ。木槿。錦臾科の灌木。その花は朝開き夕に萎む。○ 土塀。