酬従弟謝惠連 五首その(1) 謝霊運(康楽) 詩<45>Ⅱ李白に影響を与えた詩432 kanbuniinkai紀頌之の漢詩ブログ1113


謝霊運が懐かしい都を出て、再び隠遁のため故郷始寧に向かうときの感情を歌ったものである。朝早く旅立ちをするのが当時の習いであったが、ちょうど大風の吹いている日であった。それも、向かい風で歩きにくいものであった。しかし、出発の日は清明節、陽暦の四月五日または六日にあたるが、旅立つにはきわめて縁起のよい日であった。再び都に来たが、無念にも、再び故郷に隠遁しに帰る謝霊運の心情は、さぞかし感慨無量なものがあったと思う。
なお、このころの作らしいものに、「酬従弟謝惠運」(従弟の恵連に酬ゆ)という題の作品が残っている。


 謝靈運 謝惠連
酬従弟謝惠連 五首西陵遇風獻康楽 五首
従弟の恵連に酬ゆ 五首西陵にて風に遇い康楽に獻ず五首
(その1(その1
寢瘵謝人徒,滅跡入雲峯。我行指孟春、春仲尚未發。
岩壑寓耳目,歡愛隔音容。趣途遠有期、念離情無歇。
賞心望,長懷莫與同。成装候良辰、漾舟陶嘉月。
末路令弟,開顏披心胸瞻塗意少悰、還顧情多闕。
(その2(その2)
心胸既雲,意得鹹在哲兄感仳別、相送越垌
淩澗尋我室,散帙問所飲餞野亭館、分袂澄湖
夕慮曉月流,朝忌曛日悽悽留子言、眷眷浮客
悟對無厭歇,聚散成迴塘隠艫栧、遠望絶形
(その3(その3
分離別西,回景歸東靡靡即長路,戚戚抱遙
別時悲已甚,別後情更悲遙但自弭,路長當語
傾想遲嘉音,果枉濟江行行道轉遠,去去情彌
辛勤風波事,款曲洲渚昨發浦陽汭,今宿浙江
(その4(その4)
洲渚既淹,風波子行屯雲蔽曾嶺、驚風湧飛
務協華京想,詎存空穀零雨潤墳澤、落雪灑林
猶復恵来章,祇足攬余浮氛晦崖巘、積素成原
儻若果歸言,共陶暮春曲汜薄停旅、通川絶行
(その5(その5)
暮春雖未交,仲春善遊臨津不得済、佇楫阻風
山桃發紅萼,野蕨漸紫蕭條洲渚際、気色少諧
鳴嚶已悅豫,幽居猶郁西瞻興遊歎、東睇起悽
夢寐佇歸舟,釋我吝與積憤成疢痗、無萱將如


酬従弟謝惠連 五首
(その1)
寢瘵謝人徒,滅跡入雲峯。
病の床について人と会うのを謝絶した、それから後名跡を訪れることはなく雲に隠れる峯に隠棲した。
岩壑寓耳目,歡愛隔音容。
ひととの交じりを断って岩の谷間の水音に耳や目を寄せた。愛しい人とも声を聞くことも隔たったのである。
永絕賞心望,長懷莫與同。
その隠棲生活は長く続いた、景観を賞賛する心でここで臨んだのだ。そして長期間にわたって同じ気持ちで過ごすことはなかった。
末路值令弟,開顏披心胸。
晩年になって、弟の君と逢うことが出来た。そして顔を開いたし、心を打ち解け、胸襟を開いたのだ。

(その2)
心胸既雲披,意得鹹在斯。淩澗尋我室,散帙問所知。
夕慮曉月流,朝忌曛日馳。悟對無厭歇,聚散成分離。
(その3)
分離別西川,回景歸東山。別時悲已甚,別後情更延。
傾想遲嘉音,果枉濟江篇。辛勤風波事,款曲洲渚言。
(その4)
洲渚既淹時,風波子行遲,務協華京想,詎存空穀期。
猶復恵来章,祇足攬余思。儻若果歸言,共陶暮春時。
(その5)
暮春雖未交,仲春善遊遨。山桃發紅萼,野蕨漸紫苞。
鳴嚶已悅豫,幽居猶郁陶。夢寐佇歸舟,釋我吝與勞。


(従弟謝惠連に酬ゆ五首)
(その1)
瘵【やまい】に寢【い】ね 人徒【じんと】を謝し,滅跡【めつせき】して雲峯【うんほう】に入れり。
岩壑【がんがく】耳目【じもく】を寓【よ】せ,歡愛【かんあい】音容【おんよう】を隔てり。
永絕【えいぜつ】して賞心【しょうしん】を望み,長懷【ちょうかい】して 與に同じくするを莫きを。
末路【ばんねん】令弟【おとうと】に值【あ】い,開顏【かいがん】心胸【しんきょう】を披【ひら】けり。

(その2)
心胸【しんきょう】既【すで】に雲【いう】を披【ひら】け,意得ること鹹【みな】斯【ここ】に在りき。
澗【たに】を淩ぎ 我が室を尋ね,散帙【さんしつ】知れる所を問える。
夕には曉月【ぎょうげつ】の流れるを慮【おもんばか】り,朝には曛日【くんじつ】の馳するを忌【い】めり。
悟對【われとたい】して 厭歇【けんけつ】すること無く,聚散【しゅうさん】して 分離を成しぬ。

(その3)
分離して西川にて別れ,回景【かいけい】して東山に歸れり。
別れし時 悲しみ已に甚しきも,別れて後 情け更に延ぶ。
想いを傾けて嘉音【かおん】を遲【ま】ちしに,果して濟江【せいこう】の篇を枉【まげ】られぬ。
辛勤【して】風波【ふうは】の事,款曲【かんきょく】して洲渚【しゅうしょ】の言。
(その4) 
洲渚【しゅうしょ】既に淹時【えんじ】せば,風波【ふうは】子の行くこと遲し,務【とお】く華京【かきょう】の想に協【かな】えり,詎【なん】ぞ 空穀【くうこく】に 期を存せん。
猶 復た来章【らいしょう】を恵む,祇【まさ】に足余【よ】の思いを攬【みだ】す。
儻若【もし】歸言【きごん】を果しなば,共に陶【たのし】まん 暮春の時を。
(その5)
暮春 未だ交わらずと雖も,仲春にても善く遊遨【たのし】まん。
山桃は紅萼【こうがく】を發し,野蕨【やけつ】は紫苞【しほう】を漸【すす】む。
鳴嚶【めいえい】 已に悅豫【えつしょう】し,幽居猶お 郁陶【ゆうとう】す。夢寐【むび】にも歸舟【きしゅう】を佇【ま】ち,我の吝【けち】と勞とを釋【と】かん。



現代語訳と訳註
(本文) 酬従弟謝惠連 五首 (その1)
寢瘵謝人徒,滅跡入雲峯。
岩壑寓耳目,歡愛隔音容。
永絕賞心望,長懷莫與同。
末路值令弟,開顏披心胸。


(下し文) (その1)
瘵【やまい】に寢【い】ね 人徒【じんと】を謝し,滅跡【めつせき】して雲峯【うんほう】に入れり。
岩壑【がんがく】耳目【じもく】を寓【よ】せ,歡愛【かんあい】音容【おんよう】を隔てり。
永絕【えいぜつ】して賞心【しょうしん】を望み,長懷【ちょうかい】して 與に同じくするを莫きを。
末路【ばんねん】令弟【おとうと】に值【あ】い,開顏【かいがん】心胸【しんきょう】を披【ひら】けり。


(現代語訳)
病の床について人と会うのを謝絶した、それから後名跡を訪れることはなく雲に隠れる峯に隠棲した。
ひととの交じりを断って岩の谷間の水音に耳や目を寄せた。愛しい人とも声を聞くことも隔たったのである。
その隠棲生活は長く続いた、景観を賞賛する心でここで臨んだのだ。そして長期間にわたって同じ気持ちで過ごすことはなかった。
晩年になって、弟の君と逢うことが出来た。そして顔を開いたし、心を打ち解け、胸襟を開いたのだ。


(訳注) 酬従弟謝惠連 五首 (その1)
寢瘵謝人徒,滅跡入雲峯。
病の床について人と会うのを謝絶した、それから後、名跡を訪れることはなく雲に隠れる峯に隠棲した。
滅跡 名跡を訪れることはないこと。


岩壑寓耳目,歡愛隔音容。
ひととの交じりを断って岩の谷間の水音に耳や目を寄せた。愛しい人とも声を聞くことも隔たったのである。
歡愛 愛しい人。


永絕賞心望,長懷莫與同。
その隠棲生活は長く続いた、景観を賞賛する心でここで臨んだのだ。そして長期間にわたって同じ気持ちで過ごすことはなかった。


末路值令弟,開顏披心胸。
晩年になって、弟の君と逢うことが出来た。そして顔を開いたし、心を打ち解け、、胸襟を開いたのだ。
末路 晩年。

謝恵連のその1
西陵遇風獻康楽(その1)
我行指孟春、春仲尚未發。
趣途遠有期、念離情無歇。
成装候良辰、漾舟陶嘉月。
瞻塗意少悰、還顧情多闕。


都建康の西陵で病気になったので康楽兄上に近況をお知らせする詩。
私の旅は春のはじめのつもりであったのに、仲春二月になってもやはりまだ出発しないでいる。
旅の途に向かうことは遠く以前に心に決めていたが、別れを思えばさびしい気持ちが尽きない。
旅装も出来上がって門出の良い日を待ちながら、船を浮かべて春の好ましい月を楽しむのである。
そうはいっても、行く手の途をながめてみると心に楽しみが少なく、あと振り返ってみるなら、ここに留まるには、気持の上で満足することはないことの方が多いのを覚えるのである。


西陵にて風に遇い康楽に獻ず(その1)
我が行 孟春【もうしゅん】を指すに、春仲【はるなかば】なるも尚 未だ發せず。
途に趣くこと遠く期有り、離【わかれ】を念うて情 歇【や】む無し。
装【よそおい】成して良辰【りょうしん】を候【ま】ち、舟を漾【うかべ】て嘉月を陶【たの】しむ。
塗【みち】を瞻て意に悰【たのしみ】少し、還顧【かんこ】すれば情に闕【か】くること多し。